小説「まもって守護月天!」(例えばこんなお話)


「万難地天がやってきた!(後編)」より

ニイハオ!!太助(中略)
俺は今、親父からの手紙を読み返しているところだ。
「これはいい肥やしになるとチョンファーさんは言っていた・・・ですって。良かったですね、太助様。」
「だからどーした・・・。」
まったく、肥やしなんかわざわざ送ってくるなっての。えーと、
「追伸、おまけの扇は清い物だけが開ける不思議な扇だそうだ・・・。
ちょこんと書くなちょこんとー!!」
俺は思わず“がたっ”と立ちあがった。
「ふつー、こっちが本題だろーが!!」
横ではシャオが、
「まあ、お父様ったらお茶目さんですね。」
とか言っていた。その時ルーアンが一言。
「たー様。試練よ、素直に受け入れなさい。」
だって。俺は“はあ”とためいきをついて、あきらめ気味に言うしかなかった。
「まあいいや、こーなりゃ2人も3人もかわらない。
とりあえず、もうちょっと詳しく自己紹介を・・・。」
と訊いた。ルーアンはじっと俺を見て、少しうつむいて、
「試練よ、自分で調べなさい。」
と言い返してきた。思わず、“え”という声を俺は口にする。
おせんべいを食べていたシャオのぼりぼりという音が、“ぼりっ”となる。
「ルーアン殿。」
と、キリュウが少し困ったような顔をする。そしてキリュウが説明を始めてくれた。
「えーと、主殿。この方は万難地天ルーアン殿。大地の精霊だ。
支天輪や黒天筒と同じように、短天扇という扇より呼び出されるのだ。
私が主殿を守り、シャオ殿が幸せを授けるように、ルーアン殿は主に「試練を与える」のが役目なのだ。」
それを聞いて思わず口にして訊き返した。
「試練を与える・・・?」
するとルーアンは無言のまま、その短天扇を開いたかと思うと、呪文のようなものを唱えた。
「万象・大乱。」
次の瞬間、巨大化したコーヒーカップに思いっきりあごをぶつけた。
「ふがっ!」
と情けない声をあげてしまった。
シャオはといえば、手に持っていたせんべいを思わず握りつぶしてしまい、ショックを受けている。
そしてルーアンは一言。
「試練よ、耐えなさい。」
俺はそれに負けず、笑顔で言った。
「そ、そっかあ。これがルーアンの能力なんだ・・・。」
キリュウが心配そうに俺のほうを見、シャオは涙を流しながらお盆を見つめていた。
その次の瞬間、
「大乱。」
というルーアンの声と共に、シャオの持っていたお盆が“びょいんっ”とのび、俺を直撃する。
「ぐはっ・・・。」
という声を上げて、俺は斜めに倒れた。キリュウが、
「あ、主殿!!」
と声をかける。その時、ルーアンはすでに次の行動に入っていた。シャオの、
「あ、私のおせんベー。」
という声がした次の瞬間、巨大なせんべいが、“ごん”と俺の頭を直撃。
たまらず俺は横に倒れてしまった。キリュウが、
「大丈夫か!?」
と心配する中、ルーアンがさらに言う。
「試練よ、起きなさい。」
と。そしてシャオがついにきれたのか、黒天筒をまわし始めた。
「もおおおお、勘弁なりません!!私のせん・・・じゃなくて、太助様に何するんですかー!!」
・・・以下略。

「梅雨の言い伝え(前編)」より

(前略)
朝、あくびをしながら目を覚ましたルーアンが、障子を“スー”と開けて外を見る。
「・・・あ。」
外の様子を見て何かに気づいたようだ。
「・・・雨、が降ってるわ・・・。」
そう、今年の梅雨最初の雨が降っているのだ。
さっそく昨日電話で翔子から聞いた事を思い出すルーアン。
(うーん、お互い同士しか口をきいちゃいけないということは要するに、
他の人と喋ってはいけないということよね・・・。)
そしてルーアンは、
「きゃああぁ大変〜〜〜!!」
と叫びながらパタパタと部屋を飛び出していった。
“バタン!”と太助の部屋のドアを開ける。
「たー様!!」
突然の来訪者に声も出ない太助。無理もない、着替え中だったのだから。
“とんだ所を見られてしまった・・・”と思いつつも太助は聞いてみた。
「ル、ルーアン・・・。な・・・何!?」
するとルーアンは“ぺこ!!”とお辞儀をして言った。
「おはよう!!」
それに対して太助は、赤い顔のまま、
「お・・・おはよう・・・。」
と返す。息を切らしながらルーアンはにこやかに言った。
「はあ、よかった・・・。たー様がまだ部屋にいて・・・。」
太助はそんなルーアンを、疑問符を頭に浮かべながら見るしかなかった。
そして朝食の時間。
キリュウはがつがつと料理を食べていたが、シャオが太助に話し掛ける。
「ねえ太助様。次の試練について考えたんですけど・・・。」
それにはっとするルーアン。シャオの言葉をさえぎって、両腕を振りながら、
「あーん、わーわー、きゃあきゃあきゃあ〜〜〜っっ!!」
と叫ぶ。驚いてシャオは、
「どうしたんですか!?ルーアンさん。」
と聞き返す。今度は、今までがつがつと食べていたキリュウが、太助にウインナーを差し出し、
「はいアーン。主殿、これおいしいぞ
と太助に食べさせようとするが、がたっとルーアンは立ち上がり、身を乗り出して太助の口を手でふさぐ。
その光景を呆然と見つめる3人。シャオはそのショックで、パク・・・とごはんを一口食べた。
キリュウはウインナーが箸から落ちた事にも気づかず、ルーアンに言う。
「ル・・・ルーアン殿・・・?」
やがて太助がルーアンの手をとって自分の口から離し、
「ぷはぁ・・・ルーアン・・・どっ、どうしたんだ!?いきなり。」
と尋ねた。それにもただ無言で、ルーアンは恥ずかしさと気まずさの入り混じったような顔をしていた。
そんなルーアンに、3人がそれぞれ声を掛ける。
「ルーアン?」
「ルーアンさん。」
「ル・・・ルル・・・。」
3人の声にルーアンは“うにゅー”という顔をしたかとおもうと、
「来々軒轅!!」
と、支天輪から軒轅を呼び出した。軒轅はひょいっと太助を持ち上げ、
ルーアンを背中に乗せて、びゅんっと台所を飛び出した。太助は
「なんなんだーー〜あぁ、いったいぃぃぃ!!!」
と叫びながら軒轅に連れられていった。
なすすべもなく、台所から顔を出してぽか〜んとそれを見送るキリュウとシャオ。
キリュウは「・・・主殿ぉ。」とつぶやき、
シャオは目が点となって、ご飯を一口、パク・・・と食べた。
(後略)

「夏山で・・・(中編)」より

(おもいっきり前略)
軒轅の額から木の枝に飛び降り、軒轅に乗って去って行くキリュウを見送る離珠。
そして誰かの声がした。離珠がそっちの方をむく。
「キリュウも大変ね。でも、たー様ならきっとなんとかできると思うわ。」
ルーアンだ。さらに言葉を続ける。
「今日の試練は終了、みんなで帰ろうと思ったのに。試練はこれから、というわけね・・・。」
そしてルーアンは木の枝にふいっと片手をついた体勢をとった。そして、
「キリュウのことはあたしに任せなさい。
たー様のこと頼むわよ、離珠。そのためにのこったんでしょ?」
と離珠に告げ、しゅっと姿を消した。離珠はそんなルーアンに
「OKでしー。」
と手を振って笑顔で答える。
ところかわって地上。どこかへ行こうとする太助を、シャオが呼び止めた。
「太助様、どこへ行くんですか?」
「キリュウを探しに行くんだよ。危ないだろ、こんな山奥で一人にさせたら。
支天輪持ってないし・・・。」
そして歩いていく太助の後ろから、シャオは言った。
「好き。って言うんですか?キリュウさんに。」
太助は最初は戸惑った顔だったが、すぐに普段の顔に戻り、少しさびしげに言った。
「言わない、っていうか言えない。・・・言っても多分伝わらない。」
そして太助は歩いて行った。それを小屋の前で見送るシャオ。
シャオは心の中でこう思っていた。
「どうして・・・。どうしてそう思うんですか・・・。
あなたが何も言わないから伝わらないのに。あなたはちゃんと伝える言葉を知ってるのに・・・。
どうして気付かないんですか。―――あなたは幸せになれるはずなのに・・・。」
と。太助が見えなくなってシャオは再び思った。
「とか思いながら、それを言ってあげないシャオったら意地悪さん。けーこー日天失格。」
そして“はふう・・・”とため息をついた。
その頃、頂上では、軒轅と一緒に石に腰掛けて、キリュウは月を見上げていた。
「・・・頂上。ほんとうは、主殿と一緒に来るはずだったのに。どうして1人でいるのだろうな・・・。」
軒轅に話しかけていると、横から声をかけられた。
「キリュウは、一人で月を眺めるのが好きなの?」
キリュウがその声に横を向くと、ルーアンが少し笑みを浮かべて、キリュウの方に顔を向けた。
(中略)
「ウソをついたのだ。支天輪を忘れてきた・・・と。主殿に。」
ぽつりぽつりと話すキリュウ。ルーアンは黙ってそれを聞いていた。
「・・・私は、頼ったりしたくて。・・・もっと違うふうに一緒にいたいなと思って・・・。――しかし。」
今日の出来事を頭の中に浮かべつつ、話すキリュウ。
ある場所で自分の言った言葉が鮮明によみがえる。
『・・・私、は、守護月天だから。』
そして涙がにじみ出た目でルーアンに話しかける。
「私・・・は、どうしたら、よいのだろうか・・・。」
心の中でも、
「どうしたらもっと、そなたに近づけるのかな・・・。」
と太助のことを思いながら。そんなキリュウを心配そうに横から見ていたルーアンだったが、
やがて笑顔でキリュウの正面に立ち、顔を見て言った。
「キリュウ、シャオリンから伝言よ。『ここは、私達にはもったいないくらい幸せな所ですね。』」
ルーアンの言葉を、涙を浮かべたまま聞くキリュウ。さらにルーアンは続けた。
「キリュウ、シャオリンが言ってたわ。
『現代に来て知った事があるんです。尽くすのも良いけど、追っかけ回されるのも悪くないですね。』」
そして少しほほを赤く染め、ルーアンはシャオに続くように言葉をつなげた。
太助に、「試練とだって仲良くした方が、効果あると思わないか?」
と言われ、「・・・ええ、そうかもね。」
と答えた時のことを思い出しながら・・・。
「・・・あたしも知ったわ。あたしにも誰かの役に立てる力がある。
嫌われるだけじゃなくて、必要だと思ってもらえる事もあるのよ。」
キリュウにやさしく、そして慰めるようにルーアンに話し続ける。
「・・・だから大丈夫よ。キリュウにだってわかる時が来るわよ。
キリュウのその気持ちがなんなのか、たー様が教えてくれる・・・。」
(後略)

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