小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!)


同じころ、花織のクラスでは・・・、
「・・・という事で、今日から新しく編入するかたちとなりました、ヨウメイさんです。
皆さんもう知ってますよね。仲良くしてあげてください。それではヨウメイさん。」
と、ヨウメイの紹介が行われていた。
先生に言われて、教壇の前のほうへ出るヨウメイ。
「はい、どうもありがとうございました先生。
えー、これから皆さんと一緒に勉強するヨウメイです。
最初に言っときますけど、あたしの能力を使って楽をしようなんてことは考えないように。
この前やったのは、今後一切皆さんには使用しないことにします。
まあ、そんなことは置いといて、楽しくやりましょう。ね?」
ヨウメイの笑顔に、皆が苦笑いをしながら、そして明るい声とともに応える。
そんなみんなに、ますますにっこりするヨウメイであった。
「良かった、第一印象はいいみたいね。」
「花織、もうみんな会ってるでしょ。それより万知なんたらってのはもう使わないんだ。
もったいないなあ。あれを使うとつまんない授業も一瞬で終わっちゃうのに。」
「ゆかりん・・・。まあいいじゃないの。楊ちゃんは楽しくやろうって言ってるんだし。
普通の授業だってつまらなくなくなるよ、きっと。」
「そう、そうだよね。楊ちゃんと一緒だと楽しいに決まってるよね!」
「そういうこと。まずは楽しく。・・・楊ちゃーん!いい挨拶だったよー!!」
大声で叫ぶ花織に、手を軽く振って応えるヨウメイ。
その花織の影響もあったのだろうか。
ヨウメイはこのクラスに自然になじめるようになった。
ヨウメイが自分の席に座り、先生が教壇に立つ。
「では、授業を始めます。教科書の・・・」
「せんせーい!その教科書はヨウメイちゃんによって、すでに終わってます!」
生徒の一人が手を挙げて言った。他の生徒達は、それに合わせたかのように頷く。
「そ、そうですか。では・・・自習です。」
「おおー、自習だって!これもヨウメイちゃんのおかげだぜー!!」
「さっすがヨウメイちゃん!!」
すごすごと教壇を下りる先生をよそに、クラスの皆が騒ぎ出す。
普通の先生はルーアンのようになんでも教えているわけではないので、
一つの教科がすべて終わっているとなると、する事が無くなってしまうわけである。
ヨウメイは自習となる授業にふうとため息をつきながらも、
やがて納得したように皆と話をしだした。

再び場所を戻して太助のクラス。ここでは自習など無い。
が、いつものペースでルーアンの授業が行われていた。つまり・・・、
「はーい野村君、ここ読んでぇ。」
「えーと、七梨太助の政治によって、多くの人々は救われることになる。
民衆は彼を、やがて世界を救う人だと思い始め・・・」
という調子の、太助がなんたらかんたらという授業である。
後ろの方に座っている翔子が、キリュウに小声で話し掛ける。
「ルーアン先生も飽きないよな。毎回こんな調子の授業なんだから。」
「・・・翔子殿、私は前言撤回をしようと思う。
こんな授業ではヨウメイ殿が説得しても無理なのでは。」
「なんだ、弱気な奴だなあ。でもさ、
ヨウメイがルーアン先生の授業を見てるときは、真剣そのものだったんだぜ。
なんか感心してたように頷いてたしさ。」
昨日の事を翔子は言っているのだ。よく見ているところはさすがである。
「そうなのか?ではすごい授業なのだろうな。私にはさっぱり分からぬが・・・。」
「はは、やっぱりヨウメイを信じてるって感じだな。ちなみにあたしは・・・」
「陽天心召来!」
翔子の言葉の途中で、ルーアンの声が響いた。
それと同時に、黒板消し二つが後ろのほうへ飛んで行く。
「「ぶっ!!」」
その二つは翔子とキリュウの顔面に命中したようだ。その衝撃で倒れる二人。
黒天筒を回す手を止め、ルーアンが冷ややかに言う。
「あんたたち、あたしの華麗なる授業中に私語をするなんてとんでもないわねえ。
二人とも、廊下に立ってらっしゃい!陽天心召来!!」
ルーアンが再び黒天筒を回す。すると、命を吹き込まれた椅子と机が、
倒れていた二人を廊下へと無理やり運び出した。
「さてと、皆さんも私語は慎むように!じゃあ野村君、続きを。」
「は、はい。やがて、世界の半分を治めるようになった七梨太助は・・・。」
そして授業が再開されたころ、翔子とキリュウは、情けない姿で廊下に立たされていた。
空中に浮かんだ陽天心椅子に両手を持ち上げられているような格好である。
「たくう、ちょっとくらいいいじゃんか。こんなところ誰かに見られたら・・・。」
「まったくだ。ルーアン殿も度が過ぎ・・・あれは!」
言いかけてキリュウが廊下のある方向を指差す。
向こうから歩いてくるのは、ヨウメイ達四人であった。
四人で何やら楽しそうにおしゃべりしている。
幸い、この二人には気付いていない。
「頼む、あの曲がり角で曲がってくれ・・・!!」
「こんなところを見られては何を言われるか分かったものではない!!」
必死に祈る二人。
そんな思いが通じたのか、四人は二人とは違う方向へと向きを変えた。
そこでほっと胸をなでおろす翔子とキリュウ。
・・・と思ったら、ヨウメイが二人を見つけたようだ。
少し笑ってこちらへ駆け出してくる。
そのヨウメイにつられて、他の三人もやってきた。
「あちゃー、見つかった。」
翔子が気まずい顔になってうつむく。キリュウも一緒にうつむいた。
「お二人さん何をしてらっしゃるんですか?何かの授業ですか?」
子供っぽい笑顔を浮かべて尋ねるヨウメイ。
翔子は、(そんなわけ無いだろ)と心の中で思いながら黙っていた。
「わかったー!ルーアン先生に怒られて立たされてるんですね!
二人とも何やったんですか?」
花織の曇りの一切無い明るい声に、キリュウはゆっくりと顔を上げた。
「大した事ではない。少し話をしていただけだ。」
「話ですか?一体なんの話を?」
尋ねる熱美に、今度は翔子が顔を上げた。
「なんでもない雑談だよ。それで私語は慎めとか言って追い出されたんだ。」
そこで四人は顔を見合わせると、くすくすと笑い出した。
その様子に、やれやれとため息をつきながら再びうつむくキリュウと翔子。
何分かそうしていると、ヨウメイがにこりとして二人に言った。
「授業中に私語なんて怒られて当たり前ですよ。
しかもあのルーアンさんの授業で。ほんと学習能力が無いんですね。」
その言葉にきっと顔を上げる二人。まず翔子が怒鳴る。
「なんだよその言いぐさは!
大体あんな授業で私語無しに受けろってのは無理があるぞ!」
しかしヨウメイは、
「あんな授業だからこそ私語無しに受けるべきなんですよ。
他じゃあ絶対に受けられませんよ。」
と、さらっと返した。さもそれが当然の事のように。
次に怒鳴ったのはキリュウである。
「学習能力とはどういう意味だ!
大体そう言うことを学習する時間など無かったぞ!」
するとヨウメイは、
「昨日の授業で・・・ああ、キリュウさんは居ないんでしたね。
それじゃあしょうがないですか。
まあ、寝坊したのがいけないんだし、自業自得ですよ。」
と、あっさり返した。その言葉にキリュウは黙り込む。
「ねえ楊ちゃん。いつまでもここに居てもしょうがないし、
別のところ行きましょう。」
なんとなく耐えきれなくなったゆかりんが、立ち去る案を申し出た。
それには三人とも頷き、挨拶も無しにそこから離れて行く。
とその前に、翔子が大声で呼びとめた。
「ちょっと待てよおまえら。今は授業中だろ?
なんでこんなところに居るんだよ。」
四人がぴたっと足を止める。そして花織がくるっと後ろを向いて答えた。
「楊ちゃんのおかげですよ。以前楊ちゃんが授業した科目と同じだったもんで、
自習になったんです。でも、教室に居るだけじゃつまんなくて、
こうして抜け出して来たって訳です。」
呆れ顔になる二人。
キリュウはため息を一つついたかと思うと、ヨウメイに向かって言った。
「ヨウメイ殿、昼休みの件は忘れておらぬだろうな。」
「なんですか、やぶから棒に。大丈夫ですよ、ちゃんと覚えてますから。
それじゃあお二人とも、それも試練か何かだと思って頑張ってくださいね。」
ヨウメイの言葉を最後に、四人はそこを去っていった。
姿が見えなくなったところで、翔子が尋ねる。
「なあキリュウ、昼休みの件ってなんだ?」
「それは言えぬ。ヨウメイ殿との秘密だからな。
それよりこうやって立たされるのも試練か。ならば耐えねばな・・・。」
頑張る表情を見せるキリュウに、翔子はすっかりやる気をなくすのであった。
それでも立ちつづけることに変わりは無い。
そうしたままチャイムが鳴り、休み時間となった。

教室内。ぐったりとしたように席に座っている翔子。
ちなみにキリュウも、他の生徒達に席を空けてもらって座っている。
「なんだ、試練はしないのか、キリュウ?」
「・・・また次の休み時間にでも。」
そう答えると、机に突っ伏してしまう。
さすがに太助は引き下がるしかなかった。
「まったく、ルーアン先生が廊下に立たせるから。
せっかく太助がやる気に成ってるのに、そういう事をしちゃいけませんよ。」
「私語をした二人が悪いのよ。あたしの授業中に・・・。」
「そうですよね。たかしくん、ルーアン先生は正しいことをしたんだから。
山野辺さんやキリュウさんに文句を言うべきだよ。」
やいのやいのと騒ぐ三人。それを横目に、太助はシャオの傍へ行った。
「なあシャオ、姉貴になんて言われたんだ?」
「太助様を元気付けろっていわれたんです。試練に疲れた太助様を・・・。」
やっぱりか、と頭をかきながら考え込む太助。
それでも、シャオに元気付けられるのなら試練も頑張れる。
そう思い、シャオの方を改めて向いて言った。
「ありがとう、シャオ。でも、俺はなるべくシャオに頼らないように頑張るから。
そんなに神経質に成らなくていいから。シャオはいつも通りで居てくれよ、な?」
「・・・はい。あの、太助様。」
「うん?」
「ヨウメイさんが行う試練てどんなものなんでしょうね?」
「さあ。いろいろするんじゃない?
たとえば洪水に押し流されて・・・って待てよ!!」
シャオに言われてあれこれと考え出した太助だったが、途中で突然叫んだ。
「まさか・・・死んじゃったりしないよな?」
「そんな!!太助様・・・。」
「だ、大丈夫だよな、ははは・・・。」
シャオの不安を解消するかのように笑ってごまかす太助。
しかし、その胸中は決して穏やかではなかった。
昨日を思い出す限り、ヨウメイは死人を生き返らせる事ができるらしい。
くわえて、出雲に行おうとしていた試練。
それは普通の人間なら死んでもおかしくないようなものもあった。
となると、とんでもない試練が待ちうけているのは目に見えている。
「やっぱり不安だ―!!」
「何が不安なんですか?主様。」
「へ?よ、ヨウメイ!!」
「まあ、ヨウメイさん。いらっしゃい。」
「こんにちは、シャオリンさん。ちょっと予定を変えてやってきました。」
太助が考え事をしている間に、教室へとやってきたヨウメイ。
いつも通りのニコニコ顔を浮かべている。
そんなヨウメイに、恐る恐る太助は訊いてみた。
「あ、あの、ヨウメイ。予定って・・・?」
「本来なら、放課後に試練を開始する予定でした。
実は、授業中に教室を抜け出して、
キリュウさんが廊下に立たされている姿を発見したんです。
別れ際に“試練ですよ”なんて私が言っちゃったもんだから、
キリュウさん頑張りすぎちゃってへばってるんじゃないかと思って。
だからこうして、キリュウさんの代わりに試練を与えに来たって訳です。」
「は、はあ、そうなんだ。」
ヨウメイのその説明を聞いたのか、ルーアンが遠くから呼ぶ。
「ねえヨウメイ。他にも何か言ったんじゃないの?
大体廊下に立ってるだけであんなに疲れるわけ無いでしょ。」
そして机に突っ伏している翔子とキリュウを指差した。
そんな二人を見て、ヨウメイは首を横に振る。
「いいえ、特に何も。たんに体力不足なだけじゃないんですか?
きょうびの若者はだらしないそうですし。
キリュウさんの場合は、無駄な力を入れすぎたんでしょうね。」
ルーアンに聞こえるように答えるのだから、
当然翔子やキリュウにもそれは聞こえた。
しかし、いちいち体を起こして反応する気力も無いようで、
相変わらず二人とも机に突っ伏していた。
「さてと、寝ているふざけた人はほっといて、試練を始めましょうか、主様。」
「ちょ、ちょっと待て、ヨウメイ。」
いきなり統天書をめくり出すヨウメイに、太助が手を上げてストップをかける。
ヨウメイは不思議そうな顔で太助を見上げた。
「どうしたんですか、主様。
まさかキリュウさんに影響されて、主様までやる気を無くしたんじゃ・・・。」
“口悪いなあ”と思いつつも、
太助は先ほどの不安を頭に浮かべながら口を開いた。
「なあヨウメイ。ヨウメイの行う試練で、俺は死んじゃったりしないよな?」
その言葉に、しばらくぽかんとするヨウメイ。
あまりにもその反応が意外だったのか、
太助もシャオもヨウメイの顔を覗きこむ。
しばらくそうした後、ヨウメイが笑い出した。
「あははは、なんなんですかそれ。
いやですねえ、主様の命を奪ったりするわけ無いじゃないですか。
ちゃんと緻密に計算して・・・ってまあそんなことはどうでもいいですね。
一体どこからそんなくだらない不安が?」
「くだらないってなんだよ。
昨日の宮内出雲へやろうとしてた試練は、明らかに死んじゃうじゃないか。
だから不安になったんだよ。」
「それにヨウメイさん、
キリュウさんが凍りついたときに蘇生の術を使ったじゃないですか。
だから太助様がもし死んじゃっても、生き返らせれば良いっていう考えが・・・。」
言葉を返す二人に、統天書を閉じて、ふむ、と考え込むヨウメイ。
そのとき、休み時間を告げるチャイムが鳴り響いた。
「あらら、もう休み時間終わっちゃった。次はもう少し早く・・・そうだ、ヨウメイ。
あんたせっかく居るんだから授業していってよ。」
ルーアンが再び後ろを向いて言う。
それに対して、あきれたようにヨウメイは答えた。
「何言ってんですか。このクラスはルーアンさんの担当でしょう?
それに私はもう自分のクラスへ帰らないと。」
「けちねえ。そんなこといわずにちょっとくらい・・・」
「ルーアン先生!」
おねだりするルーアンをさえぎって、乎一郎が強く言った。
「僕はルーアン先生の授業が聞きたいんです!
だからルーアン先生が授業してください!」
ルーアンは最初はびくっとなってみていたのだが、
やがてため息をついて立ちあがった。
「まあ、生徒から慕われるのもあたしの人望が高いってやつかしら。
というわけでヨウメイ、もう帰っていいわよ。」
そこでなんとなく不思議そうな顔をしたヨウメイだったが、
にこりとしてこう言った。
「それでは主様、シャオリンさん、ごきげんよう。
キリュウさんがへばっているようなら、次も来ますからね。」
「あ、ああ。」
そしてヨウメイは笑顔のまま教室を出ていく。
それを見送って、太助達は席に着いた。

しかし、翔子とキリュウは相変わらず机に突っ伏していた。
「ちょっと、そこの二人をちゃんと起こしてよ。
授業をちゃんと聞く気が無い奴に居て欲しくないわ。」
ルーアンが後ろの方に向かって怒鳴る。
しばらく経ってもその二人に反応が無かったので、
近くに居た女生徒達が二人を揺さぶりに行った。
「山野辺さん、授業始まるよ。」
「わ、わかった。また陽天心で立たされちゃたまんないからな・・・。」
そう言って、翔子はあっさりと起きあがった。
「キリュウさん、あたしが席に座れないんだけど。」
「そ、そうか。だがすまぬな、これも試練だと思って・・・」
キリュウがそう言った瞬間、開いていた窓から大きな石がすっ飛んできた。
偶然なのか、それがキリュウを直撃し、キリュウ自身を吹っ飛ばす。
「うわあっ!」
と叫んだかと思うと、キリュウは教室の端で気絶してしまった。
一瞬何が起こったのか分からずに戸惑う生徒たち。
やがて太助ががたっと立ちあがって言った。
「ルーアン!いくらなんでもやりすぎだぞ!」
「たー様、今のあたしじゃないわよ!誰か他の人が・・・」
「何言ってんだ!ルーアン以外に誰ができるって言うんだよ!」
「そんな・・・。だってほんとにあたしじゃないのに・・・。」
太助の声をきっかけに、ルーアンをじろりとにらむ生徒たち。
その迫力に圧倒されたのか、ルーアンの目が涙目になってきた。
と、その時、
「すいませーん。さっきの飛び石は私なんです。」
という声が教室中に響いた。声がした方向、窓の方を一斉に見る生徒たち。
そこに居たのは、空中に浮かんだじゅうたんのようなもの乗っかっている、
花織、熱美、ゆかりん、そしてヨウメイであった。
先ほどの声の主はヨウメイのようだ。
「ヨウメイ!あんた達、授業はどうしたのよ!」
一番に窓のそばによって、ルーアンが身を乗り出して尋ねる。
「実はこの時間もまた楊ちゃんが教え終わっちゃってたもんで、
こうして四人で抜け出してきたわけなんです。」
「楊ちゃんてやっぱり空を飛ぶものを持ってたんですね。すごいよ、楊ちゃん。」
「それで、楊ちゃんが言うには、
キリュウさんのことが気になってこうして来たんだそうです。」
ルーアンの問いに、花織、熱美、ゆかりんが順番に答えた。
そして最後に、ヨウメイが笑いながら言う。
「キリュウさんがあのまま他の人の席を占領しようものなら、
私が懲らしめてあげようと思って。案の定その通りになっちゃいましたね。
まったく、キリュウさんにもあきれたもんです。」
そしてヨウメイはじゅうたんからぴょんと窓に飛び移り、
キリュウの傍へと寄った。
しばらくキリュウの様子を見ていたかと思うと、
ぱらぱらと統天書をめくり出す。
「さてと・・・。かのものを幽閉せし力、封印する力、今ここに集わん・・・。
・・・万象封鎖!」
ヨウメイがそう叫んだかと思うと、統天書がぱあっと光り始めた。
それと同時に、キリュウの体が浮き上がり、
なんと統天書に吸い込まれて行く。
すべての生徒達は、驚きの表情で見つめていた。
やがてキリュウの姿が見えなくなると、
ヨウメイはパタンと統天書を閉じる。
「ふう、やっぱり精霊は疲れるな。しょうがないけど。
みなさん、キリュウさんは保健室にでも寝かせてきますね。
それじゃあ、お騒がせしました。」
そして窓の方へと駆け寄り、再びじゅうたんに乗ろうとする。
教室から出て行く前に、太助が呼びとめた。
「ヨウメイ!今のはいったいなんだ?」
「ルーアンさんが説明してくれますよ。
キリュウさんが居なくても、試練はしっかりやりますからね。」
それだけ言うと、ヨウメイは窓からジャンプしてじゅうたんに飛び乗った。
「それでは皆さん、また次の休み時間にお会いしましょう。」
「七梨先輩、それじゃあ。」
挨拶交じりにヨウメイ達は手を振り、そして別の場所へと飛んでいった。
生徒達はそれを見送った後、しばらく呆然としている。
ルーアンだけは違ったようで、つかつかと教壇に上がり、
手をたたいて皆に呼びかけた。
「はいはい、それじゃ授業始めるわよ。みんな教科書を・・・」
「ルーアン先生!さっきのヨウメイちゃんの能力について教えてください!」
真っ先に手を上げたのはたかしだ。
それに続いて、教室のあちらこちらから同じ希望の声が出てくる。
ルーアンは再び手をたたいて皆を静め、観念したように話し始めた。
「あれは万象封鎖といって、生き物達を本の中に閉じ込める技なの。」
「閉じ込める!?キリュウはどうなるんだよ!」
疲れも吹っ飛んだのか、翔子が立ちあがって叫んだ。
慌てて、周りの生徒達が翔子をなだめる。ルーアンは続けた。
「大丈夫よ、ちゃんと取り出せることができるんだから。
つまり、別の部屋へと隔離するって訳ね。」
「それで、それってどんな意味があるんですか?」
今度は太助が質問した。ルーアンは一呼吸置いて、それに答えた。
「安全な部屋に入れるって事かしらね。
そうすれば、外界の一切の危険なものから身を守れるの。
つまりヨウメイは、そうやって主を守っても来たのよ。
はい、もう後は自習にするわ。適当に過ごして頂戴。」
ルーアンが教壇を退く。そこでざわつく生徒達。
太助の傍にやってきたルーアンに、シャオが不安げな顔で尋ねた。
「あの、ルーアンさん。もしかして・・・。」
「シャオリン、残念だけどそういう事よ。
身体的にはあんたよりも主様を守る能力を持っている、って訳。
まったく、誰があんな子の存在を認めたのかしらねえ・・・。」
更に教室中が騒がしくなった。
無理も無い。守護月天よりも強力な守護者など矛盾もいいところだ。
太助は立ちあがって、慌ててシャオに向かって言った。
「シャオ、気にするなって。俺は身体的には全然平和なんだ。
シャオは言ったじゃないか。俺を孤独やさびしさから守るって。
だから、その・・・。」
太助の懸命な姿に、シャオは太助の手を取って答えた。
「ありがとうございます、太助様。
こんな私ですけど、改めてよろしくお願いします。」
「シャオ・・・。こちらこそ。」
いつの間に傍にやってきたのか、二人のけなげな姿にうんうんと頷く翔子。
たかしは太助に先を越されてしまって、悔しそうにしていた。
ルーアンはといえば、何やら複雑な表情をしている。
乎一郎は何やら考え事をしているみたいで、時々頭を横に降ったりしている。
そのうちに考えがまとまったのだろうか。
ルーアンの手に手を重ねて(普段では考えられない行動だが)、
ルーアンに言った。
「ルーアン先生。まさかルーアン先生以上の能力を、
ヨウメイちゃんは持ってませんよね?」
「遠藤君・・・。もし、そうだ、といったらどうするの?」
「そんな!!・・・もしそうでも、僕は・・・。」
真剣な顔で震えている乎一郎に、ルーアンはふっと笑って言った。
「嘘よ。いくらヨウメイでも、幸せを授けるなんて芸当は持ってないわ。」
「そ、そうですよね。あー、良かった。」
安心して自分の行動に気付いたのか、
乎一郎は赤くなって慌てて手をどける。
「キリュウに関してもね。
試練に関してはキリュウより大した事ないはずよ。」
「でもルーアン先生。昨日出雲にやろうとしてたことって・・・。」
たかしの声に、ルーアンは笑って答えた。
「天罰だって言ってたでしょ。そういうことよ。
たー様もしっかり構えててよね。」
「は?天罰だとあんなにとんでもなくなるって事なのか?」
「そういう事。そんでもってシャオリン。」
「は、はい。」
ルーアンはシャオの方に向き直ったかと思うと、にこりとして言った。
「あんたもぽけぽけねえ。キリュウを本に封じた芸当、
あんたの星神でもできるでしょ。」
「ええ?そうなんですか?」
シャオにはまだ分かっていないようだ。そこで翔子がぽんと手を打つ。
「そうか、瓠瓜だ!良く考えたら瓠瓜に飲んでもらえば同じじゃないか!!」
「ご名答、さすがじょーちゃんね。
そういう事だからシャオリン、あんまり気落ちせずにしゃきっとしなさいよ。」
今度は少し厳しい目の顔で言うルーアン。
慌ててシャオは姿勢を正して答えた。
「はいっ、ルーアンさん!これからもきちっと太助様を守ります!」
「よろしい。はあ―あ、疲れた。自習にして良かったわあ・・・。」
年寄りっぽく肩を動かすルーアン。そんなルーアンを見た乎一郎は、
「あ、あのルーアン先生。肩を揉みましょうか?」
と、赤くなりながらも申し出た。ルーアンはあっさりとそれを受け入れ、
「あらそう?じゃあお願いするわね。」
と、くるりと乎一郎に対して背を向けた。さっそく肩揉みを始める乎一郎。
ルーアンが喋っている間、太助はそれを黙って聞いていた。
しかし、しばらくして笑顔になり、
「ルーアン、おまえってやっぱり教師が務まるんだな。
これからも頑張ってくれよ。」
と言った。それを聞いたルーアンは、
乎一郎の肩揉みも投げ出して、太助に抱きついた。
「あーん、誉めてくれてありがとう、たー様。
やっぱりルーアンて偉いわよねえ。」
「こ、こら。ひっつくなって。」
もがき苦しむ太助。皆はいつものその光景に大笑いする。
「でもルーアン先生、
それだったらどうしてあんなに深刻そうに言ったんですか?
シャオちゃんより守る力を持っているとか・・・。」
たかしが質問した。
すると、ルーアンは抱きつくのをやめてくるりと向いて言った。
「ちょっと冗談のつもりだったんだけど、ね。あはははは。」
その言葉にぽかんとする太助達。
そんな様子はお構い無しに、ルーアンは立ち上がって手をたたいた。
「はいはい、自習はもう終わりよ。さあ、授業の続きを始めるから!
こうして、再びルーアンの授業なるものが開始されるのであった。

所変わって保健室。統天書より出されたキリュウがベッドに寝かされていた。
保健室の先生は、何やら驚きの表情で立ち尽くしていた。
「それじゃあ先生、キリュウさんをよろしくお願いしますね。」
花織に言われて、慌てて振り向く保健室の先生。
「え、ええ・・・。大丈夫なの?頭に強い衝撃があったみたいで・・・。
病院へつれて行った方が良いんじゃないかしら・・・。」
「平気平気。キリュウさんの生命力をなめちゃあいけません。
というわけでよろしくお願いします。昼休みには迎えに来ますから。」
楊明が付け加えて、四人は礼をして保健室を出て行った。
「さあてと、教室に戻ろうよ。いくらなんでもずっと抜け出したままってのは良くないから。」
「そうね。先生に怒られたくないし。」
熱美の提案に楊明が賛成する。しかし花織とゆかりんの二人は、
「ええ〜、もうちょっと遊ぼうよ。」
「そうそう。普通じゃできないことだもの。」
といって、反対した。すると楊明は、
「でも私は帰るよ。遊ぶんならお二人でどうぞ。」
と言った。花織とゆかりんはそれに黙り込む。
「花織もゆかりんも、楊ちゃんがそう言うんならしょうがないでしょ。
もう帰ろうよ、ね?」
しかし二人とも首を縦には振らなかった。
それどころか、花織は何やらごにょごにょとゆかりんに耳打ちし出した。
「花織ちゃん・・・?」
ヨウメイが尋ねると同時に、二人はにっこり笑って振り向いた。
「よ〜うちゃん。一つお願いがあるんだけど。」
「なにかしら?」
ヨウメイが不安げに答えると同時に、ゆかりんが擦り寄ってきた。
「さっきのじゅうたんみたいな奴になった物。あれを貸して欲しいんだけど・・・。」
何やら揉み手するゆかりんに、あきれたようにつぶやくヨウメイ。
「あのねえ、ゆかりん。それで二人でどこかへ行こうって事なの?
まったくもう・・・。」
熱美もため息混じりに、ヨウメイと一緒になって言う。
「大体あれは楊ちゃんにしか扱えないと思うよ。だからもうあきらめて・・・」
このとき、ヨウメイにかなりの隙ができていたのだろう。
そのチャンスを逃さず、花織はヨウメイの持つ統天書を奪い去った。
「ああっ!!ちょっと花織ちゃん、返してよ―!!」
「お願い〜。親友にこんな事はしたくないんだけど、あの道具貸して、ね?」
言わずとも交換条件だという事は明らかのようである。
ヨウメイは仕方なく、じゅうたんのもととなる水晶球を取り出した。
それをじゅうたんの形へと変える。
「はい、これでいいでしょ。さあ、統天書を返してよ、花織ちゃん。」
「ちょっと、楊ちゃん・・・。」
ヨウメイを止めようとする熱美だったが、ヨウメイに制された。
「さんきゅう、楊ちゃん。次の授業までには戻ってくるから。」
「それじゃあ、これ返すね。ほんとありがとう。」
二人がじゅうたんに乗ったかと思うと、花織は統天書をヨウメイに手渡した。
「それじゃあ気をつけてね。」
「うん、また後でね〜!」
ヨウメイの言葉に、悠々と手を振ってそこを去って行く花織とゆかりん。
二人が少し遠ざかったところで、ヨウメイはすばやく統天書をめくり出した。
「よ、楊ちゃん?」
「これくらいしないと、花織ちゃんに気づかれちゃうからね。
えーっと・・・、来れ、強風!」
突然学校内に突風が吹き荒れる。
しかしそのころには、花織とゆかりんは校舎の外へと飛び出していた。
「あ、あれー!?いつの間にあんなところへ・・・。」
窓から身を乗り出すヨウメイに、熱美はため息をついて答えた。
「楊ちゃん、花織の遊び能力をまだまだ甘く見てたんだよ。
あれだけの短時間のうちに、花織はじゅうたんの素早い運転方法を身につけたんだよ、きっと。」
熱美のその言葉に呆然とするヨウメイ。
二人は、すごすごと教室へ帰るしかなかった。

ところで、先程の突風がどこへ被害を及ぼしたかと言うと、
「まったく・・・。ヨウメイさんの仕業でしょうね。どうして私がこんな目に・・・。」
購買部では、突然の風に散らばった品物を、出雲が懸命に拾い集めていた。
なぜかは分からないが、那奈もそれを手伝っている。
数十分後、ようやく商品は元の位置に戻ったようだ。
「いやあ那奈さん、ありがとうございます。おかげで助かりましたよ。」
「なあに。その代わりにあたしの好きなもの十個くらいは余裕でくれるよな?」
「え?」
いきなりの那奈のおねだりに固まる出雲。しかしいやとは言えない。
女性にやさしくをモットーとしている出雲をわざわざ手伝ってくれたのだから。
「分かりました・・・。それではどうぞ・・・ってそれはだめですって!!」
「え?なんでさ。」
那奈がもらおうとしたのは、まだ箱詰めになっている新品同様の文具セット。
当然それだけで十個という数は軽く超えている。
「なんでもなにもありませんよ!十個という約束でしょう!?」
「そ。だから箱を十個。」
またもや固まる出雲。いくらなんでもそれだけ持って行かれたのでは、赤字もいいところだ。
慌てて那奈を止める出雲。しかし那奈はそれを振り払った。
「なんだよ。なんか文句でも?」
「だって、それはあんまりですよ。箱を十個なんて・・・。」
うつむきながらも文句を言う出雲に、那奈はこう言った。
「ふうん、さっきのは嘘だったわけなんだ。
やっぱりヨウメイの言う通り、軟派師はうそつきなんだな。」
「別に嘘をついたわけじゃ・・・。」
「・・・わかった。パンを十個もらうよ。それでいいから。」
その声にぱあっと顔を輝かせる出雲。
「ほんとですか?よかった・・・。」
そしてうれしそうに袋にパンを詰め始めた。
十個のパンが入った袋を那奈に手渡したところで、那奈が一言。
「その代わり、昼休みに天罰を与えに来るから。逃げるなよ。」
そして那奈は去って行った。出雲は三度目固まっている。
昨日の悪夢がよみがえったのだろうか。
出雲ははたと我に帰ると、いそいそと帰り支度を始めた。とその時、
「宮内さん、こんにちは。もうお帰りなんですか?」
と、出雲は声をかけられた。びくっとなって振り返ると、そこにはヨウメイと熱美が立っていた。
結局この二人も、教室に帰らずにうろうろしているのであった。
「よ、ヨウメイさん、それに熱美さん。帰るわけないですよ。こんにちは・・・。」
「こ、こんにちは。出雲さん、私の名前覚えてくれたんですね。嬉しいです。」
熱美が少しほほを染めながら答える。そんな熱美をちらりと見ながら、ヨウメイが言った。
「まあ、これくらいは当然ですよね。女性にはやさしいというのがモットーなんですから。」
「は、はは、そうですね・・・。」
それに熱美が反応した。先程の照れはどこへやらという感じで。
「ちょっと楊ちゃん!」
「だって、本当の事だもの。別に熱美ちゃんが好きだからって訳じゃないでしょ。」
「・・・それもそっか。まあいいや、出雲さんに名前を覚えてもらっただけで。」
そして三人で笑う。購買部は和やかな雰囲気に包まれたようであった。
ところが、ほんの数秒と経たないうちにヨウメイがずずいっと前に出た。
その姿に、当然出雲は後ずさりする。昨日の悪夢を再び思い出したようだ。
恐る恐る出雲が尋ねる。
「な、なんですか、ヨウメイさん。」
「鉛筆を一本いただこうと思って。だってここは購買部でしょう?」
予想外の質問にしばし立ち尽くす出雲。
反応が無い出雲に、ヨウメイは“?”という顔をしてもう一度言った。
「宮内さん?鉛筆は置いていないんですか?」
「あ、ああはいはい。有りますよ、いくらでも。さあ、お好きなのをどうぞ。」
そして鉛筆の入った箱を見やすい位置に持ってくる。
ヨウメイが覗くと同時に、熱美もそれを覗きこんだ。
「いろいろ有るわね。どれにしようかな・・・。」
「でも楊ちゃん、鉛筆よりシャープペンシルの方が良くない?」
「ううん、鉛筆じゃないとだめなの。・・・あ、これにしますね。」
ヨウメイは一本鉛筆を選び、それを出雲に見せた。
出雲は“はい”と頷いたかと思うと、
「代金は払わなくて良いですから。無料で差し上げますよ。」
とにこやかに告げた。相手がヨウメイでも、いつもの行動を成し遂げる姿はさすがといえよう。
しかしヨウメイは首を横に振ったかと思うと、財布を取り出した。
「そんな事を言っては鉛筆さんに失礼でしょう?ちゃんと払いますから。」
そして代金を出雲の手にしっかり手渡す。戸惑いながらも出雲はそれを受け取った。
新品の鉛筆を改めて手に持つヨウメイに、熱美は感心したように言った。
「楊ちゃんてしっかりしてるね。あたしなら絶対無料でもらうけどなあ。
それに鉛筆さんに失礼なんて普通言わないよ。」
「あれはちょっとした例えよ。まあ、気まぐれってやつだからあんまり気にしないで。
さてと、さっそく使ってみましょうか。」
片手に鉛筆、片手に統天書という格好でヨウメイは統天書をめくり出した。
・・・いや、統天書がひとりでにめくれているのである。
まるであるページを指し示すかのように。
「よし、ここね。・・・来れ、小竜巻っ!」
ヨウメイが小さく叫んだかと思うと、鉛筆の周りに空気の渦が発生した。
それは見る見るうちに鉛筆を削り・・・。やがてとがった黒い芯をあらわにした。
満足の笑みを浮かべて、ヨウメイは統天書を閉じる。
「うん、なかなか良いわね、この黒いつやといい・・・。
これなら十分書きこむのに使えそう。良かったわ。」
にこにこしているヨウメイに、出雲が少し尋ねた。
「ヨウメイさん、それは他の鉛筆と何か違うんですか?」
「ええ、見た目はほんの少しですけど。」
ヨウメイの言葉に、今度は熱美が尋ねた。
「でも、普通のと変わらないような・・・。いったい何が違うの?」
するとヨウメイは、再びにっこりとしてこう言った。
「さっき竜巻で削ったでしょ?
それで、この鉛筆でも統天書に書きこめるようになったって訳。」
「「ええっ!?」」
熱美と出雲が同時に声をあげる。そしてそれぞれが質問した。
「他の筆記用具じゃ書きこめないって事なんですか?」
「ええ、そうですよ。無理やり書きこんでも、すぐにそれは消えちゃうんです。」
「楊ちゃん、それで何を書きこむの?」
「キリュウさんの試練日記よ。統天書にとって無意味な事は残らないから、
私自身が書きこまないといけないの。試練なんてキリュウさんの専門分野だし。
それによって得られる統天書でも分からないものは、
私じゃないと統天書に残せない、ということなの。」
そこで二人が“へえー”と頷く。それと同時に心の中で少しにこりとした。
統天書の新たな秘密を一足早く知ったという優越感から。
「でも、せっかく削ったのに今はつかえないか。まあいいや、また後で。」
そう言うと、ヨウメイは鉛筆を統天書に挟み込んだ。
それを確認した後で熱美が言う。
「さてと、それじゃあ教室に戻りましょ。そろそろ帰らないと、ね、楊ちゃん?」
「それもそうね。じゃあ出雲さん、ありがとうございました。」
ぺこりと礼をして購買部を去って行く二人。出雲は手を振ってそれを見送った。
しかし、二人が出雲から完全に見えなくなる前に、ヨウメイがくるりと振り向いた。
「宮内さん、昼休みもちゃんと居てくださいよ。試練があるんですから。
もし逃げたら、天罰が待ってますよ。ふふふ・・・。」
不気味な笑いを残して、ヨウメイは再び向きを変えた。
振っていた手を止め、出雲は再び立ち尽くす。
しかし、やがて観念したように、購買部の椅子に座りなおした。