「水曜日」

朝日がようやく見え始めた頃、街中を走る一台の車があった。
普段なら人でにぎわうこの通りも、さすがにこんな早朝には人影がほとんどない。
それを良い事に、その車は我が物顔で道路を走っていた。
スピードは時速90キロは軽く出ていただろう。まるでそこが高速道路であるかのように。
「もっと、もっととばしてください!」
助手席に乗っている緑色の髪の女性が運転手に向かって叫ぶ。
「あまりとばすと危ないんだから。ただ乗ってるだけのくせに黙っててくれよ。」
反論した運転手は茶髪の男性。そう、タカーシとカオリーノである。
昨日のシャオリーノの命により、タスケ―ドの隠れ家に向かっているのである。
ルアーヌをさらってくるために・・・。
「ちぇー、でもいいわ。あたしがルアーヌさんを連れて帰って、シャオリーノ様におもいっきり誉めてもらうの。
その時にタカーシさん、あなたをおもいっきりけなしてやりますからね。」
カオリーノの未来予定案を聞くと、タカーシは仕方なくアクセルを踏んだ。
車はさらにスピードを増し、カオリーノはおおはしゃぎだ。
それを横目でちらっと見たタカーシは、
「やれやれ、なんで影武者のカオリーノちゃんなのかなあ。くそ、マーヴェのやつ。」
文句を言うタカーシにカオリーノはさらりと応えてやる。
「だって、イズーモさんは暗殺のお仕事。シャオリーノさんとキリューネさんは、
力を乱用して動くのは厳禁ですからね。それにマーヴェさんはこんな戦闘をするタイプじゃないですもん。
というわけで、あらゆる武術の達人であり、シャオリーノ様に信頼されているあたしの出番てわけですよ。」
その答えにもまだ不満そうな顔をして、タカーシはつぶやく。
「だったら俺1人で十分なのに。昨日の失敗をばねにして今度こそは!という事を分かってないんだから。」
「あれだけへぼへぼにやっといて、そんなのを分かれってのはお門違いってもんですよ。
マーヴェさんは確かにそんな事を言ってましたけど、あれはシャオリーノ様を説得するための嘘ですよ、絶対。
タカーシさんはおとなしく、あたしの手足となって働いてくれりゃいいんです。」
「・・・・・・。」
きつい返事に、タカーシは返す言葉がなかった。
実はダークムーンの組織のメンバーとしては、タカーシのほうが先輩なのだが、
どうもタカーシはカオリーノに勝てないでいた。
主であるシャオリーノの親衛隊長とは、すでに名ばかりの状況に陥っていた。
そのまま2,3時間ほど車をとばしつづけ、隠れ家の入り口があるゴーストタウンに到着した。
かのように思えたのだが・・・。
「ちょっと!ここって違うんじゃないんですか!?ほら、あんなに人がいるじゃないですか!」
「あれ、おっかしいな。道間違えたのかな・・・。」
大声でタカーシにまくし立てるカオリーノ。
無理もない。ゴーストタウンのはずが、大勢の人でにぎわう、活気あふれる町に2人はいたのだから。
「どうするんですか!早く行ってルアーヌさんを連れて帰らないと、シャオリーノ様に大目玉ですよ!」
「わ、わかったよ。でもなあ、ここで間違いないはずなんだけどなあ・・・。」
タカーシが地図を見直す。実は隠れ家のあるゴーストタウンは、この町に隣接したところにある。
しかし、この町とそこで急激に気候が変わっている。ゴーストタウンは砂漠気候。この町は普通の温帯気候。
何故そうなっているかは後ほど説明することにしよう。ともかく、2人はその事にまったく気がついていないのだ。
「間違いないじゃなくて、そのつもりになってるだけなんじゃないんですか!?
タカーシさんみたいな方向おんちに任せたのが失敗だったのよ―!!」
勝手に方向おんちと決め付けて泣き叫ぶカオリーノ。
もはや聞き慣れたのか、当のタカーシは怒ることもなく言った。
「はいはい。そんじゃ今度はカオリーノちゃんが運転してくれよ。」
するとカオリーノは、タカーシを“きっ”と睨んで言った。
「なに言ってんですか!あたしはまだ無免許なんですよ!道路交通法違反で捕まりたくありません!
タカーシさんはあたしの手足じゃないですか!あたしの言う通りに運転してりゃいいんです!」
言うことが無茶苦茶である。さっきよりも気の抜けた顔でタカーシがそれに応える。
「じゃ車に乗ってくれ。出発するから。」
「当たり前です!さっさと出してください!」
2人が車に乗り込むと、カオリーノの指示にしたがって車が動き出した。
そして隠れ家からどんどん遠ざかってゆく。
2人が去ったあと、2人のやりとりを見つめていた1人の女性が姿を現した。
黒い髪の毛に、日に焼けた肌。カウボーイのような格好に、サングラスをかけていた。
「あの2人、ひょっとして・・・。こりゃ急いだ方が良いかもな。」
女性はそれだけつぶやくと、町の人ごみの中に消えていった。
ある人物に大切な物を届けるために・・・。

「ちょっとたー様、どこまで歩くのよー。」
「我慢しろ、なるべくあの付近から遠ざからないといけないんだから、」
今あたしはたー様と、薄明かりの中、地下道を歩いている。別の出口を開けるために。
朝早く起きて早々に朝食を済ませたかと思うと、さっそくこんな朝の散歩をさせられてるってわけ。
でもねえ、一体どこまで歩きゃいいのよ。
「ねえ、ちょっと休みましょうよ。あたし疲れちゃった。」
「なんだって?しょうがないな。」
たー様と一緒に地面(ここは地下だけど)に腰を下ろす。
裏切られた気持ちでいっぱいのあたしは、たー様に尋ねた。
「たー様、昨日100平方キロメートルの広さって言ってたわよねえ。」
「ああ、そうだよ。それがどうかしたのか?」
すかさずそこでつめよる。
「100平方キロメートルの部屋が広がってるんじゃないの?だますなんてひどいわよ。」
するとたー様は驚いた顔で言った。
「おいおい、それじゃ地下都市を作ったほうがいいって。
あの隠れ家みたいなのが、あちこちにあるんだ。
それらを全部合わせて100平方キロメートル。もちろん道も合わせてな。」
あきれたわ。そんなもんごたいそうに計算してんじゃないわよ。
だいたいそれって、ただの地下室って言うんじゃないの?
「もっとも、ドーエン社は地下都市を作る計画も立ててるらしいけどな。地上とおんなじの。」
「へー、そう。」
勝手に頑張って作って頂戴。太陽の光の無い地下の生活なんてまっぴらだわ。
「さてと、あんまりゆっくりもしてられないからな。そろそろ出発するぞ。」
「ええー?もう?」
嫌そうな声をあげると、たー様はやれやれを肩をすくめた。
「ふう、わがままなやつだな。待てよ、確かこの辺に・・・。」
たー様が辺りの壁を手で探っていると、白いスイッチが現れた。
それを押すと壁が自動的に開き、自転車が姿を現した。
「1台だけか。ま、非常用だししょうがないかな。」
たー様はその自転車を取り出してそれにまたがると、あたしに立てというふうに手で合図した。
「後ろに乗れよ。これなら歩くよりましだろ。」
「うん、わかった。」
お尻が痛くなるけど、まあしょうがないわね。それにしてもなんで自転車なんだか・・・。
よーし、しっかりたー様の体に抱きついちゃおうっと。
「・・・あのさ、あんまりひっつかないでくれる?運転しづらいから。」
「いいじゃないの、そのほうがあたしが落ちたとき分かるってもんよ。」
たー様は少し困ったような顔をしていたけど、
「それじゃしっかりつかまってろよ!」
「きゃあっ!」
たー様が猛スピードで自転車を漕ぎ出した。
歩くより断然いいわ。たー様の背中に顔をうずめて、ルーアンったら、し・あ・わ・せ。
数十分こいだところで、たー様が自転車を止めた。あーん、もう終わりなの?
「ちょっと休憩。さすがに疲れたあ。」
たー様が地面に座りこんだ。そりゃああんなスピードでずっとこいでりゃあね。
「お疲れ様。たー様、あとどれくらいでつくの?」
「うーん、あのスピードで後10分か20分てところかな。もうすぐだよ。」
「・・・・・・。」
ちょっと、そんな距離を歩いて行くつもりだったの?この自転車が見つかって良かったわあ。
「どうしたんだ?」
「い、いえ別に。それより、その目的地はどこの地下にあたるの?」
少し考えた後にたー様は答えた。
「ルーアンを助けた町、つまりドーエン社がある町をサウスタウン。
そこから北に15キロほど行った所にノースシティがある。そこのどっかさ。」
「ねえ、ノースシティって言うからには都会なんでしょ?」
「もちろん、サウスタウンとは比べ物にならないくらいにね。
サウスタウンはドーエン社だけで成り立ってるようなものなんだ。だからあんなでもタウン。
しかしノースシティは違う。たくさんの会社が集まって競争し合っている。
中にはドーエン社より大きなものもあるからな。とにかくすごい都市だって事さ。」
会社で町か都市か区別されてるの?なんかそれって違うんじゃ・・・。
「もちろんすごいのは会社だけじゃない・・・と、これはまた着いてからゆっくり話してやるよ。
百聞は一見にしかずってね。さてと、そんじゃ出発するか。」
「あ、まってよ。」
たー様の後に続いて、急いで自転車の後ろに座る。わーい、また抱きついちゃおうっと。
「ルーアン、そんなにしなくても落ちやしないって。」
「いいじゃないのよ。あたしはこうしていたいの。」
「やれやれ。ま、嫌われるより良いか。それじゃ行くぞ。」
「ええ。ノースシティへ向けてしゅっぱーつ!」
相変わらずの猛スピードで、自転車は進んでゆく。
そのうちに、なにやら上のほうが騒がしくなってきた。
「なんかゴォーとか聞こえない?」
「地下鉄が走ってるからな。ここはもう、ノースシティの真下だぜ。」
地下鉄がこの上を走ってるの?てことは、この道ってよっぽど深いところに作られてんのね。
みんなと一緒に初めて地下鉄に乗ったときは、そりゃびっくりしたもんよ。
地面の下を電車が走るなんてね。でもそれよりさらに下をあたしは走ってんのね。
ちょっぴり得した気分。
しばらくして騒音も聞こえなくなり、一つの扉が見えてきた。
「ようやく到着したぜ。ここまで約2時間てとこか。」
「自転車を使ったからでしょ。よくもまあ、歩いてこようなんて思ったわね。」
「だから早起きしたじゃないか。というわけで昼寝、じゃなかった朝寝の時間でも取るか。」
「さんせーい。あーんもう、ルーアンくったくたー。」
「後ろで乗ってただけのくせに・・・。まあいいや。さ、入れよ。」
たー様がドアを開けると、そこには以前見たような部屋が広がっていた。
「ねえ、まさかもとの場所に戻ってきた、なんてことはないわよね?」
あたしがそう尋ねたのも無理ないわ。だって、まったくおんなじ部屋だったもの。
家具の形も、配置まで全部いっしょ。これって・・・。
「そんなわけないだろ。ここはしっかりと、ノースシティの地下なの。
地下の部屋は、どれも同じ造りになってるんだ。アパートみたいなもんだよ。」
たー様は違和感無しに言うけど、なんか別の場所に来たって気がしないわねえ・・・。
「まだ実験段階なんだから文句言うなって。さあ寝るぞ。」
「あ、ちょっと待って。寝る前に一つ質問していい?」
しかしたー様はベッドの上にねっころがった。もう、せっかくルーアンが質問してるのにー。
「話なら寝ながらする。だからルーアンも横になれよ。」
「そんなんじゃ聞いてくれそうも無いから、起きてからにするわ。おやすみ、たー様。」
「そうか?おやすみ。」
たー様が寝る気まんまんならこっちも寝ないとね。
もう、二度寝するぐらいなら、あんなに早く起きる必要なんて無かったのに・・・。
そしてあたしは眠りに入った。深い深い眠りに・・・。

「ああ、まただめだ!ちくしょー、やっぱり難しいな・・・。」
あたしは今、黒い筒とかくとうしている。といっても闘っているわけではない。
あらゆる物質と、考えうる限りの反応を試してみて、黒い筒の中に秘められた力を、
少しでも取り出せないかと研究している最中なんだ。
星光の輪、大地の扇は使用者がいるため、力の抽出はたやすかったのだが、
この道具、黒陽の筒にはその人物がいない。
「タカーシがあの時ちゃんと連れ帰ってたら、ここまでてこずってないのに・・・。
むかつくから今度ぶん殴ってやる。」
文句を言いながら実験を試みる。
今度はオブシディアンに人工太陽光をあて、
それから発せられた波動を・・・え?そんなの意味無いんじゃないかって?
うるさいなあ、因果律の全てを分かってないようなやつが口出しすんな。
因果律の説明?誰がそんなもんするか。あんたらに理解できるような代物じゃないよ。
とと、そんなもんは置いといて。
さっきの波動を、電磁波の反発を利用したマントに反射させ、そして・・・
「マーヴェ様!!」
「うわっ!」
突然ドアが開き、部下の一人が入ってきた。
そのショックで、せっかくの装置が崩れてしまう。
「お・ま・え・なあー。実験中は立ち入り禁止だっていう張り紙が見えないのかー!!」
「い、いや、急用が・・・。」
「うるさい!!」
部下の言い訳も聞かず、そいつをぼこぼこにする。
怒りついでに、この間キリューネから教えてもらった、超強力なしめ技をかけてやった。
「ぐ、ぐはあ。」
床に倒れこむ部下。ああー、すっとした。
「おい、急用ってのを言ってみろ。もしつまんない用事だったら、
今度はさらにすごいのをかけてやるからな。楽しみにしてろよ。」
「そ、それはご勘弁を。シャオリーノ様が、今頼みたいことがあるとのことです。以上。」
しゃべり終わるとそいつは気絶した。
「こんなところで寝るなよ、邪魔だなあ。」
研究室のドアの付近を見ると、二人の部下が震えながらこっちを見ていた。
「あ、おまえら。こいつどっかに片付けといて。邪魔になるから。」
「「は、はい!」」
あわてて気絶いているやつを引きずっていった。とりあえずこれでよしと。
それにしてもシャオがあたしに頼みだって?しかも今。
「またタカーシがへまでもやったのかな。とりあえず会いに行くか。」
少し疑問を感じながらも、研究室を後にした。
長い廊下を歩き、階段を上り下り、シャオの部屋の前まできた。
あーあ、ここもドーエン社みたく、全自動にすりゃいいのに。
疲れ気味に扉をノックする。
「シャオ、あたしだ、ショーコだよ。」
すると中から返事がした。
「どうぞ、ショーコさん。」
扉を開けて中に入る。中は和室になっていて、真ん中には囲炉裏がある。
シャオは自分の向かいの座布団を指差した。
あたしはそこにあぐらを掻いて座る。すると、
「ショーコさん、ちゃんと正座してください。」
「・・・はいはい、分かったよ。」
シャオに言われて正座する。
疲れるから嫌なんだけど、この部屋じゃしょうがないか。
「あたしに頼みってなんだ?」
さっそく本題に入る。こんな座り方で長話をするつもりは一切無いからな。
「実はキリューネさんのことなんです。」
「キリューネの?」
シャオはこくりとうなずいた。かなり真剣な目つきだ。こりゃまじめに聞かないと。
「キリューネさんは私と違って、能力を使った次の日はその力を使えなくなりますよね。
なんとかなりませんか?」
「なんとかって言われてもなあ・・・。」
実はシャオにしたってキリューネにしたって、今だ力は100%出せていない。
3人の使用者がそろって、初めて100%の力を出せるようになっているらしい。
と、あたしの研究でわかった。しかも、力を使った次の日は、その力を使うことはおろか、
常人並みの行動が出来なくなってしまう。キリューネはそれで今休憩中。
シャオはあたしの研究で、なんとか毎日力を扱えるようになった。
それでも、激しい運動は出来ないが。
「お願いします。ショーコさんが頼りなんです。このままではキリューネさんがかわいそうです。」
「・・・分かった。黒陽の筒は後回しだな。あたしがなんとかするよ。」
あたしの言葉に、シャオは涙して喜んだ。
「ありがとうございます。ああ、よかった。」
・・・なんかずいぶん感情的だな。キリューネになんかあったのか?
「それにしてもやっぱり責めるべきはタカーシか。あいつ、帰ってきたらフクロにしてやる。」
それを聞くとシャオはきょとんとして言った。
「あの、袋ならコカリンがいますけど?」
「いや、そうじゃないんだ。・・・なあ、コカリン呼び出してくんない?」
「ええ、いいですよ。ショーコさんのお気に入りですものね。コカリン!」
シャオが叫ぶと、手の輪っかからコカリンが飛び出した。
シャオのひざにぽふっと座る。
「さあコカリン、ショーコさんと一緒にいてあげて。
ショーコさんの研究のお手伝いをしっかりするんですよ。」
「ぐえっ。」
コカリン一声鳴くと、あたしのほうにヨチヨチと歩いてきた。
あたしはコカリンを拾い上げ、夢中で抱きしめる。
「うっひゃ―、やっぱかわいいよなあ。じゃあシャオ、ちょっと借りるな。サンキュー。」
「いえいえ、研究頑張ってくださいね。」
シャオにコカリンと一緒に手を振って、部屋から出る。うん、良い収穫だ。
「さてと、ちょっとキリュ―ネの様子でも見に行ってみるかな。」
コカリンを抱いたまま歩いていると、途中であたしがぼこぼこにした部下に出会った。運んだ2人も一緒だ。
「サンキュな。良いやつが仲間になったよ。」
そう言って、あたしは得意げにコカリンを見せる。
その時3人が、あたしを中心に、三角形に囲んだ。
「マーヴェ様、もう我慢できません。急用なら許すとか言ってたくせに、
あの始末ですかい?やってられませんよ。」
「俺だってこいつには同情します。あれはやり過ぎです。」
「今日限りでマーヴェさんの部下もダークムーンも辞めます。辞表もこの通り!」
そう言って3つの辞表を見せてきた。ふ―ん、それならシャオも認めるかな。
「じゃあとっととどっかいけよ。今までごくろーさん。」
そのあたしの言葉に、3人はニヤニヤと笑い出した。なんか悪いもんでも食ったのか?
「そりゃつれないでしょう、マーヴェさんよお。」
「あんなにお世話になったんです。礼の一つもしとかないとね。」
「その通り。だからこれからあんたをフクロにしてあげようと思ってね。へへ、ありがたく受け取ってくださいよ。」
なんだ、そういうことか。それにしても・・・
「なかなか息が合ったせりふだな。三バカトリオでも結成して生活してったらどうだ?でもお前ら頭悪いからなあ・・・。」
すると、
「うるせえ!」
「覚悟しやがれ!」
「てめえもこれで終わりだ!」
3人同時に襲いかかってきた。それを瞬時にひらりと避ける。
お約束通り、三角形の中心で3人の頭がぶつかった。
「おおー、息ぴったし。やっぱり三バカトリオを作れ。」
3人は、いや三バカは、頭を抑えながらあたしをにらむ。
「くそっ。」
「なめるなよ。」
「小娘のくせに。」
こむすめぇ?やれやれ、口だけは達者だな。
「コカリン、頼むよ。」
「ぐえっ。」
あたしの言葉にコカリンが大きく口をあける。そしてみるみるうちに三バカを胃袋の中に吸い込んだ。
吸い込まれる前に三バカはちくしょーとか叫んでたけど。
「さあて、どこに捨てよっか。」
考えているうちに、いい案が浮かんだ。
そうだ、実験に使うのが良いな。大地の扇の力に、どこまで人間は耐えられるか。
うん、それにしよう。三バカも世の中に出るより、あたしの実験台になったほうが幸せってもんだよな。
「でもとりあえずキリュ―ネの所に・・・」
「ぐえ〜。」
コカリンが少し不満そうにあたしのほうを見て鳴いた。
「そうか、早くその三バカを胃から出したいんだな。じゃあ研究室に行くか。」
「ぐえっ。」
今度はにこりと笑った。やっぱかわいー。
大急ぎで走って研究室に到着。強化ガラスの巨大なビンの中に三バカを吐き出してもらう。
「「「うわっ!」」」
またもや叫んで出てきた。たく、少しは静かに出来ね―のか?そしてビンのふたをする。
「コカリン、ごくろーさん。ちょっとそこで休んでてくれよ。えーと、大地の扇の力は・・・。」
あたしがごそごそと探し物をしていると、ガラス瓶を叩く音や、
『出せ―。』とかいった声が後ろからしてきた。
もう、うるさいなあ、じっとしてろよ。コカリンが吐き出したくなる気持ちがわかるな。
「おっ、あった。そうか、いくつかに分けたんだっけ。とりあえずこのちっちゃいので試してみるか。」
丈夫な箱の中から、力のかけらを取り出す。
もちろん力が外に漏れないよう、ショーコ特製の封印が施してある。
「さてと、こいつを別のビンの中に放り込んでっと。」
あたしは長短距離物質転換装置にそれを置いて、装置を作動させた。
一瞬で、力のかけらが三バカの入っているビンの中にすっ飛んだ。
やっぱ便利だよなあ。これ考えたの、どこの誰なんだろう。
力のかけらが入った瞬間、三バカが叫んできた。
「おい!これはなんだ!」
「さっさとここから出せ―!」
「俺達を実験動物にするつもりかー!」
息ぴったりだな、やっぱ。三バカに大声で応えてやる。
「それを手で叩きな、そうすりゃそこから出してやるよ。安心しろ、毒とかじゃないから。」
あたしの言葉に半信半疑ながらも、三バカの1人がそれを叩く。
まあ、叩くしかないってのはめにみえてるし、当然かな。
「「「おおい、叩いたんだから出せ―!」」」
三バカがそろって叫ぶ。しかし、それがあたしが聞いたそいつらの最後の言葉だった。
力のかけらを叩いた数秒後、ビンの中が緑色に強く光ったかと思うと、ビンがどんどん小さくなっていった。
もちろん中の三バカも一緒に。あっという間に黒い点になり、最後には見えなくなってしまった。
急いで超倍率の顕微鏡を持ってくる。しかし・・・、
「何も見えない。これを使って見えないってことは、消滅しちゃったのか?うーん、でもなあ・・・。」
念の為、生命反応センサーを使ってみる。なんの反応も示さない。やっぱり消滅してしまったようだ。
「こりゃすげ―な。なるほど、大地の扇にはこんな力もあったのか。ちゃんと記録しとこっと。」
驚きながらも丁寧に記録をつける。自筆の日記帳だ。
「よーし、今日はいい収穫があったな。おっと一応、ありがとう三バカ。安らかに眠れよ。」
コカリンと一緒に黙祷する。
「そんじゃキリューネのところに行こうか、コカリン。」
「ぐえっ。」
かわいいコカリンを両手に抱きかかえて、キリューネの部屋へ向かう。
よしよし、このぶんならシャオからの頼まれ事もすぐ片付きそうだな。
そんでもってコカリンと一緒にあーそぼっと。