小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!)


「さて、那奈殿。今回のこの試練についてどう思う?意見を聞きたいのだが。」
キリュウの真面目な顔に戸惑う那奈。やがて決意したようにまっすぐに向いて言った。
「はっきり言っとくと、あんなの出来る奴は絶対居ないと思う。
あたしは、単に宮内への仕返しじゃないかなって思うんだけど。」
それを聞いたキリュウは、真剣に考え込んでしまった。
「そうか、無理か・・・。では主殿への試練は難易度を下げねばなるまいな・・・。」
そして腕組みをしたまま歩き出した。慌てて那奈は呼びとめる。
「ちょっと待てって、宮内どうすんだよ。ここに放っておくのか?」
「おお、そうだったな。万象大乱!」
出雲があっという間に小さくなる。いわゆる小人くらいの大きさに。
那奈は苦笑いを浮かべながら、小さくなった出雲をひょいっと手で持ち上げた。
「では行こうか。購買部に着くころには目が醒めると思う。」
再び歩き出すキリュウに、那奈は慌てて追いつき、もう一つ訊いてみた。
「あのさ、太助に与える試練のことなんだけど。
さっきまで宮内にやってたやつは、宮内への仕返しなんだよな?
という事で、太助に与える試練はそんなにむちゃくちゃじゃないだろ?」
キリュウは驚いた顔をしながらも、歩きながらそれに答えた。
「何を言うのだ、那奈殿。宮内殿へやったのは試練だ。決して仕返しではない。」
「うそだろお。あれはどう考えても試練じゃないよ。あんなむちゃな・・・」
「だから最初は軽くいくつもりだったと言っただろう。
しかし宮内殿は更に難易度の高いものを要求した。
だからこの試練を実行したのだが・・・このざまだ。」
ここで那奈は言い返すのをやめた。どうせ悪いのは宮内だし、と納得することにしたのである。
「あ、一つ答えてもらってないよな。太助に与える試練なんだけど。」
「おお、主殿へか。宮内殿が超えられた物より少し難しくする予定だったのだが。
まあ、事前にヨウメイ殿と相談して決めることにする。今は何も聞かないでくれ。」
「そうか。でもあんまりすごすぎるのはやめてくれよ。太助が死んじゃったら困るしな。」
那奈の言葉を聞いたキリュウは少し不思議そうな顔をした。
その顔に反応したのか、那奈も“?”というような顔をする。
「心配しなくても主殿をそんなに危険な目に遭わせたりはせぬ。
ちゃんと考えて試練を行うから、あんまり気にされるな。」
それでも未だ那奈は疑問符を浮かべていたが、二人を信頼することとして納得した。
そのうちに購買部へ到着。そこで授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。

「それでは那奈殿。後を頼んだぞ、万象大乱!」
購買部の椅子に置かれた出雲を大きくするキリュウ。
出雲は、普段座っている姿と同じような格好となった。もちろん気絶したままではあるが。
「わかったよ。じゃあまた放課後な。」
「うむ。」
キリュウが太助のクラスへと歩いて行く。
それと入れ違いになるように、大勢の女子生徒達(出雲ファン倶楽部の人間だろう)
が、購買部へと押し寄せてきた。
あっという間に那奈は押しのけられ、購買部は人で埋め尽くされる。
「な、なんなんだよ、一体・・・。」
体を揺り起こしながらも、近くに居る生徒に訊いてみた。すると、
「さっき風のうわさで流れてきたんです。出雲さんが倒れたって!」
という答えが返ってきた。“はあ?”と思いながらも那奈はそこを立ち去ろうとした。
すると、新たに人の団体が駆けつけてきた。それに呑まれて押し戻される那奈。
「出雲さんが大怪我したんですってー!?でもなんで購買部に居るのかしら。」
「違うわよ!出雲さんが悟りをひらいたのよ!だからこうして目をつぶって座ってるじゃない!」
「あたしは大冒険をしてきたって聞いたけど?」
「何いってんの!購買部で冬眠に入っちゃったのよ!!」
何やら訳のわからない声を聞きながら、ようやく那奈は人ごみを脱出することが出来た。
「ぷはあ、宮内のやつすごいんだな。しっかし一体誰が流したんだろ。
ひょっとしてヨウメイかな。いや、多分間違い無いな。
さあてと、こんなところはおさらばして太助のクラスにでも・・・うわっ!!」
またしてもやってくる人の波。那奈は素早く身をかわして、三度目呑まれることは免れた。
「出雲さん、彼女にふられたんですって!!」
「うっそお!?それで相手は誰なの!?」
「良くわかんないけど、そのショックでかかしを十日間しなきゃなんないって!」
「あたしは校庭を逆立ちで百周とか聞いたよ!」
「みんな、聞いてよ!これは絶対確実!」
後から来た一人の女子生徒に皆がしんと黙り込んだ。
「なんと購買部の品物を全部ただで持っていって良いんですって!!」
「そうなの!?じゃああたしこれもらった!!」
「あたしはこれ!!」
「ああー!!ずるいよ、それわたしのー!!」
一転して修羅場と化す購買部。
その騒ぎに出雲がようやく目を覚ます。
「う、うーん、ここは・・・ああっ!?何やってるんですか、あなた達!!」
「きゃあ、出雲さんが起きた―!!」
「でもただよ、ただ!!早い者勝ちよ―!!」
ひたすら物を取りつづける女子生徒達に、パニック状態になる出雲。
そうこうしているうちに授業の始まりを告げるチャイムが鳴り、
女子生徒達はあっという間に居なくなってしまった。
すっかり品物がなくなった購買部を目の前にして、抜け殻のようになっている出雲。
一部始終を見ていた那奈は唖然としていた。とそこへ、笑いながらヨウメイが現れた。
「あははは、どうですか宮内さん。ずいぶん良い試練に成ったんじゃないんですか?」
その声に那奈が尋ねてみる。
「やっぱりあれはヨウメイの仕業だったんだな。」
こくりと頷くヨウメイ。出雲は半泣き状態で言った。
「ひどいじゃないですか。いらぬうわさを流してこんな仕打ちを・・・。
私に何か恨みでもあるんですか!?」
すると笑いを止めてきりっとした顔になるヨウメイ。と思ったら、すぐににやけた顔になった。
「うわさなんて流してませんよ。あれは幻です。」
「「ま、まぼろし?」」
二人同時に叫ぶと、ヨウメイは再び頷いて言った。
「さっきの竜巻の試練で蜃気楼を作ったじゃないですか。
あれでちょっと思い出しましてね。昔は幻の軍勢で、敵方を良く騙したもんです。
包囲されてるときなんかは特に有効でしたね。ああ、懐かしいなあ・・・。」
しみじみしているヨウメイに、那奈は再び尋ねる。
「幻の割には妙にリアル感があったし、だいたい現に品物が無くなっているじゃないか。」
「ああ、そういう幻にしたもんですから。元に戻しますね。
消えよ・・・幻影!」
ヨウメイが叫ぶと同時に、購買部に置かれてあった品物がパッと現れた。
もちろん最初置かれてあった状態で。
ほっとしながらも、出雲は念のために訊いてみた。
「どうしてこんな仕打ちを私にしたんですか。」
「結局先生に怒られちゃったもんですから、ちょっと仕返しをね。」
「仕返し!?先生に怒られたのは私のせいだというんですか!?」
激しくなる出雲の口調。それに対して、ヨウメイは黙って統天書をめくり出した。
那奈が慌ててそれを止めにゆく。
「も、もういいって。あれだけやれば宮内も・・・」
「いいえ、那奈さん。今の態度を見る限り、全然懲りてません。
もっと厳しいやつをやるしかありませんね。」
再びめくり出すヨウメイを見て、出雲はもう一度言った。
「だから、先生に怒られたのがなぜ私のせいになるんですか!
その理由をちゃんと言ってくださいよ!!」
するとヨウメイはめくる手を止め、“きっ”と出雲を見た。
「宮内さんがとっとと試練をクリアしないから私が授業に遅れたんですよ!!
授業にサボってまでしていたのに・・・。
大口叩いといてあのざまなんて、ふざけんじゃないですよ!!」
「うっ、いや、それは・・・。」
出雲自身、“あんな試練なんて出来る訳無い”と言いたかったのだが、
自分からヨウメイたちを挑発してしまう形となってしまったのだから、
当然そんな意見は通るはずも無かった。
そして那奈も、“これはしょうがないな”と思ってとりあえず止めるのをあきらめた。
沈黙の中、ヨウメイが統天書をめくる音だけが聞こえてくる。
「ところでヨウメイ。授業には出なくていいのか?」
何気無しに尋ねる那奈。無理だとは思いつつも、一応止めるきっかけを作ろうと思ったのである。
「以前私が終わらせてあった授業だったんです。それで私は一人で抜けてきたんです。」
「へえ、そうなんだ・・・。」
正確には、それがわかっていたから、ヨウメイは休み時間から帰らないで居たのだ。
もちろん抜かり無く、花織達には話し済みである。
「今度は何にしようかな・・・。」
なんだか怒り気味に統天書をめくっているヨウメイを見て、出雲は初めて震えた。
本当ならここから一刻も早く逃げ出したかったのだが、
そんなことをすれば更にひどい目に遭うことは目に見えている。
だから、じっとヨウメイを見ている那奈が止めてくれる事に望みをかけながら、
我慢して購買部の椅子に座っているわけである。

更に時間が経過する。そのとき、キリュウがひょっこり顔を出した。
授業が始まったから、太助へ与える試練を中止して、購買部へ様子を見に来たのである。
「なんだ、ヨウメイ殿も居たのか。何をしている?」
「ちょっと宮内さんへ与える試練を探して・・・。」
不機嫌ながらも答えるヨウメイに、キリュウは“?”という顔をする。
「またやるのか?あれは後日にすれば・・・。」
「いいえ、私が探しているのは違う試練・・・失礼、仕返しです。
これは私が個人的に行うものですから、キリュウさんは黙って見てて良いですよ。」
ぽかんとしてヨウメイを見るキリュウ。出雲はそおっとキリュウに近づいた。
そしてヨウメイに聞こえないくらいの声でささやく。
「すいません、キリュウさん。ヨウメイさんを止めていただけませんか?
このままだと、私は殺されかねませんよ。」
「一体ヨウメイ殿に何をしたのだ?かなり怒っているようだが・・・。」
「それが・・・。」
ヨウメイの言い分を説明する出雲。
すべてを聞き終わると、キリュウはふうとため息をついた。
「まったく、そなたも懲りぬな。自分の非を素直に認めぬからヨウメイ殿が怒ったりするのだ。」
「そんなこと言ったって・・・。」
「とにかく私に止める権利は無い。あきらめられよ。」
「そ、そんなぁ。」
小声で二人が言い争っている様子をちらりと見る那奈。
やはりヨウメイを止めることは無理のようだと思い、ヨウメイの肩をぽんと叩いた。
「なんですか?那奈さん。」
「仕返しは結構だけどさ、どうせなら太助に与えるはずだった試練をやってくんないかな。
それをあたしが判断したりするからさ。」
「済みませんが、それは出来ません。試練と仕返しは違いますから。」
そっけなく言うと、再び念入りに統天書をめくり出すヨウメイ。
那奈は出雲の方を見ると両手を横に曲げて肩をすくめた。
もうどうしようもないというような格好である。
それを見て気が遠くなった出雲。
しかし、何かひらめいたような顔になり、慌ててヨウメイに話しかけた。
「ヨウメイさん、あなたは主の太助君のために動くんですよね?」
「ええ、そうですよ。」
「だったら、こんなところで私に仕返しなんてしている暇があったら、
太助君にもっと為になるような事を考える方が良いんじゃないんですか?」
その言葉にぴたっと統天書をめくる手を止めるヨウメイ。
ばたんとそれを閉じたかと思うと、出雲の方を向いてにっこりした。
「それもそうですね、こんなところで油を売っていては主様のためになりませんし。」
「そう、そうですよ。いやあ、分かっていただけて良かった。」
ヨウメイはくるりと向きを変えて購買部から去って行く。
その姿を見て、キリュウも那奈も“へえ、上手く説得したなあ”と感心していた。
「さあてと、仕事に戻りますか。」
出雲がそう言って購買部のカウンターへ戻ろうとした途端、ヨウメイがくるっと反転した。
そして笑顔のままとたたっと戻ってくる。
那奈とキリュウは“おや?”とか思っていたが、出雲は内心どきりとした。
何をされるのかという恐怖感で、心拍数があがってゆくのがはっきりとわかった。
しかし、戻って来たヨウメイはにこっとしてこう言った。
「お礼をしなきゃと思ってこうして戻って来たんですよ。
いろいろとお世話になった宮内さんにね。」
その声にくたあっとなる出雲。しかしようやく安心したのか、笑顔でヨウメイに告げた。
「別に良いですよ、お礼なんて。その笑顔だけで十分です。」
“何言ってんだ”と頭を掻く那奈。
ヨウメイは笑顔を崩さずにそれに答えた。
「まあまあ、そう言わずに。地震雷火事竜巻。どれが良いですか?」
「へ?あの、それって仕返しじゃ・・・。」
「いやだなあ。お礼ですよ、お・れ・い。今は季節的に冬に近いから火事が良いですかね。」
体中から血の気が引く出雲。そして猛ダッシュでその場を逃げ去った。
「ああーっ!!逃げるなんてー!!この私のせっかくのお礼を受け取らずに!!!」
出雲が見えなくなると、ヨウメイは“はあ”とため息をついてうつむく。
那奈があきれたような顔をして近づいた。
「どこがお礼なんだよ。絶対に仕返しだったって。」
「違いますよ!!最も怖いといわれている四つの自然現象。
まあ、火事は人為的なものが多いですが。それを防ぐ対策を教えようと思ったのに。
なのに、逃げるなんてあんまりです・・・。」
再びうつむくヨウメイ。那奈はぽかんと口を開いてそれを聞いていた。
と、今度はキリュウがヨウメイのそばに寄った。
「ヨウメイ殿、少し言い方が悪かったのでは。
いくらなんでも省略しすぎだぞ。」
「そんなこと言ったって、主様のためになんて重要な事を思い出させてくれた宮内さんなら、
絶対に分かると思ってたのに・・・。例え分からなくてももう少し尋ねるとか・・・。
もう・・・せっかく・・・お礼しようと思ったのに・・・。」
ますます落ちこむヨウメイ。キリュウはもう一度声をかけた。
「あまり気にされるな。また今度お礼をすれば良いことではないか。」
「今度・・・ですか。でも、人の気持ちは変わりやすいもんです。
今度はお礼をしようなんて思いませんよ、きっと。」
「そうか、それではあきらめるとするか・・・。」
そしてとぼとぼと歩き出すキリュウとヨウメイ。
那奈はそこでやっと我に帰り、急いでヨウメイに呼びかけた。
「よ、ヨウメイ!ちょっと今のは無理がありすぎるんじゃ?
だいたいあれだけ宮内にやった後でいきなりお礼だなんて、普通分かるもんじゃないよ!」
するとヨウメイはゆっくりと振り返ってこう言った。
「女性に誰にでもやさしくをモットーとしているんだから、
あれぐらいは分かってもらわないと・・・。
・・・なんだか腹が立ってきました。やっぱり仕返しに行ってやる!!」
するとキリュウも、それに呼応したかのように言った。
「私も少し手伝うぞ。あれだけやって未だ懲りてないのには我慢できぬ。
一つ宮内殿の性根を叩きなおすとしよう。」
「さっすがキリュウさん。よろしくお願いしますよ。」
がっちりと握手する二人を見て、那奈が思ったことはこうである。
(いくらなんでもそれは理不尽じゃねーか?確かに宮内も悪いと思うけど、
あんたら二人も良くないところがいっぱいあるんじゃ・・・。)
しかし口に出していう事はしなかった。
反論すれば何をされるか分かったものではなかったから。
「那奈さん、何か言いたそうですが、言いたいことがあるんならどうぞ。」
ヨウメイが那奈の方をきりっとした顔で見る。
おもいっきり慌てた那奈だったが、恐る恐るさっき思ったことを口にしてみた。
すると、二人はそれを予想していたかのように答えた。
「もとはといえば、昨日宮内殿がいいかげんに私達を扱ったのが始まりだ。
相談に乗るといいながら全然やらない。だからこそ今日の試練を行ったのだ。
まあ、その試練も、宮内殿が調子に乗ったからだがな。」
「とりあえず試練を中止にした時点でその件は終わり、だったんですが、
私にはそれは予定外のことだったんです。本来ならもっと軽い試練で終わって、
私は授業を途中からでも受けられるはずだったんですから。
それで宮内さんへ仕返し、まあ個人的な恨みですから、理不尽なもののはずなんです。
だから幻っていう精神的なものにとどめたんです。それなのに宮内さんは、
“どうして私のせいになるんですか”なんて言って・・・。
ここで頭に来て更に仕返しをしようと思ったんです。」
はあ、と頷く那奈。確かに、話を聞けばこの二人に非があるって訳ではないようだ。
「しかし宮内殿がヨウメイ殿に主殿のことを思い出させて、
それでヨウメイ殿は急いで別の事をしようと思ったわけだ。」
「けれども、こんなに大事な事を言ってくれた人に、
お礼もしないで立ち去るなんて失礼じゃないですか。
だから私にできる精一杯の事をしようと思ったのに。あー!!やっぱり腹が立つ!!
キリュウさん、早く行きましょう!!」
「そうだな。では那奈殿、失礼する。」
急いで走って行こうとする二人。それでもやはり那奈は呼びとめた。
「あのさ、やっぱり理不尽だって。
仕返しだとか言ってた直後にお礼なんて言われて、誰が信じると思う?
もう少し落ちついて考えてみろよ。」
「那奈さん、それは間違ってますよ。第一宮内さんはこう言ったじゃないですか。
“あなたの笑顔だけで十分ですよ”なんてキザったらしいセリフを。
そこでこっちがお礼とか言って、どうして向こうが逃げるんですか。おかしいですよ。」
「ああ、そういやそうか。あれ?じゃあ何がいけなかったんだ?」
「要はヨウメイ殿の言いかただ。地震雷火事竜巻の対策とでも言えば良かったのだ。」
「・・・やっぱり理不尽だって。普通お礼に地震雷火事竜巻なんて言われて、
素直にその対策なんて思う奴は居ないって。」
「そうか、そうですよね・・・。」
長い長い口論の末、ようやくここで落ちついた。
結局ヨウメイの言い方が悪かったのだということになり、出雲への仕返しは止めにしたのである。
しかし出雲がそこで帰ってくるわけではない。
ということで、とりあえずここで適当にのんびりと待つという事になった。

「ふう、平和ですねえ。さっきまでの口論が嘘みたい。」
「原因はヨウメイだろうが。これからはもう少しちゃんと動いてくれよ。
太助もたまったもんじゃないだろうからさ。」
「分かってますよ。これからはもう少し考えて行動します。」
「まあこれも試練だ、耐えられよ、ヨウメイ殿。」
「あのね・・・。」
なんとなくのんきに言葉を交わす三人。
しばらくそうしていると、出雲が恐る恐る帰ってきた。
「宮内さん!」
一番最初にその姿を発見したヨウメイが、声を上げて立ち上がる。
すると出雲は距離を置いてぴたっと立ち止まった。
遠巻きながらも笑顔を振り撒き、手を上げて挨拶する。
「や、やあ、ヨウメイさん。それにキリュウさんと那奈さん。
三人で何をしてらっしゃるんです?」
すると那奈が立ち上がった。
「何って、あんたを待ってたんだよ、宮内。」
その言葉を聞いて、一歩下がる出雲。続いてキリュウが告げる。
「一応購買部の担当は宮内殿だろう?
だからそなたが帰ってこないと、私たちはここを離れられないのだ。」
「そ、そうなんですか。それはご親切に。」
顔は笑っているが、やはり一歩下がる出雲。ヨウメイは不思議そうに尋ねた。
「あの、宮内さん。怒ってらっしゃるんですか?
笑いながら、私達から遠ざかったりして・・・。」
「い、いえいえ、そんなことは有りませんよ。」
そして今度は五歩ほど近づいた。
「だったらこっちへ来いって。あたし達が別の場所へ出かけられないじゃないか。」
「そ、そうですね。」
今度は十歩近づく。しかしまだまだ購買部には程遠い。
「宮内殿、心配しなくとも私達はそなたに何もせぬ。
さっきの話し合いで、ヨウメイ殿は誤解を招いてしまったことを後悔したのだ。
だから早くこちらに来られよ。」
「そ、そうなんですか。それなら・・・。」
やっと購買部までやってきた出雲。ヨウメイがぺこりと頭を下げて言った。
「すいません、いろいろ迷惑かけて。さっきは言い方が悪かったですね。
地震雷火事竜巻の対策をお教えしようと思ったんです。」
「なんだ、そうだったんですか。こちらこそすいません、一目散に逃げたりして。
もっとちゃんと尋ねるべきでしたね。てっきり仕返しかと思ったもんですから。
だってあんなにひどい目に遭っちゃねえ。あははは・・・・。」
そこでヨウメイのこめかみがぴくっと動く、那奈は慌てて小声でなだめた。
「落ちつけって。こいつも慌てて言ってるだけだしさ。」
「わ、分かってますよ・・・。」
なんとか落ち着きを取り戻したヨウメイ。再び出雲を見上げて言った。
「それで、どれが良いですか?火事がお勧めだと思うんですが。」
「心配要りませんよ、私よりは別の人に教えてあげてください。」
「宮内殿、せっかくヨウメイ殿がこう言ってるのだ。教えてもらってはどうだ?」
キリュウの横からの言葉に、出雲はふぁさっと髪を掻き上げて言った。
「それもそうですね。ではヨウメイさん、教えて・・・ヨウメイさん?」
どうやら、出雲の“ふぁさっ”がヨウメイの気に触ったらしい。
那奈が必死になだめているが、そんな事はまるで聞こえている様子も無く、
厳しい顔つきで、勢いよく統天書をめくっている。
またもや血の気が全身から引いた出雲。慌てて逃げようとしたが、
「万象大乱!」
と、巨大化した消しゴムに道をふさがれてしまった。
「ちょっとお、キリュウさん。」
「そうやって逃げていたのでは一生ヨウメイ殿と仲良くなれぬぞ。
自分でちゃんと説得するのだ。」
「そ、そんな・・・。」
出雲がヨウメイの方を振り返る。やはり必死に統天書をめくっているヨウメイが見えた。
そして再びキリュウを見る。キリュウは無言のまま頷いた。
出雲は天に祈るようなしぐさをし、ヨウメイに素早く駆け寄った。
「よーし!来れ・・・」
「ヨウメイさん!!」
那奈をおしのけ、ヨウメイの手をがしっとつかんだ出雲。
もちろんヨウメイは驚いて出雲を見た。
「な、なんですか、宮内さん・・・。」
「すいません!私が悪かったのです。
ヨウメイさんのことも考えずに軽はずみな行動をしてしまい・・・。
二度と、そんな事はしないとここで神に誓います。
そしてヨウメイさん、那奈さん、キリュウさんにも誓います!
だからお願いします。ご立腹とは思いますが、この辺で怒るのをやめてください!!」
必死になっている出雲にぽかんとする那奈、ヨウメイ。
キリュウはうんうんと何か納得したように頷いていた。
そして沈黙の時が流れる。数十秒後、ヨウメイがけらけらと笑い出した。
「あ、あの、ヨウメイさん?」
「もう、そんなに必死になったって、人間て絶対軽はずみな事をしちゃったりするもんですよ。
でも、宮内さんの誠意はよくわかったつもりです。今度からは気をつけてくださいね。」
「は・・・はいっ!」
そしてヨウメイは統天書を閉じた。
「ふう、なんとか収まったみたいだな。宮内、ほんとにこれからは慎めよ。」
「わ、わかってますよ。」
「一つ試練を乗り越えたようだな、宮内殿。うむ、良い事だ。」
「試練て私と仲良くするってことですか?キリュウさん、それってあんまりですよ・・・。」
ヨウメイの言葉に、那奈が笑い出した。
出雲もそれとなく笑うが、別にヨウメイにとやかく言われることは無かった。
そして四人で一ヶ所に寄り、楽しくおしゃべりする。
しばらくしたところで、ヨウメイが歩き出した。
「さてと、それじゃあ私は自分のクラスに戻ります。皆さん、また放課後に。」
「ああ、またな。」
「私もお手伝いしますから。」
「太助をびしっと鍛えような!」
手を振って挨拶。ヨウメイが見えなくなったところで、キリュウが言った。
「ところで宮内殿、手伝いをしてくれるのなら一つ頼みがあるのだが。」
「なんですか?もう竜巻は勘弁してくださいよ。」
出雲が少しおびえながら言うと、キリュウは笑って答えた。
「良く分かっているな。さすがだ。」
「ええっ!?またやるんですか!?」
「おいおいキリュウ・・・。」
呆れ顔になる二人を、キリュウは“まあ聞いてくれ”となだめた。
「さっきほど強力なものではない。軽いもので、
宮内殿が手本というか、例のようなものを見せて欲しいのだ。」
「というと・・・。」
考え込む那奈が答える前に、出雲は分かったように言った。
「私が太助君に、“こうすれば試練終了ですよ”みたいなものを実際にやって見せるんですね?」
「そういう事だ。心配せずとも大事にはならぬ。
なんと言ってもヨウメイ殿が試練に加わるのだからな。」
キリュウのその言葉に、“ん?”となる那奈と出雲。
「それって逆なんじゃないのか?」
「そうですよ。ヨウメイさんが加わるからこそ、大事になってしまうのでは?」
キリュウは、“いいや”と首を横に振って答える。
「私と違って、どの程度ならば大怪我もせずに試練ができるか、ヨウメイ殿は細かく知っている。
実際昼休みの竜巻の試練。宮内殿は気絶だけで済んだだろう?」
「そういえば・・・。」
「確かに私は、どこも怪我してませんでしたよ。」
「そういう事だから大丈夫だ。一応あんな性格でも知教空天だからな。
逆にいうと、性格さえ良ければ問題無いのだが・・・。」
一転して顔を変えて考え込むキリュウ。
それを見て那奈と出雲は、“はあ、確かに”と頷かざるをえなかった。
三人があれやこれやと話し合っているうちに鳴り出すチャイム。
授業がすべて終わり、掃除の時間が始まったのだ。
その掃除時間も終わり、いよいよ放課後となる・・・。

≪第八話≫終わり


≪第九話≫
『強烈試練降臨!?』

そして放課後。気合ばっちりに鉢巻をした太助が、校庭で体をほぐしている。
そば・・・というよりは少し遠くの方で座って見ている、
シャオ、翔子、那奈、たかし、ルーアン、乎一郎。
キリュウはそれと反対側に、短天扇を構えて立っている。もちろん出雲も一緒だ。
「おーい、キリュウ。ヨウメイはどうしたんだ―?」
体を動かしながら尋ねる太助に、キリュウは校舎の方を向いて答えた。
「まだ花織殿達と何かやっているのだろう。心配せずとももうすぐ来る。」
キリュウが元の態勢に戻ったところで、出雲がぽんと肩を叩く。
「なんだ、宮内殿。」
「あのう、本当に大丈夫なんでしょうか。どうも私は心配で・・・。」
それを聞いて、キリュウは“はあ”とため息をついた。
「心配されるなと言っただろう。それにそなたはヨウメイ殿とも和解したのだ。
ヨウメイ殿に余計な感情が入らない限り、何も不安に成ることは無い。」
そこで出雲は首をかしげた。
「余計な感情?」
「そうだ。主殿に野次を飛ばそうものなら、即座にヨウメイ殿の天罰が来るはずだからな。
くれぐれもそう言うことはせぬように。」
「・・・分かりました。肝に銘じておきます。」
「うむ。」

一方、キリュウ達とは変えて、見物客達は・・・。
「ルーアン先生、僕達は何をすれば良いんですかね?」
「たー様の応援よ。ばっちりやってね。」
「それにしてもあの二人が同時にやる試練か。一体どんなだろうな・・・。」
たかしの言葉を聞いた那奈は、翔子にそっと耳打ちする。
「実はものすごいんだ。端から見ると死んじゃうんじゃ?って思うくらいに。」
「本当かよ、那奈ねぇ。こりゃシャオに言っとかないと・・・。」
そして翔子が顔を上げて、シャオの側へと寄った。
「シャオ、那奈ねぇの情報によると、試練は相当厳しいらしいぞ。」
「ええっ!?そうなんですか!?」
「そうだ。だから、試練が一段落ついたら、シャオは誰よりも早く七梨のもとに駆け付ける事。
そしてめいっぱい元気付けてやるんだ。分かったな?」
「はいっ、翔子さん。それじゃあ翔子さん、何か良い方法を教えてくださいませんか?
太助様がすぐに元気になれるような。」
「待ってました。それはな、ごにょごにょごにょ・・・。」
翔子の言葉を真剣に聞くシャオ。
一部始終を見ていた太助は、“また何か企んでるな”とか思いながらも、
準備運動をしっかり続けていた。

そうしている間に時間が経過。ようやく、ヨウメイ達四人が校舎から出てきた。
「遅いぞ、ヨウメイ殿。一体何をしておられた。」
「ごめんなさい。ちょっとお喋りに夢中に成っちゃって。
でも、いい試練思いついたんですよ。花織ちゃん達のおかげで。」
キリュウの方にヨウメイが行っている間に、
花織、熱美、ゆかりんの三人は、太助に挨拶しながら、見物席に腰を下ろす。
「七梨先輩、頑張ってくださいね!」
「今回の楊ちゃんは一味違いますよ!」
「試練、張り切って超えてくださいね!」
太助はそれに答えるように、笑顔で手を振った。
「ありがとう。俺頑張るから!!」
そしてキリュウ、ヨウメイ、出雲の方へと向き直る。
「さあ、みんなそろったことだし。始めてくれ!!」
勢いの良い声に笑顔のキリュウとヨウメイ。出雲も声援を送るような顔をしている。
かくして、太助への試練が開始されることとなった。

「ではまず、私から説明いたします。」
前に出たのはヨウメイ。彼女も気合が入っているようで、言葉に熱がこもっているようである。
「試練の内容は、大まかに言えば自然との一体化。
私が呼び出した自然現象をキリュウさんが大きく調節。そして私が細かく調節。
どうやったら試練終了かは、宮内さんがお手本を見せてくれます。
それではいきますよ。来れ・・・竜巻!」
ヨウメイの叫び声と共に、太助の背丈くらいの竜巻が現れた。
「では大きくするぞ、万象大乱!」
キリュウの声により、竜巻があっという間に3,4メートルくらいの大きさになる。
「さてと、微調整をして・・・と。じゃあ宮内さん,どうぞ。」
ヨウメイは出雲の方を振り向いたが、出雲は固まったままだ。
那奈はそれを見て、“昼休みを思い出してるんだろうな”とか思っていた。
「どうしたのだ,宮内殿。今日やったばかりではないか。」
「あの、キリュウさん。本気でやるんですか?」
冷や汗を流しながら聞いてくる出雲に、キリュウはぽかんとして言った。
「当たり前だ。そのために宮内殿に手伝ってもらうのだからな。」
「キリュウさんの言う通りですよ。さあ、早く。」
一緒になってせきたてるヨウメイ。しかし出雲は愕然として竜巻を見上げているだけだった。
あまりにも動きが無いので、太助は思わず尋ねてみた。
「なあ、ヨウメイ。一体何をすれば試練終了なんだ?」
「それをこれから宮内さんがやってくれるはずなんですけど・・・。
主様も昨日聞いたと思いますよ。竜巻に乗って空中散歩ですよ。」
「そうか・・・って、ええっ!!?無茶いうな、死んじゃうって。」
おののく太助に続いて、花織とルーアンが野次を飛ばす。
「そうだよ、楊ちゃん。七梨先輩の言う通りだよ。」
「まったくだわ!たー様を殺す気なの!?」
しかしヨウメイは、それを制するように言った。
「だから私が微調整して、主様が死んでしまわないようにするんです。
昼休みに宮内さんにもやってもらって、死なないって実験済みですよ。」
その声に皆がしんとなる。納得した・・・というわけではないようだ。
何人かは少し震えている。ヨウメイが首を傾げていると、キリュウが横からつついた。
「ヨウメイ殿、言い方が悪いぞ。」
「へっ?ああそうかそうか。失礼しました、証明済みです!
・・・これで良いんですね、キリュウさん。」
「そうだ。まったく・・・。」
小声で確かめ合う二人に呆れ顔になる太助。
たかしと乎一郎がひそひそと話をする。
「大丈夫か?あの二人・・・。」
「なんだか心配だね。」
「ほんと、いいコンビだわ。」
ルーアンがちょこっと付け足したところで、
ヨウメイが“おほん”と咳払いした。
「それじゃあ宮内さん。早くやっちゃってください。」
「あの、ヨウメイさん。一体どうすれば・・・。」
いまだためらっている出雲に、キリュウが不思議そうな顔をして言った。
「昼間やったではないか。上手く竜巻上に着地だ。もう忘れたのか?」
「い、いえ。私はそれをきちんとやってないもんですから・・・。」
ついには震え出した出雲。
ヨウメイは“はあ”とため息をついて統天書をめくり出した。
「!!ちょ、まってくださ・・・」
「来れ、上昇気流!!」
待ったをかける出雲を無視して、突然激しい風が吹いた。
出雲はその影響で舞い上がり、竜巻の上空へと向かう。
「ふえー、すごいなあ・・・。」
「主様、宮内さんをよーく見ててくださいよ。」
「隠していたが、昼間も同じ事をやったのだ。
良い手本を見せてくれるに違いないぞ。」
ヨウメイとキリュウの言葉に那奈は心の中で、
“宮内は成し遂げたわけじゃないだろ。手本なんて無理だよ”と突っ込みを入れた。
空へと飛ばされた出雲を見上げる見物客達。
「すっごーい、出雲さんて空を飛べたんですね。」
「違うってシャオ・・・。でもすごいよなあ、空中散歩なんて。
確かに那奈ねぇの言う通り、本格的だ。」
その那奈は無言のまま空を見つづけている。
「昨日言ってたことを実行するなんて、さっすが楊ちゃんね。」
「あれ?熱美ちゃん達は知らなかったの?」
「そうなんですよ、遠藤先輩。楊ちゃんたら全然話してくれないもんだから。」
「ゆかりんが無理に聞こうとするからいけないんじゃない。
そうそう、これとは違うけど、あたし達がいっしょになって考えた試練もちゃんと有りますから。」
「花織は乙女チックだからねえ。先輩、見たら驚きますよ。」
「へえ、そうなんだ・・・。」
横で聞いていたルーアンが、チラッと振り返って言う。
「くだらないものじゃないでしょうね。」
「ひっどーい。例えばルーアン先生が考えるような、
お弁当百個早食いとかいう試練じゃないですよ〜だ。」
「な、なんですって―!?もう一度言ってみろ―!!」
「まあまあ落ち着いて、ルーアン先生。
ほら、もうすぐ出雲の奴が竜巻に到着しますよ。」
たかしのなだめの声に、言い争っていた面々は、素早く上の方を見た。
“何やってんだ”と思いつつ見物客を見ていた太助も。
叫び声をあげながら落ちてくる出雲。昼休みと違って、見事竜巻の上に着地!
・・・は出来なかった。風の渦に巻き込まれ、
声にならぬ声を上げながら無情にも廻されつづけている。
「失敗しましたね。おっかしいなあ、昼間あれだけやったのに。」
「たまたま調子が悪かったのだろう。もう一度やってもらおうではないか。」
二人は落ち着いて喋っていた。
「・・・失敗するとああなるのか。悲惨だな・・・。」
ぼそっとつぶやいた翔子に、皆が深刻な顔で振り返る。
太助は太助で、驚愕の表情のまま固まっていた。