無事に全てが終わり、明日には日本へ帰ろうかという事に。
しかしその前夜、二人きりで何人かと話をしておきたいとヨウメイが申し出た。
もちろんそれは個人個人に密かに告げられて、それぞれは承諾した。
その日は、シャオ、ヨウメイ、リーフェイという、
他では見られない共同作業で作られた料理で盛り上がった。
とにかく絶品絶品の連続。皆はルーアン並にがつがつと食事をするのだった。
「感動だ〜。」
「むぐ。どうしたの楊ちゃん。」
「だってだって、がつがつとした食事が〜。」
「そりゃあ、これだけ凄かったら・・・。」
「そうじゃそうじゃ、ふぉっふぉっふぉ。」
目をうるうるさせているヨウメイに、花織は口一杯に頬張りながら答える。
横からのリーフェイの言葉にも、彼女はうんうんと頷いたのだった。
「でも、実際私とシャオリンさんでこれくらいはできるんだけどね。」
「へえ〜、そうなんだ。」
「ちょっと待った、手伝った儂の立場は?」
「ただ野菜を切ってただけでしょうに。」
「何を言う。ちゃんとヨウメイが言った、美味しくなる方法で・・・」
「あんなの、主様だって出来ます。」
引き合いに出される太助。しっかり聞こえていたのか食べる手を止めた。
「ヨウメイ、そりゃどういう意味だ?」
「悪い意味じゃ無いですってば。」
「そうじゃ!あの切り方は難しい、しかし、じゃからこそ・・・!」
何やら白熱した議論が続けられる。
しかしそれも一部の者だけであって、他の面々はそれにお構いなしに食していた。
食事終了後、皆が適当にくつろぐ中、ヨウメイは話をしたかったうちの一人と外にいた。
それは花織。まずは親友である花織と色々話したいと思ったのである。
月の光がてらてらと草木を照らす中、二人は家からちょっと離れた場所に座っていた。
「で、楊ちゃん。あたしになんの話があるの?」
「とりあえず聞きたい事があるんじゃないかって。私が統天書を完全に操れ無い事について、とか。」
「そう、そうだよ!今まで楊ちゃんってシャオ先輩やルーアン先生みたいに、
それを完璧に使ってるものとばかり思ってた。でも実際は違ってて・・・どうして?」
「まず、本当に力のある存在は、力のない存在がいる次元にいて良いものじゃ無いの。
理由は言わずとも分かると思うけどね。」
「デルアスみたく、力で支配しようって考えるから?」
「その通り。平和を守ってるんだ、なんてのはたてまえ。
完璧な存在じゃ無い限り、絶対に支配に走るもの。そんな例が統天書にたくさん載ってるよ。」
「うーん、でも楊ちゃん達みたいな力を持ってる人は・・・。」
「私はただの精霊。完全に使える力といっても自然現象を操るだけ。
人間から見ればすごいものだろうけど、この広い世界で考えればそんなのは取るにたらないものなの。
今思えば、全ての現象を操れるったってその力を使った時点でどんな代償が来たやら・・・。
あんなのは因果を狂わせるようなものだからね。」
「じゃあ同化は?」
「だからそれなりに代償があるでしょ。それに多分、あれで全開の力を使おうとすれば、
必ずその時点でなんらかの障害が来るはず。もうひとついうと、
あれが何故使えるかっていうと、他に不自然に生じた絶大な存在を退ける為なのかもね。」
「ちょっと待ってよ、そんな無茶苦茶な役割をなんで楊ちゃんが!」
「いや、これはあくまでも私の予想だってば。デルアスの場合は統天書が関与してたから。
もっとも、異次元から変なのがまた来ないとも限らないけど。」
「変なのって?」
「神を名乗ったり、精霊を統治する者だなんて名乗ったりする奴。」
「なんでよ。別に本物が来たって不思議はないじゃない。」
「おかしいじゃない。なんでそんな大事な役割を担ってる人がこんな場所に用があるのよ。
精霊ってたくさんたくさんいるのよ。だからねえ・・・。
もっとも、一瞬来てすぐに帰るってのなら分かるけどね。」
「けど楊ちゃん、神だって万能じゃ無いと思うけど?」
「そりゃあねえ、そう思うのも分かるけど。それでもね・・・ちょっと待って。」
会話を途切れさせて、ヨウメイは統天書を捲り出した。
神に関する事柄で何か気になる事があったのだろう。それはすぐに見付かった。
「あった・・・神自ら精霊達に助けを求めた例が・・・。」
「し、七梨先輩を?」
「花織ちゃん、べたなボケは止めてくれない?」
「楊ちゃんがいっつもやってるのを真似しただけだもん。」
「いっつもなんてやって無いよ!それに私ならもっと面白いもん!」
「言ったわね!それじゃあ今度・・・って話がそれてるじゃない!」
「誰の所為よ・・・。えと、ともかくそういう例があるの。
うんうん、確かに神様を完璧に信用しちゃあいけないねえ。
それでもやはりよほどの用事だと思うよ、来る時は。
もちろんすぐさまに案内したり説明したり出来るようになってから。
そうじゃなければ、堕神・・・って、堕神の方がましだったりして。」
「そこまで言う?」
「完璧さとか力では堕神の方が上って例はたくさんあるだろうからね。
もっともその辺はしっかりしてると思うよ。まがりなりとも神様だからね。」
「けど・・・。」
「第一、なんで完璧にしっかりしてたら私達はこんな目に遭ってるのよ。」
「あっ!そうか、そうだよね。なんだ、やっぱり万能じゃ無いじゃない。」
「そういことも用心して・・・ってのは私のたてまえに過ぎないけど、とにかく同化の術はこのまま。」
「別に安心していいよ。今度今回みたいな事になってもあたし達がまた頑張るから!」
「・・・あんまりそういうのは止めたいな。」
「どうして?信用できない?」
「そうじゃなくて!親友を危険な目に遭わせられないでしょ!!
・・・なんか話がそれちゃってるな。」
「なんで楊ちゃんが統天書を完璧に使えないかって事。
とりあえず使えたら大変な事になるってのは、この前の説明でもわかった。
でも、更になんで、楊ちゃんがそんな書物を持ってるのかって事が気になる。」
「それは・・・」
「言わなくていいよ。これについては、力の洞窟に行く前に少し話題に出たしね。
・・・ねえ楊ちゃん、どうして統天書で・・・っていう事にしたの?」
「私がした訳でも無いんだけどね。どのみち今となっては・・・。」
「まあいいよ。で、なんで完璧に・・・って、それは完璧に使えたら大変な事になるからか。」
「そういう事。私は神様じゃ無いからね。
でもね、知識を教えるっていう点では今のままで十分。」
「力は?」
「自然現象で十分。あとは、おいおい必要なものを編み出していくよ。」
「なんで自然現象なの?」
「口で説明するより、実際に体験してもらわないと分からないものもある。
それを説明するのに、自然現象ってのはうってつけなの。」
「他に理由があるんじゃないの?」
「・・・実を言うと、私は空天だから。」
「実を言わなくてもそんなの分かってるじゃない。」
「まあ確かに。普段の様相を見れば分かると思うけど、私は自然というものと密接してるの。」
「言われてみれば暑くてもだれてないし寒くても震えて無いし・・・。
で、なんで空天と自然が密接してるって事になってるの?」
「そこでなんでって言われると困っちゃうなあ。深くは考えずに納得してよ。」
「・・・実は楊ちゃんって自然神なの?」
「ま、まさか!」
「冗談だってば。なるほどねえ、空天だから自然と密接な関係が。」
「そう。まあ、広く浅くっていう程度のものだけどね。
風天とか火天とかその専門にはかなわないけど、一般というくらいのものなら断然詳しいってわけ。」
「ちょっと別の疑問になるけど・・・絶対零度とかって自然現象なの?」
「無理にそれが自然に起こらずとも、その状態になるならそれは自然現象に含まれるの。」
「そっかあ・・・。で、また戻って悪いんだけど、神様は完璧じゃ無いの?」
「うん、そうだと思う。」
「じゃあ何を信じたらいいかわからないじゃない。
それに、統天書を完璧に操れないんじゃ・・・。」
「それはまた違うの。統天書に関しては完璧ってひとが絶対居るはずだからね。」
「どうして絶対って言い切れるの?」
「そうじゃなければ、こんな物凄い書物を・・・待って、
もしかしたら居るのかどうかもなんか怪しくなってきたかも・・・。」
「ほらやっぱり。楊ちゃんも大変な物を持つようになったねえ。」
「うっ、そうだよねえ・・・。でも、無茶苦茶に利用しない限りは、
大切なあらゆる知識が載っているっていう優れもの。
だから、私は別に、もう気にして無いから。」
「それで得た知識で人に教えて快感を得るわけだね。」
「そのとーり。」
「正直だねえ・・・。うん、とりあえずこれくらいで終わりにしようよ。」
「他に訊きたい事は無いの?」
「・・・一応ひとつだけ。」
「うん。」
「楊ちゃんがどんなになっても、あたしもゆかりんも熱美ちゃんも、
大切な親友で居るんだからね。それだけは忘れ無いでよ。」
「花織ちゃん・・・。うん、分かった、ありがとう。」
しっかりと手を取り合う。お互いに笑い合ったところで、話の時間は終わりとなる。
そして、二人で並んで歩いて家に戻ったのだった。
やはり皆が騒いでいる中、今度ヨウメイは太助を密かに連れ出した。
つまりは、二人目の話をしておきたい人物である。
花織と話をした場所と同じ場所に、ヨウメイと太助は腰を下ろした。
「で、話ってなんだ?」
「まず率直に訊いておきます。主様は、私にこれからどうして欲しいですか?」
「どうして・・・ってどういうことだ?」
「私が居るという事自体、多大なる迷惑をかける事になるかもしれません。
事実、今回のこれが正にそうです。だから・・・」
「だからなんだってんだ。空天書に帰ったらとかいう事でも言うつもりか?」
「・・・その顔だと、反対の様ですね。」
「当たり前だ!前も言ったと思うけど、ヨウメイは俺の大事な家族なんだ。
それに愛原達が絶対に悲しむ。親友が居なくなるって事に。」
険しい顔で迫る太助に、ヨウメイは“ふう”と息をついた。
「えへへ、なんとなくそう言ってもらえる気がしてたんです。」
「当たり前だろ、たく・・・。」
「それでは更に本題に。」
「は?」
「何驚いてるんですか。知識を教えるって事に関してですよ。」
「あ、ああそうだったな。けど、これからは講義時間を設けて色々とするって・・・。」
「その事ですが、ひとつ尋ねたいのです。
今まで通りちょこちょこの事を教えていくか、
もしくは守護月天を宿命から解き放つ方法を見つけるか。
どちらがいいですか?」
「なっ・・・。でも、守護月天を・・・って探すのに何年もかかるんじゃ?」
「いえ、運良く見つけられるかもしれません。
ただ、それを探すとなると他の事は教えられなくなりますが。」
決意を固めた様な目のヨウメイに太助はたじっとなった。
確かに統天書にその方法が載っているのは確実であろう。
見つけたならば絶対にシャオを救う事が出来る。しかし・・・
「ヨウメイ、もしそれを探そうとするとなると一体どうなる?」
「何がですか?」
「普段の生活とか。」
ここでヨウメイは顔をしかめた。そしてゆっくりと喋り出す。
「まず・・・普段主様達と顔を合わせるのは食事時間くらいになります。
それから学生も止めなければなりません。ずっと部屋にこもって統天書を調べる事になります。」
「・・・そんな生活、耐えられるのか?」
「でも、主様が知りたいと願うのならば。私は望んで行います。」
「そうか・・・。」
まっすぐなヨウメイの瞳を見て、太助は改めてここで知った。
主が知りたいと願う事を教えるのが彼女の生き甲斐なのだと。
もっとも、それも今までは事情に寄っただろう。
しかし今は、同化の後の状態から復活して、ふっきれたようであった。
「その前に・・・ヨウメイはどうしたい?」
「私は・・・なんて事は言えません。」
「どうしてだよ。」
「だって主様は優しい方ですから・・・。言ったらきっとそっちにするに決まってます。」
「そうか・・・。」
しばらく流れる沈黙の時。そして太助は、意を決した様に顔を上げた。
「ヨウメイ、今まで通りちょこちょこっと知識を教えるのに専念してくれ。」
「主様・・・。でも・・・。」
「シャオを救う方法なら、キリュウから試練を受けてるので必ず見出せるはずさ。
だからさ、キリュウを手伝うって事で協力してくれよ。」
「分かりました。ただ、あんまりお手伝いはできないかもしれませんが・・・。」
「今までやってるので十分だよ。そんなに気張らなくていいって。」
「・・・そうですね、はい。私は主様に色んな知識を教えるのに専念します。」
「うんうん。でも、要は今まで通りの生活をすればいいんだってば。」
「でもとりあえず、講義の時間を週八回設けて・・・」
「ちょっと待った!なんだよその八回ってのは。」
「週七回で足りないでしょう?ね?ね?」
「いや、足りる。」
「くすん、主様の意地悪・・・。しょうがない、やっぱり適当に研究しようか。」
「そ、そうそう。俺だって試練もあるし、空いてる時間とかは自分の好きな事を。」
「となると、結局今までと変わらないんじゃ・・・。」
「いやだから、講義時間は設けるって。それが違うじゃないか。」
「そうですね、それじゃあそういう事で。」
結局のところ、太助が告げたのはヨウメイが心の中で希望していた方向のものだった。
“良く考えれば主様はそういう人だよなあ”などと改めて思ったものの、
ヨウメイは喜んで太助の言った事を受けることにしたのである。
「では、主様から何か訊いておきたい事とかはありませんか?」
「そうだな・・・なるたけ無茶な力は使わない様にしてくれ。」
「それは質問とはまた違うような・・・まあいっか。例えばなんですか?」
「例えば、封印かけてあるのを解いて、とか。なんかあれは納得いかないんだよな〜。」
「心配しなくても、よほどの時じゃ無いと使いませんから。」
「それならいいけど・・・。それと、キリュウと喧嘩すんのはやめろ。」
「何を言うんですか、あれは試練と教授だって言ってるじゃないですか。」
「懲りて無いな、シャオから飯ぬきを宣告されたってのに・・・。」
「うっ・・・でも、やっぱりやる時はありますよ・・・。」
「せめて口喧嘩にとどめてくれよ。後始末が大変なんだから。」
「別に気にしなくても、万象復元でいっぱつですから大丈夫ですよ。」
「そういう問題じゃ無い!見てるこっちはハラハラしてんだ!!」
「冗談ですってば。まあ、なるべくは行わない様にしますから。」
「そうしてくれ。後は・・・。」
なんだかんだと、普段の生活をぐちぐちと注意する太助。
げんなりしながらもヨウメイはそれをきちんと聞いていた。
「・・・とまあ、これくらいかな。」
「うう、人権侵害だあ。人で遊ぶくらいいいじゃないですかあ。」
「良く無い!!」
「せめて宮内さんくらいは許可をくださいよお。」
「・・・うーん、俺がそういうものを許可していいんだろうか。」
「良くないです!遊ばれるのはその人によるんですから!」
「威張って言う事かよ。まあ、しょうがないのかな、性格だから・・・。」
「そうです。」
「堂々とはっきり言うな。ともかく訊いておきたいのはこれくらい。
それから・・・。」
「はい?」
「これからもよろしくな、ヨウメイ。」
「こちらこそ!で、主様。」
「なに?」
「シャオリンさんともっと進展してくださいよ。
花織ちゃんの親友という立場上、そんなに大胆に私は協力できないんですから。」
「わ、分かってるよ。」
「頑張ってくださいねっ。」
最後には御互いにきっちりと握手。そしてにこやかに家に帰るのだった。
そして三人目、ヨウメイが連れ出したのはキリュウである。
すると“空の散歩でもしながらはどうだ?”とキリュウが言い出した為、
飛翔球に乗っての話ということになった。
「それでヨウメイ殿、話とはなんだ?」
「いえ、私からではなくてキリュウさんが聞きたい事があるんじゃないかって。」
「確かにたくさんあるな。特に統天書に関して。」
「やっぱり・・・。という訳で遠慮無くどうぞ。」
だが、勧めるヨウメイにキリュウは首を横に振った。
「別に気にしない事にした。聞いた所で私がどうこうできるものではない。
それに、そんなものを聞く暇があるなら試練について案を求めた方がましだ。」
「なるほど、そうですか。では早速・・・」
「待った待った。別に統天書だけではないぞ、聞きたい事は。」
「と言いますと?」
「以前おおがかりな試練を行ったな?」
「え?ええ、わざわざ遠くまで移動しましたよね。」
「あの時に用いた術。四元素の精霊の力を借りて・・・。
あれの効果がやはり私には分かりかねる。本当に主殿は丈夫になったのか?」
キリュウが言いたいのは、知の洞窟において体験した様々な難関での太助の様子について。
さっぱり効果が無い様に思えたからだ。
「キリュウさん、あの術は間違い無く効果を発揮しているはずです。」
「しかし、聞くところによるとほとんど変わらなかったというが?」
あくまでも譲らない調子のキリュウに、ヨウメイは考え込んだ。
しかし、ほんの少しの後にふいっと顔を上げる。
「それは意図的に危機に陥っているからではないんですか?」
「意図的に?」
「そうです。自ら火に飛びこむような輩を、おもしろ半分にやる輩を、
果たして火の精霊さんは護ってくれるでしょうか?
同じく、穴にわざと落ちるような人を、キリュウさんは護りたいと思いますか?」
「何故私が・・・。」
「そう思うでしょう?本人がそれを望んでるのをわざわざ護る必要は無い訳ですよ。」
「しかし、泥の件は・・・。」
「泥・・・もしかして、主様は溺れたのですか?」
「いいや、溺れる寸前でルーアン殿の陽天心が助けた。」
「それじゃあ確認して無いじゃないですか。溺れてもいないものを助けられませんって。」
「しかし、泥の中を何故すいすいと進めなかった?」
「自ら入ったからじゃないですか?不可抗力で突き落とされたわけじゃあるまいし。」
「・・・そういう事か。つまりは、主殿の意志でその状況に陥った場合は発揮されないと。」
「そうです。家に居る時に、放火されて・・・なんて時は大丈夫です。」
「試練は大丈夫なのか?あれも主殿は自ら受けているのだが。」
「キリュウさんが水を使った試練を行う場合は、水から護るなんてのは無理かもしれませんね。
でも、不慮の事故って場合もあるでしょう?例えば、山登りの途中で沼に落ちたりとか。」
「そうか、そういう場合なのか・・・。」
「ええ。そうじゃないと、都合が良すぎますからね。
もっとも、そのままでも十分都合が良いと思いますが。
例えば、思いがけない罠にはまって火あぶりにされそうになったとか。」
「そんな事が起こりうるのか?」
「やだなあ、例えですってば。・・・とりあえずこんなもんでいいですか?」
「ああ、納得した。そうか、そういう事だったのか・・・。」
頷いたかと思うと、キリュウは俯いたまましきりに呟いていた。
話が途切れてしまった事にヨウメイは苦笑していたが、
他にする話といえば試練関連のものしか残っていないので、特に呼びかける事はしなかった。
「細かい事は、これからの生活で話していけばいいかな・・・。」
ぼんやりとそんな事を考えながらヨウメイは、
横で呟いているキリュウをちらりと見ながら月光浴を楽しむのだった。
翌日、ここに来た時と違って、みなは飛翔球に乗った状態で家の外に居た。
全ての用事が終わった今、後は日本に帰ればいいだけなのである。
「この数日、久々に充実していたわい。また今度、くれぐれも“遊びに”くるがいいぞ。」
「分かってますよ。でも大丈夫です、同化を使う事などもう無いでしょう。」
「それを願うわい。」
御互いに大笑いしながら言葉を交わすリーフェイとヨウメイ。
さながらそれは、別れの挨拶でもあった。
「それではの。帰りはすぐにこの空間から出られるはずじゃて。」
「色々御世話になりました。」
「じーさん、また話に付き合ってやっからな!」
「機会があればまたお会いしましょう!!」
「お料理が一緒に出来て楽しかったですわ!」
「とにかくありがとうー!」
それぞれが口々にリーフェイに向かって叫ぶ。
ヨウメイが代表で一礼した後、飛翔球は日本へ向けて滑り出した。
運転は花織。並ならぬ速さで去って行くそれを、リーフェイはじっと見送っていた。
「それにしてもヨウメイに親友ができるとはな・・・。
いやはや、やはり世の中というのは面白いものじゃ。」
ひとり呟いて笑ったかと思うと、彼は家の中へと入っていった。
それを統天書でしっかりと見ていたヨウメイは、飛翔球の上でくすっと笑っていた。
「世界というのは・・・不思議なものなんですよ。」
「どうしたの?楊ちゃん。」
「まだ統天書で何か不都合が?」
運転してはしゃいでいる花織についていけないのか、熱美とゆかりんがヨウメイの傍にやってきた。
「なんでもないよ。それより楽しい運転だねえ♪」
呑気に口笛を吹いているヨウメイとは対照的に他の皆はやめてくれと言わんばかりの顔である。
「どこが楽しいのよ。」
「そうだよ。試練の後も戦いの後も、皆非道い目に遭ったんだから。」
切実にその時の事を語る熱美とゆかりん。
だが、それを聞いてヨウメイは残念そうな嬉しそうな笑みを浮かべた。
「其の時は両方とも私は気絶してたり眠ってたりしてたもんねえ。残念。
でも、花織ちゃんがここまで飛翔球を操れるようになったってのは私としても嬉しいよ。
花織ちゃん、もっと頑張れ〜!」
「おっけい楊ちゃん!」
「「頑張らなくていいー!!」」
余計な声援を飛ばしたヨウメイに対し、熱美とゆかりんが叫ぶ。
しかし、その次の瞬間には二人はそれどころではなくなった。
もちろん二人に限らず、ヨウメイと花織以外は乗っているのがやっとという状態なのだが。
しっかりと“静かなる誰にも見付からない侵入方法”で飛びつづけ、
皆は無事(?)に日本に、七梨家に戻って来た。
くたくたな状態ながらも、それぞれはやはり七梨家にて休息を取る。
また明日からは、今まで通りの生活が送れそうである。
≪第二十七話≫終わり