小説「まもって守護月天!」(虎賁の大きくなろう大作戦)


『第3日目(午後)その2』

月天様と玄関のほうへと歩いてゆく。
ぼうず、不良ねーちゃん、野村たかしの3人が座りこんでいた。3人ともかなり息があらい。
「ふう、ふう、たく、20球よけるのに200球もかかってんじゃねーよ。」
「無茶言うなよ。よけきったのも奇跡に近いんだから。」
「あっ、キリュウに虎賁。ちょっと休憩させてくれ。ほんとあの投げ方って、普通のに比べて倍以上疲れるよ。」
ベンチを見ると、ルーアンと愛原花織は眠っていた。多分散々やじとか飛ばしまくって疲れたんだろうな。
まったく、だから外野は黙ってろってんだ。
「ルーアン殿、花織殿、そんなとこで寝てはかぜひくぞ。さあ、起きた起きた。」
「う、うーん。なあに、試練終わったの?」
「七梨先輩が完全勝利したんですよね?」
「なに寝ぼけてんだよ、これから難易度5をやるの。きょうはそれでおしまい。」
おいらの言葉に2人ともすごく嫌そうな顔をする。
「なんなのよそれー。あんた達、たー様をいじめてんじゃないわよー。」
「そうですよ、これ以上やると七梨先輩死んじゃいますよ。」
たく、ずーっと見てただけのくせに、いい気なもんだ。
「花織ちゃん、俺の事へぼ投手とか言って散々けなしといて、そりゃないよ。」
「だって本当にへぼへぼな球しか投げてなかったじゃないですか。」
「ルーアン先生も、七梨の服に陽天心なんかかけるから、七梨があんなに疲れてんじゃねーか。」
「う、うるさいわね。あたしはたー様のためを思って・・・」
「ルーアン殿、そういう余計な事をされては困るな。」
まったくだ。それにしてもおいらとキリュウがいない間にやりたい放題だな。大丈夫かな、ぼうず。
「皆さん、おやつを持ってきました。これでも食べながら休んでください。」
いつのまにか月天様がいくつかのお菓子とお茶を持って玄関の前に立っていた。さすが、気がきくよなあ。
「ルーアンこれとーった。さあてと、キリュウ大きくしてよ。」
「まったく・・・、万象大乱。」
みるみるうちにルーアンの手のお菓子が小さくなる。
「ちょっと!あたしは大きくしてって言ったのに!」
「間違えただけだ。がまんして食べられよ。」
ありゃ絶対わざとだな。
「はい、太助様。翔子さんもたかしさんもどうぞ。」
「サンキュー、シャオ。ちょうど腹へってたんだ。」
「うんうん、運動の後のお茶はうまいねえ。」
「ああ、ありがとうシャオちゃん。やっぱりシャオちゃんは気がきくなあ。」
3人にそれぞれお菓子とお茶を配ったあと、月天様はベンチに座った。
「はい、花織さん。キリュウさんも座ってください。」
「う、うむ。」
おいらも離珠と一緒にお菓子を食べ、お茶を飲む。戦士の休息ってやつだな。
「ちょっとシャオリン。あたしの分もう1個ないのー?」
「すみません、1人1個しか用意できなかったもんですから。」
「えー、そんなあ。」
「自業自得ですよルーアン先生。七梨先輩の邪魔をするからこうなるんです。」
おいらが思うに、ぼうずの邪魔をしてたのはこのじょーちゃんも同じじゃねーのか?
「ふう、しっかしいいかげん疲れてきたな。難易度5なんてできるのかなあ。」
「山野辺、弱音を吐くな。今度こそ俺は七梨を倒し、シャオちゃんの熱いハートをゲットする。」
はいはい、頑張ってくれ。
「あのな、野村。七梨にぶち当ててるのはほとんどがあたしだってこと忘れんじゃねーぞ。」
「ふっ、次こそは必ず!」
やれやれだな。不良ねーちゃんに後でなんかしてやるか。
「あ、そうそう。さっき家の前を宮内出雲がおおあわてで走っていったけどさ・・・。
家の裏のほうから出てきたみたいなんだけど、しらねーか?虎賁、キリュウ。」
試練中によくそんな余裕があったな。ぼうずもそんだけ成長したってことかな。
「私と虎賁殿と家の裏のほうで偶然見かけたので少し話をしていたのだ。
しかし途中で突然走り去ってしまってな。おおかた急用でも思い出したのだろう。」
うーん、半分当たってるけど半分はうそだもんな。
「そうか、そんならいいよ。」
ぼうずは、キリュウが宮内出雲を追い返したと思ったに違いない。でもおいらの力があってこそできたんだぜ。
「ところでキリュウさん、試練はいつ頃終わるんですか?」
「いつ終わるかは主殿次第だ。夕食前か夕食後か、どちらにしても夕食のしたくは頼むぞ。」
「はい、任せてください。」
「シャオ先輩、あたしがシャオ先輩の分まで七梨先輩を応援しますから。
おいしい料理作りに専念して下さいね。」
「ありがとうございます花織さん。よろしくお願いします。」
月天様の分まで応援ねえ・・・。どうせなら料理を手伝うとか。
いや待てよ、昼食のときに人間の食べ物じゃないもんを作るとか言ってたよな。それじゃ、しょーがねーか。
「よーし、それじゃ試練を再開しようぜ。ほら、山野辺もたかしも立てよ。」
元気だな、ぼうず。
「そんじゃいくか、最後の試練!」
ぼうずの声に呼応するようにおいらも気合を入れて、不良ねーちゃんの肩に飛び乗った。
「そういえば虎賁てほとんど山野辺の肩に乗っかってるよな。なんで俺の肩には乗らねーんだ?」
「理由は簡単。あんたは体を無駄に動かしすぎて、おいらが振り落とされる確率が高いんだ。」
「そーいうこと。だからお前はノーコンなんだよ。」
「な、なにー。山野辺、今度こそお前をぎゃふんと言わせてやるからな。」
ぎゃふんと言わせる相手が違うだろ、まったく。だからこんなやつの肩に乗るのはいやなんだよ。
「それじゃ私は片付けてきますから。太助様、頑張ってくださいね。」
そう言うと、おやつセットを持って月天様は家に入っていった。
「あっ、シャオちゃん、俺にも声援を・・・。」
玄関のドアが閉まる。野村たかしの声は届かなかったようだ。
今思えばなんでこんなやつに頼んじまったんだろう。あの時は急いでたからかな。
「さてと主殿。いよいよ最後の難易度5だ。これが終われば今日の試練はおしまい。
それでは説明するぞ。投げ球の種類は今までの複合型。
すなわち、虎賁殿が伝授した5種類の投げ方。さらにそれに私が万象大乱をかける。
しかも2人同時に投げる。それを30球連続でよけること。以上だ。なにか質問はあるかな?」
質問だって。初めてだな、そんなこと言うの。
「しつもーん!」
「ルーアン殿か、何だ?」
「さっきどうしてお菓子を小さくしたのよ。あれって本当に間違えたの?」
あのなあ、こんなときにかんけーない質問するなって。
「試練だ、自分で考えられよ。他にはないか?」
・・・それって答えになってないと思うんだけど。
「はーい、俺もしつもーん。」
「野村殿か、なんだ?」
「試練が終了したらなにかご褒美ってないのかなあ。せっかく頼まれて手伝ったんだし。」
ボランティアにしとけって。まあおいらと不良ねーちゃんは報酬付だけど。
「また後で何かプレゼントしよう。他には?」
「はーい、次はあたし。」
「花織殿か、なんだ?」
「あたしも何か欲しいな。」
「あ、ルーアンも!」
ちょっとまてよ、なんであんたらが報酬をねだるわけ?
「・・・そなた達はなにかしたのか?」
「七梨先輩を励ましたじゃないですかあ。」
「あたしもたー様に頑張ってって言ったわよ。」
おいおい、そんなんで何かもらうつもりかい。どーいう神経してんだ?
「・・・まあ何か考えておくとしよう。他には?」
「あ、もう一度しつもーん。」
「花織殿か、今度はなんだ?」
「試練が終わった後、みんなでゲーム大会とかしないんですか?せっかく集まってるんだし。」
なんかさっきから変な質問ばっかりだな。
「主殿にまた聞いてみるとしよう。他には?」
真面目に答えてるキリュウもキリュウだけど。
「それではないようなので、試練を始めるとしよう。主殿、かまえられよ。」
「あ、ああ・・・。」
結局意味不明のまま試練が始まった。なんのための質問時間だったんだ?
試練を始めようとしたそのとき、月天様が家から出てきた。
「あれ?まだ試練始めてなかったんですか?」
「そうよ。よくわかんないけどキリュウが質問はあるか?
とか言ってきたからみんなでいろいろ質問してたの。
シャオリンはなんかないの?」
「えーと、そうですねえ。今日の夕食は何が食べたいですか?」
あのねえ月天様、試練が始められないじゃないですか。
「別にシャオ殿が好きなもので良いぞ。」
「私の好きなものですか?うーん・・・、キリュウさんもう一度質問です。
私が好きな料理ってなんでしょうか?」
「私が知っているわけがないだろう。」
「でも、私の好きなものが分からないと夕食のしたくができませんよ。」
「そうか、それは困ったな。うーん、シャオ殿は何が好きなんだろう?」
なんつー会話だ。2人ともらしいっつーかなんつーか。
「あ、あのさあシャオ。無理にシャオが好きなものでなくても、
シャオが作りたいなーって思った料理でいいんだからさ。」
「そうですか。ありがとうございます翔子さん。あ、キリュウさん、もう1つ質問です。
私が作りたい料理って何なんでしょうか?」
「うん?そ、それは・・・うーん・・・。」
真面目にそんなこと考えるなって。いつまでたっても試練が始まらないじゃねーか。
「だめだこりゃ。」
不良ねーちゃんが額に手をあてる。おいらにもこりゃ手におえねーな。そのとき、
「シャオ、俺は八宝菜が食べたい!」
「まあ、太助様、八宝菜ですか?それじゃ夕食はそれを作りますね。」
ぼうずの鶴の一声でようやく夕食のメニューが決まった。やれやれ。
「あ、でも材料が足りませんわ。キリュウさん、またお願いします。」
「そ、そうか。主殿、少し待っていてくれ。」
そして月天様とキリュウは家の中に入っていった。おーい、試練が始まらないぞー。
「七梨、もうちょっと考えて言えよ。昼と同じでいいとか。全然試練が始まらないじゃねーか。」
そういや少し残ってたような。でもあれじゃ結局キリュウが大きくしないといけないんじゃ。
「やれやれだな。こんな調子じゃ夕食食べた後もやらなきゃなんねーかも。
太助、頑張ってさっさとクリアしてくれよ。」
「おい野村、お前今度こそ太助をしとめるとか言ってたのはどうなったんだよ。」
それもそうだ。でもこいつのうでじゃな。
「もちろん忘れちゃいないさ。太助を限界まで苦しめてこれ以上だめだってときに、俺が太助を許してやる。
シャオちゃんはそんな俺のやさしさに心打たれて、そして・・・」
あほらし。こいつこんな事ばっかりだな。
「野村先輩、そんな何も考えていないような作戦じゃダメですよ。
第一キリュウさんは、七梨先輩が試練を終えるまでやる、って言ってるんですから。
野村先輩が七梨先輩を許すなんておろかな事できるわけないじゃないですか。」
「そうか、そうだったよな。さりげなくきつい忠告ありがとう。」
まるで漫才だな。コンビでも結成したらどうだ?
ようやくキリュウが家から出てきた。どうやら月天様は夕食の仕度にとりかかったらしい。
「シャオ殿は、5時になるか試練が終了すれば夕食を作り始めるといっていた。
待たせたな主殿。試練を始めるぞ。」
さっそく2人が雪玉を投げ始める。
最初のうちはぼうずも気が抜けていたのか、1球一級確実に当たっていた。
しかししばらくするとすっかり慣れ、10球連続は余裕でかわすようになった。
さすが今までクリアしてきただけのことはあるな。
「さすがだな主殿。ふむ、この調子なら夕食前までには終わりそうだな。」
確かに。少しづつ連続回避球数を伸ばし、ついに25球まできた。
「ああ、ちくしょー。頭ではわかってんのにな。」
「げ、元気だな、七梨。あたしはもうへとへとだよ。」
「くっ、ここまでか。シャオちゃん、ふがいない俺を許してくれ。」
とうとう野村たかしがその場に倒れこんだ。
「おいおい、ぼうずより先にへばってどうすんだよ。」
「でもなあ虎賁、もう300球は投げたぜ。これじゃまいっちまうって。」
うーんでもなあ、替わりに投げるやつなんていねーし。
「あ、みんな。そうか、太助君が、投げた雪玉をよける試練だったんだね。」
この声は遠藤乎一郎?声のしたほうを見ると、門のところに立っていた。
「よ、よかった、乎一郎。後はお前に任せる。俺の意志をついでくれ。」
「た、たかし君、大丈夫!?」
あわてて遠藤乎一郎がそばにかけよる。
「心配ないよ遠藤。それより、かぜじゃなかったのか?」
「それが昨日のうちになぜか治っちゃってさ。
呼ばれなかったけど、試練の事が気になって、こんな時間に来たってわけ。」
いやー、救いの神だ。いいところに来たぜ。
「遠藤殿、野村殿の替わりに投げてくれ。ルーアン殿、別に良いな。」
「なんであたしに訊くわけ?・・・ああそういうこと。
別に良いわよ。頑張りなさいね、遠藤君。」
「は、はい!」
ルーアンもいいって言ったし。さてと、
「おいらが説明するな。いいかよく聞けよ、ルールは・・・。」
早口ながらも、遠藤乎一郎に試練の詳しい説明をし、雪玉の取っておきの投げ方を伝授した。
それにしても、治ってたんなら電話ぐらいしてくれりゃよかったのに。
「なるほど、すごい事してたんだね。よし、たかし君の替わりに頑張って投げるよ。」
「あたしの替わりは・・・いないのか。
野村のやつ情けねーな、女のあたしより先にダウンするなんて。
キリュウ、こんなやつに報酬なんかやらなくていいから、遠藤に何かしてやってくれ。」
「そうか?ではそうしようか。」
「そ、そんなー。山野辺、余計なこと言うなよ。
ここまでだっておれは頑張ってきたじゃねーか。」
確かにそうだよな。ノーコンなりによくやったよ。
「それじゃおいらが何かやるよ。楽しみにしてな。」
「ふう、ありがとな、虎賁。」
不良ねーちゃんと遠藤乎一郎が投げ位置に立つ。
「それじゃいくよ、太助くん。」
「たかしから乎一郎か。まあいいや、さあこい!」
遠藤乎一郎の投げ球は、不良ねーちゃんの疲れを完璧にカバーしていた。
「やるねえ、どっかの誰かさんと違ってコントロールも良いし。」
「おい虎賁、それ誰の事だよ!」
「野村先輩に決まってるじゃないですか。普通に考えれば誰にだって分かりますよ。」
「はいはい。もうどうでもいいや。」
がっくりしてやがる。心配するなって、ちゃんと褒美に何かやるから。
それにしても急にペースが落ちた。今は10球連続ですらかわせていない。
乎一郎の球はそれほどスピードはなかったが、
状況を見て、ぼうずに一番当たりやすそうな球を投げていた。
普通でさえこれだから、万象大乱がかかったものは、確実にぼうずに当たっていた。
「また当たりー!キリュウさんて器用なんだね、一瞬であんなに大きくしたりできるんだから。
それにしても太助くん、今までよくこんなの連続でよけつづけてきたよね。」
「ま、まあな。くそ、たかしから乎一郎に替わってからさっぱりだ。」
「うーむ、主殿。こんな調子ではとても夕食前までというのは無理だぞ。」
やっぱ頭いいやつが投げると違うな。
最初からこいつが投げてれば、ひょっとして難易度3も終わってなかったんじゃねーか?
しばらく投げつづけていると、今度は不良ねーちゃんがダウンした。
「も、もうだめだ。あたしはこれ以上は無理だよ。」
「うーん、でも替わりに投げるやつはいないし・・・。」
ふたたび困っていると、
「私が替わりに投げましょう。いいですね?キリュウさん。」
なんと宮内出雲だ。帰ったんじゃなかったのか?
「いやー、私も太助君の試練を手伝いたくってね。こうして来たわけですよ。」
「それにしてはタイミングばっちりで現れたな。
まあいいや、キリュウ、あたしからおにーさんに交替するけどいいな?」
「翔子殿そう言うのならしょうがない。それでは交替してくれ。」
まあ背に腹はかえられねーよな。
「説明はさっき話してたからいいよな。そんじゃ投げ方を伝授するぜ。」
「随分素直ですね、諦めたんですか?」
「こんな状況じゃしょーがねーだろ。キリュウもおんなじだよ。宮内出雲、あんたの粘り勝ち。」
とりあえず伝授をはじめる。ほとんど見ていたらしく、伝授はあっさりと終了した。
「さーて、いきますよ太助くん。」
「結局宮内出雲が来たか。これも試練、なんてね。さあこい!」
しかし、ぼうずに分が悪いのは明らかだった。
大人の宮内出雲の連続攻撃でスキができたぼうずを、確実に遠藤乎一郎がしとめる。
そのコンビネーションは絶妙で、ただ普通に投げても当たりそうな勢いだ。
当然そんな球を何球も連続して避けられるはずもなく、
「ダメだ、また当たっちまった。」
「太助くん、3球と続かないじゃないですか。」
「ほんとうだよ、今までの頑張りはどうしたのさ。」
あんたらそりゃ無理ってもんだ。途中参加なんだから、もうちょっと手加減てものをしてやれよ。
なんてことはできねーよな。
「遠藤先輩と出雲さんて、一緒に投げるとすごく上手ですよね。
野村先輩もしっかり見習わなくちゃダメですよ。」
「もういいよ花織ちゃん。俺の出番は終わったのさ。」
「それにしてもほんとすごいわねー。たー様のの動きをちゃんとよんでるっていうか・・・。
あの時の雪合戦て、あたしこの2人と一緒のチームだったのに、
なんで引き分けに終わっちゃったのかしら・・・。」
あんたが陽天心使ってめちゃくちゃにしたからだろ。
でも本当、このまんまじゃいつまでたっても終わりそうにねーな。
ぼうずはたまに5球ほど避けたりするものの、次の6球目は必ず当てられていた。
「ダメだな、この調子ではいつまでたっても終わらん。」
「キリュウさん、そんな事いうのはまだ早いですよ。七梨先輩もそのうち慣れてきますって。」
「その慣れるのにどんだけかかるかわかんないわよ。
なんせおにーさんと遠藤君っていうまったく別のコンビに替わっちゃったからねえ。
たー様だってもうくたくたのはずよ。いまさら2人の投げ方を見極めるなんて無理だろーし。」
「ふーむ・・・、20球連続という事にするか?」
ルーアンのやつ、結構よく見てるな。それより、おいらもキリュウの意見に賛成だな。
今のぼうずじゃ10球もできるかどうかわかんねーし。と思ったそのとき、
「キリュウ、さっきから万象大乱かけてないだろ!ちゃんと試練をやってくれよ!」
とぼうずが叫ぶ。キリュウは、
「主殿、30球から20球にしようと思うのだが。その調子では今日中に終わりそうにないのでな。」
「何言ってんだ。おれは絶対今日中に30球よけてみせる。だからちゃんとやってくれよ!」
「う、うむ・・・。」
ぼうずはやる気満々の声で応えたが、やはり5球と続かない。次第に辺りが暗くなってきた。
「太助くん、休まなくて大丈夫なの?もう2時間は投げてるよ。」
「まだまだ、早く投げてこい!」
「声だけは元気ですね。でも体は相当つらいんじゃないんですか?」
ぼうずの足がふらついている。こりゃもうだめだ。その時、
「みなさーん、夕食ができましたよー!あら、乎一郎さんに出雲さんもいらしてたんですか。
余分に作っといてよかったですわ。」
結局夕食には間に合わなかったな。まあ仕方ない。
「主殿、夕食後も試練を続けるがよいな?」
「あ、ああ・・・。」
相当疲れてるな。
「ほら七梨、あたしの肩につかまれよ。野村も手伝ってくれ。」
「よしきた。しっかし太助もよくやるな。」
「シャオに頑張ってくださいって言われたんだ。そう簡単に諦めるわけにはいかないよ。」
月天様にねえ。でもどこまで頑張れるのかなあ。
「それでこそ七梨だ。ふむふむ、いー事思いついたぞ。」
「いい事?何だよそれは?」
「内緒だよ。さ、早くシャオの手料理を食べに行こうぜ。たしか八宝菜だったよな。」
ぼうずのリクエストメニューだったよな。でもなあ、夕食もいいけど、うーん。
「どうしたんですか虎賁さん?」
「いや、ぼうずは今日中に試練を終えるって言ってるけど、
本当に終えられるのかどうか、それが気がかりでさ。」
「大丈夫ですよ。太助君なら必ず終えます。彼は頑張りやさんですからね。」
「そうだけど・・・。」
頑張ってできるようなもんじゃねーぞ、この試練は。
ま、おいらが心配してもしょーがねーか。
昼食と同じく、リビングで夕食を食べる。
「いただきまーす。」
食べ始めてまもなく、みんなが異変に気付いた。
ぼうずの箸がまったく動いていない。目がうつろだ。
口ではああ言ってたものの、ご飯を食べる気力も無いようだ。
「たー様、大丈夫?」
「そりゃあ、あれだけずっと動きっぱなしじゃあな。」
「太助君、食べないと試練なんてできないよ。」
「やはり主殿にはきつすぎたのだろうか・・・。」
「気をたしかに、太助君。」
「七梨先輩、しっかりしてください!」
みんなが口々に心配する中、不良ねーちゃんは月天様に耳打ちしている。何をやらせようってんだ?
「いけっ、シャオ!」
「はいっ。太助様、私の作った料理を食べて、元気を出してください。はい、あ〜ん。」
月天様がぼうずの口の前に食べ物を差し出して、ぼうずの口の中にいれた。
「ん、ありがとうシャオ。・・・って、ええ!?」
月天様と不良ねーちゃんを除く全員が、一瞬の出来事に大声を上げる。
「ちょ、ちょっと、シャオリン!」
「ずるいです、あたしがしようと思ってたのにー!」
「シャオさん、そんな・・・。」
「シャオちゃーん、おれにもー!」
「いいなあ、僕もルーアン先生にあんな事してもらいたいなあ。」
みんなの反応は、当然といえば当然だった。
離珠はにこにこしながら、続けてご飯を食べている。おいらもおんなじだけど。
ぼうず、こうなったらとことん頑張れよ!
「おお、主殿。よかった、さすがはシャオ殿だな。
これで試練ができるというものだ。翔子殿もありがとう。」
キリュウだけはなんか理由が違うみたいだ。別にいいけどな。
「しゃ、シャオ、ありがとう。たくさん食べてがんばるよ。」
「はい、頑張ってください!」
「うんうん、やっぱりこうでなくっちゃ。」
「山野辺、さっきのいい事ってこれだったのか?」
「ん?そーだよ野村。」
不良ねーちゃんの言ういい事ってのは、たいてい月天様とぼうずを仲良くさせる為のものだ。
月天様はそれで元気になるから、おいらは大歓迎だけど。
ぼうずがはりきってご飯を食べ始めた。さっきのが効いたみたいだな。
「太助君、もうちょっと落ち着いて食べてくださいよ。」
「すごいわねー。たー様ルーアン化計画でも作ってみようかしら。」
ルーアン化計画ぅ?またわけのわかんねーものを・・・。
「ルーアン殿みたいなのが2人もいては迷惑だ・・・ルーアン殿!
いいかげん、私の皿からおかずを持っていくのはやめてくれ!」
「キリュウさんたら、懲りずにまたルーアン先生の隣に座ってるー。
ちゃんと考えないと野村先輩みたいになっちゃいますよ。」
「ぶっ、それどういう意味だよ。」
なるほど、何も考えないとああいう人間になるのか。
「おい離珠、今の聞いたか?あんなのになりたくなかったら、お前もしっかり考えて行動しろよ。」
(わかったでし、虎賁しゃん。)
ガッツポーズをとる離珠を見て、野村たかしがこちらをにらむ。
「お前らなあ、俺をなんだと思ってるんだよ。」
「なるほど、あんな無茶苦茶なのを太助君がよけつづけてきたのは、たかし君がいたからなんだ。」
「乎一郎、お前まで・・・。」
「言われても仕方ないんじゃないですか。翔子さんに比べてほとんど役に立ってなかったし。」
「あれ、なんでおにーさんそんな事しってんの?
ついさっき来たばっかりで、あたしと乎一郎が投げてる所しか見てないと思うんだけど。」
「い、いや、それは。虎賁さんから話を聞きまして。」
おいらに助けを求めるようにこっちのほうを見る。やれやれ、しょーがねーな。
「そういうこと。たまたま会った時と、伝授する時にちょっとな。」
「ふーん。」
そうだ、かばってやったんだから、後で何かたかるとするか。別にそれくらい、いいよな。
「それにしても七梨先輩、すごいですよね。
朝からずっと動きっぱなしで、この後もまだやろうってんですから。」
「花織殿、主殿はすごいんだぞ。なんせ・・・おっとルーアン殿、もう渡さぬぞ。」
その隙をついて、今度は不良ねーちゃんがキリュウの皿からおかずを奪った。
「しょ、翔子殿まで・・・。一体私が何をしたと言うのだ!?」
「いや、面白そうだからついなんとなく。わりーわりー。」
「へえ、私もキリュウさんのお皿をねらってみようかな。キリュウさん、失礼します。」
「こっ、こら、シャオ殿まで。やめぬか!」
まさか月天様まで加わるとは。
そうこうしているうちに、ルーアンが再びキリュウの皿からおかずを奪い取った。
「いっただきー。あーん、ルーアンったらなんてすごいのかしら。
この調子じゃ、全員ルーアン化計画も夢じゃないわね。」
だからそのルーアン化計画ってのはなんなんだ。
「まったくもう、主殿はそんな事をするまいな。」
「ん?何?」
「いや、なんでもない・・・ルーアン殿!また!」
ぼうずはひたすら自分用のおかずとご飯を食べている。我関せずって感じだな。
「そういえば、昼間もこんな感じでにぎやかだったんですよね。
ほんと、遠藤先輩もっと早く来てくれたらよかったのに。」
「うーん、でも宿題やってたからなあ。」
「宿題ですか?」
「うん、ルーアン先生が出した社会科の宿題。」
「あーあれね、別にやんなくていーわよ。気まぐれで出しただけだから。」
気まぐれで宿題なんて出すなよな。
「えーそんなー。僕、一生懸命やったのに。」
「あまいな乎一郎。俺はどーせそんな事だろうと思って、ばっちりやってないぜ。」
「それって威張れる事なのか?ま、あたしもやってないけどな。
七梨とシャオは・・・多分やってるな。」
「はい。でもやらなくてよかったんなら、言って下さればよかったのに。」
「まったくだ。ルーアン、教師がそんな事じゃダメだぞ。」
「えーん、たー様に怒られちゃったー。悔しいからまたキリュウの取っちゃおっと。」
「ちょ・・・やめてくれ、ルーアン殿。」
「やれやれ、人のものに手を出すなんてルーアンさん行儀悪いですね・・・て、ああっ!」
なんと、ルーアンが狙ったのは宮内出雲の皿だった。
「ありがとう、陽天心箸ちゃん。さあて、たーべよっと。」
「ルーアンさん、箸に陽天心をかけるなんてずるいですよ。」
「なーに言ってんの。敵に情けは禁物よ。」
なにわけのわかんねーこと言ってやがる。おいらのとこまで来たらただじゃおかねーぞ。
「野村先輩、ひょっとしてこの席も危ないんじゃ。」
「ああそうだな。気を引き締めて食べないと。」
「太助様。私がしっかりお守りします。」
「ああ、頼むよシャオ。」
「シャオ、あたしもお願い。」
「はい、任せてください翔子さん。」
やれやれ、まるで戦場だな。
ったく、幸せを授ける慶幸日天がそんな緊張感を授けてんじゃねーって。
「くすん、みんなしてひどいわ。いいもーん、ルーアンにはキリュウがいるから。」
「ま、また私の皿か?だからやめろと言うのに!」
「ルーアン先生・・・。僕のお皿からならいくらでもとっていいのに・・・。」
「遠藤君、そんな事より夕食の後、少しだけ投げ方の打ち合わせをしませんか?太助君をさらに鍛えるためにも。」
「そ、そうですね。出雲さん、一緒に頑張りましょう。」
ふーん、この2人も結構やる気だな。こりゃぼうずにとってますます厳しくなるぞ。
「ほ、ほらルーアン殿。出雲殿の皿にいろいろ乗っているぞ。」
「なーに言ってんの。あんなやつから取っても、おもしろくもなんともないじゃない。
いーから皿をテーブルの上に置きなさいよ。あたしが取れないじゃないの。」
何もキリュウから取らなくても、自分で大皿から取ってくりゃいいじゃねーか。
(虎賁しゃん、ルーアンしゃんにはルーアンしゃんの事情があるんでしよ。)
ルーアンのほうを見ていると、離珠がそう言って(いるようにおいらには思えた。)肩をぽんとたたいてきた。
ふう、気にしないことにするしかねーな。
そして嵐のような夕食がようやく終わった。ぼうずの疲れもだいぶとれたようだ。
「さーて、そんじゃ試練をやっててくれ。あたしはシャオと後片付けをするから。
おにーさん、乎一郎しっかりな。七梨、負けるんじゃねーぞ。」
「ああ。」
不良ねーちゃんの発言に、みんなが家の外へと出て行く。また月天様に何かふきこむつもりだな。
「あれ、真っ暗だ。そうか、夜になったもんな。」
外に出て大事な事に気が付いた。
明るくなけりゃ雪玉が見えない。つまり試練ができない。
「困りましたね、これじゃ試練なんて無理ですよ。」
「大丈夫よ、あたしに任せて。陽天心・・・」
「ちょっと待って下さい。
ルーアン先生の事だから、どうせそこら中の街灯に陽天心かけてここに持ってくるつもりなんでしょ。
そんな事したら町中真っ暗になって、大パニックですよ。」
「じゃあどうすんのよ。なんかいい案でもあるわけ?」
「そうだ、キリュウちゃんに懐中電灯を大きくしてもらって、屋根の上から照らすってのはどうかな。」
「ふむ、試してみるか。野村殿、懐中電灯を持ってきてくれ。」
「懐中電灯なら僕が持ってるよ。といってもペンライトだけど。」
「用意がいいな乎一郎。キリュウちゃん、早速付けてみてよ。」
キリュウはペンライトを持って短天扇で屋根に上がると、それを大きくした。
「どうだ?」
「うん、これならなんとか見えるよ。後はそのうち慣れると思う。」
「そうか、ならば始めるとするか。」
「ちょっと待って下さい、投げる人が全然見えませんよ。」
「ほんとだ。2人とも闇に紛れてるって感じです。」
「やれやれ、それでは主殿。すまぬが、家からテーブルランプを持ってきてくれ。」
「ああ、わかったよ。」
ぼうずが家に入ろうとすると、不良ねーちゃんと月天様が家から出てきた。
「あれ?七梨、試練はどうしたんだ?」
「ちょっと暗くてな。明かりを取ってこなくちゃなんねーんだ。」
そう言って、ぼうずは家の中へ入っていった。
「夜もやるとか言っときながら、暗くてできないなんて。キリュウもぬけてるよな。」
「す、すまぬ。」
「別に謝ることないよ。七梨もやるって言ってるんだから。」
ほどなくしてぼうずが家から出てきた。
「ほいキリュウ。電池式だし、これならぴったりだぜ。」
「うむ、それでは・・・。」
キリュウはそれを門の上に置くと巨大化させた。とたんに辺りが昼のように明るくなる。
「なんだ、最初からこうすりゃよかったじゃん。乎一郎のペンライト、要らないんじゃねーの。」
「せっかく大きくしたんだからあのまんまおいとけば?
たー様がスポットライト浴びてるみたいで、かっこいいわよ。」
おいらは逆に恥ずかしいと思うんだが。
「さて、試練を始めましょうか。太助君、覚悟はできてますね。
夕食前と同じように考えてると、痛い目を見ますよ。」
「あれ?打ち合わせはもう終わったのか?」
「うん、太助君が明かりを取りに行っている間にね。」
そんな短時間でできるもんなのか?まあいいや。
「ぼうず、しっかり頑張れよー!」
「おーし、おれだってさっきとは違うところを見せてやるぜ。」
「太助様あー、頑張ってくださいねー!」
「たー様、ファイトー!」
「七梨先輩、頑張ってくださーい!」
珍しく月天様が一番に叫んだな。不良ねーちゃんがふきこんだのってこれなのかな。
「それでは試練開始!」
不良ねーちゃんが合図を出すと、2人ともおもいっきり雪玉を投げ出した。
宮内出雲が投げる球をぼうずが避けたと思ったら、すぐ後の遠藤乎一郎の投げる球に当たる。
そんな調子がずっと続いていった。こりゃ前よりひどくなったな。
「うまいな。あの2人、七梨の動きを完璧によんでるよ。」
不良ねーちゃんが感心の声を漏らす。
うまいなんてもんじゃねーぞ。おいらでも、あそこまで投げるのは難しい。
「太助君、今までの避け方じゃ絶対に30球よけきるのは無理だよ。」
「そうです。だから頑張って新しい避け方を身につけて下さい。じゃないと一生終わりませんよ。」
今更そんな無茶なこと言うなよ。
「そんなのはまた別の日にでもやってくれよ。」
「そうだぜ、ありゃ太助でも無理だ。」
「まあいいではないか、これも試練だ。頑張って見つけられよ、主殿。」
「・・・分かった、なんとか頑張ってみる。」
再び2人が次々と雪玉を投げ始める。
ぼうずはあれからなかなかの頑張りを見せたものの、10球が精一杯のようだった。
うーん、今日中に終わるのか?
「少しは慣れてきたようですが、まだまだですね。」
「ずるいですよ出雲さん!さっきから七梨先輩をいじめてるみたいじゃないですか!
もっと正々堂々と勝負してくださいよ!」
「でも花織ちゃん、これも作戦のうち・・・」
「遠藤先輩も!七梨先輩の苦手なところばっかり狙ってるじゃないですか!」
愛原花織はかなり怒っているようだ。
「あのなあ、愛原。それをよけるのが試練なんだって。」
「でも!七梨先輩が!」
「花織殿。主殿は頑張って今日中に必ず30球よけると言っておるのだ。余計な口出しはしないでくれ。」
「そんな・・・。」
「花織さん、太助様を信じて、力いっぱい応援しましょう。ね?」
「そーよ、どうせあんたにできる事なんてそれぐらいしかないんだから。たー様ー!!頑張ってー!!」
「でも、でも・・・。」
おいらにもその気持ちはわかる。
でもな、試練を越えるのは結局ぼうずなんだから、やっぱり応援するぐらいにしといてくれ。
それからも何十球と雪玉が飛んでいったが、やはり10球程度が精一杯だった。
「太助君、元気は一度取り戻したんでしょう?だったら初心に帰って、もっとよーく考えて避けてください。」
「頑張ってるのは僕にも分かるんだけど、結局当たっちゃうと意味ないからね。もっと応用きかせて・・・」
「うるさいな、わかってるよ!!」
ぼうずがいらだち始めたようだ。そりゃ、こんだけ手間取ってればな。
でもあれだけ効率よく投げられたんじゃ、手間取らないほうが無理ってもんだぜ。
「分かってるんならさっさと避けてください。」
「くっ、わかったよ。」
再び雪玉が投げられ始める。そのうち、連続して当たるようになってきた。
「太助君、分かっててこれですか?話になりませんね、もっと落ち着いてください。」
「さっきから挑発してんのは宮内出雲、あんただろ。」
「そうだぜおにーさん。あんたが余計なこと言うから、七梨がまたわかんなくなってくるんだ。」
「それも試練のうちと考えてください。ですよね、キリュウさん。」
「う、うむ・・・。」
なんだって?おいらはそこまで試練を難しくするつもりはねーぞ。
「いいからさっさと投げろよ。」
「少し休んだらどうですか、太助君。しばらく考えて落ち着いたほうがいいですよ。」
「いちいちうるさいな!おれは大丈夫だよ!!」
なんか険悪な雰囲気になってきたな。もう試練は中止にしたほうが良いんじゃ・・・。
おいらがそう思ったその時、
『第3日目(午後)その3』に続く。

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