小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!)


太助に言われて座った三人だったが・・・。
「七梨先輩、楊ちゃんがお料理を作ってるっていうのに、あたし達は何もしなくて良いんですか?」
座ったと思った花織が立ち上がって尋ねた。それにゆかりんも続く。
「そうですよ。これは楊ちゃん歓迎パーティーなんですから。」
そわそわしている二人にルーアンが答えた。
「いいから座っときなさいよ。とりあえず料理ができるまで。」
すると、今度は熱美が花を持って立ち上がった。
「そうだ、今のうちにお花を飾っておきますね。手伝ってください。」
「そうよ!そんな大事なことがあったんじゃない。七梨先輩、花瓶とかありませんか?」
それに“なるほど”と手を打ったかと思うと、太助は立ち上がった。
「リビングいっぱいに飾らないとな。よし、いくつか持ってくるよ。」
「よし主殿、私も手伝う。」
立ち上がるキリュウ。周りのみなはぽかんとしてキリュウを見た。
「・・・どうしたのだ?私に何かおかしなところでも?」
キリュウの疑問に、ぱかっとあけた口を閉じて、ゆかりんが答える。
「だって、あんなに楊ちゃんと仲が悪かった方なのに、率先して歓迎会の手伝いをするなんて。」
そこで太助は、軽く笑みを浮かべてこう言った。
「キリュウもそれだけ打ち解けられたって事だよ。な、キリュウ。」
「うむ、そういう事だ。いつまでもいがみ合っていたのでは周りに迷惑だしな。」
そして二人はリビングを出て行く。見送ったところで、感心したように那奈が言った。
「昨日とはえらい違いだな。これもあんた達三人のおかげかな。」
「いえ、そんな。楊ちゃんもがんばったし。」
「そうそう、それに帰る前に二人を見てたけど、結構仲が良くなってましたし。」
熱美とゆかりんは少し遠慮気味に答えたのだが、花織だけは、
「あたしもかなり頑張りましたから。
それにしても七梨先輩のおねえ様に誉めてもらうなんて、花織うれしいな♪」
と、なんだか有頂天な気分であった。
那奈はその様子にあっけに取られ、熱美、ゆかりんは苦笑いを浮かべていた。
そしてルーアンは・・・、
「ちょっと、あんただけの手柄じゃないでしょ。このあたしも関与しているって事忘れないでよね。」
と、花織につっかかった。普通ならそこで花織も言い返すところなのだが、
「そうでしたよね、ルーアン先生お疲れ様です。これからもよろしくお願いしますね。」
と笑顔で答えた。花織の意外な態度に拍子抜けしながらもこう答えた。
「そ、そう。わかれば良いのよ。」
その言葉に更に笑顔で返す花織。熱美とゆかりんも同じように返した。
雰囲気がそこで和んだのだろうか。五人でお喋りを始めた。
「・・・へえ、世界中を旅行されてるんですか。」
「ああそうだよ。日本へはついこの間帰ってきたんだ。」
「七梨先輩の家族って、旅行好きなんですね。」
「そう、だからこそあたしはたー様に巡り会えたの。
これを運命といわずしてなんて言うのかしら。」
「ルーアン先生ったら花織みたいな事言って・・・。」
お喋りが続いている中、太助とキリュウが花瓶を持って帰ってきた。
「おまたせ。ふう、なかなか良いものが見つからなくってさ。」
「とりあえず綺麗なものを二,三持ってきた。これで大丈夫だろう。」
二人が花瓶をテーブルの上に置く。
おそらく、倉庫か何処かにしまわれていて埃だらけだったのだろう。
それを洗った跡がはっきりと見て取れた。しかし、飾りはさすがに綺麗そのものであった。
那奈は置かれたそれらを見て、不思議そうに太助に尋ねた。
「こんなもんうちに有ったっけ?あたしは見たこと無いんだけど。」
「倉庫の奥から引っ張り出してきたんだ。怪しいもんじゃないから大丈夫だよ。」
「よーし、それじゃあさっそくお花を飾りましょう!」
そしてみなで沢山の花を飾り出す。綺麗に綺麗に・・・。

太助達が花を飾っているころ、キッチンでは・・・。
「・・・と、これを入れて出来上がり。簡単でしょう?」
「まあ、ほんとですわ。ありがとうございます、ヨウメイさん。」
ヨウメイがシャオに新たな料理を教え終わったところであった。
テーブルの上には、すでに色とりどりの品が沢山並んでいる。
もちろん作ったのはシャオで、すべての作り方を教えたのはヨウメイである。
「うーん、それにしてもずいぶん作っちゃいましたね。ちょっと多く教えすぎちゃったかな。
こんなに沢山だと、みんな食べきれないかも・・・。」
「大丈夫ですわ、ヨウメイさん。これだけ素敵なお料理ですもの。
皆さん、喜んで全部食べてくれるに違いありませんわ。」
少し心配顔のヨウメイに、シャオは笑顔で答える。
そんなシャオに安心したのか、ヨウメイも笑顔になって言った。
「そうですよね。それになんといってもルーアンさんもいることだし。」
「ええ。じゃあお料理をリビングへ運びましょう。」
そしてシャオはお皿を持って行き出した。ヨウメイもそれに続く。
シャオはリビングに入って、まず感嘆の声をあげた。
「まあ、綺麗なお花!」
そう、部屋内に沢山の花が飾られているのだ。
花瓶に入りきらなかった分は、部屋のあちこちに模様を描く様にされてある。
パーティーのための飾りといわんばかりに、華やかであった。
「あ、シャオ。料理が出来上がったんだな。運ぶの手伝うよ。」
シャオに気づいた太助達がキッチンへと足を運ぶ。
それと入れ違いになるようにリビングに入ったヨウメイも、
シャオと同じく感嘆の声をあげた。
「すっごく綺麗・・・。熱美ちゃんが持ってきてくれたのよね。
ああ、なんだか幸せな気分・・・。」
そしてヨウメイがその幸せに浸っている間に、みなはすべての料理を運び終えた。
バリエーションに富んだ料理を見て、みなは口々に“うわー、すごいなあ”とか、
“おいしそう。これならいくらでも食べられそうね”とつぶやいていた。
そうこうしているうちに全員が料理を食べる支度が整った。いや、一人はまだである。
「楊ちゃん、早く座って食べようよ。」
花織が呼びかける。そう、ヨウメイは花を見たまま立ち尽くしているのだった。
手にも、自分が持ってきた料理を持ったまま。
数秒ほど送れて、ヨウメイは花織の呼び声に反応した。
「あ、ああ、ごめんね花織ちゃん。あんまり綺麗なもんだから・・・。」
「えへへ、喜んでもらえて良かった。これで沢山花を持ってきた甲斐が有ったよ。」
ヨウメイの感極まる声に、熱美がうれしそうに言う。
そしてヨウメイは料理を置いて座った。
「それでは、今から楊ちゃん歓迎パーティーを始めます!
まず楊ちゃん、何か一言。」
「えっ、えっ、私が何か言うの?」
「当然よ。楊ちゃんが主役なんだもの。はい、どうぞ。」
花織の言葉に再び立ち上がるヨウメイ。そして、
「とにかく、皆さんありがとうございます。
えーと、あんまり長話してもあれなんで、早くおいしい料理を食べましょう!」
と、短く区切って座り込んだ。その様子に、みなははっとしてルーアンを見る。
みなが思った通り、ルーアンは待ちきれないとばかりにそわそわしていた。
「ははは、ルーアンらしいな。」
「だってたー様、あたし今までこんな料理見たことないんですもの。早く食べてみたいわあ。」
「もう、ルーアン先生ったら・・・。それでは、いただきます!」
丁寧な、そして元気良い挨拶がつげられ、パーティーは開始された。

「もぐもぐ・・・うーん、おいしい!さすがシャオリンさんですね。」
食べ初めていきなり声をあげたのはヨウメイ。
夕食は厳かにとかいうモットーは、すでにどこかへ消えうせているみたいだ。
「ありがとうございます、ヨウメイさん。
でもこれら全部は、ヨウメイさんが作り方を教えてくださったものじゃありませんか。
私はいう通りに作っただけですよ。」
「いえいえ、シャオリンさんの料理の腕があってこそですよ。」
互いに謙遜するヨウメイとシャオを見て、ルーアンが食べながら言った。
「もう、二人ともそんな細かいことは良いじゃない。おいしけりゃいいの、がつがつ・・・。」
いつも通りのルーアンを横目で見ながら、那奈も感嘆の声を上げる。
「ほんとおいしいよな。これを本当のご馳走って言うんだろう。な?太助。」
「ああ、ほんと。なんていうかさ、食べててすごく幸せな気分に成れるよ。
愛原達はどうだ・・・って、食べるのに夢中だな。」
花織、熱美、ゆかりんの三人は、ルーアンとまではいかないが、
目を輝かせて必死な手つきで料理を次々とほおばっている。
そんな三人の様子に笑みを浮かべる太助。それに気づいた花織がはたと手を止めた。
「あ、すいません先輩。あまりにもおいしいもんだからつい。
さすが楊ちゃんとシャオ先輩のコンビが作っただけありますよね。」
それに熱美とゆかりんも続く。
「うちでは絶対に味わえない料理ですよね。」
「というわけで、今は食べるのに夢中になっている訳なんです。」
それだけ言うと花織達は再び食べに戻った。
“愛原の気持ちもわかるな”などと思いながら、太助も食べに戻る。
みながそうして食べるのに夢中になっている中、
ヨウメイはまだ一言も発していない人物に向かって呼びかけた。
「キリュウさんはどうですか?何か感想はないですか?」
黙々と食べていたキリュウ。ヨウメイの声にぴたっと止まり、箸を置いて答えた。
「ヨウメイ殿、厳かに食べるのではなかったのか?」
「もう、例外もあるって言ったじゃないですか。そんな事より料理の感想は無いんですか?」
「ふむ、そうだな・・・。ヨウメイ殿の知識、そしてシャオ殿の技術。
この二つが合わさっているからこそ、これだけのものができるのだろう。
他では絶対に味わえない料理だな。それに、とても心がこもっていて良い。
・・・とまあ、こんなところだ。これでよいかな?」
なんとなく不安げな顔をするキリュウに、ヨウメイは立ち上がった。
そしてキリュウの手を取りに行き、ぶんぶんと振りながら握手する。
「その通りですよ!実にキリュウさんらしい意見ですね、ありがとうございます!」
「い、いや、なんの・・・。」
笑顔をこぼすヨウメイに、顔を赤くして照れているキリュウ。
みんなはそんな二人の様子に非常に驚いていたが、やがて、笑顔のまま食べに戻った。
実はキリュウ自身も驚いている。こんな顔のヨウメイは見たことが無かったのだから。
しばらく二人は握手したままであった・・・。

にぎやかな食事、そしてその後片付けが終わる。
例によってシャオがお茶を入れてテーブルの上にそれを並べる。
みなが座って落ち着いたところで、ゆかりんが立ち上がった。
「えー、それでは私が持ってきたものを出します。私が持ってきたのはお菓子。
つまり、おやつタイムでーす!!」
そして大きな袋を取り出し、テーブルの上に開ける。
これまた、食事に負けず劣らずの豪華なお菓子であった。
「うわー、綺麗。ゆかりんの家ってお菓子屋さんなの?」
感嘆の声をあげるヨウメイ。ゆかりんは首を横に振って答えた。
「ううん、そうじゃないの。この間いろいろお土産をもらっちゃって、
うちじゃ食べきれなくて、ちょうど良いかなって思って持ってきたのよ。」
「へえー、そうなんだ。」
「すごいですわね、お土産だけでこんなに沢山・・・。」
「そうだな、シャオ。でもさ、食べたすぐ後でこれだけは食えな・・・ルーアンは食ってるな。」
太助の声にみながルーアンのほうを向く。食事の時よりスピードは落ちているものの、
いつもの姿を見ることができた。あきれたように那奈が言う。
「ルーアン先生、何も今すぐ食べなくて良いだろ。おやつってのはゆっくり食べるもんだぜ。」
しかしルーアンは聞く耳持たずといった感じでこう言い返した。
「だって、ぼやぼやしてると他の人に食べられちゃうでしょ。早い者勝ちよ。」
その言葉に唖然とするみんな。“こんなときまで・・・”と思っているようであった。
とはいうものの、黙って見ていたのではルーアンに全部食べられかねない。
そこでキリュウが、ルーアンが食べているものをすばやく奪い取った。
「ちょっとー、何すんのよキリュウ。」
「みなの分まで食べられてはかなわぬからな。万象大乱!」
キリュウによって、クッキーセットのひとつが、見る見るうちに巨大化した。
「ほら、これを食べると良いだろう。また少なくなったら私に言うが良い。」
「さっすがキリュウさん、食い意地がはってるルーアン先生をよくわかってますね。」
花織の誉め言葉に顔を赤くするキリュウ。
ルーアンは、さりげなくけなされたにもかかわらず笑顔でそれを受け取った。
「どーもありがと。そんじゃパーティーの続きやってて頂戴。」
再び食べ出すルーアン。やれやれと頭を掻きながら、太助が切り出した。
「愛原も何か持ってきたんだろ。って、確かゲームセットだよな。それでもやろうか。」
「わかってるじゃないですか先輩。いろいろもってきたんですよ。
トランプ、すごろく、オセロ、将棋・・・。さあ、みんなで盛り上がりましょう!!」
そして開始されるゲーム大会。もちろんおやつを食べながらである。
途中からはルーアンも参加。キリュウが何度となくおやつに万象大乱をかけながら。
総勢九人で、かわるがわる対戦相手を変えながら、ゲームを変えながら、
時のたつのも忘れてゲームに熱中していた。

夜も更けたころ、眠気を訴える者が出だしたところでゲーム大会はお開きとなった。
まだ元気なものは・・・、
「花織ちゃん、どうしたのよ。いつもの遊び元気は何処へいったの?」
「さすがにおもいっきり遊んだようだからな。皆疲れたのだろう。」
と、ヨウメイとキリュウの二人である。昼間に睡眠時間を取っていたせいもあるのだが。
「だって楊ちゃん、もう夜中の一時過ぎよ。もう眠い・・・。」
そう言って、大きなあくびとともにまぶたをこする花織。
その他の面々も、それに伝染したかのように、次々とあくびをし始めた。
「ところで七梨先輩、あたしたちは何処で眠れば良いんでしょうか?」
と、熱美。いつものメンバーならリビングで寝ると言うことで解決するのだが・・・。
「俺がリビングで寝るよ。姉貴とシャオが俺の部屋で寝て、
愛原達三人のうち二人がシャオの部屋で寝て、
ルーアンと残りの一人でルーアンの部屋で寝て、
キリュウとヨウメイがキリュウの部屋で寝る、ってのはどうかな?」
なんとも淡々とした提案であったが、皆はそれに喜んで賛成した。
「太助、なかなか言うようになったじゃないか。
確かに、今この家で唯一の男のおまえがリビングで寝るのが普通だよな。」
と、那奈。その言葉にはっとする太助。
太助自身はそのことにはまったく気づいていなかったのだから。
「たー様ったら気付かずに提案したみたいね。
でもまあ良い提案よ。じゃあおやすみなさい。」
ルーアンの挨拶を皮切りに、次々と寝場所へ移動する面々。
もちろん挨拶もきちんと交わされている。
そして最後に、キリュウ、ヨウメイ、太助の三人がリビングに残った。
「では主様、今日は本当にお疲れ様でした。おやすみなさい。」
「主殿、試練はまた明日から始めるから覚悟しておくようにな。ではおやすみ。」
「ああ、二人ともおやすみ。二人が仲良くなってほっとしたよ。」
太助の言葉に、笑みを少し浮かべてヨウメイとキリュウはリビングを後にした。
階段を上り、キリュウの部屋へと入る。そこで、キリュウが言った。
「少し月を眺めてくる。・・・ヨウメイ殿も一緒にどうだ?」
「いいですね、お月見ですか。ではお言葉に甘えて・・・。」
そして屋根の上へとあがり、並んで腰を下ろす二人。
満月でもなく、まったくの晴天でもなかったが、二人が月を見るには十分であった。
うっすらとかかるくもにより、時折薄暗くなる辺り。
ほんのしばらくすると、月夜の明るさを取り戻したかのようにもとに戻る。
それが幾度となく繰り返された後、キリュウがゆっくりと口を開いた。
「なあ、ヨウメイ殿。そなたはここに来て変わったな。」
「そうですか?私は私ですよ。」
何気なしに言葉を返すヨウメイ。キリュウふふっと笑って答えた。
「花織殿達のおかげだろうな。昔はもっと硬い性格だった。
私と手を取って握手など、絶対に考えられなかったしな。」
「そ、それは・・・そうですね。昔と比べて変わったのかもしれませんね。」
そして再び月を眺め出す二人。しばらくの後、今度はヨウメイが口を開いた。
「キリュウさん、どうして試練を与えているんですか?」
その言葉に驚いてヨウメイの方を見るキリュウ。
戸惑いつつも、さも当たり前かのように言葉を返す。
「それが私の役目だからな。主に試練を与えて成長させる。他に理由など無い。」
すると、ヨウメイは再び質問した。
「でもキリュウさん、私がすぐ教えられることまで、
長い時間をかけて教えたりなんかしてますよね。それも試練なんですか?」
「そうだ。どんな物事でもすぐに分かってしまって良いものではない。
人間楽ができると成ると、必ずそちらのほうへ行ってしまう。
となると、人間的に成長できる機会を失ってしまうことになるのだ。」
そこでヨウメイは考え込み、更に質問した。
「でも、人間の寿命は限られてます。
約百年・・・いえ、もっともっと短い人だっているんですから、
そんな人に少しの事に長時間費やせなんてのはちょっと・・・と思いませんか?」
「何が言いたいのだ?ヨウメイ殿。」
「つまり、人生短いんだから、もっともっと色んな事を経験したほうが良い。
そうしたほうが、楽しくって成長も沢山できると思うんです。
だから、キリュウさんみたいに遠回りな教え方は、私はしたくないんです。」
キリュウはふうとため息をつき、空を見上げに入った。そしてゆっくりと言う。
「そういう考え方も有るか・・・。だがヨウメイ殿、
苦労して一つの事を得るからこそ、その人生を一生懸命生きた、
という感じになる.という事が言えると思わぬか?」
すると、ヨウメイもキリュウと同じような格好をして、ゆっくりと言った。
「ま、それもそうですね。大体、全てのものがすぐにわかるわけでも無し・・・。」
再び沈黙の時が流れる。
やがて月が分厚い雲に隠れ始めたころ、ヨウメイがキリュウの方を向いて言った
「キリュウさん、ものは考えようですよ。たわいも無いことは私がすべて教えます。
学校の勉強とか、何所のスーパーで品物を買ったら安くておいしいものが手に入るとか。
シャオリンさんを宿命から解き放つなんて難しいことは、キリュウさんが試練によって教える。
もちろん私も手伝いをしますよ。」
「ふむ?つまり・・・。」
ヨウメイの説明に横を向いたものの、まだ完全にわかりきっていない様子のキリュウに、
ヨウメイがじれったいといわんばかりに、身振り手振りを交えて言う。
「もう、何でわからないんですか。そこんところが鈍いって言うんですよ。
いいですか、つまり協力して主様のために頑張ろうって事です。
せっかく同じ主に仕えているんですし。
私達が協力すれば、絶対に主様は立派に成長するはずです!」
思わず力が入るヨウメイに、キリュウは少しあきれ顔になって言う。
「そんな事は百も承知だ。だったらもうちょっと簡単に言ってくれれば良いものを・・・。」
すると、ヨウメイは少し怒鳴り口調になって返した。
「嘘!大体最初ここで会った時に、いきなりいちゃもんをつけてきたじゃないですか。
とても、協力しようなんて態度じゃありませんでしたよ。」
「い、いや、それは・・・。ま、まあそんな事は置いといて、これからもよろしく、ヨウメイ殿。」
気まずい顔で手を差し出すキリュウに、ヨウメイはふふっと微笑んで握手した。
「さてと、話もついたことだしそろそろ眠りませんか?」
そして立ち上がるヨウメイ。キリュウもそれに続いて立ち上がった。
「それもそうだな・・・目覚ましはかけて良いのか?」
「目覚ましですか・・・。私が仕掛けるんじゃだめですか?」
その言葉に少し考え込んだキリュウだったが、やがてこくりとうなずいた。
二人は屋根の上を後にして、キリュウの部屋に入る。
布団を敷き、(前回と同じくヨウメイがベッドの上)二人とも横になった。
「キリュウさんも変わりましたよね。もっと無愛想な人だったのに。」
「ヨウメイ殿の影響だ。それよりヨウメイ殿、口が悪いのは直したほうが良いぞ・・・。」
一言ずつ交わし、ヨウメイとキリュウは寝に入った・・・。

≪第六話≫終わり


≪第七話≫
『新たなる楊明の能力』

「うわー、おいしい!七梨先輩って毎朝こんなにおいしいものを食べてるんですね。」
「花織って前に食べさせてもらったこと有るんでしょ。いいなー・・・。」
「そ、そうなのよ。やっぱりシャオ先輩って料理が上手だから・・・。」
「花織ちゃん、ひょっとして悔しかったりする?今度私が料理教えてあげるよ。」
「ほんと?楊ちゃん、ぜひお願いするね。」
「楊ちゃん、あたし達にも教えてよー。」
「そうそう、花織だけなんてずるいよ。」
「分かったわ。今度四人でお料理教室でもやりましょう。」
ただいま七梨家は朝食の真っ最中。朝から元気なのは、
ヨウメイ、花織、熱美、ゆかりんの仲良し四人組。
ルーアンはいつも通りがつがつと食べ、
太助、那奈、シャオ、キリュウはゆっくりと自分のペースで食べている。
「にぎやかですわね、太助様。」
「ほんと。昨日言った通り、まさか本当に九人になるなんて。」
そう、昨日の太助の冗談が見事当たったのである。
驚き気味の太助に、那奈が真剣そうな顔で言った。
「太助、おまえってひょっとして未来が詠めるんじゃないのか?
だったら明日の朝も詠んでみてくれよ。何人だ?」
「ちょ、ちょっと待ってよ那奈姉。今回はたまたま当たっただけだって。」
迫ってくる那奈に、太助が力いっぱい否定する。
すると、那奈はすぐに興味を無くしたかのように食事に戻った。
「使えないなあ。あたしの弟だったらそれぐらいはやってのけろよ。」
「そんな無茶な・・・。」
那奈の言葉に、キリュウが苦笑いを浮かべる。
そして表情を元に戻して太助に言った。
「それより主殿、今日の試練は特別厳しくなるぞ。心してかかられよ。」
「へ、そうなの?一体何するんだ?」
太助の素朴な疑問に、ヨウメイが太助のほうを向く。
「まだ秘密です。とりあえず私も一緒にやるという事だけ言っておきますね。」
にこやかに告げるヨウメイ。太助は“へえ”と感心していた。
その傍らでシャオが、
「まあ、お二人で試練をなさるなんて、よほど仲がよくなられたんですね。
ほんと良かったですわ。私にできることがあったらなんでもおっしゃってくださいね。」
と、ニコニコ顔で二人に言う。その言葉に、喜んでうなずく二人であった。
「ねえ楊ちゃん、結局試練するんだね。」
「そうよ、熱美ちゃん。もうキリュウさんといがみあってなんかいられなくなったから。
なにかあったら、お手伝いお願いね。」
ヨウメイの言葉に、ゆかりんが胸を張って答えた。
「もっちろん、任せといてよ。ね、花織。」
「う、うん・・・。」
ゆかりんに言われて花織もうなずく。
花織としてはなんとなく自分の目標と違っている気がしたものの、
やはり親友は大事だと考え、ヨウメイの手伝いをすることに気持ちを切り替えた。
「へえ、みんなやる気だな。ヨウメイ、あたしにも遠慮無く言ってくれよ。」
「ありがとうございます、那奈さん。」
朝食の間に、すっかり試練をやる気になった面々。ただ一人・・・。
「シャオリン、おかわり!」
と、ルーアンだけは朝食を食べるのに夢中であった。
「ルーアン殿、話を聞いていたのか?ルーアン殿にも手伝って・・・」
「いやよ!」
キリュウが言い切る前に、ルーアンは突っ返した。
「だって、あたしは試練に疲れたたー様を癒してあげなきゃいけないんだもの。
試練を与える手伝いなんてしないからね。」
そう言うと、シャオが入れたお代わりを受け取って、再びがつがつと食べ出した。
ルーアンの様子を見てヨウメイが一言。
「昨日あれだけ食べたのに・・・。やっぱり食べ物を尊重する人ですね。」
その言葉にがたっとこけそうになる太助達(シャオを除く)。
体制を立て直して花織がそっとヨウメイに告げた。
「そんなわけ無いでしょ。あれは食い意地がはってるって言うのよ。」
「でも、食べられるときに食べておくのは重要よ。うーん、ルーアンさんてすごいなあ。」
感心するヨウメイに呆れ顔になるほかの面々。シャオは相変わらずの笑顔で、その光景を見ていた。

朝食が終わり、七梨家を出る太助達。もちろん全部で九人である。
「・・・なんで那奈姉まで来るんだ?」
「太助ぇ、弟の成長する姿を見たいっていうのは、姉の願望だぞ。
それをおまえは拒むっていうのか?なんて薄情なんだ・・・。」
よよよ、と崩れるまねをする那奈。そんな那奈を見て、太助はため息をつく。
「分かったよ。よく考えて見りゃおとついも一緒に学校まで来たしな。」
すると、那奈は急に元気になったように立ち上がった。
「よっし、決まり。さあみんな、学校へゴー!」
『おーっ!!』
那奈の掛け声に皆が反応したかのように手を振りかざす。
そして皆は歩き出した。太助は再びため息をついて、その後に付いて行った。
お喋りをしながら歩き、あっという間に学校へ到着。
ルーアンは職員室へ、ヨウメイ、花織、熱美、ゆかりんの四人は一年三組へ。
そのほかのメンバーは二年一組へと向かった。
教室へ向かう途中で、キリュウに質問する太助。
「なあ、試練て一体何をするんだ?どうも気になってさ。」
「本格的な試練は昼休・・・じゃなくて放課後になるだろう。
休み時間の間は、今までのように私だけで試練を行う。」
「へえ、そうなんだ。」
キリュウのきちんとした答えに、納得したようにうなずく太助。
最後の、“今までのように”という言葉で安心したのだろう。
そしていつもの顔に戻った。
「なあシャオ。シャオは太助を鍛えるために何かするつもりなのか?」
那奈が小声で尋ねる。シャオは気合ばっちりといった顔で答えた。
「ええ、そうですわ。太助様への試練のお手伝いをするんです。」
すると、那奈が更に顔を近づけて小声で言う。
「シャオ、試練を与えるメンバーはあたしは十分だと思うんだ。
だから、シャオは太助を元気付ける役割とかしたらどうかな?」
「那奈さん・・・。でも、私は・・・。」
「それに、そっちのほうが絶対に太助は喜ぶ。
姉のあたしが言うんだから間違い無いって。な、シャオ。そうしなって。」
そこでシャオの顔つきが変わった。太助が喜ぶという言葉に反応したようだ。
「太助様が喜ぶ・・・。わかりましたわ、那奈さん。
私、太助様を懸命に元気付けいたします。」
「そうそう、頼んだよ。」
そうこうしているうちに教室に着いた。
がラットドアを開け、太助は元気いっぱいの声で言った。
「みんな、おはよう!」
いきなりの声に、一斉に太助のほうを見る生徒達。
そこへ、たかしが近づいて行った。
「おはよう、太助。どうしたんだ、朝っぱらから。気合ばっちりな顔して。」
「今日は試練で大変なんだ。だから今のうちに気合を入れておかないと、と思ってさ。」
なんだか目を輝かせている太助に、たかしは圧倒されていた。
立ち尽くしている太助達を横目で見ながら、翔子が教室に入ってきた。
「おはよう・・・なんかあったのか?」
「翔子さん、おはようございます。今日は太助様は頑張って試練をするんですって。」
「そういう事。ちなみにシャオは太助を癒す係。翔子もなんか手伝ってよ。」
那奈に言われ、ぴたっと立ち止まる翔子。
しばらく考え込んでいたかと思うと、何かひらめいたようにうなずいた。
「じゃああたしはシャオの護衛役でもするか。那奈ねぇもそれをやらない?」
「護衛役?・・・あ、なるほどな。あたしもそれやるよ。
ついでにシャオから太助への導き役も。」
「導き役・・・。さっすが那奈ねぇだな。よし、頑張ろう!シャオも頼むぜ。」
「は、はいっ。」
なんだかよくわからないといった顔のシャオだったが、
翔子と那奈に促されて、三人でがっちりと握手をした。
教室の後ろでそんなやりとりが交わされている途中、
前の扉がガラッと開き、ルーアンと乎一郎が入ってきた。二人で何やら言い合っている。
「だから、言ったでしょう。ヨウメイはもう授業しないんだって。」
「でもルーアン先生、たまにはヨウメイちゃんの授業を聞いてみて、
いいところを頂戴するってのは大事ですよ。ぜひ頼んでみては・・・。」
「遠藤君!あたしの授業に何か欠点があるって言うの!?」
「そうは言ってませんよ。ただ、いつまたあんな出来事が起こるか分からない以上、
対策ぐらいは立てておいたほうがいいんじゃないかと思うんです。」
「なんですって!?私がまた追い出されるって言うの!?」
どうやら、昨日のような事件が再発したときのことについてのようだ。
乎一郎としては、なんとしてでもルーアンに先生を退いて欲しくない。
しかし、ヨウメイの件でその可能性はかなり低いということが判明した。
今回はたまたまヨウメイが退いたから良かったものの、
いつまたルーアンの代わりを申し出てくる人物が現れるか分からない。
そこで、ヨウメイの授業のいいところをルーアンに勉強して欲しいと願っていたのだが・・・。
「とにかく!あたしは誰が来ようと蹴散らしてやるんだから!
そんなのは余計なお世話よ、遠藤君!!」
「る、ルーアン先生・・・。」
見ての通り、ルーアンはそんな乎一郎の気持ちなど知るよしも無い。
自分が他の奴に負けるはずは無い。ヨウメイのときは相手が悪かったのだと思っているのだ。
ルーアンのつっぱねた態度にあきらめたのか、しょんぼりとして乎一郎は後ろの方にやってきた。
「乎一郎、心配すんなって。ルーアン先生なら大丈夫だよ。」
「たかしくん・・・。でも、僕は気が気じゃないよ。
ルーアン先生にはぜひしっかりと先生を続けてもらいたいのに・・・。」
落ち込む乎一郎に、太助は肩に手をぽんと乗せた。
「平気平気。もしそんな事になっても、俺達全員で訴えれば大丈夫だって。」
「でも、ヨウメイちゃんのときはみんなヨウメイちゃんの味方だったじゃないか。
次ぎもそうなったらどうするんだよ。」
その言葉に太助は手を引いた。確かに全員がルーアン側に付いたまま残るという事は考えにくい。
これには、太助達は腕組をして考え込んでしまった。
しかし、そんな太助達を横目で見ながら、あっさりと言ってのけた人物が居た。
それはキリュウである。
「そんなに考え込むことではあるまい。いざとなったらヨウメイ殿に頼めば良いのだからな。
何も心配することなど無いぞ、遠藤殿。」
そして入り口とは反対側の窓のほうへ歩いて行く。乎一郎はばっと顔をあげて言った。
「ちょっと待ってよ、ヨウメイちゃんが先生になったって、結果は同じじゃないか。」
するとキリュウは、なんでもないことのように答えた。
「だから、一度ヨウメイ殿に代わって、
そしてヨウメイ殿からルーアン殿へと代われば良いという事だ。
まあ、そんな面倒な事をせずとも、ヨウメイ殿の説得で片が付くと思うがな。」
キリュウの説明にぽかんとする太助達。他の生徒達もそんな様子でキリュウを見ている。
「はいはい、みんな席に座って。授業始めるわよ。」
しかし動くものは誰も居ない。ルーアンの呼びかけにも、突っ立ったままである。
そんな生徒達に対して、キリュウは冷静に告げた。
「ルーアン殿の授業が始まるぞ。早く席に座られよ。」
キリュウの声により、ようやく生徒達は動き始めた。ところどころでざわつきながら。
「じゃあ翔子、シャオ、それに太助。またな。」
と、教室を出て行く那奈。太助達はそれに挨拶し、それぞれの席に向かった。
一番キリュウに近い席に座った翔子は小声で訊いてみる。
「なあ、昨日とはえらい違いじゃないか?ヨウメイと本当に仲直りしたんだな?」
「まあそんなところだ。・・・どうして先ほどはみんな固まっていたのだろう。」
キリュウの何気ない疑問に、翔子はそれとなく答えてやる。
「だってさ、あのセリフは間違い無くヨウメイを信じてるって感じだったもんな。
あれだけいがみ合っていた奴の口から出る言葉じゃないよ。」
「そういうものなのか?まあいい、ルーアン殿の授業をゆっくりと聞くとしよう。」
そして開始される授業。チャイムとはほとんど関係無しに始まるのは、
初日のヨウメイの授業の影響かもしれない・・・。