小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!外伝)


今だ疲れて立っている三人。それに向かって乎一郎が言った。
「あのさあ、とりあえず探しに行くのは変わんないんでしょ。
三人ともこれからどうするのさ?」
それにキリュウがゆっくりと振り向く。
「ヨウメイ殿のことだ。おそらく私達を探しているに違いないだろう。
しかしこれほどたっても出会わないという事は・・・。」
「探すのをやめてこっちから行くのを待っているという事ですね。」
「そうだね、ゆかりん。となるとどこで待ってるのかなあ・・・。」
再び腕組みをして考え出す三人。
乎一郎も少し考え、しばらくして探るような感じで言葉を発した。
「ヨウメイちゃんの力なら、あっさりキリュウちゃん達を見つけられるはずだよねえ。
でも、どんな方法で探すかによって、いろいろ違ってくると思うんだけど。」
「そうか。ヨウメイ殿は確か座標とやらを使って探し出していたような・・・。」
キリュウの言葉を聞き、乎一郎はぴんとひらめいたように言った。
「だったら、誰かの家の座標に、ヨウメイちゃんは向かったんだと思うよ。
でも、そこにキリュウちゃんたちは居なかった。
多分その時、キリュウちゃんは空を飛んでいたからなんだろうね。
・・・というような場面、覚えてないかな?」
熱美とゆかりんはなんとなく理解できたものの、自分達には役立てることが無いと確信した。
キリュウの短天扇によって飛んでいたのは、ついさっきのことだったのだから。
一方、キリュウ自身は少し頭の中を整理していたかと思うと、やがてひらめいたように手をたたいた。
「そうだ!!おそらく花織殿を連れた直後だろう。
あの時、翔子殿の家の上空を飛んだ気がする。ヨウメイ殿はおそらく、翔子殿の家に居るはずだ。」
「うん、多分そうだろうね。間違い無いよ。」
そこで熱美とゆかりんの二人が拍手する。
“すごいです”とか言う言葉に乎一郎が照れていると、キリュウはもう一つ付け加えた。
「しかしなぜ翔子殿の家に?・・・ああそうか、確か那奈殿と翔子殿は仲が良かったな。
それでヨウメイ殿はそこへ行くことにしたのだろう。」
それに頷くほかの面々。目的地が決まったところで、ゆかりんが元気良く叫んだ。
「それじゃあ早速出発しましょう!山野辺先輩の家へ向かって!」
「よーし!それじゃあキリュウさん!」
「うむ!」
短天扇が大きくなる。乎一郎を除く三人は素早くそれに飛び乗った。
「じゃあね。ヨウメイちゃんにもよろしく。」
「心得た。ありがとう、遠藤殿。」
「ありがとうございましたー!」
「それじゃあ!」
それぞれが挨拶を交わしたかと思うと、空へと舞い上がって行く短天扇。
山野辺家へ向かって、空をすうーっと滑り出した。

一方、野村たかしの家へと到着した那奈と花織。
当然宮内神社から歩いてきたのである・・・という面倒なことはしない。
実は出雲が一緒、つまり車で送ってもらったのである。
ちなみに組み合わせを決めたのはくじ引き。もちろん花織が主催であった。
「さんきゅう、宮内。ちょっとここで待っててくれよな。」
「早くしてくださいよ、ここは駐車禁止なんですから。」
「出雲さん!!楊ちゃんと車とどっちが大事なんですか!!ちゃんと待っててくださいよ!!」
「はいはい、分かりましたよ花織さん。(まったく、どうして私がこんな事を・・・。)」
出雲の車から下りる那奈と花織。すたすたと歩いて呼び鈴を鳴らした。
「はーい!今行きまーす!!」
元気の良い声と共にたかしが顔を出した。
「花織ちゃんに、太助のお姉さん。珍しいコンビだなあ、一体どうしたの?」
那奈が説明を始める前に、花織がずいっと前に出た。
「聞いてくださいよ野村先輩!!楊ちゃんがひどい目に遭って、家出しちゃったんです!!
聞くも涙、語るも涙の悲しい出来事で・・・。」
「ふんふん・・・。」
花織の説明をじっと聞くたかし。
那奈はあきれた表情に固まって、それを聞いていた。
やがてすべての話が終わると共に、たかしはガッツポーズを取った。
「事情は良くわかったぜ、花織ちゃん!良くぞこの俺を頼ってきてくれた。
かつては名探偵として名をはせていた、この野村たかしに任せてくれ!!」
「あのさあ、なにもそんな深刻にならなくても・・・。」
那奈が“落ち着け”といった感じで言うと、花織がすかさず叫んだ。
「那奈さん!!深刻にならずにどうするんですか!
野村先輩、しっかり頼みますよ!」
「ああ、とりあえず作戦会議だ!!
まずはどこにヨウメイちゃんが行くかってことを考えよう!」
「それなら宮内神社でもやったよ、何か他に・・・。」
しかしたかしと花織はそれを始めてしまった。
那奈をほったらかしでああだこうだと話し合う二人。
なんだかだるくなった那奈は、適当な場所に腰を下ろしてくつろいでいた。

そして十数分が経過。さっきからまとまりの無い会議をしている二人を見上げる那奈。
その時、クラクションの音が“ピッピッー”と鳴り響いた。
それに反応して振り返る三人。見ると、出雲がすごく不機嫌そうな顔でこちらをにらんでいる。
長時間(のように出雲には思えた)待たされていたので、業を煮やしたのだろう。
「早くしてくださいよ!こんな所にいつまでも居ても仕方が無いでしょう!!」
すると、花織はそんな出雲の顔をもろともせずにつかつかと近づいて行った。
「な、なんですか、花織さん。」
「なんですかじゃないでしょ!!子供じゃないんですから、
ちゃんと待っててくれなきゃ駄目じゃないですか!!
もう、せっかく後少しで良い案が出そうだったのに・・・。
出雲さんは私達の手足でしょ!今度こんな事したらただじゃおきませんよ!!」
言い終わると、すたすたと歩いて再びたかしと会議を始める花織。
すごい迫力の花織の前に、出雲はただただ頷くしかなかった。
那奈はまたもあきれ顔になって、やれやれと頭を振る。
しかしその後三分と経たないうちに、花織が大声を上げた。
「なんですってー!!野村先輩は家出じゃないって言うんですかあ!!」
その声に花織の方を見る出雲と那奈。たかしは両手を構えながら話している。
「だってさ、あまりにも情報が少なすぎるよ。
やっぱり、たまたま少しの間居なくなってただけなんじゃないのかなあ・・・。」
「野村先輩・・・。もういいです!!
こんな役立たずの先輩の家へなんか来たのが間違いだったんです!!
さあ出雲さん、次の場所へ行きましょう!!」
そして車へ戻ろうとする花織。一緒に戻ろうとする那奈が花織を呼びとめた。
「それじゃあさっきまで何を話し合ってたんだ?」
「もちろん楊ちゃんが行きそうな場所ですよ!でも、野村先輩全部否定しちゃって・・・。
それでなくなったから家出じゃないなんて言ってきたんですよ!!ひどいと思いませんか!?」
「はあ、そうなの・・・。」
疲れた顔でたかしを見る那奈。苦笑いを浮かべると、たかしも同じように返した。
車に不機嫌そうに乗りこんでドアをばたんと閉める花織。
その音に、慌てて那奈も車に駆け寄った。
「それじゃあ野村君、どうも。」
「ああ、いや。あんまり役に立てなかったけど・・・。」
「まったくですよ!!ああ来るんじゃなかった。時間の無駄でしたね。
出雲さん、早く次行ってください!!」
「はいはい・・・。」
一応たかしに手を振ってさよならする那奈。たかしもそれに手を振って返す。
しばらく進んだところで、出雲が口を開いた。
「次はどこに行くんですか。」
「次は・・・どこにしたら良いでしょうか。」
考え出す花織。喋り出す前に、那奈は素早く言った。
「翔子の家だ!」
「ええーっ!!ちょっと那奈さん!!」
「翔子さんの家ですか、じゃあそこにしましょう。」
言うなりスピードを早めた出雲に、花織はそれ以上言うことも出来ずに、
ただ乗っているしか出来なかった。

そのころの山野辺家。太助達が来たことによって目を覚ましたヨウメイ。
そしてこれまでのいきさつを、太助、シャオ、ルーアンに説明したのであった。
「なるほどねえ、それでルーアンしか居なかったんだ。」
「ほんとにひどいわあ。たー様とシャオリンが戻ってこなかったら、
あたしが餓死しちゃうところだったじゃないの。」
「危ないところでしたわね、ルーアンさん。」
“おおげさだなあ”と思いつつ、翔子は一つ尋ねてみた。
「で、これからどうするんだ?やっぱりうちで待つのか?」
すると、ヨウメイが統天書をぱらっとめくったかと思うと、翔子のそれに答えた。
「その方が良いですね。どうやら皆さんこちらに向かっているみたいです。
お昼寝してて良かった。」
ヨウメイの言葉に皆はうなずき、お茶を飲みながら話しをすることとなった。
まず太助が質問する。
「ヨウメイ、さっき説明で言ってたことなんだけどさ。
ヨウメイは主と別れるときはどんな事を?」
「それは皆さんが来てから言うことにします。二度も言うのはちょっと。」
それで太助は納得した。確かに大勢の時に言った方が良いだろう。
「ところで山野辺さん。」
「なんだ、ヨウメイ。」
「かってに人の本を読まれては困ります。これからはそんな事はしないでくださいよ。」
「あ、ああ、分かった。」
翔子が太助をチラッと見ると、太助は人差し指を口に当てて“シーッ”という風にしている。
本当なら、“なんにも読めなかった”と言いたかったのだが、太助を見ると、それも言えなくなった。
しばらくそんな調子でたわいない話しをしていると、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。
「おっ、来たな。はーい、今行きまーす。」
そして翔子が扉を開けると、そこに立っていたのは・・・。
「よっ、山野辺。」
「こんにちは、山野辺さん。」
「あれっ、野村に遠藤・・・。なんでおまえらが?」
「実はさ・・・。」
翔子の問いに、たかしは理由を話し出した。
たかしも乎一郎も、ヨウメイを探しに来た面々の話を聞いて、
自分達もちょっとヨウメイに会って話を聞いてみようと思い、
こうして山野辺家へやってきたのである。二人は偶然ここで出くわした、という訳だ。
「とにかく、ヨウメイちゃんはここに居るんだろ?あがらせてもらってもいいか?」
「そりゃかまわないけど・・・。キリュウ達はどこ行ったんだ?
遠藤より先に出たんだから、もっと前に着いている筈だと思うんだけど。」
「確かにそうなんだよねえ。ずいぶん前に出て、空を飛んでったのに・・・。」
「まあ、そのうち来るだろ。花織ちゃん達もな。」
「それもそうだな。そんじゃあ上がれよ。」
そして中へと招かれる二人。
後は、あのヨウメイ捜索隊のメンバーが来るのを待つばかりとなった。

「しっかし何やってんだろうなあ、キリュウ達。たかし達より遅いなんて・・・。」
「主様、もう一度私が調べてみます。」
そして統天書をめくり出すヨウメイ。
あるページで手を止めたかと思うと、あきれた顔になって、それをパタンと閉じた。
「どうしたんですか?ヨウメイさん。」
「お土産とか言って、寄り道してるみたいです。熱美ちゃんもゆかりんも、もう・・・。
それになんでキリュウさんは止めないかしら・・・。
ついでに、花織ちゃん達はタイヤがパンクしてたみたいですね。
二組が来るのはほぼ同時でしょう・・・。」
ヨウメイの説明に“はあ、そうですか”と頷くみんな。
しばらくの間、特にお喋りもせずに待つ。
そして、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。
「はーい、今行きまーす。」
例によって翔子が玄関へ向かう。
扉を開けると、果たしてヨウメイの言う通り、六人がそこに立っていた。
「やっとこさ来たな。ヨウメイの奴、待ちくたびれてるぞ。」
「ええっ!?やっぱり楊ちゃんはここに居たんですか!?」
素っ頓狂な声を上げる花織に、熱美とゆかりんはあきれて言った。
「おかしいと思ったんだよね。遠藤先輩に言われるまでも無く、ちゃんと考えれば良かった。」
「ほんとだよ。花織、今度からはちゃんと考えて物言ってよ。」
しゅんとなる花織をよそに、那奈が翔子に言う。
「いつからヨウメイはここに?」
「お昼前かな。那奈ねぇ達が宮内神社へ向かっている時に来てたんだ。」
「なるほど、やはり遠藤殿の言っていた事は当たりだったようだな。」
感心して頷くキリュウを見て、翔子がもう一つ付け加えた。
「その遠藤たちも来てるぜ。もちろん七梨達も。とりあえず上がってくれ。」
「なんと、そうだったんですか。それでは失礼いたします。」
出雲の挨拶を皮切りに、六人とも翔子の家へと上がって行った。
リビングで待つヨウメイを見た途端に、駆け寄る花織、熱美、ゆかりん。
太助に愚痴られる那奈とキリュウ。
そしてこの事件に無理矢理巻き込まれた出雲は、皆に苦労話を語るのであった。
しばらくそれが続き、皆が落ちつく。
そうして最初の本題、ヨウメイの主の別れ方へと話を進めるのであった。

「さてみなさん、私がどうやって主との別れを超えてきたか、という事ですが・・・」
「あの、ヨウメイさん!」
シャオが言葉をさえぎって立ち上がる。
「つらかったんじゃないですか?ヨウメイさんなら、
今までものすごく沢山の方の主様に仕えたと思うんですが・・・。」
「シャオ殿、とりあえずヨウメイ殿の話を聞かれよ。質問はそれからだ。」
「は、はい・・・。」
キリュウになだめられて座りなおすシャオ。
シャオにとっては、とにかく興味深いことなのだろう。
いつものような落ち着きはほとんど見られなかった。
「シャオリン、よーく聞いときなさいね。」
「はい、ルーアンさん。」
ヨウメイは皆が静かになったのを確かめ、“おほん”と一つ咳払いをして再び話し出した。
「私は特に何もしてません。以上です。」
そして座り込んで、お茶をすすり出した。那奈ががたっと立ち上がる。
「それじゃあ今朝言ってたことそのまんまじゃないか!ちゃんと説明しろって!」
隣に座っている出雲が慌ててなだめる。
那奈が落ちついたところで、ヨウメイは改めて口を開いた。
「冗談ですよ。皆さんには理解しがたいことかもしれませんが・・・。
私の場合、主様が死ぬまでお仕えしているという事は有りませんでした。」
「あの、それってどういう事ですか?」
シャオが身を乗り出して尋ねる。またもやキリュウがシャオを落ちつかせる。
「つまり、私はある程度まで仕えたら、統天書に戻ったんです。
もちろんその前に主様に頼んでおきます。どこか遠いところへ送って下さい、とね。」
「はいはーい。それってさ、主を信用してるってことだよね。
でもそれだと、もう一度その主が統天書を開けるってことになったりしないの?」
たかしの声に、ヨウメイはゆっくりとそちらを見て言った。
「それは心配有りません。主様自身が拒んでますから。」
「拒むだって?一体どういうことだ?」
次に声を発したのは那奈。今度は那奈の方を見て言うヨウメイ。
「ある程度まで知識をお教えすると、ほとんどの主様はそれ以上知識を得るのを嫌がりました。
無理もありませんよねえ。
一日に、百冊は有ろうかという本の内容が頭の中に入ってくるんですから。」
『百冊!!?』
皆でそろって声を上げる。またもやヨウメイは向きを変えた。
「ええそうです。でももともと人間の頭は、
そんなに沢山の知識をためておけるほど出来てはいません。
だから、途中で知識を得るのも嫌になって、どこか別の場所へ行ってくれってことになるんですね。
もちろん主様はいろんな知識を得ている、良識の有る方になってますから、
ちゃんと適した場所に送ってくれます。」
「でもさあ、それってあっという間に別れが来るってことじゃないの?」
乎一郎が尋ねると、ヨウメイは少し考えながら言った。
「そんなもんでもありませんよ。だいたい二年から五年。
いくらなんでも毎日毎日教えているわけじゃありませんし。
だから、それほどつらくない時期に別れが訪れるわけです。
というわけで、私は何もしてません。お分かりですか?」
ヨウメイが区切ったところで、花織がばっと手を上げた。
「楊ちゃん!でもそんな短い間でも人を好きになったりするんじゃないの!?」
花織の質問に“おおっ!”となる面々。しかしヨウメイはのんびりと答えた。
「そんな余裕は無いよ。主様のために仕えるのに一生懸命だから。
それに、今まで沢山の人に仕えてきたけど、そんなにかっこいい人はいなかったなあ。」
“はあ?”となるほかの皆。ルーアン、そして花織、熱美、ゆかりんは笑っているが。
「という事はヨウメイ。俺のとこからも短い間に去って行くって事なのか?」
「おそらくそれは無いでしょうね。
キリュウさんと共同でしなければならない難しい事ができましたから。
それに、せっかく親友ができたのに。たったそれだけで帰るなんてもったいないですよ。
ね、花織ちゃん、熱美ちゃん、ゆかりん。」
名前を呼ばれた三人は、“うん!”と元気良く頷いた。
「ところでヨウメイさん、あなたは今までどんな人に仕えてきたんですか?」
質問した出雲の方へ向くヨウメイ。
「とにかくいろいろです。えら〜い王様だったり、貴族だったり、商人だったり、
航海士とか、科学者とか、予言者とか、兵士とか、農民とか・・・。
一応、あらゆる役職とか肩書きの人に仕えたって自信が有りますよ。」
そしてえっへんと胸を張る。キリュウはそれをあきれて見ていたが、
皆はただただ驚きの表情であった。
「名前からして、西洋東洋関係無く仕えたって事なんだよね。すごいや。」
「いやー、それほどでもありますよ、遠藤さん。」
“ふつー、それほどでもありませんだろ”とか思いつつも、翔子は聞いてみた。
「という事はさ、あたし達が知っている人が居たりするんじゃない?
歴史に残るような偉業をやったりとか。」
「そんなの、たー様以外に居るわけ無いじゃないの。」
横から口を挟んだルーアンを無視して、ヨウメイはそれに答えた。
「おそらく居ません。みんな、歴史に残ることも拒んでましたから。
“どうしたら歴史書に残らないで死ねるかな”なんて、
ほとんどの人が私と別れる前に聞いてきたんです。」
それを聞いて信じられないという顔になる面々。
「もったいないなあ。それで楊ちゃん、その方法を教えたの?」
尋ねてくる花織に、ヨウメイはゆっくり横に振った。
「分かれば教えられたんだけど、やっぱり未来のことは分からないから。
でも、みんな頭は良かったから残らずに一生を終えたとおも・・・あ、そうか!」
なんだかひらめいたように叫んだかと思うと、統天書をめくり出したヨウメイ。
突然のことに驚きながらも、皆はそれを黙って見ていた。
やがて、とあるページで手を止める。
「ありました。えーと、歴史書に残っている人は、居ませんね。
やっぱりみんなそれぞれ、上手く動いて忘れられようとしたんだ。」
その声にやはり驚く面々。もう一度翔子は聞いてみた。
「なあ、どうやって忘れられたんだ?それと、どうして忘れられようとしたんだ?」
「ちょっと待ってください。えーと・・・。あ、あったあった。
とにかく偉人にあるまじき行為を行ったりして、それで存在を消されるようにしたわけですね。
なぜそうしたかというと、“安らぎが欲しかったから??”。
どういう事だろう。死んでから安らぎたかったのかな・・・。」
そしてヨウメイは考え込んでしまった。それを見て、熱美が仮説を言う。
「一生ちやほやされたくなかったとかじゃないかな。
死んでからも自分のことでわいわい騒いで欲しくなかったとか・・。」
「熱美ちゃん、死んでからそんなことが分かるっていうの?
あっ、そうだ。楊ちゃんなら知ってるよね。死んだらどうなるのかな?」
「ちょっと待ってね、えーと・・・。」
難しい顔で、またもやヨウメイは統天書をめくり出した。
「ひょっとしたら、有名になっちゃうと、
死んでから酷い目に遭うになることが分かってたのかも?」
「なるほどなあ、一理有るぜ、乎一郎。
ヨウメイちゃん、そこんとこはどうなのかな?」
「ま、待ってください。えーと・・・。」
なんと、ヨウメイは両手で統天書をめくり出した。
「ヨウメイさん、そんなに慌てなくても・・・。」
心配そうに見るシャオ。心なしかヨウメイが疲れてきている様子を感じ取ったのだろう。
「あれーっ?なんで載ってないのー?おかしいな・・・。」
更にヨウメイの疲れが増してきたようだ。
それはシャオのみならず、他のみんなにもはっきり見て取れた。
「楊ちゃん、あんまり無理しない方がいいって。
一応聞きたかったことが聞けたんだし。」
花織がなだめるが、ヨウメイはめくる手を止めなかった。
更に疲れが増してきたのか、ヨウメイの顔色がだんだん悪くなってきた。
「ちょっとヨウメイ、大丈夫なの!?もうやめなさいって!」
「「ヨウメイちゃん!!」」
「「「「楊ちゃん!」」」」
「「ヨウメイさん!」」
「「ヨウメイ!」」
皆がそれぞれ叫ぶも、ヨウメイは手を止めなかった。
ますますつらそうにするヨウメイ。キリュウは慌てて立ち上がった。
「いかん!ヨウメイ殿を止めなくては!主殿、もういいと言ってくれ!!」
「でも、さっき読んでも答えなかったのに・・・。
分かった。ヨウメイ!!もういいから止めるんだ!!」
太助がびしっと叫ぶと、ヨウメイの手がぴたっと止まり、ヨウメイはソファーに崩れ落ちた。
「楊ちゃん!」
慌てて駆け寄る花織達。ヨウメイは心配いらないと言う風に手を上げ、そして元通りに座りなおした。
「びっくりしたなあ。一体どうしたんだ?」
翔子が心配そうに尋ねると、ヨウメイの代わりにキリュウが答えた。
「実はヨウメイ殿自らが統天書に呪いを施してな、
ある項目を調べ出すと、死ぬまで止まらないというようにしたのだ。」
「キリュウさん、その項目ってまさか・・・。」
「そう。熱美殿と遠藤殿が言った、死ぬとどうなるか、という事だ。」
キリュウの言葉にはっとするみんな。それと同時に、背筋がゾクっとしたのか、
少し震えているのが目に見えた。
「うっかりしてました。偶然それが分かった時に、絶対に教えてはいけないと思って封印してたのに。
でも、調べようとすることはいつでも出来るし、統天書から消すことも出来ない。
だからさっきみたいな呪いをかけておいたんです。主様の呼びかけで閉じれるような。」
「楊ちゃん、ごめんね。私が聞いちゃったばっかりに。」
「僕も謝るよ。軽率だったんだ、僕の行為は。」
頭を下げる熱美と乎一郎に、ヨウメイは首を振って答えた。
「ううん、私も軽率だったんだよ。心配かけちゃってごめん。
一応、死んだらどうなるかって事は伏せておくね。」
その言葉に皆は頷いた。そして太助が尋ねる。
「なあヨウメイ。主の呼びかけったって、主が傍に居ない時はどうするんだ?」
「それ以前に、そんな呪いの項目を私が調べようとはしないもんですから。
今回はついうっかりしてたんですよ。万が一今回のようになっても、
主様はたいてい傍に居ましたから。」
ずうっと考えていたシャオが、不思議そうに顔を上げた。
「ですが、どうしてそんな呪いを?もっと別の方法があったんじゃないんですか?。」
「私は一度、その知識を記憶から消しました。
そして、死んでからじゃないとその知識が得られないように、
つまり死ぬまで、というようにしたんです。」
「そんな・・・。」
再びみんなが驚愕の表情になる。しかしそれを静めるようにキリュウが言った。
「もう良いだろう。とにかくヨウメイ殿にもいろいろ事情があるという事だ。
別の話に移ろうではないか。」
「そうだな。キリュウの言う通り、話題を変えよう。」
太助の一声に、それぞれ落ち着き、気分を切り替えた。
「さて、ヨウメイのいろんな事情はわかったから、何か言いたいことはないかな。
シャオやルーアンやキリュウに。」
太助がヨウメイに告げると、ヨウメイは少し考えて言った。
「うーん、別に無いですね。皆さんそれぞれ考えがあって動いているんでしょうから、
私が口出しするような事は何も有りませんよ。」
「だったらお話も終わったことだし。
せっかくこんなに居るんですからゲーム大会といきましょう!!」
そう言って花織が背中からゲーム盤を取り出した。
ゆかりんが驚いてそれを見る。
「花織、あんたどっからそんなもん・・・。」
「ひ・み・つ。さあ、始めましょう!!」
早速ゲームを始めようとする花織を、ヨウメイが少し止めた。
そして静かに立ちあがる。
「どしたの?楊ちゃん。」
「いちおう一つだけ。えーと、皆さんいろいろ考えがあって動いていると思うんです。
でも、何かに困るとかそういう事は必ずあると思うんです。
だから、分からなくなった時とか迷った時、そんな時は必ず一度は私に相談してみてください。
ルーアンさんがよく言うように、私はなんでも辞典ですから。
それに物事を教えることは私の喜びでもあるんです。
いろんな知識を共有できるなんて素晴らしいことじゃありませんか!!
というわけで、よろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げて座るヨウメイ。それと同時に、部屋中に拍手が鳴り響いた。
花織達はヨウメイの傍に寄って、互いにふざけあっている。
太助やシャオ達も、笑顔で顔を見合わせながら拍手していた。
そんな中、キリュウがぽつりと言った。
「他人に自分だけが知っていることを教えることにより優越感に浸れる、
ということが抜けているな。まあ、どちらにとっても有益だから大目に見るべきか。」
ヨウメイにそれは聞こえなかったものの、近くに居た那奈と翔子にしっかりと聞こえた。
「なるほど、いい性格してるな、ヨウメイの奴・・・。」
「確かにそれだと、教えることが喜びだよなあ・・・。」
うんうんと互いに頷いている二人に気付いた出雲は、“?”という顔で見ていた。
が、やがて騒ぎを収めるかのように立ちあがり、
「さあて、それじゃあゲームを始めようじゃありませんか。」
と、自分が無理矢理巻き込まれたことも忘れてにこやかに言った。
かくして始められたゲーム大会。
調子に乗ったヨウメイ達四人組によって、
それが夜中まで続いたことを付け加えておこう。

「ところで楊ちゃん、花織がどうやってゲームを持ってきたか教えてよ。」
「それが統天書にも載ってないのよね。不思議な事もあるもんだわ。」
「ねえ花織、教えてってば。」
「だーめ。これを教えていいのは七梨先輩だけよ。キャー、恥ずかしい・・・!!」
「「「・・・なんで?」」」

おしまい