小説「まもって守護月天!」(虎賁の大きくなろう大作戦)


『第2日目(後編)その2』

それにしてもおいしい。昨日も月天様の料理を食わせてもらったが、
今日は今日で、また別のおいしさがあるってなもんだ。
ぼうずは幸せだよな。朝昼夜と、こんな美味いもんをずっと食べつづけてきたんだから。
そういや、おいらが月天様の料理をこんなに食べられるようになったのって、このぼうずが月天様の主になってからだな。
球技の星神が戦国の世に役立つ事なんてほとんど無かったし。まったく、平和ってのは良いねえ。
(どうしたんでしか?虎賁しゃん。)
気がつくと、離珠がおいらのほうをじっと見ていた。
料理がほとんど減っていないおいらの皿を見て不思議に思ったんだろうな。
あわてておいらはおかずを口に運ぶ。
「なんでもないから気にするなって、離珠。ああ、月天様の料理はおいしいなあ。」
「ありがとう虎賁。」
月天様がにこにこしながらおいらのほうを見た。あんな笑顔で言われたんじゃ、こっちのほうが照れちまうよ。
しばらくして、楽しい夕食が終了した。結局、キリュウはあれから一言もしゃべらなかったが。
鍋にはまだ2人前はあろうかというほどの具が残っている。
これ全部ルーアンが食べんのか?まったくどーいう胃袋を持ってんだか。
食器を手早くみんなで洗う。といっても、おいらと離珠は見てるしかできないし、
キリュウはリビングのソファーに座って考え込んでたけど。
「キリュウ、試練の説明しっかり頼むぜ。」
「ん?ああ・・・。」
なんか様子が変だな・・・。しばらくして、食器を片付け終わった2人がリビングにやってきた。
「さて、キリュウ、虎賁。試練の説明とやらを聞かせてくれよ。」
「とりあえず、最初はキリュウが説明するから。」
「う、うむ・・・。」
「あ、私お茶を入れてきますね。」
あわてて月天様がお茶を入れに行った。キリュウが再び黙り込む。たまらずおいらは尋ねた。
「どうしたんだよ、キリュウ。さっきから様子が変だぞ。」
「いや、虎賁殿を溺れかけさせてしまったのが申し訳なくてな・・・。」
「そんな事もう気にするなって。おいらは別になんとも思っちゃいないからさ。」
「しかし・・・。」
「深く考えないでくれよ。キリュウがそんなだと、おいらもつらいしさ。頼むから気にしないようにしてくれ、な?」
「そ、そうか。ありがとう。」
やれやれ、やっと元に戻ってくれたぜ。ほどなくして月天様がお茶を持ってきた。
「はい、太助様、キリュウさん。離珠と虎賁はこの湯のみね。」
月天様がお茶を入れ終わり席に着くと、キリュウが口を開いた。
「主殿、試練というのは雪合戦なのだ。」
「雪合戦?なんでまた。そりゃ、今日はたくさん雪が降ってるから雪合戦できるだろうけど・・・。」
「ただの雪合戦ではない。これは翔子殿のアイデアなのだが、
虎賁殿直伝の取っておきの投げ方とやらで翔子殿と野村殿に投げてもらう。
もちろん、投げた雪玉に私が万象大乱をかけたりもする。それを主殿がうまくかわす。
とまあ、簡単に言うとそんなところだ。」
「なるほど、それで虎賁がわざわざ俺と出かけたってわけなんだ。でもとっておきの投げ方って?」
「ほら、前に雪合戦やったときにさ、おいらがとっておきの投げ方を伝授してやるとか言ってただろ。
そしたらルーアンのやつが水ぶっかけて雪玉を作らせなくして、あんときおいらが教えようとしてたやつだよ。」
「へえー、そうだったっけ?そういやそんな事もあったような・・・。」
このときはぼうずと離珠が2人の世界に入っちまったからな、覚えてなくても無理ねーかな。
「まっ、とにかくそういうこと。その試練やるのは明日の朝だから。」
「朝か。まあ、学校が休みだもんな。」
「キリュウさん、いらっしゃるのは翔子さんとたかしさんなんですか?」
「ああそうだ、成り行きでそうなった。
そうそう、試練の手伝いをするわけではないが、なぜか花織殿も来る事になっている。」
「そうなんだよなー。試練だって言ってるのに、雪合戦大会がどうとか言ってたし・・・。本人は遊び気分だよ。」
それを聞くと、ぼうずは少し考え込んでしまった。どうしたんだ?
「乎一郎と宮内出雲はどうしたんだ?いつもならこんなイベントには必ず参加するやつらなのに・・・。」
「それは・・・。」
ぼうずの質問に答えを考えていると、
「遠藤殿はかぜ。出雲殿には試練のことは伝えていない。」
「伝えてない?別にいいけど、どうしてまた。」
「虎賁殿がいやがってな。それでやめにしたのだ。」
あちゃー、言っちゃった。予想通り、月天様が怒鳴ってきた。
「虎賁!いやがるなんてどうしたの。出雲さんとけんかでもしたの!?」
「い、いや、そうじゃないんですけど、ただ・・・。」
おいらが戸惑っていると、ぼうずが月天様をなだめて言った。
「まあまあシャオ。虎賁にも何か考えがあって、出雲を試練に誘うのをやめたんだろうと思うよ。
例えば、神主の仕事が忙しいから頼みに行ったら迷惑になるとか・・・。
嫌がったのも、キリュウに無駄足を踏ませないようにと思ったからじゃないかな。」
それを聞くと月天様は、
「そうなの?虎賁。」
「え、ええまあ、そんなとこです。」
次にキリュウに向いて、
「そうなんですか?キリュウさん。」
「主殿の言ったこととは少し違ったような気もするが、わたしが虎賁殿に試練の手伝いを依頼したのだから、
虎賁殿がそれなりに深く考えていたのは間違いないと思うぞ。」
そこまで聞いた月天様は、
「そう、怒鳴ってごめんなさいね、虎賁。明日は頑張ってキリュウさんのお手伝いをするんですよ。」
「もちろん!」
なんとか月天様に納得してもらえたようだ。ぼうずが説得してくれて助かったぜ。
ぼうずをちらりと見ると、OKサインを出してきた。へへっ、お互い宮内出雲が嫌いってね。
「そういやキリュウ、朝ったって何時ぐらいからやるんだ?」
「今日起きたころぐらいのつもりだが・・・。ふむ、2人には朝食を兼ねてそれぐらいの時間にきてもらうとするか。
シャオ殿、いつもより大変になるかもしれぬが構わぬか?」
朝食をかねて?なにもそこまでしなくてもなあ。
「別にいいですけど、それだったら今晩泊まりに来てもらったほうがいいんじゃないすか?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ月天様。こんな夜遅くにこの大雪の中来れる人なんていませんよ。」
「ああそうね、雪が降ってるんだったわね。でも、とりあえず朝食をたくさん作らなくっちゃ。」
月天様は朝食を作る気満々のようだ。でもなあ・・・。
「なあシャオ。なにも俺のうちで朝食食べなくても、それぞれの家で食べてもらったほうが良いんじゃないか?」
「そうですか?じゃあそうしましょうか。」
また月天様の意見が変わった。ホント周りに流されやすいひとだよな。ま、そこが月天様らしいんだけど。
「さて、話す内容はこれぐらいだ。細かい内容はまた明日言うことにする。」
キリュウがそう言って立ちあがった。
「主殿、それぞれに確認の連絡を頼むぞ。虎賁殿、詳しい打ち合わせをしよう。私の部屋へ。」
「お、おう。」
慌ててキリュウの肩に飛び乗る。
(虎賁しゃん、がんばってでし。)
ふと見ると、離珠がおいらの絵を描いていた。
「『虎賁しゃん、キリュウしゃんの手伝いしっかり頑張ってでし。』か。応援サンキュー、離珠。」
キリュウと共にリビングを後にする。階段を上ろうとすると、上からルーアンが下りてきた。
「あら、あんた達また一緒なの?仲いいわねえ。」
「ルーアン殿、体の調子は良いのか?」
「体?ああ、あんなのもう治っちゃったわよ。それじゃあたしは夕食を食べにいくから。」
そう言うとルーアンは横を素通りしていった。と思ったら、不意に立ち止まってこちらを見る。
「ところでキリュウ、今日は試練を与えるのもしないでどっかいってたんでしょ。一体何してたのよ。」
「明日主殿に与える試練を虎賁殿と探しにな。」
「試練探しー?そんなんでよくこんな雪ん中歩く気になるわねー。」
たく、人の気も知らないで、よくもまあそんなにずけずけと言えるもんだ。
「いちいちうるせーな、キリュウだって大変なんだよ。
まあ、いつもお気楽な慶昂日天なんかに分かるはずもねーよなー。」
「な、なんですってー!ごみちび2号のくせに生意気言うんじゃないわよ!」
ごみちび2号だと!?なんてこといいやがる。
「くっそー、今のは許せねーぞ。謝れ!!」
「うるさいわね!あんたに謝る気なんてこれっぽちもないからね!」
「なんだとー!こうなったら・・・」
「2人ともやめぬか!!」
突然の大きな声においらとルーアンはぴたりと止まった。キリュウ?
「どうして2人はそんなに仲が悪いのだ?もっと仲良くできぬのか!?」
キリュウが強い口調でしゃべる。
「でもね、あんなこと言われたら、あたしは怒って当然だと思うわよ。」
「おいらもおんなじだ。なにも苦労してないようなやつに、のほほんと言われるのは我慢できねー。」
「なんですってー、誰が苦労してないっていうのよー。」
「あんただよ、あんた。」
「やめろと言っているだろう!まったく・・・。」
言い合っていると、ぼうずと月天様がリビングから出て来た。
そりゃあれだけ大きな声じゃ聞こえてても無理ねーよな。
「どうしたってんだよ、ルーアン、虎賁。
それにキリュウ、お前だろ、あんなに大きな声出したのって。
珍しいな、キリュウが叫ぶなんて。何があったんだ?」
するとルーアンがぼうずに抱きついていった。
「あーんたー様ー。あたしはなんにも悪くないのに、虎賁ったらひどいのよ。
あたしはなんにも考えてないって。」
「誰がそんな事言ったんだよ。おいらはただ、
苦労知らずなやつが苦労してるやつに意見するなって言っただけだよ。」
「なんかよくわかんないけど、多分両方が悪いと思うぜ。そうだろ?キリュウ。」
ぼうずがルーアンを引き離し、キリュウの方を見る。
「ああ、そうだ。売り言葉に買い言葉というが、まったく・・・。」
「ちょっとキリュウ、あたしはねえ・・・」
「ルーアン!!」
「分かったわよ、たー様。ごめんなさい、キリュウ、虎賁。」
ぼうずの声にしおしおとなるルーアン。ざまあみろってんだ。すると月天様が、
「虎賁!早くあなたもルーアンさんに謝りなさい!!
それとキリュウさんにも!迷惑かけちゃダメって言ったじゃないの!!」
「は、はいっ。ごめんなさいルーアン、おいらもカッとなってつい言いすぎました。
ごめんなさいキリュウ。この埋め合わせは明日ばっちりするから・・・。」
「ふむ、まあ良いだろう。さてと、打ち合わせをしないとな。
それでは4人とも、とりあえずお休みを言っておく。また明日な。」
けんか両成敗ということで、その場はおさまった。
ルーアンは夕食を食べにキッチンへ。月天様も一緒について行く。
ぼうずは電話をしにかかる、離珠も一緒だが。
「そうだ、少し部屋を片付けるから、虎賁殿はしばらく待ってから部屋に来てくれ。
そうだな、主殿に正確に伝わっているかどうか確かめてくれ。」
そう言い残して、キリュウは部屋に入っていった。心配性だなあ。
階段を下りて下に行くと、ぼうずがちょうど電話中だった。
話し方から察するに、不良ねーちゃんの家だろう。
「だから、朝8時ぐらい!なんでそんなに早いかなんて俺に聞くなよ。
うちはいつもそれぐらいに朝食が終わるんだから。
え?もう1人は誰かって?えーと・・・。」
もう忘れたのか?まったく、キリュウがああ言ったのは正解ってことか。
「ぼうず、野村たかしだよ。」
電話のそばにのぼって告げてやった。
「そうそうたかし。え?なんでたかしかって?俺がそんな事知るかよ。
キリュウは成り行きだって言ってただけだし・・・。
虎賁?虎賁ならここにいるよ。ああ、それじゃ替わるな。」
「え?おいら?」
ぼうずが受話器を置いてくれた。もっとも、話しづらいのは変わんねーけど。
「それじゃ、俺はルーアンの様子を見てくるから。2度とけんかなんかするなよ。」
そう言って、ぼうずはおいらと離珠を残してキッチンへと向かっていった。
「ほい、替わったぜ。」
「ああ、虎賁。とりあえずうまくいったんだな。それにしてもなんで野村なんだ?」
「いやまあ、いろいろあってさ・・・。」
「どうしたんだ?なんか元気なさそうだけど・・・。」
「さっきちょっと嫌な事があってね。少し落ち込んでたんだ。」
「大丈夫か?明日忙しいんだろ?」
「大丈夫だよ。とっておきの投げ方を伝授するんだからちゃんと朝早く来てくれよ。」
「ああ、分かってるって。それじゃ、シャオによろしく言っといてくれよ。
あ、七梨にはもう替わらなくていいから。そんじゃな。」
そう言うと、電話を切った。あれ、なんでおいらに替わってくれなんてわざわざ言ったんだろ?
離珠と一緒に受話器を置くと、電話が鳴り出した。5回ぐらい鳴ったが、ぼうずが戻ってくる気配はない。
やれやれ、しょーがねーな。離珠と一緒に受話器を外して置く。
「もしもし、七梨ですけど。」
「あれ、その声は虎賁か?ちょうどいいや、さっき言い忘れてた事があってさ。」
思ったとおり不良ねーちゃんだ。
「実はあたしも虎賁と同じで、大きくしてもらいたいものがあってさ。
虎賁からキリュウに頼んどいてくれねーかなって。」
「ちょ、ちょっとまった!」
「あん?」
さっと離珠を見る。離珠は最初はきょとんとしていたが、
しばらくして『ぽん』と手を打ち、なるほどと言わんばかりに顔をニヤニヤさせ出した。
うわー、バレたー!!
「いきなりそんな事言っちゃダメじゃねーか。離珠にバレちゃっただろー!?」
「離珠に?別にいいじゃねーか、お前がちゃんと言っとけば大丈夫だって。
とりあえず、あたしの用件をキリュウにちゃんと伝えといてくれよ。
なにを大きくするかは秘密だけどな。それじゃ頼んだぜ。」
「あ、おい、ちょっと!」
言い終わるとかってに電話を切りやがった。まったく、なんてねーちゃんだ。それより、
「おい離珠。頼むからこの事は月天様には内緒にしといてくれよな。」
すると離珠は紙と筆を取り出した。例によってお絵かきをはじめる。
「なになに、『離珠もキリュウさんに大きくしてもらうでし。』だとー!?
うーん、それじゃおいらがキリュウにそう頼んどくよ。」
おいらの素直な答えに離珠はバンザイして喜ぶ。やれやれ、キリュウが引きうけてくれるかなあ・・・。
再び受話器をもとの位置に戻す。それにしてもぼうずは何やってんだ?早く来いって。
心の中で催促していると、ルーアンと月天様と共にキッチンから出てきた。あれ、もう夕食終わったのか?
するとルーアンが足早にこちらに近づいてきた。な、なんだ?
「ちょっと、2人ともよく聞きなさい。さっきはたー様に言われて謝ったけど、
あたしはあんたらの事『ごみちびコンビ』って呼ぶのは変えないから。
でもまあ、単独でいるときはちゃんと名前で呼んだげるから感謝しなさいよ。」
やれやれ、どうせこんなもんか。さすがは慶昂日天だな。
「別にいーよ。そうやってる方があんたらしいし。」
大人なところをここで見せとかねーとな。
「よかった、2人とも仲直りしたのね。」
あのねえ月天様、それは違うって。おいらの広い心があってこそ・・・
「なーに言ってんのシャオリン。あたしの寛大さに虎賁がひれ伏しただけよ。
あーん、ルーアンたらなんてすごいのかしら。たー様、誉めて誉めてー。」
寛大さぁー?いきなりなに言い出すんだ。
しかし、ここで怒るとまた月天様にしかられる。おいらはぐっと我慢した。
「それじゃたー様、シャオリン、それにそこのごみちびコンビ、お・や・す・みー!」
なんか上機嫌にルーアンは2階へと上がっていった。
ふう、やれやれ。座りこむおいらの頭を離珠がなでる。
そういや離珠ってルーアンのやつにごみちびなんて言われて怒ってないんだよなー。
心が広いんだか無関心なんだか。
「ごくろうさん虎賁、離珠。電話番ありがとな。誰からだったんだ?」
「不良ねーちゃんだよ。月天様によろしくだって。
あとは別にたいしたことじゃないから気にしなくていいよ。」
「まあ、ありがとう虎賁。」
「そうか、さっきはちょっとぬけだせなくってさ。
それと虎賁、お前って大人だな。あそこで耐えるなんてさ。」
ぼうずが賞賛の言葉をかけてくれた。
「いやいや、あれくらい。」
少し照れていると、月天様が、
「さ、離珠。お風呂に入りに行きましょう。」
離珠がぴょんと月天様の手のひらにとび乗る。
「それじゃ太助様、虎賁、おやすみなさい。」
「ああ、おやすみ、シャオ。」
「おやすみなさい、月天様。離珠もおやすみ。」
月天様の手の上で手を振る離珠。
「さて、たかしに電話しないとな。」
ぼうずが受話器を取って番号を押す。
「ああ、たかしか、太助だよ。
明日朝8時にうちに来てくれ。それじゃそういうことだから。」
あっさりと話が終わった。やれやれ、これでやっとキリュウと打ち合わせができるってもんだ。
と思った瞬間、電話が鳴り出した。
ははあ、野村たかしだな。
まったく、不良ねーちゃんといい、1回の電話でちゃんと全部言えってんだ。
「はい、七梨です。」
ぼうずが電話をとると、
「七梨先輩、今晩はー!愛原花織です。」
な、なに、あのじょーちゃんか。あ、そういやうちに来るとか言ってたっけ。
「愛原か、どうしたんだ?」
「先輩、明日の朝雪合戦大会をやるんでしょ。何時に先輩の家に行けばいいんですか?」
「え?朝8時だけど。」
「8時ですね、分かりました。七梨先輩、
絶対にあたしはかけつけますから、安心して待っていてくださいね。
それじゃあ、おやすみなさーい。」
「あ、ああ。おやすみ。」
電話が切れ、ぼうずはよく分からないといった顔でおいらに尋ねた。
「なあ虎賁、愛原も試練に参加するのか?」
「だから違うって。リビングで言っただろ、あのじょーちゃんだけ勘違いして来るって。」
「でもなあ、かけつけるってどういうことだ?いまいちよくわかんないんだけど・・・。」
そういや家に行ったときそんな事言ってたよな。
「まあ来れば分かるんじゃねーの。おいらもよくわかんないし。」
「そっか、それじゃ俺もう寝るよ。明日は大変そうだしな。
虎賁もキリュウにあんまり夜更かしするなって言っとけよ。」
「ああ、それじゃおやすみ。」
「おやすみ。」
2階にぼうずが上がっていくと、呼び鈴が『ピンポーン』と鳴りやがった。
ったくう、誰だよ、こんな夜中に・・・。
あわててぼうずが下りてきた。大変だね、まったく。
「はーい、どちら様・・・宮内出雲!」
なにっ?宮内出雲だと!?
「夜分遅くにすいませんねえ、太助君。実はシャオさんにお話があって来たんですよ。
シャオさんに会わせてもらえませんか?」
「シャオなら今お風呂だよ。寒いからとりあえずドア閉めるぞ。」
宮内出雲を中にいれて玄関のドアを閉める。
それにしてもこんな夜遅くに来るなんて、どういう神経してんだ。
「まったく、話なら電話してくれりゃよかったのに。」
「電話なら何度かしたんですが、ずっと話中だったんでね。
それでこうして歩いて来たわけなんですよ。」
「歩いて!そりゃわざわざごくろーなこった。」
嫌そうな声でおいらが話に加わると、宮内出雲がこちらを見た。
「虎賁さんですか。そうは言いますけど、
とても車で来れるような状況じゃないですよ。それこそ事故を起こしてしまいます。」
「それで?うちまでわざわざ歩いてきて、シャオに用事ってなんなんだよ。」
ぼうずも嫌そうな声できく。無理もねーよな。
「そうそう、明日も学校が休みでしょう。
だからシャオさんを温泉旅行に誘いたいのですよ。もちろん私と2人きりでね。」
「なんだってー!?ダメダメ絶対ダメー!」
「おいらも反対だ!たく、こんな夜中に来て何を言い出すかと思えば!」
ぼうずと一緒に力いっぱい拒否する。しかし宮内出雲は動じなかった。
「君達にきいているんじゃないんですよ。私はシャオさんにきくんです。
行くか行かないかはシャオさんが決める事です。違いますか?」
「う、で、でも・・・。」
いきなりぼうずの声が弱くなる。おいおい、負けてんじゃねーよ。
「私は、日々守護月天の使命に縛り付けられているシャオさんを気の毒に思うからこそ、
シャオさんを誘いに来たのです。太助君にそれを拒む権利などあると思えませんけどね。」
「く、くそ・・・。」
ダメだ、このままじゃぼうずが負けちまうな。こりゃ何とかしねーと。
「さて、それでは上がらせてもらいましょうか。」
「ちょ、ちょっと待てって!」
家に上がろうとする宮内出雲をぼうずと2人で押しとどめる。
じょーだんじゃねー、上がらせてたまるかってんだ。
「なんのつもりですか?お客さんを玄関に立たせたまま、待たせようというんですか?」
ちくしょー、例え試練の話をしたって、
こいつならうまく月天様をまるめこんで連れ出すに違いねーし、どうすりゃいいんだ。
2人で困り果てていると、2階から誰か下りてきた。キリュウだ。
「どうしたのだ虎賁殿。いつまでたっても部屋に来ぬから、何かあったのではと思っていたのだが・・・。
おや、出雲殿、どうしたのだこんな夜中に。しかも外は雪で大変だったろう。」
「やあ、今晩はキリュウさん。この2人をどうにかしてくれませんかねえ。」
「一体どうしたというのだ?主殿も虎賁殿も何をそんなに必死になっている?」
「実はですね・・・。」
宮内出雲が説明をはじめた。ダメだ、キリュウにかかっちゃおいら達なんて一たまりもない。万事休すだ。
「・・・という訳なんですよ。」
「なるほど、それで何とかしてくれと言っていたわけだな。」
「ええ、お願いしますよ。」
「残念だがそれはできぬな。」
「えっ!?」
3人同時に声をあげた。おいら達側につくとは意外だ。
「どういう事ですかキリュウさん。
シャオさんと私を会わせない権利があなたにあるというのですか?」
「そんなものはないが、明日主殿に与える試練を行うのでな。
それでシャオ殿には家にいてもらわなくてはならないのだ。」
「試練を太助君に与えるのならばシャオさんは関係ないじゃないですか。
どうして家にいなくちゃいけないんですか。」
そりゃ月天様がいないと、ぼうずの頑張りが半減するから、なんて言えねーよな。
「そういう事は教えられぬな。試練だ、自分で考えられよ。」
すげー、これじゃ何も言えねーな。
「それじゃ、明日私はシャオさんに会いに来ます。それなら別にいいですよね。」
なるほど、おとなしく引き下がる気はねーみてーだな。
「それも遠慮願いたい。試練の邪魔になるのでな。」
「じゃ、邪魔!?この私がですか!?ただシャオさんに会いに来るだけなんですよ!?」
「問答無用だ。とにかく、出雲殿は明日この家に立ち入り禁止だ。さあ、もうおとなしく帰られよ。」
「ちょっと待ってください。せめてシャオさんに話だけでも・・・」
「万象大乱。」
コートがかけられていたえもんかけにぶら下がっていたハンガーが大きくなり、宮内出雲の顔に直撃する。
「ぐわっ。」
たまらず宮内出雲はひっくり返った。
「ちょ、ちょっと、キリュウさん・・・」
「万象大乱。」
今度は並べたあった靴の1つが巨大化した。その衝撃で、宮内出雲は玄関の外に吹っ飛ばされた。
「試練だ、帰られよ。」
おや、いつもと同じような違うようなせりふだな。
なんだ、‘た’を‘か’に入れ替えただけじゃねーか。
「うう、私はあきらめ・・・」
「万象大乱。」
今度はドアノブが巨大化して、宮内出雲を塀の向こうまでふっ飛ばした。器用だなあ。
キリュウはそれぞれの大きさを元に戻すと、
「というわけだ出雲殿。もし明日また来たら、容赦なく追い返すからな。」
「は、はい〜。」
疲れ果てた宮内出雲は、寒空の中帰っていった。雪はようやく小ぶりになってきたようだ。
ぼうずはドアを閉めると、キリュウに質問した。
「キリュウ、とりあえずさっきはありがとう。でもどうして?」
「なに、明日は真剣に試練に集中したいのでな。ただそれだけだ。
さあ虎賁殿、遅くなったので早く打ち合わせを済ませてしまおう。」
「あ、ああ。」
キリュウの肩に飛び乗って、2階へと上がってゆく。
「それじゃ2人とも、今度こそおやすみ。」
「ああ、おやすみ。」
「おやすみ、主殿。」
ようやくキリュウの部屋に入ることができた。ふう、長い1日だったなあ。
「虎賁殿、寝るのはまだだぞ。打ち合わせをせねばな。」
「ああ、分かってるって。」
夜がさらにふけてゆく。おいらとキリュウが寝に入ったころには、時計はすでに1時を過ぎていた。
よし、明日はしっかりがんばらねーとな。あれ、なんか忘れてるよーな・・・、ま、いーか。
そうしておいらは目を閉じた・・・。『第3日目(午前)その1』に続く。

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