小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!)


ヨウメイの暴走の後片付けをする生徒たち、そして羽林軍。
とうのヨウメイは机の上で眠っていた。
「可愛い寝顔ですね、七梨先輩。」
「ん?ああ・・・。」
花織の言葉に、困惑しながら答える太助。
続いて、熱美とゆかりんも言う。
「普段はおとなしくて良い子なのに・・・。」
「楊ちゃんて怒ると手がつけられなくなるのね。」
二人の言葉に、ルーアンがため息をつきながらつぶやく
「ほんと、普通の“歩くなんでも辞典”のはずなのに・・・。」
そこで翔子が嫌味気に言った。
「だれかさんがヨウメイにつっかかったりするから怖いんだな。なあキリュウ。」
「翔子さん、キリュウさんも悪気があってそうしているわけじゃ・・・。」
キリュウは黙ったままうつむいている。と思ったら、顔を上げて太助に言った。
「主殿、私がなぜ主殿に仕えているかを言うのか?」
「あ、ああ。そのつもりだよ。そうすればさ、少しは打ち解けられるんじゃないかと思って。」
するとキリュウは“そうか・・・”とつぶやき、再びうつむいてしまった。
そんなこんなで時間が過ぎていった。

ようやく後片付けが終わり、昼休みを告げるチャイムが鳴り響く。
それと同時に、ヨウメイがはっと目覚めた。上半身を起こし、太助を見つけて頭を下げる。
「どうもお騒がせしました。以後あんな事が無いよう、きっちりします。」
「もう良いよ、済んだ事だしさ。
それよりもうお昼だからさ、一緒にシャオのお弁当食べようぜ。な?」
太助の言葉にこくりと頷き、机から降りるヨウメイ。
ちなみに花織、熱美、ゆかりんは自分の教室へ帰っている。
いつもの面々が集まっての昼食となった。
きっちりと“いただきます”が告げられ、皆が弁当を食べ始める。
しばらくしてヨウメイが口を開いた。
「ところで主様、手前に言っていた事なんですが、
どうしてキリュウさんの主をなさっているんですか?
何かを得るためなら、私がすぐにでも教えて差し上げますのに。」
「シャオを救える男になるためだよ。」
「シャオリンさんを救う?いったいどういうことですか?」
「それは・・・」
太助が言いかける前に、ヨウメイが手を上げてストップをかけた。
「なんだか深刻そうな事情なので、私が自分で調べる事にします。
あんまり人に知らせる事じゃないのでしょう?えーと・・・。」
食事の手を止めて統天書をめくり出すヨウメイ。そしてあるページを見て驚きの顔になる。
「こ、これは・・・!!なるほど、それでキリュウさんが・・・。」
納得したかと思うと統天書を閉じて、太助の方を向いて言った。
「主様、私には教える事は出来ません。まさかそういう事だったとは・・・。
キリュウさんの試練を受けて頑張ってくださいね。」
「ヨウメイ・・・ありがとう。」
シャオを守護月天の宿命から解き放つという事は、さすがの統天書にも載っていなかったのだ。
それでヨウメイは、あきらめてキリュウに任せることにしたのである。
二人の会話の後、ルーアンが口を開いた。
「ヨウメイにも分からない事があるのね。」
「ええ、残念ながら万能ではありませんしね。過去に例も無いし・・・。」
そこでぴくっとなる翔子。
「過去にあった事ならなんでもわかるんだな?」
「ええそうですよ。といっても、あんまりにも必要の無い知識は削除されたりしますが。」
今度は乎一郎が尋ねる。
「必要の無い知識ってなんなの?」
「いろいろとあるんです。まだ全部は知りませんが。」
その言葉に黙り込む皆。と思ったら、キリュウがぽつりと言った。
「要するに力を全て使いこなせていないのだろう?だから気絶したりするのだ。」
「ええ、そうですね・・・ってキリュウさん!!あなたにそんな事言われたくないですよ!!」
がたっと立ちあがったヨウメイを、まあまあとたかしがせいする。
「私は自分の事は分かっている。ヨウメイ殿は自分の力の全てを知っているわけではあるまい?
人に知識を教える立場の者がそんな事では困るぞ。」
「知ってますよ!確かに、統天書をめくらないと知識のすべては分かりませんが。
でも、それだけです!力の類は全部分かってるんですから!」
「そうか、なら結構だ。これからよろしく頼むぞ。」
「え、ええ。言われなくても!!」
そして二人は弁当を食べ始めた。ぽかんとして二人を見ていた太助達。シャオは、
「まあ、仲直りしたんですね。よかったですわ。」
とニコニコ顔である。その言葉に“ふうん、そうなのか”と皆は納得したのか、
再び弁当を食べ始めた。

黙々と食べつづける太助達。やがて沈黙に耐えかねたたかしが、
「みんな!もっと喋ろうぜ。いろいろあったけど一件落着!!とかいってさ。」
するとヨウメイがたかしの方をじろりと睨んだ。
「野村さん、みなさんはいろいろあってお疲れなんです。
もうちょっと静かに願えませんか?」
その言葉にたじっとなり、黙り込むたかし。すると翔子が、
「ヨウメイ、昨日はにぎやかにだとか言っていなかったか?」
と、口を出した。しかしヨウメイは首を振って言った。
「山野辺さん、例外もあるって言ってたじゃないですか。
みなさんが喋りたい時に喋れば良いんです。」
再び沈黙の時が流れる。今度は太助が口を開いた。
「しかし、やっぱりシャオの弁当は美味いよな。ヨウメイもそう思うだろ?」
「ええ、そうですね。あ、主様。今日は家に戻りますから。
というわけでシャオリンさん、夜はお料理をお教えしますね。」
「まあ、ありがとうございますヨウメイさん。」
「よかったな、シャオ。」
ごきげんの太助とシャオ。そこでキリュウが喋り出す。
「という事は、眠る時に私はまたひどい目に遭うのか?迷惑だな・・・。」
この時、周りの皆はビクっとして食べる手を止める。
またもやヨウメイが怒るのではないかとはらはらしていたのだが、
「そんなことはありませんよ。心配なさらないで下さい。」
と、ヨウメイは落ちついて答えた。それと同時にホッとする面々。
「だって、キリュウさんはもうお疲れなんでしょ?今からでも眠ったらどうですか?」
付け加えたヨウメイに対して料理を吹き出しそうになる太助達。
するとキリュウは、
「さすが・・・だな。まったく・・・寒かったり・・熱かったり・・・。」
と言ったかと思うと、座ったままのポーズで眠り出した。
ぽかんとしてそれを見る太助達。
「おやすみなさい、キリュウさん。また後でね。」
と、ヨウメイは挨拶を更に付け加えた。

昼食が終わり、キリュウは教室の隅のほうに寝かされた。
そばにはヨウメイがしっかりと待機している。
「ねえヨウメイ。あんた別のクラスの生徒になったんじゃなかったの?」
授業を始めようとしたルーアンが尋ねた。すると、
「一応生徒として動くのは明日からなんです。
それに、キリュウさんがこんなになっちゃったのは、私にも責任があることですし。」
ヨウメイの言葉に違和感を感じた太助。さっそく尋ねてみた。
「急にしおらしくなったな。やっぱりキリュウと仲直りしたんだな。」
「ええ、まあそんなところです。うふふ・・・。」
なぜか笑いを浮かべるヨウメイを見て、少しビクっとなる太助。
「じゃあいつも通りの授業始めるわよ。みんな教科書を見てー。」
そしてルーアンの授業が開始された・・・。

そんなこんなであっという間に放課後。キリュウもそこで目を覚ました。
「まあキリュウさん、おそようございます。
よく眠っていらしたので今度こそ本当に死んじゃったのかと思いましたよ。」
そんな事をわざと大声で言うヨウメイ。教室内の皆がその声に振りかえる。
キリュウはあきれた顔でヨウメイに答えた。
「ヨウメイ殿、そんなはずはないだろう。あの程度で死んでしまっては万難地天などつとまらぬからな。」
するとヨウメイは笑って言う。
「冗談ですよ、冗談。キリュウさんはあんな極寒の中冬眠ができる優れた生き物さんですし。
なんといってもゴキブリよりもしぶといんですものね。」
「な、なんだと!!」
怒ってキリュウが立ちあがり、短天扇をかまえた。
「やる気ですか?それなら今度こそ手加減無しで・・・」
「いいかげんにしろー!!!」
太助が大声で怒鳴る。そして二人はぴたっと動きを止めた。
「仲直りしたんじゃなかったのか!?例えそうでなくても、喧嘩なんかするな!!」
するとヨウメイはにこりと笑って言った。
「仲直りしてますよ。これが普段の私とキリュウさんなんです。」
「嘘をつくなヨウメイ殿。明らかに喧嘩を売っているだけだ。」
キリュウの言葉に、たちまち顔をかえるヨウメイ。
「だって・・・。どうして側にいるだけなのにキリュウさんに蹴られたりしなきゃいけないんですか!!」
寝相が悪いにも程がありますよ!!」
「うっ、そ、それは・・・。」
そんな二人のやり取りを見て、翔子は頭をかきながら言った。
「つまり、二人で勝手に喧嘩してるだけだから口出しすんなって事?」
「え?ええまあ、そういう事です・・・。」
「だったら外へ行ってやれ!!ついでに能力を使うのも禁止!分かったな!!!」
翔子はそう叫んだかと思うと、キリュウから短天扇、ヨウメイから統天書を素早く奪い取った。
「シャオ、瓠瓜を呼び出してくれ。ルーアン先生、二人を押さえてて。」
「「!!!ちょ、ちょっと待ったー!!!」」
血相を変えて翔子に飛びかかろうとする二人だったが・・・。
「陽天心召来!!」
「来々、瓠瓜!!」
ルーアンに陽天心をかけられた机達が、あっという間にキリュウをヨウメイにのしかかる。
そして翔子に抱き上げられた瓠瓜が、素早く二品を飲みこんだ。
「「ひ、ひどいー!!」」
机の下敷きになりながら、必死に二人が叫ぶ。そして陽天心がとかれた。
「なかなかやるな、山野辺。というわけでキリュウ、ヨウメイ。屋上にでも行ってこいよ。な?」
太助の言葉に立ちあがった二人だが、すぐに座りこんでしまった。
「すいません、主様、みなさん。もう理不尽な喧嘩は致しません。だから本を返してください。」
「私も謝る。すぐにかっとなってしまうのは悪い癖だ。以後は気をつける。だから扇を・・・。」
必死になって今度はぺこぺこし出す二人に、翔子はにやりと笑って言った。
「いいから屋上へ行って喧嘩してこいよ。じゃないと返さないからな。」
ぴくっとなって顔を上げる二人。しかし翔子の顔を見てやれやれと立ちあがり、
すごすごと教室を出ていった。もちろん、途中ぶつぶつと喧嘩しながら。
「ヨウメイ殿が喧嘩を売ってくるから・・・。」
「キリュウさんが短天扇を広げたりするから・・・。」
それを見送った乎一郎が一言。
「二人ともなんか似てるね。だから喧嘩するのかなあ・・・。」
それを聞いたたかし。
「仲がいいほど喧嘩するって言うし。やっぱりあれはあれで仲がいいのかもな。」
と、付け足した。

≪第四話≫終わり


≪第五話≫
『宮内出雲の受難』

所変わって購買部。あっという間にパンが売り切れた(女子にほとんど無料で配られていた)、
更には他の物資もそんな感じであったので、出雲はのんびりと本を読んでいた。
「ふう、今日も結構早く終わってしまいましたねえ。
さてと、そろそろ帰る仕度でも・・・おや?あれは。」
向こうから並んで歩いてくるキリュウとヨウメイ。二人とも不機嫌そうに何やらぶつぶつ言っている。
出雲はなんとなく気が進まなかったのだが、女性にやさしくをモットーとする出雲は、二人に声をかけた。
「やあ、キリュウさんにヨウメイさん。二人してどちらへお出かけですか?」
するとその二人は購買部の前でぴたっと足を止め、じとーっと出雲を見る。
「ど、どうしたんですか、二人とも。私でよければ相談に乗りますが・・・。」
出雲の言葉に、キリュウが喋り出した。
「聞いてくれ、宮内殿。ヨウメイ殿が喧嘩を売って来たりするから、私は教室を追い出されてしまったのだ。」
「は、はあそうなんですか。喧嘩を売るのはいけませんよ、ヨウメイさん。」
それに対してヨウメイは、
「宮内さん!私はキリュウさんの寝相の悪さにあきれて、口を滑らせただけなんです!!
喧嘩を売っているのはキリュウさんだと思いませんか!?」
「そ、そうですか。キリュウさん、寝相が悪いのは治した方が・・・。」
「なんだと!?もとはと言えばヨウメイ殿が暴走したりするからいけないのだ!!
だいたい教室を猛吹雪で荒れさせてどうするのだ!?」
「何言ってんですか!キリュウさんが私を邪険に扱ったのがそもそもの原因じゃないですか!!
だいたい寝坊して遅れてきたくせに、ずうずうしいにも程がありますよ!!」
「だからといってあそこまでして良いという道理が通るものか!!だいたいヨウメイ殿は・・・。」
いつのまにか出雲はすっかり忘れられ、二人の口論を聞く羽目になってしまった。
そこで改めて後悔する出雲。心の中で、
(やれやれ、こんな事なら声をかけるんじゃありませんでしたよ。)
と、つぶやいていた。

それから十数分経過。今だ購買部の前で口論を続ける二人。
出雲はいやになっていて、とっくに聞くのを辞めて本を読んでいた。そんな折、
「宮内殿!さあ判断してもらおう。私とヨウメイ殿のどっちが悪いのか!!」
と、突然キリュウが出雲に向かって言った。いきなりの事にビクっとなってあわてふためく出雲。
「キリュウさん!こんな軟派神主に聞くなんて間違ってますよ!!
でもまあ、一応聞いてみましょうか。相談に乗るって言ってたことだし。」
そして出雲の方をじっと見る二人。
当然出雲はそれにすぐ応えられるわけがなく、しばらく黙り込んでいた。
「ちょっと宮内さん、黙ってたんじゃ分からないじゃないですか。早く答えてくださいよ。」
出雲にせかすヨウメイ。すると出雲は、
「そ、そうですね。やはりキリュウさんが悪いんじゃないかと・・・」
「なんだと!?宮内殿、それはあんまりではないか!!
私の言い分を無視して、いきなりそんな事を言うのか!?」
キリュウの反発に、出雲は慌てて言いなおす。
「す、すいません。やはりヨウメイさんが・・・」
「まってくださいよ!どうして私が悪い事になるんですか!
どう考えたってそれは違うんじゃないんですか!?」
今度はヨウメイが途中で反論した。そこで出雲は黙り込む。
しばしの沈黙。・・・やがて、ヨウメイが口を開いた。
「もういいです。やっぱりこんな軟派師に聞いてもらおうとしたのが間違いだったんです。」
それにキリュウも続く。
「まったくその通りだな。全然人の話を聞いていない。無駄な時間を過ごしてしまった。」
そして二人はそこを去ろうとしたが、出雲が慌てて呼びとめた。
「待って下さいよ、二人とも!!」
出雲の声に足を止め、振りかえる二人。
「なんですか、宮内さん。まだ言い足りない事でも?どうせくだらない事でしょうけど。」
「出来るだけ手短に済ませてくれ。そなたの意見など、長々と聞きたくないのでな。」
二人のいちゃもんをつけるような言葉に、少し引いてしまった出雲だったが、
心を落ちつかせて、再び口を開いた。
「いきなりやってきて喧嘩をするだけして、挙句の果てに私に判断しろなんて。
それこそ横暴というものじゃないですか!?
そりゃ、途中から話を聞いていなかった私も悪いですが、
ふっかけてきた二人とも悪いんじゃないんですか!?
更には私をけなして・・・。そこんところはどうなんですか!!」
出雲が懸命に言う。キリュウは少し反省の色を浮かべて言った。
「そうか、それもそうだな。済まなかった宮内殿。私達が・・・」
「キリュウさん!!」
謝ろうとするキリュウを、ヨウメイが止めた。そして出雲に向かって言う。
「私達は悪くないんですよ!!どうしてキリュウさんが謝るんですか!!
だいたいね、相談に乗るとか言ってたのは宮内さん、あなたじゃないですか!!
それを話をよく聞きもしないで、“あなた達二人も悪いですよ”!?
ふざけるんじゃないですよ!!ああやだやだ、なんでこんな人に神主がつとまるのかしら。」
それを聞いたキリュウも、うんうんと頷いて続けて言った。
「ヨウメイ殿の言う通りだな。私達をたぶらかそうとは、良い度胸をしているではないか。
ますますもって許せぬな。シャオ殿やルーアン殿、そして花織殿にも十分注意するように言っておかねば。」
唖然としたまま二人の言葉を聞く出雲。
そして、この二人に声をかけてしまったことをますます後悔するのであった。
その念が顔色にはっきりと出てきたのが見えたのだろう。
ヨウメイが更に言う、いや怒鳴る。
「なに一人で犠牲者みたいな顔してるんですか!!
黙ってないで、言いたい事があったら言って下さい!!!」
すると、出雲はおそるおそる口を開いた。
「すいません、私が悪かったです。お二人は別の人に意見を聞いてもらって・・・」
「なんだと!?自分の不始末を他人に擦り付けるつもりなのか!?
ますます見そこなったぞ宮内殿。ここは一つ試練を与えねばなるまいな。」
そしてふところから短天扇を取り出そうとするキリュウ。
出雲はビクっとなって慌ててそこから逃げようとした。しかし、
「・・・そうか、短天扇は翔子殿に取られたままだったのだ。ううむ、私としたことが・・・。」
事情は分からないがとにかく助かった、と胸をなでおろす出雲。
ヨウメイは悔しそうに唇をかんで言う。
「そうでしたね。くうう、とりあえず屋上に行きましょうか・・・。」
そして二人が購買部から去っていこうとする。
改めてホッとする出雲だったが、その時ルーアンや翔子達が購買部にやって来た。
「あら?どうしたのよ二人ともこんな所で。屋上へ行ったんじゃなかったの?」
「そうだぜ、さっさと喧嘩してこいよ。じゃないと返さないからな。」
購買部の新たな来客に二人は足を止め、再び購買部に引き返した。
その時の出雲の心の中は嫌な予感でいっぱいだった。
しかし、少しは気が楽になった。二人の相手を無理にせずに済みそうだったので。
だが、そんなものはすぐにかき消される事になる。
「山野辺さん、お願いです。一瞬でも良いですから統天書を返してください。」
ヨウメイが深刻そうに言う。もちろんそれにすぐに応じる翔子ではなかったが。
「あのな、ヨウメイ。屋上で喧嘩してからじゃないと返さないって言っただろ。」
と、つっかえした。するとキリュウが、
「そう言わずに、私も少しの間だけ返して欲しい。実は・・・」
と、購買部での出来事を語り出した。当然、ヨウメイも出雲もそれに混じって。
数分の後、声をあげたのは・・・。
「出雲さん、せっかく仲直りしている二人になんてことをしたんですか!
いくらなんでもひどすぎますわ!」
シャオである。驚いてシャオを見る出雲、そして太助達。
「そんな、シャオさん。誤解ですよ、私はただ・・・」
「出雲さん!!言い訳をするなんてあんまりです。
キリュウさんとヨウメイさんがかわいそうですわ!!」
そしてしばらくの沈黙の後、翔子は瓠瓜に言った。
「瓠瓜、二人に返してやってくれ。キリュウ、ヨウメイ、一瞬なんて言わず、もう返すから。
これからも二人仲良くな。」
「え?ええ・・・。」
「・・・心得た。」
そして瓠瓜が短天扇、統天書をはきだす。二人はそれを嬉しそうに受け取った。
「災難だな、宮内出雲。ふだんちゃんと仕事をしないからばちが当たるんだよ。」
「太助君、私はちゃんと仕事をしているじゃないですか。そんなことより、あとでシャオさんの誤解を・・・」
「さて宮内殿。」
出雲の言葉をさえぎるようにキリュウが口を開き、短天扇を広げた。
その不敵な姿にずざざっと後ずさりする出雲。
「試練を与える約束だったな。ではいくぞ、万象大乱!」
出雲がついさっきまで読んでいた本が巨大化し、出雲を廊下の方までふっとばす。
「ふむ、やっぱり主殿と違って鈍いな。もっともっと精進する必要があるぞ。」
「ちょ、ちょっと待って下さいよキリュウさん。私は・・・」
「きたれ、洪水!」
今度はヨウメイが叫んだ。
大量の水が廊下の向こうからやって来たかと思うと、あっという間に出雲を遠くまで押し流した。
水が突き当たりの所までいったところで、ヨウメイはパタンと統天書を閉じる。
すると、不思議な事に、全ての水が消えうせた。
「あっさり流されるなんて・・・。宮内さん、ちゃんと泳いで抵抗しなきゃだめじゃないですか。」
そんな無茶な・・・、と太助達は唖然とヨウメイを見る。
出雲はといえば、大量の水を飲んでしまったのか、激しく咳き込んでいた。
「ごほ、ごほ・・・。うう・・・。」
「気が済んだ?キリュウちゃん、ヨウメイちゃん。もう帰ろうよ。」
出雲の悲惨な姿に同情したのか、乎一郎が帰る案を申し出た。すると・・・。
「何言ってんですか遠藤さん。今のは準備運動にすぎませんよ。
だいたいキリュウさんの試練は、本当はこんなもんじゃないんですし。
ね、キリュウさん、主様。」
「うむ、その通りだ。主殿はもっともっと厳しい試練に耐えてきた。
この程度で終わってしまっては試練にならん。」
ヨウメイとキリュウの言葉に、太助はおそるおそる説得するように言った。
「あ、あのさ、二人とも。こんな事で時間つぶさなくても、もっと他にやる事があるんじゃ・・・。」
「そういえばそうですわ。お料理を教えていただかないと・・・。」
シャオも一緒になって二人を止めようとする。しかし、
「他にやる事はいつでも出来るじゃないですか。宮内さんに試練を与える事は今やっておかないと。
明日になったら逃げ出すかもしれませんし。」
「ヨウメイ殿の言う通りだ。というわけで皆は先に帰るがよろしかろう。」
と言ったかと思うと、出雲に向かって行った。
その二人の姿にぶんぶんと手を振る出雲。
「ま、待って下さい!もう良いです、ここまでで今日は勘弁してくださいよ。
明日逃げたりなんてしませんから!!」
しかしヨウメイとキリュウは、きわめて冷静に言葉を返した。
「嘘をつくのは軟派師の必要十分条件でしょう?騙されませんよ。」
「主殿を見ろ。明日にのばしてくれなどと言った事は一度も無いぞ。」
もはや二人は止められないようである。他の皆がそう思ったその時、
「楊ちゃん!やっと見つけた。教室にいなかったから探しまわったんだよ!!」
と、明るい声がしたかと思うと、花織、熱美、ゆかりんが、購買部に向かって駆け出してきた。
「花織ちゃん。ちょっと待っててね、宮内さんに試練を与えてるところだから。」
振り向いたヨウメイが発した言葉に首を傾げて止まる花織達。
「楊ちゃん?試練を与えるなんてキリュウさんみたいよ。」
「そうそう。キリュウさんと何かあったの?」
熱美とゆかりんの言葉にヨウメイははっと我に返った。
「そうだった!!いつのまにか試練なんて言い出して・・・。
キリュウさん!あなたって人は・・・!!」
そしてキリュウに詰め寄る。驚いた顔でキリュウは言葉を返す。
「ヨウメイ殿、そなたが勝手に言った事ではないか。私のせいなのか?」
「あ、それもそうですね。悪いのは宮内さんでした。
でも試練だなんて・・・そうだ、天罰とでも言えば良かったんだ。」
そう言ったかと思うと、ヨウメイは統天書を開いた。
「来れ、・・・えーと何にしようかな・・・。」
突然止まるヨウメイにこけそうになるキリュウ。そして話し掛ける。
「あのなあ、ヨウメイ殿・・・。」
「待ってくださいよ。1つ大きなのをやって、それで今日はおしまいにしようかと。
花織ちゃんたちを待たせても悪いし。」
その言葉にほっとしたようなしないような顔の出雲。
他のみんなは黙ったままそこに立ち尽くしている。
花織は小声で太助に尋ねた。
「七梨先輩、一体何があったんですか?出雲さん、楊ちゃん達に何したんですか?」
「よくわかんないけど、かなりこけにされたと言うかなんと言うか・・・。
とにかく、それで二人とも怒っちゃって、試練みたいなのを与えているわけだよ。」
「そうなんです。せっかく二人とも仲直りしていたのに出雲さんが・・・。
でも、今はなんだか仲良くやっているみたいで、良かったですわ。」
シャオの最後の付け足しに、“・・・”といった顔でシャオを見る面々。
そんな事も全く気にとめず、ヨウメイは相変わらず考えている。
「それならヨウメイ殿、早く終わらせてしまおうではないか。」
「ちょっと待ってください。えーと、溶岩につける・・・いまいちかなあ。
水深一万mに放り込む・・・めんどくさそうね。えーと・・・。」
ヨウメイの恐ろしい言葉に出雲はあわてて立ちあがったかと思うと、すぐさま土下座し始めた。
「す、すいません!!この通りです!!お願いですからもう勘弁して下さい!!
も、もう二度とあんな軽はずみな行動とかはとったりしません!!
ちゃんと考えて行動します!!太助君達にも迷惑をかけないと誓います!!
だから、だから、もう許してくださーい!!!」
そのほかの面々は、ヨウメイの突拍子も無い案に、ぴしぃっと固まっていた。
土下座する出雲を見て、キリュウが冷ややかに告げる。
「宮内殿、一度くらいは死ぬ覚悟で挑んでみたらどうだ?
あれしきの事で投げ出すのはたるんでいる証拠だぞ。」
「で、でも、いくらなんでも死んでしまっては・・・」
「それも試練だ。耐えられよ。」
「う、うそでしょう!?」
出雲が悲痛な叫び声を上げたところで、ヨウメイが声高らかに叫んだ。
「竜巻に乗って空中散歩!これでいきましょう!!」
ヨウメイの案にぽんと手を打つキリュウ。
「うむ、なかなかに良い試練ではないか。さっそく実行しよう。」
「キリュウさん、試練じゃなくて天罰ですってば。さてと、来れ・・・」
「ま、待ったヨウメイ!!」
竜巻を呼び出そうとするヨウメイを太助が止めた。それにヨウメイが振り返る。
「何ですか、主様。用事なら後にしていただけませんか?」
「あ、あのさ、いくらなんでも宮内出雲が死んじゃうだろ。だからもうよせって。」
太助に続き、ほかのみなも口々に言った。
「太助様の言う通りですわ。いくらなんでもそこまでするのは・・・。」
「そうそう。無料でパンがもらえなくなっちゃうだろ。せっかくあたしが教えてやったのに。」
「いつも僕達のお世話をしてくれたりする、気の良いおにーさんなんだよ。」
「楊ちゃん、何でもやりすぎは良くないわ。
さっきだって、キリュウさんが危うく死にかけたじゃない。」
「ゆかりんの言う通り。ここはわたし達に免じて、ね?」
「普段は確かにいやな奴だけど、いなくなったらやっぱさびしい。
そう思わない?キリュウちゃん、ヨウメイちゃん。」
「野村先輩、それじゃ説得になってませんよ。
楊ちゃん、出雲さんはそりゃあうっとおしい時もあるかもしれないけど、
シャオ先輩を追っかけて、購買のバイトまでしだしたところくらいは感心してやらないと。」
「あのね、じょーちゃん・・・。二人とも聞きなさい。
いずぴーは、お饅頭とかをくれたりする、あたしの大切な人なの。
だからこれ以上やろうってんなら、あたしも容赦しないから。」
途中からだんだんわけがわからなくなってきたキリュウとヨウメイ。
しかし、しばらくして納得したかのようにうなずいた。
「みながそこまで言うのなら仕方がないな。宮内殿への試練はもう終えることにしよう。」
「キリュウさん、だから試練じゃないんですって。
まあいいでしょう。いずぴーさん、これからはほんとちゃんとしてくださいね。」
「い、いずぴーさん・・・。」
ヨウメイの呼びかけに面食らった顔になる出雲。
返事がないことに対して、ヨウメイがきりっとした顔で言った。
「いずぴーさん、返事は!!」
「は、はい!これからはちゃんとします!!
でもヨウメイさん、いずぴーさんってのは・・・。」
「なんですか、何か文句でもあるんですか!?」
「い、いえ、ありません!!」
“よろしい”といった感じで出雲を見るヨウメイ。
キリュウはぽかんとしてヨウメイを見ていたのだが、
ほかのみんなは笑いを必死にこらえていた。
「いずぴーさんだって。やっぱり楊ちゃんて違うね。」
「ほんと。あの出雲さんに向かって・・・。」
そしてなんとか購買部での騒ぎが収まり、太助達は学校を後にした。

≪第五話≫終わり


≪第六話≫
『紀柳と楊明の和解』

帰り道、たかし、乎一朗、翔子と別れた後、とんでもないことになっていた。
「ええーっ!?今日家に泊まりに来るって!?」
驚きの声を上げる太助。それに花織が笑って答えた。
「ええ、もう三人で決めたんです。楊ちゃん歓迎パーティーをやろうって。ね?」
花織の呼びかけに熱美が答える。
「そうなんです。せっかく同じクラスの生徒になったんだから。」
更に続けてゆかりんが言う。
「なんといってもあたし達の親友だもん。それくらいはしないと。」
三人の笑顔に、ヨウメイは少し赤くなりながらも、うれしそうに言った。
「花織ちゃん、熱美ちゃん、ゆかりん・・・。ありがとう。
私とってもうれしいわ。」
しかしそこですかさずルーアンが反発した。
「あのねえ、いきなりそんな大勢で押しかけられちゃ迷惑でしょ。
だいたい、どうしてたー様の家でやることになるのよ。」
ヨウメイ達がしゅんとなる前に、シャオがルーアンに答えた。
「だって、今日はヨウメイさんにお料理を教えていただく約束ですもの。
それにちょうど良いじゃないですか。大勢のほうが楽しいですわ。」
「シャオリン、あんたねえ・・・。」
「ルーアン、俺は全然気にしてないしさ。
それに三人がやりたいって言うんならその気持ちを尊重しないと。
ヨウメイにできたせっかくの親友なんだしさ。」
太助の言葉にやれやれとうなずくルーアン。
シャオもヨウメイ達も喜んで“ありがとう”を告げた。
「ところでキリュウさんはどうなんですか?別に良いですよね。」
「良いも何も、私は全然気にしておらぬぞ。みなが楽しいのならそれで良いではないか。」
「さっすが。じゃあ決定ですね。
今晩は七梨先輩の家で『楊ちゃん歓迎パーティー』です!」
一応キリュウ自身は、“明日は学校があるのに大丈夫なのか?”と小声でつぶやいていたのだが、
もちろんそんな声は誰に聞こえるわけでもなく、お喋りが交わされ続けた。
途中で花織、熱美、ゆかりんはそれぞれの家に帰り、
お泊まりセット等を持って、七梨家に後からやってくることとなった。
ライバル関係などがすっかり無いかのように、楽しく喋る精霊4人。
太助は(良かった。もうこれでいつものように普通の生活が送れそうだな。)
と、安堵の念を浮かべていた。そうこうしているうちに家に到着。
五人そろって元気よく言った。
「「「「「ただいまー!!」」」」」
「よっ、お帰り。お、今日はヨウメイは帰ってきたんだな。」
那奈が五人を出迎える。那奈の姿を見たとたん、ヨウメイはうれしそうに言った。
「那奈さん、今日ここで私の歓迎会があるんです。ぜひ一緒に楽しみましょう。
さ、シャオリンさん、早く支度してきてください。料理をお教えします。」
「はい、わかりましたわヨウメイさん。」
そしてシャオは自分の部屋へ、ヨウメイはキッチンへと駆け出していった。
「歓迎会だって?どういう事だ、太助。」
「後で説明するよ。姉貴はリビングで待っててくれ。」
残りのみながそれぞれの部屋に戻る。と思ったら、すぐさまリビングに集合した。
ヨウメイとシャオはもちろんキッチンで料理を作っている最中である。
リビングでは太助、那奈、ルーアン、キリュウが座っていた。
まず太助が那奈に説明する。
「・・・というわけなんだよ。分かった?」
「うんうん、よくわかった。それで、歓迎会はいつ始めるんだ?」
「それは・・・」
太助が言いかけると、呼び鈴が鳴った。
太助は立ち上がって・・・の前に、ヨウメイがすばやく駆け出していった。
「よほどうれしいんだな、ヨウメイのやつ。」
「ふむ、これでヨウメイ殿も柔らかくなるだろうな。」
リビングでそんな会話が交わされる中、玄関のドアが開けられた。
「楊ちゃん!エプロンつけてお出迎えなんて、はりきってるわね。」
「はっ!ごめんね、慌ててたもんだから。
いらっしゃい、花織ちゃん、熱美ちゃん、ゆかりん。さ、あがって。」
「「「おじゃましまーす!」」」
三人がリビングへとやってくる。ヨウメイは再びキッチンへと戻った。
「いらっしゃい、三人とも・・・って、その荷物、何?」
太助が驚いてたずねる。無理もない、大量の物を三人とも持っていたのだから。
花織が持っていたのは沢山の遊び道具。
熱美が持っていたのは沢山の花。
ゆかりんが持っていたのは沢山のお菓子。
三人とも、遊ぶ気満々、騒ぐ気満々である。
「七梨先輩、今日はばっちり楊ちゃんを歓迎しましょうね!」
「名づけて、『楊ちゃん鶴ヶ丘中学校編入記念パーティー』です!」
「ますます友情が深まること間違いなし!楽しくやりましょう!」
三人の元気な声に圧倒されながらも、太助はとりあえず座るように促した。