小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!)


「おほん!では始めましょうか。まず最初に・・・」
「ヨウメイさん!」
「はい?」
「あの、本当にその統天書でお漬物が美味しくなるんですか?」
「へ?いや・・・」
「美味しくなるんだったら是非使ってみたいです!」
何やら必死なシャオ。実は先ほどのヨウメイの冗談によって引かなかったのはキリュウの他にもう一人居た。
つまり・・・シャオである。
「あの〜、シャオリンさん。そんな訳無いですって。」
「ええ?違うんですか?残念ですわ・・・。」
「まあ、漬物の美味しい作り方はまた今度教えてさし上げますから。」
「本当ですか?ありがとうございます。」
「いえいえ・・・。」
シャオはにこにこ顔となって満足した様だが、ヨウメイは気をそがれた様であった。
それでも、すぐに調子を取り戻して皆に呼びかける。
「では質問をどうぞ。出来る限りお答えします。」
「はーい!!」
「どうぞ、花織ちゃん。」
「あのね・・・やっぱいいや、一番最後にして。」
「・・・・・・。」
一番最初の質問者で、出鼻をくじかれてしまったヨウメイ。
それでも、すぐに調子を取り戻そうとする。
「さあっ、本当に質問コーナーを始めますよ!!皆さん、出来るだけ多く質問しましょう!!」
何やら最初に告げた物と条件が変わっているのは間違いではない。
ともあれ、今度こそ本当に統天書に関する質問合戦が開始されたのであった・・・。

「はいっ!」
「どうぞ、ゆかりん。」
「楊ちゃんはなんで、どこに何があるか分かるの?」
「それはね・・・秘密。」
「・・・・・・。」
「冗談だよ、冗談。どこに何があるかを記憶してるの。」
「へえ・・・ええ!?」
「嘘だよ、嘘。」
「ちょっと楊ちゃん、真面目に答えてよ。」
「きちんと説明すると難しくなるから、例え話を言うよ。」
「うん。」
「動物の本能にそれが近いかな。つまり、見て調べようって時に、反射的に分かるって訳。」
「へええ・・・。」
「分かった?」
「うん。」
というところでゆかりんは納得。次に手を挙げたのは・・・。
「はい。」
「どうぞ、宮内さん。」
「ヨウメイさん、たまにあなたのとばっちりが私に来るのは何故なんですか?」
「・・・なんですか?それ。」
「憂さばらしみたいなものを、たまに宮内神社へやって来て行うじゃないですか。」
「例えば?」
「例えば、壁に大穴を空けたり、庭に敷き詰めてある石をバラバラにしたり。」
「それは事故ですよ。私は故意にやってません。」
「あんな所で自然現象を呼んどいて故意じゃないと言うんですか?」
「あのね、なんで人の家を乱す様な事を私がするんですか。」
「なんで、って、憂さ晴らしででしょう?」
「そんなんでふざけた事はしません。やるんならもっと別の方法を取ります。」
「ですが現に・・・。」
「出雲さん!!楊ちゃんがやらないってんですからやらないんですよ!!」
「そうですよ。なんですか、憂さ晴らしって・・・。楊ちゃんがそんな事する訳ないじゃないですか!!」
「可哀相にねえ、楊ちゃん。あらぬ疑いをかけられて・・・。」
「ちょ、ちょっと・・・。」
途中からばしばし言い出した花織達三人に、出雲ばかりでなくヨウメイも困惑している。
「熱美ちゃん、私だって憂さ晴らしくらいしてるから・・・。」
「そうなの?」
「そうだ。特に私に対してな。」
今度はキリュウが口を挟む。慌ててヨウメイはそっちを向いたが、否定はしなかった。
「そうですよ、キリュウさんが証人です。わざと部屋の気温を上げたり下げたり。」
「ヨウメイ、お前って奴は・・・。」
さりげなく突っ込む那奈。
「他にもあるぞ。わざと喧嘩を売ったりとな。」
「それはちゃんと考えてありますよ。キリュウさんのストレスが溜まった頃を見計らってるんですから。」
「何故わざわざそういう事をする。」
「そのほうがキリュウさんのほうもストレス発散になるでしょう?」
「・・・そういえばそうだな。ふむ、なかなかいい心がけだ。」
「いえいえ。まあそういうわけですよ、宮内さん。」
ともかくヨウメイが言いたい事は、憂さ晴らしの相手はキリュウのみだという事だ。
「なるほど・・・。じゃあ私の神社でやっていた事は何なんですか。」
「だから事故だろ。女性に優しくをモットーとしておきながら何ヨウメイに突っかかってんだ。」
「ちょ、那奈さん。それとこれとは話が・・・」
「それにヨウメイ、ちゃんと後始末したんだろ?」
「もちろん。事故とはいえ私が原因ですから、ちゃんと元通りにしましたよ。」
「えらーい!さすが楊ちゃん!それにひきかえ・・・。」
那奈、そして花織達三人が出雲をじろりと睨む。ここで出雲は引き下がるしかなかった。
「すいません、あれは事故です。」
「そう、それでいいんだ。」
「・・・まあいっか。」
何故か偉そうに告げる那奈に釈然としなかったが、ヨウメイは納得した。
と、そこで素早くたかしが手を挙げた。
「ヨウメイちゃん、宮内神社で一体何をやってたの?」
「え?ただの・・・いえ、秘密です。」
「ええ?だめだよお、そんなのちゃんと・・・」
身を乗り出すたかしを熱美がすっと制す。そしてにこやかに言った。
「楊ちゃん、神社で何をやっていたか教えて?」
「うっ・・・。分かったよ。えーとね、精霊召喚。」
「せ、精霊召喚?」
熱美が驚きの声を上げる。当然みなも同じ様な反応を示した。
「そ、精霊召喚。宮内さん、宮内神社は縁結びの神様を祭っているでしょう?」
「ええ、そうですけど。」
「その神様の力をちょこっと借りて精霊を呼び出そうとした、というわけです。
ただ、その呼び出そうとする際に色々しなければならない事があって・・・それで色々事故が起きたというわけです。」
「はあ・・・で、その色々とは?」
「うーん、それは説明しても意味が無いんで。
ちなみになんの精霊を呼び出そうとしてたかって言うと、恋愛の精霊さんです。」
「れ、恋愛の!?」
がたっと皆が前につんのめる。圧倒されつつヨウメイは続けた。
「え、ええ、そうです。今もどこかで新たな主を待っている・・・。
けれど私自身精霊ですから呼び出すのはほんと難しくて・・・。それで色々苦労してたんですけどね。」
「あのうすいません、ひょっとしてこれからも・・・」
「ええもちろん。とはいえ、なかなかできないでしょうね。心配なさらなくても後始末はしっかりやりますから。」
少しばかり申し訳なさそうに告げるヨウメイに、出雲は一つ息をついて納得した。
「ねえヨウメイちゃん、何のために恋愛の精霊を?」
「それは・・・秘密です!教えてなんて言われても教えません!!」
突っぱねた態度できっぱりと告げたヨウメイ。
さすがの熱美達も、これには引き下がらざるをえなかった。
しばらくして質問が終わった事を確認したヨウメイが自然と切り出す。
「それでは他に・・・」
「あの、ヨウメイさん。一応もう一つ質問が・・・。」
「宮内、あれだけ妙に突っかかっておきながら・・・。」
「まあまあ、那奈さん。教えてと言っている人を拒む必要はありませんよ。どうぞ、宮内さん。」
「は、はい。実は・・・」
「さっすが楊ちゃん!心が広いね〜!」
「花織ちゃん、その話は後でいいから。」
「はいはい。じゃあどうぞ、出雲さん。」
「は、はあ。で、実は最初お会いした時から気になっていたことなんですよ。」
「何ですか?」
「何故眼鏡をかけていらっしゃるんですか?目が悪いという訳では無いでしょう?」
「・・・初対面でそんな事が分かるもんなんですか?」
「逆に質問するとは・・・。ええ、分かりますよ。女性ならね。(ふぁさぁ)」
「・・・それ止めていただけませんか?なんか腹立たしいです。」
「・・・すいません。」
「どうも。それで、質問の方ですが、これは記念の品なんです。」
「記念の品?」
「そうです。私が過去に使えた主様の一人・・・その方に記念としてこの眼鏡を戴いたんです。」
「なるほど・・・。」
「ねえねえ、その人って楊ちゃんの恋人?」
隣から熱美がうれしそうに喋ってきた。
ヨウメイは別段気にするでも無く告げる。
「恋人じゃないって。それに女の人だしね。」
「なんだー、そうかあ・・・。」
「何を期待してたの、熱美ちゃん・・・。ともかく、その主様より譲り受けた物だという事です。
もちろんこんなに御大層に大事にしているのには、訳があるほど大切な方ですけどね。」
「ああ、それはもういいです、長くなりそうなので。」
「そうですか?」
「ええ。ヨウメイさんが記念品をそれだけ大事にする、というほどの大切な人。
そういう人がどんな人か、聞いてるととてつもない時間を要するでしょうしね。」
「まあそれもそうですね。今回はそれがメインじゃないし。」
「どうもありがとうございました。」
たかだか眼鏡についてだけなのだが、出雲は深く納得できたようである。
「それじゃあ次の人。」
「はいっ!」
「どうぞ、ルーアンさん。」
「あんたが知ってる理論てやつを語ってよ。」
「・・・語るんですか?」
「そうよ。原因と結果がどうたら、ってやつを。」
「それは・・・」
「ルーアン殿、別の質問にされよ。はっきり言って聞いて納得できるものでも無いからな。」
「そう?ま、キリュウが横からそういうんなら別にもう良いわ。」
「そうですか。それじゃあ他には?」
「えーとねえ、楽な授業の仕方とか。」
「・・・あのー、ちょっとここで確認させて戴いていいですか?」
「え?ええ、いいわよ。」
何やら改まった顔で姿勢と服を整えると、ヨウメイは一つ咳払いをした。
「今やっているのは統天書に対する質問コーナーでしょう?
だからそういう質問をして欲しいんですよ。宮内さんみたいな事は特例ですからね。」
なるほど、と皆は頷いた。確かに最初はそう言っていたのだから。
「分かった、じゃあ質問変えるわ。統天書の体重ってどのくらい?」
「体重・・・。そんなに重く無いですよ。私が持つときはほんと軽いんです。」
「具体的に言うと?」
「そうですね・・・一円玉より軽いですね。」
「ええー!?そんなに分厚いのに〜!?」
「ええ。」
「ほへー・・・。」
驚いているのはルーアンだけでは無い。皆が皆そういう顔になっている。
「で、あんたが持つ時ってのは?」
「私が持つ時だけ、それくらい軽くなるんです。
他の人が持つ場合、大体広辞苑くらいの重さに成りますね。」
「ふーん、そうなんだ・・・。」
「他にはないですか?」
「身長と胸囲は?」
「あのね・・・。縦かける横かける厚さを言いますね。」
「ふんふん。」
「だいたい、最大が30cmかける20cmかける?cmです。」
「へえ・・・って、“?”ってどういうことよ。」
「時間によって厚さが変わる物ですから。もちろん縦と横も。」
「なんなのそれ・・・。ちゃんと一定にしないの?」
「まあ、我慢してくださいな。それが統天書なんですから。
空天書の時は厚さ10cmで、そのままですけどね。」
「なるほどねえ・・・。それじゃあもう一つ。内容量はどのくらい?」
「難しい質問ですね・・・。仕えた主様によります。」
「たー様の場合は?」
「まだ量ってません。過去の主様たちのを平均すると・・・。」
言いながらぱらぱらと統天書をめくるヨウメイ。
あるページで手を止めると、片方の手で何やら宙をふよふよ描きながら考え込み出した。
リズミカルな指の動きに合わせて計算を行っている様である。
「・・・解けた!えーと・・・まずページ数に表わすと・・・。」
「ページ数に表わすと?」
「それより先に文字数に表わすと・・・。」
「ふむふむ、文字数に表わすと?」
「おおよそですが、一億の一億乗くらいじゃないかと・・・。」
「一億の・・・一億乗!!?」
「一ページに載ってる文字量は、一定してませんが・・・まあてきとーに考えてください。
で、そこからページ数を割り出してくださいね。」
「ふえええ・・・。」
「一応言っておきますけど、それでもほんの一部分ですからね。」
「はあー・・・すごいわねえ・・・。」
「そりゃまあ、万物について載っているわけですから。」
もちろんこの時も驚いたのはルーアンだけでなく他の皆も一緒。
あまりの膨大な数に、何やら無駄な計算を試みる者も居たりする。
「ねえ、なんでそんなすごい量なのにそんな厚さなの?」
「空間を捻じ曲げてありますから。」
「そうなの・・・。」
「他には無いですか?」
「ああ、その辺にしとくわ。次いって頂戴。」
「分かりました。それでは次の人〜。」
「は、はい。」
「遠藤さんですか、どうぞ。」
「自然現象をどういう原理で呼んでるか知りたいんだけど。」
「なるほど。えーとですねえ、私の能力だからです。」
「・・・それって原理?」
「そう言われましても、キリュウさんの万象大乱やルーアンさんの陽天心召来、
そしてシャオリンさんの星神を呼ぶ能力。これらと同じ原理ですので、能力と言うしか・・・。」
「そっか・・・。じゃあもう一つ。ヨウメイちゃんの能力は自然現象を呼ぶだけじゃないでしょ?
他にどういう能力があるのかな?って。」
「統天書を用いたものだけで良いですよね?」
「うん。もちろんそのつもり。あんまり色々言われてもあれだし。」
「分かりました。ではその中でもちょっとだけにしておきましょう。」
「ちょっとだけ?」
「ええ。数を挙げて行くとキリが無いので。」
「万象○○というのが多いからな。」
横からすっと口を挟むキリュウ。何やらにやついている。
「まあ確かに。」
「それだけ私の術が信頼されているという事かな。」
「いえ、単に便利ってだけですから。」
「何を負け惜しみを言っている。」
「だってね、万象、ですよ。あらゆる事柄に対して、ですよ。
こんな便利なものはそうそう存在するものじゃありませんからね。」
「それだけか?他に色々あるだろう?」
「いえ別に。」
「・・・ヨウメイ殿、著作権という物を知っているか?」
「何を今更言ってるんですか。最初に術を開発する際に許可を取ったでしょう?」
「だが、私が聞いたのは万象封鎖と万象復元のみだ。」
「それ以後開発する際も許可する、とキリュウさんは言いました。ちゃんと統天書に載ってますよ。」
「そんな事を言った覚えは無いな。」
「忘れてるだけですよ。なんなら調べてみましょうか?」
「あの〜、二人とも〜・・・。」
言い争っている途中で乎一郎が恐る恐る手を挙げる。すっかり忘れられていた様だ。
「なんですか?遠藤さん。」
「僕の質問はどうなったの?」
「そんなものは後だ。今は私とヨウメイ殿が話をしているのだからな。」
「そういう事です。後にしてください。」
「ちょっと待ってよ、先に質問したのは僕の方なのに。」
「・・・しょうがないですね。キリュウさん、少し待っててください。」
「ダメだ。なにがなんでも先に説明してもらおう。」
「・・・ヨウメイちゃん、僕後でいいよ。」
「そうですか?では・・・。」
あっさりと譲った乎一郎がそれとなく震えていたのは他の皆にも分かった。
彼のそれは、これ以上張り合っていては、
キリュウとヨウメイの喧嘩が勃発するのでは?と考慮しての行為だ。
「すまないな、遠藤殿。ではヨウメイ殿、続きを。」
「よーし、それじゃあ調べますよ。あれはすごく昔・・・私とキリュウさんが同じ主様に仕えた時です。」
「嘘を言うな。同じ人物に仕えた覚えは無いぞ。」
「ちぇ、ばれたか。同じ家族の方・・・でしたね。」
「そうだ、その時に・・・そういえば全て認めるといってしまったような・・・。」
「何自分で思い出してんですか。私がこれから説明するんですからね。」
「いや、もういい。確かに認めたな、私の術を参考に様々な術を作り出しても良いと。」
「あのー・・・。」
「そうか、私の勘違いか・・・すまなかったな。」
「そう謝られると・・・。まあいいです、では遠藤さん、どうぞ。」
あっさり決着がつき、ヨウメイは乎一郎に手を差し出した。
「・・・何?」
「何じゃないでしょう?質問をどうぞっていう事ですよ。」
「・・・・・・。」
「あの、遠藤さん?」
「ヨウメイちゃん、僕の話聞いてた?」
「もちろん、統天書を用いた術にどんなものがあるか・・・あっ!」
「そうだよ。もう質問終わってるからヨウメイちゃんが答える番だよ。」
「失礼しました。まあ弘法も筆の誤りと言いますし。」
「誰が弘法だ、誰が。くだらないことは言わなくていいからさっさと遠藤殿の問いに答えられよ。」
「キリュウさん、もとはといえばキリュウさんが横から口出しするからいけないんですよ。」
「責任転嫁は良く無いな。ヨウメイ殿が忘れていただけではないか。」
「その忘れる原因を作ったのはキリュウさんでしょう?」
「私が悪いと言うのか?」
「さっきからそう言ってるじゃないですか。」
「理不尽だな。こうなったら・・・。」
短天扇をすっと広げようとするキリュウ、そして統天書をめくり始めるヨウメイ。
ところが・・・。
「ちょっと二人とも!!僕の質問はどうなったのさ!!」
「少し待たれよ、遠藤殿。」
「ちょっと試合やりますんでその後にでも。」
「そんなあ!!」
完全に乎一郎は無視状態。
いよいよ二人の争いが始まろうというその前に・・・!
「陽天心召来!!」
ルーアンが素早く黒天筒を回し、二人の目の前に湯のみに命を吹き込む。
それに一瞬で手足が生えたかと思うと、二つ同時にそれぞれの顔へとすっ飛んで行った。
「「うわっ!!」」
どがどがっ!
と勢い良く音がして、二人の体は後ろにのけぞる。
湯のみの陽天心を解いたあたりで、痛がっている二人にルーアンが叫んだ。
「あんたたちねえ、今は質問時間でしょう!!?とっとと答えてあげなさいよ!!」
さすがというか、威圧感というものを見せつけている。
無言のまま申し訳なさそうな顔をしたキリュウとヨウメイ。そしてヨウメイが改めて喋り出した。
「失礼しました、遠藤さん。」
「う、うん・・・。」
「それではそれなりに例を挙げて行きますね。まず万知創生。」
「ああ、最初の授業で使ってたやつだね。」
「そうです。あっという間に人間に知識を吸収させる術。
どんなに沢山の書物であろうと、どんな内容であろうと。私の十八番です。」
「それってどれくらいまでOKなの?」
「制限はありません。ただ、人間の頭じゃああまりにも沢山やりすぎるとあれなんで。」
「そうなんだ。具体的にはどれくらい?」
「およそ百冊程度でしょうね。それ以上は多分やらない方がいいです。」
「へええ・・・。」
「で、別に書物じゃなくてもいいんです。どんな物でも、例えば人でも。」
「ひ、人?」
「そうです。その人の持つ情報全てを別の人に吸収させたりできます。」
「すごいなあ・・・。」
「ただ、これはメリットよりデメリットの方が大きいのであまりやりませんけど。」
「なんで?」
「余計な情報まで入ってしまいますからね。何時に寝て何時食事したとか。」
「そうなんだ。で、他には?」
「・・・今の所はそれくらいです。後は空間にまつわる術を少々。」
「それだけ?しかも少々?」
「ちょっとだけ空間を捻じ曲げたり出来るんですよ。試練の時にやって見せたと思いますが。」
「ああ、あの水槽の。でもなんで少々なの?」
「私の役目は、主様に知識を教えるという事。ですからそんなに要らないんです。」
「でもさあ・・・。」
「戦いなら自然現象を呼ぶので十分ですよ。
足りない時は、他の精霊さんから力を借りる事が出来ますので。」
「うーん・・・まあいいや。じゃあ僕はこの辺で。」
「そうですか。」
乎一郎は納得。と、横からたかしがすっと手を挙げた。
「お次は野村さんですね。」
「そう!乎一郎の続きに成るかもしれないけど・・・そんなので大丈夫だったの?」
「・・・何がですか?」
「いや、だからさ、主に知識を教えるだけ、って言ったって戦いとかあるだろ。
その時にそれだけで主を守れたのかなあ?って。」
「あのね、主を守るのは守護月天の役目なんです。」
「けど、まるっきり戦いが無かったとは・・・。」
「・・・来れ、真空!!」
納得しない様子のたかしに対して、途端にヨウメイは統天書を素早くめくって叫ぶ。
たかしの周りにだけ異常が発生。たかしは顔を引きつらせながら、苦しげにそこにうずくまった。
と、数秒経ったところでヨウメイはそれを解除。そしてたかしは落ち着きを取り戻す。
「ふう、ふう・・・。」
「だ、大丈夫?たかし君。」
横からの乎一郎の声もほとんど耳に入ってないようであった。
そこで、ヨウメイがだれたようなため息をつく。
「分かりましたか?こういう自然現象が扱えれば十分なんです。
強力な力は、それ相応の戦いの場所でのみ必要とされるんです。」
「で、でもさ・・・。」
「もう一度真空を味わいますか?今度は本当の意味の真空を。」
「え?」
「今行ったのは、単に呼吸できなくなる程度の真空です。
本当の真空状態になれば、野村さんの体はもはやぐちゃぐちゃになってたでしょうね。」
「え、なんで?」
「ずっと前に教えませんでしたか?空気圧について。」
「そ、そっか・・・。なるほど、こりゃ確かに強いな・・・。」
「もういいですか?」
「あ、ああ、納得したよ・・・。」
「・・・愚かだな。」
ぽそりとキリュウが呟いた。たかしが慌ててそちらの方を向く。
「キリュウちゃん?何が愚かだっていうのさ。」
「ヨウメイ殿の戦闘能力に付いて聞く事だ。」
「ええ?なんでさ。」
「全ての自然現象だといっただろう?良く考えてみられよ。
その気になれば、強烈な地震によって国一つ滅ぼす事も可能なのだからな。」
「もちろんそんな事はしませんよ。なんの得にもなりませんからね。」
キリュウの言葉にヨウメイが付け足す。
顔は笑っているが、言動自体に恐ろしいものがあった。
「く、国一つ・・・。」
「そうだ。だからヨウメイ殿にそういう事について訊くのは愚かだと言ったんだ。」
「キリュウさん、そういう事じゃなくて・・・。
とにかく、自然現象を操れるということからそれくらいは予想して欲しかったという事ですね。
もちろんキリュウさん、ルーアンさん、シャオリンさんもしかり。
ただ、そんな強力なものは使うべきじゃないんです。
さっきも言ったように、国を滅ぼしかねないものなんて使っても・・・ね。そういう事です。」
「・・・分かった、それで納得する。」
「どうも。」
何やらおびえたような顔で納得するたかし。
精霊を除く皆もそんな顔だ。
「それでは次はだれですか?」
「あ、次はあたし!」
「那奈さんですか、どうぞ。」
「統天書の限界ってのは無いの?」
「例えば?」
「例えば・・・どれだけ知識を載せられるとか、どこまで能力を扱えるかとか。」
「基本的に統天書にそういうものは無いです。
ただ、私が他から作り出したもの、例えば万象○○なんかは限界があります。」
「どんな風に?」
「一番よく使う万象復元、これはどんな物でも復元可能です。」
「ふんふん。」
「ですが、いつでも気軽に使える訳ではありません。負担がすごく大きいんです。」
「そういえばそれ使った後はしょっちゅう眠ってたっけ。つまり・・・連続して使えないって事?」
「そういう事です。万象○○についてはほぼそんな感じです。まあ、種類にも寄りますが。」
「・・・あたしが訊きたいのはそういう事じゃないんだけど。」
「いや、そういう事ですよ。基本的にどんなものでも、ですからね。
限界といえば、その連続使用不可能という事、だけです。」
「・・・やっぱり違うって。あたしが聞きたいのは、そういう術の不可能な部分だよ。」
「・・・そんなものはありません。」
「そうなの?」
「と、言いたいところですが、どんなものも完全では無いですからね。」
「ほら見ろ、やっぱりあるんじゃないか。で、何なんだ?」
「けれどねえ、こんなのは私がやる物じゃないんですけどね・・・」
「ごたごたせずにさっさと言う!」
「・・・分かりました。無と化した物の復元です。」
「そっかー・・・って、何だそれ?」
「難しいと思うんで、簡単な例で説明いたしますね。」
「う、うん。」
「例えば、仮に那奈さんがこの世に存在しなかったとします。」
「げっ、なんつう例えを・・・。まあいいや、それで?」
「で、そういう那奈さんをこの世に存在させるのは不可能だ、という事ですよ。」
「・・・良くわかんないな。存在して無いものをどうやって復元させるんだよ。」
「だから、そういう物が無なんです。」
「はあ?」
「この次元に存在しない物、いや、していたのに存在を無とされた物、という事です。」
「・・・つまり、もともと無い奴と同等、って事か?」
「そういう事です。未だ分かって無い方もいらっしゃると思うのでもう一つ例を。
・・・シャオリンさん、離珠さんを呼んで下さい。」
「離珠・・・ですか?」
「ええ、そうです。」
「分かりました・・・来々、離珠!!」
突然にシャオに話し掛けたヨウメイ。
皆が疑問の顔で見守る中、支天輪より離珠が呼び出された。
「それでは離珠さん、この紙にシャオリンさんの絵を描いてください。」
いきなり離珠の前に一枚の紙がすっと置かれる。
最初は戸惑っていた離珠だったが、ヨウメイに促されて颯爽と筆を取り出した。
すらすらと紙に黒い線が描かれて行く。やがてそれはシャオの絵を形作った。
「やっぱり離珠さんらしい絵ですねえ。」
「なあヨウメイ、これでなんの意味があるんだ?」
にこやかにしているヨウメイに当然尋ねる那奈。
と、ヨウメイはすっと紙を手に取った。
「こうするんですよ。」
びりびりと勢い良く紙を破り始める。皆は唖然としていたが一番驚いていたのは離珠だ。
なんといっても、たった今ヨウメイに頼まれて描いた絵を破られたのだから。
やがて、一枚の紙が沢山の紙くずと化す。もはや原型はとどめていない。
「ヨウメイさん・・・あんまりです!」
涙目の離珠を代弁するかのように告げるシャオ。
しかしヨウメイは、それに軽く目で答えると統天書を開けた。
「では・・・万象復元!」
ぱあっと紙くずが光る。そして次の瞬間には元の紙切れに戻っていた。
離珠がシャオを描いた・・・それが載っている紙切れである。
「・・・なあヨウメイ、何がしたかったんだ?」
唖然としているシャオと離珠をちらっと見、そして尋ねたのは太助であった。
「そのまんまですよ。離珠さんが描いたシャオリンさんの絵は復元できたでしょう?」
「ああ。」
「ですが、主様の絵は復元できませんでした。そういう事です。」
「はあ?だって、もともと離珠は俺の絵なんて描いて無いじゃん。」
「だから、そういう事ですよ。もともと無い物の復元は出来ませんね?
無もそれと同じ考え方です。本当に無い、状態ですから。」
「へええ・・・。」
皆が興味津々と離珠の描いた絵を見つめる。
確かにヨウメイの言う通り、もともと無い物は復元のしようが無い。
と、ここで質問の大元であった那奈が口を開いた。
「なあヨウメイ、それって復元じゃなくって創生とか言うんじゃないのか?」
「まあ、この次元ではね。」
「はあ?」
「無と成った物の創生、これまた不可能なんです。だからこの次元じゃ無いと。」
「あの、良くわかんない・・・。」
「だから・・・って、これだと話がそれちゃってますね。とにかく!
万象復元のできない事、という事にそういう物がある、というところで納得してください。」
「・・・まあいいや。しっかしなんでわざわざ離珠を?」
「なんとなく・・・です。離珠さんに出てきて欲しかったから、ですかね。」
「ふーん。」
説明の為に呼び出された離珠。とはいえ、ヨウメイの謎の希望でもあった訳である。
ともかくそういう事で、何気なく離珠は得意げになるのだった。
「それじゃあ、次に・・・知識の限界について。」
「それこそ皆無なんですよね。なんでも載ります。」
「一番最初に載らない事もあるって言ってたじゃないか。」
「ああ、人の心と未来の出来事ですね。ええ、それ以外ならなんでも。」
「なんでも?」
「なんでも、です。ただ、私自身は全部読めない様にしてますけど。」
「なんじゃそりゃ。」
「異次元に関しては記載されないというのが基本なんです。」
「は、はあ、そうなの。」
「ですが、とある操作によって載せる事もできます。が、読めない様にしてます。」
「それに何の意味が?」
「ちょっと言い方が悪かったですね。
ええとですねえ、異次元に統天書を持って行き、操作するという事です。
そうすれば元の次元の情報をそのままに、その異次元の情報も載せられるという事です。」
「それで、読めない様に、ってのは?」
「いったん載せた事柄はずうっと記録されてます。
ですが、そんな物に目を通す必要は無いので、私自身が読めない様にしてます。
こうする事によって、的確に統天書を引く事が出来るんです。」
「もしかして楊ちゃん、最初にあたしが聞いた質問に関係してる?」
「うんそうだよ、ゆかりん。素早く調べる為にはそれをしておかないと、って事。」
「そうか、なるほどねえ・・・。」
横からのゆかりんの乱入。だが、那奈は納得できたようだ。が・・・。
「それより異次元って?」
「天界とか、冥界とか・・・です。」
「・・・そんな物あるの?」
「あるから言ってるんですって。でも、別にそんな所に行く用事なんて無いですよ。」
「ふうん、まあいいや。」
慌てて訊いたものの、那奈はてきとーに納得。
他の皆はそれなりに気になっていたが、深くは聞かない事にした様だ。
「もういいですか?那奈さん。」
「ああいいよ。良く分かったつもりだから。」
「つもり・・・。まあいいや、それでは次は?」
「はーい。」
「熱美ちゃんだね、どうぞ。」
「じゃあ質問するよ。どうして楊ちゃんってそんなに体力が無いの?」
この質問にヨウメイは顔を引きつらせた。
数秒の後にもとの顔に戻ってゆっくりと喋り出す。
「お客様のその質問にはお答えできません。」
「ふざけてないでさ、ねえどうしてなの?」
「・・・無い物は無いんだもん。」
「さっき言ってた無、って事?」
「それとはまた違うけど・・・。」
「何かの代償に削っていったって事?」
「うっ、するどい・・・。」
「そうなの!?ちょっと楊ちゃん、一体何の代償にしたの!?」
「べ、別に良いでしょ。それに代償にしたって訳じゃ・・・。」
「いいから話してよ!!」
「わ、わかった。えーとね、研究・・・。」
「・・・研究?」
「そ。どうやったら効率良く教えられるか、とか。」
「えええ?楊ちゃんてそういう精霊さんじゃないの?」
「時間と共にそういうのは変わって行くんだよ・・・じゃなくて!!
いろんな術の研究をしてたんだよ。」
「それで?」
「研究に没頭するあまり、体力が無くなっていっちゃって・・・」
「ねえ、それ本当?」
「・・・本当・・・だよ。」
「その割にはなんか自信なさそうじゃない?」
「そんな事無いって。」
「ふ〜ん・・・ねえ、キリュウさん、どう思いますか?」
「なんだと?」
いきなりキリュウに話をふった熱美。当然キリュウは困惑している。
「楊ちゃんの説明、どこかおかしくないですか?」
「ちょっと熱美ちゃん・・・。」
「別におかしくは無いと思うが。なんと言っても笑えないしな。」
「え?」
「だから、可笑しいのなら笑えるはずだろう?」
「・・・キリュウさん、いつからそんなべたなボケをする様になったんですか?」
「・・・面白くなかったか?」
「そういう問題じゃないでしょう!?わたしは楊ちゃんに付いて訊いているのに!!」
「す、すまない。私が思うに、ヨウメイ殿のそれは体質だと思うが。」
「体質で片付けられる物なんですか?第一、それだと楊ちゃんの説明と違うじゃ無いですか。」
「だから、体質もあり、研究の為に失った体力もあり、という事では無いだろうか?」
「・・・なるほど、そういう考え方もありますね。わかりました、それで納得します。」
「うむ。」
最後に返事を返した所で黙り込むキリュウ。と、ヨウメイは軽く目を伏せつつもお礼を言った。
「ありがとうございます、キリュウさん。」
「・・・珍しいね、代わりに説明されたのに楊ちゃんがお礼を言うなんて。」
「私だってそういう時もあるんだって。どんな物でも例外はあるの。」
「ふーん。まあいいや、わたしはこれで終わりにしておく。」
「そう。え〜と、それじゃあ次に質問のある方は?」
「はいっ。」
今度手を挙げたのはシャオ。いつの間にやら離珠用の湯のみを用意。
そして、熱美の質問時間が終わるのを待っていた様である。
「シャオリンさん、ではどうぞ。」
「はい。ヨウメイさんの好きな食べ物はなんですか?」
「・・・あの〜、それと統天書とどういう関係が?」
「楊ちゃん、さっきのわたしの質問だって似たようなもんじゃない。」
「あ、そかそか。えーとですねえ、基本的になんでも。」
「そうなんですか?ルーアンさんと同じなんですね?」
「いえ、私はあそこまで素晴らしくはありませんよ。」
一瞬けなすかと思った皆はヨウメイの意外な言葉にずるっとなった。
当然、ルーアンだけはこけずに誇らしげに高笑いしている。
「さっすがヨウメイ、わかってるじゃない。おーっほっほっほっほ」
「ええ。どんな物でも食べてしまうんですから、私も見習わないと。」
「ほっほっほ・・・って、ちょっと、どんな物でもってどういう意味よ。」
「あれ?食べないんですか?もちろん、ルーアンさんが食べられると認める味の物ですけど。」
「あ、そ・・・。ならいいわ。」
突っかかりそうだったルーアンがあっさり引き下がる。
皆もそれで笑いそうだったのを必死にこらえた。
「それでヨウメイさん、具体的にどんな物が好きですか?」
「具体的にと言われましても・・・。」
「じゃあまた今度考えておいてくださいね。たまにはそれを作る様にしますから。」
「い、いえ、別にお気遣い無く。」
「でも、折角ルーアンさんみたいに食べるとおっしゃるんですから。」
「・・・誰もそんな事言ってませんて。」
「あらそうでしたっけ?」
「そうですよ。」
「すいません、統天書で調べていただけますか?」
「・・・分かりました。」
疲れた表情で統天書をめくるヨウメイ。すぐにとあるページで手を止めた。
「・・・やっぱり言って無いですよ。」
「そうですか、ありがとうございます。済みません、疑ったりして。」
「い、いえ・・・。」
「それでヨウメイさん、次の質問なんですが。」
「はい、なんでしょう。」
「一日にどれだけの量を教えていただけますか?」
「どういう事でしょうか?」
「つまり、お料理とかお洗濯とか・・・とにかく色々教えていただいているでしょう?」
「ええまあ。」
「一日にそういったものの教えられる量の限界を知りたいんですけど。」
「それを知ってどうしようってんですか・・・。」
「だって、あまりにも時間がかかるものですと何日もかかってしまいますし。」
「別にそんなに一度に覚える必要はありませんって。」
「でも・・・ルーアンさんやキリュウさんは昔から知っていらっしゃるからよいようなものの。
私はヨウメイさんとこの家で初めてお会いしたものですから。」
「そういう問題じゃないような・・・。まあいいでしょう。
ええとですねえ、心配しなくても今の調子で教えていっても大丈夫ですから。」
「そうですか?」
「そうです。」
「本当に?」
「本当です。」
「本当の本当に?」
「本当の本当です。」
「本当の本当の本当に?」
「本当の本当の・・・って、何言わせるんですか。」
「だって・・・。」
「何か心配事でも?」
「私、実は他にももっと知りたい事があって、お料理だけで終わってしまうんじゃないかって。」
「・・・分かりましたよ、少し教えるペースを上げましょう。」
「本当ですか?」
「ええ、とは言ってもあんまり焦ってやると完璧じゃなくなってしまいますから程ほどにします。」
「ああ、ありがとうございます。よろしくお願いしますね。」
「いえいえ、こちらこそ。」
ぺこりと互いにお辞儀するシャオとヨウメイ。なんとも不思議な光景であった。
「他に質問はありますか?」
「ヨウメイさんのお気に入りの星神は誰ですか?」
「・・・なんなんですか、それ。」
「あ、いえ、なんとなく訊いてみたくなったものですから。」
「えーとですねえ・・・」
「瓠瓜だよな?」
横からするりと翔子が口を挟む。と、ヨウメイは首を横に振った。
「確かに可愛くって擦り擦りしたいとかありますけど、一番のお気に入りは別の星神さんです。」
「となると・・・女御殿か?」
今度はキリュウが口を挟む。しかしまたもやヨウメイは首を横に振った。
「いいえ、確かにお友達になりました。
キリュウさんでファッションショーを出来るのも女御さんのおかげですけど違います。」
“何やってんだ・・・”と、皆が一斉に思う。
と、シャオが考え込んだ後にふっと顔を上げて言った。
「・・・もしかして、八穀ですか?」
「そう、八穀さん・・・って、何で分かったんですか!?」
「いえ、以前お買い物に行ってくださった時に、八穀と一緒に行った後に随分とご機嫌でしたから。」
「なるほど・・・。そうです、八穀さんです。
なんといっても、統天書で詠めない事を詠んでしまいますから。
だから私も一目置いてるって訳ですよ。」
「統天書で詠めない事?」
「そうです。食材に関して選ぶ際にですね、統天書だと現状しか詠めないんですよ。
ですが、八穀さんはこの先の時間の状態も呼んで、良い食材を見抜く事が出来る。
つまりは未来を詠むって事です!」
「ふええ、八穀ってすごかったんですねえ。」
「そうですよ。・・・って、シャオリンさんが感心してどうするんですか。」
「あ、それもそうですね。」
顔を見合わせて少しばかり笑い合うシャオとヨウメイ。
急な事に少々驚かされ気味だった他の面々もそれなりに笑い合うのだった。
「ではもう質問は無いですか?」
「えーと・・・いえ、また今度できたら訊く事にします。」
「そうですか。」
シャオの訊いていた事は、最初にヨウメイが言った通りに、全く統天書と関係の無い事柄である。
それでも、ヨウメイはそれなりに快く答えていたのであった。