「奇想天外妖怪道中」


「魔王・・・ヨミ?」
聞き慣れない名前にぽかんとする太助。
「なんやてぇぇぇぇぇぇぇ!!」
突然染五郎が怒鳴り込んできた!
「知ってるのか?」
「妖怪ならみんなしっとるわい!!魔王ヨミ・・・
その全てが謎の妖怪・・・ただわかっとるのはヨミが出てきたらもうお終い、ちゅうこっちゃ・・・・」
「そんな・・・・まさかヨミが出てくるなんてぇ!!」
ものすごく弱気な14号。
「ちぇっ・・・・エンディングはおあずけか・・・」
太助はがっかりしたようにつぶやく。
「もう一頑張りするぜ!シャオ!」
『はい!』
「!!ちょっと!待ちなさい!!」
涼が引き留める声も聞かずに向かっていく太助・・・

「軒轅!頼むぜ!」
軒轅の力でなんと空を飛ぶ太助。
まぁこうでもしないと巨大なヨミに向かっていけないのだが。
「でやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
魔封刀を構えてヨミに突っ込む!

ギンッ!

その時太助を睨み付けるヨミの目が光った!

ドンッ!
「うわあああああああああああ!!!!!!!!!」
ドカーーン!!
何かに吹っ飛ばされるように落下していく太助。
そのまま地面へと激突した。
「なんだ・・・今のは!睨まれたとたん、何かに押しつぶされそうになって・・・・」
ズシン・・・ズシン・・・
その時ヨミは少しずつ太助に近付きつつあった!
「うっ・・・うわわわわわわ!!」

ズシン・・・・ズシン・・・
「・・・・あれ?」
ヨミは太助に見向きもせずに通り過ぎて行った。
「二人とも大丈夫!?」
涼の声とともに全員が集まってきた。
「だから言ったのよ、待ちなさいって!
ヨミはあたし達とは違う世界に存在する次元妖怪なの!!
強さの法則もあたし達と違うの!!
あたし達の常識はヨミには通じないのよ!!例え天神の鎧でも!!」
「それじゃどうやってあいつを倒したらいいんだ!?」
「・・・・はっきり言うわ。ヨミを倒す方法は・・・・ない!!」

「・・・・ない?」
「ないわ。いかなる方法を用いてもヨミは倒せない・・・・」
「う・・・嘘だろ!それじゃどうすりゃいいんだよ!?」

「おい!見ろ!ヨミが・・・・」
ヨミの進路を見てみると海が見える。
「ヨミに思考の概念はないわ。完全に本能で動いているの。
さっき太助君を無視したのもヨミは自分に向かってくる者以外には目もくれないからなの」
「おい、それよりまさかあいつ・・・海を越える気か!?」
「まずい!村が襲われる!!」
「海に入る前に食い止めるんだ!!」
「ちょっとどこ行く気!!」
「ヨミを止める!きっと何か方法があるはずだ!!」
天神の鎧を纏った面々はヨミに向かっていった・・・・

まっすぐに海へ向かうヨミ。
海に入られては余計に戦いにくくなる。
絶対に陸上で食い止めなければならない!
「いくぞぉ!!ヨミ!!」
再び空を飛んで突っ込んでいく太助。
「おい。俺達空なんか飛べないぞ・・・・・」
悩む他のメンバー。
「そうだ!!」

「ヨミは想像以上のパワーだ。なんとかそれを押さえられれば・・・」
「手伝うぜ!!」
「みんな!!」
出雲、たかし、乎一郎、翔子が鳳凰に乗って現れた!
「こいつなら俺達でも空で戦えるぜ!!」
「全員で一気に行きますよ!!」
「みんないくよ!!」
「オッケー!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
全員による総攻撃でヨミを狙う!
「どんな強固な守りも一点を集中すれば必ず壊せる!」
と、出雲の言葉。
全力でヨミに立ち向かう!

ギンッ!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
が。
ヨミの眼力であっさり吹き飛ばされてしまった。
「うっそだろう・・・・あんなにやって無傷かよあいつ・・・」
何もなかったかのようにヨミは海へと向かい始める。
「くっそぅ・・・・」

「涼さんどうするんです!このままじゃほんとに妖怪世界は滅亡ですよ!」
「わかってるわよ・・・・やっぱり奥の手使うしかないわね・・・・」
「え?」
「光の五封星・・・これでヨミを止めるしかないわね・・・・」
「そんなんあるんやったら、はよださんかい!!」
「でもこの術は五人の妖怪がいなきゃ出来ないのよ・・・・」
「ん?」
涼、染五郎、14号、阿修羅。
「4人しかおらへんやん!!あと一人どないすんねん!!」
「阿修羅様が分身するってのは・・・」
「駄目よ。元は一人だから意味ないわ」
「あたしは参加出来ないの?」
「ヨウメイちゃん。妖怪って言ったでしょ?ヨウメイちゃんじゃ駄目なの」
「でも『ようかい』と『ようめい』って一文字違いだけど・・・」
「だから?」
「いえ、言ってみただけ・・・」

「そんな・・・せやったらどうすんねん!!」
「心配しなくても5人目ならそこにいるわ・・・」
「へ?」
「いるんでしょ?出てきたら?」

「金剛!!」

「えええええええええ!!」
「ドクロ将軍!!」
「ふん・・・・気付いておったか・・・・」
木の陰からゆっくりとドクロ将軍が姿を現した。
「な、なんでここに!?」
「鬼神城の様子がおかしいと思ってな、ちょっと見に来ただけなのだが・・・
とんでもない奴が現れたようだな」
「力を貸してくれるわね?金剛」
「・・・愚問だな」
「え?」
「断る理由などあるか?」
そう言ってドクロ将軍はふっ、と笑った。

「みんな!やり方はさっき教えた通り!急ぐわよ!」
「おぉっ!」
5人の妖怪勢はヨミの周りを囲むように立った。
「さぁ!光の五封星を呼び出すわ!!」
カッ!
「これはっ・・・・」
大きな円の中に☆の形の模様が描かれている。
☆の頂点にはそれぞれの妖怪勢が立っている。
「ヨミの動きが・・・止まった!?」
太助達人間勢は唐突な出来事に驚いている。
「今ならヨミの動きを封じることが出来る!みんなあとはお願い!」
「そうか・・・よし!!」
再び空を飛んでヨミに向かっていく。
「北斗七星!頼むぞぉ!!」
「俺の魂よ!燃えまくれ!!」
「ありったけの玉手箱爆弾使ってやる!!」
「全身全霊で魔封の札を使います!」
「万象大乱手裏剣!!」
それぞれによる全力の攻撃が展開される。
しかし反撃こそされないもののヨミには傷一つつかない。
「くそっ!まだ駄目なのか!?」

様子を見ていた涼が考えていた。
「おかしいわね。光の五封星はちゃんと・・・・ああああああああ!!」
涼が何かに気付いたように叫んだ!
「どうしたんだよ!」
「光の五封星は太陽の光の当たる場所じゃないと効果が弱くなるんだった・・・」
この怨念島はいつも暗雲に覆われていて太陽の光など差し込んでこない。
「あほーっ!!わいらにこんだけさせといてそれはないやろ!!」
「困った・・・これじゃ破られるのも時間の問題・・・・」
ぽんっ
「ん?」
その時涼の後ろから肩を叩く影があった。
「私の存在忘れてるんじゃない?」
「ヨウメイちゃん・・・・あっ、そうか!!その手があったわね!」
「そういうこと!」
ヨウメイは統天書を手にちょっとにやついていた。
「やっと私の出番・・・しかもこんなおいしい役!!
待っててよかった・・・・」
「早くしてよー!!」
「ふふ、慌てない、慌てない」
よほど嬉しいのか統天書をめくる姿もどこかわくわくしている。
「では・・・・来たれ快晴!!」
すると島を覆っていた雲が晴れ、太陽の光が差し込んできた。
「おおっ!ヨミが苦しんでいる!!」
光の五封星が完全になり、ヨミを押さえる力が上がった!
「光の五封星、本領発揮!!みんな、残った力全部使って!!」
全員が全ての力をヨミに向けてぶつける!

ドーン!!
「うわっ!」
「どうなった!?」
閃光が走った後、そこには何もなくなっていた。ヨミの姿はどこにもない。
「か・・・勝ったのか!?」
「ううん、元いた世界に送り返しただけよ。
倒したわけじゃないわ」
「十分だよ。とにかくヨミはいなくなったんだから・・・・」
「つ・・・・疲れた・・・・」
シュゥゥゥゥゥゥゥ・・・・
その瞬間天神の鎧の術が解け、全員元の姿に戻った。
「太助様・・・今度こそ終わりましたね・・・」
「ああ・・・・」
「終わったぜ花織ちゃん・・・」
「はい・・・・・・」
「離珠さん、ご苦労様です」
(ありがとうでし)
「しっかりしなさいよ、遠藤君・・・」
「せんせぇー・・・僕もうへとへとです・・・」
「翔子殿大丈夫か?」
「大丈夫なわけないだろ・・・・疲れた・・・・」

「みんなほんとにご苦労様・・・・」
「俺達もへとへとなんですけど・・・・」
「ふふ・・・よい修行になったわい・・・」
「はよ帰って休もうや・・・」
「あ、それ賛成・・・・」

「じゃ、皆さん。怪奇村に帰りましょう」
ちなみにヨウメイは元気だったりする。


ドクロ将軍の人物紹介

何!?儂にこやつらを紹介しろと!?
むむ・・・なんとかやってみよう・・・

名前/職業

太助/剣士
シャオリン/守護月天
ルーアン/慶幸日天
キリュウ/万難地天
ヨウメイ/知教空天
出雲/符術師
離珠/巫女
たかし/傘使い
翔子/忍者
乎一郎/からくり職人
花織/猫又
14号/カラス天狗
涼/亀妖怪
染五郎/傘芸人
阿修羅/夜叉
金剛(儂)/亡霊武者

なかなか難しいな・・・これでいいのか?
「いいけど・・・なんか堅いね・・・・」

そして彼はのたもうた 六
『金剛の短いながらも静かな日々』

鳳凰の塔で左肩に深い傷を負った儂は
海神町で療養しておった。
体を休めることも時には必要だからな。

しばらく町でゆっくりすることにした儂。
長い間修行に明け暮れていたため、
こういうのは本当にひさしぶりじゃ。

ある時は茶店に行って団子と茶を頼んだ。
ゆっくりと味わって食べると
これがなかなかの美味。
茶も絶品であった。

ある時は銭湯に行き、風呂に入った。
いい気持ちじゃ。
骨までしみるようじゃ・・・
体の疲れも消え失せていくわい。

ある時は海を見に行って静かに風を受けた。
ここはとても心地よい風が吹く。
綺麗な海を見つめていると
心が洗われるようじゃ。

たまにはこういうのも悪くないな・・・
そう思った時だった。
遙か東の方角から
不吉な風が吹いてきたのは。
鬼神城に何かあったのだろう・・・
儂はそう直感した。

肩はもう治ったな・・・
よし、怨念島へ向かおう。
ちょうどよい修行となるじゃろう。


邪灯団が壊滅してから3日経った怪奇村。
「ふぅー・・・・体もすっかり元通り。もう大丈夫だ!」
「太助様。そろそろ準備を・・・・」
「わかってるよ。シャオ。みんなに挨拶しなきゃな・・・」
そう。いよいよ太助達は人間世界に帰ることになった。

「まずは・・・・おっ、いたいた」
カラス天狗14号。そしてキリュウと翔子。
「師匠・・・・帰ってしまうんすね・・・」
「14号殿・・・もうそなたに私の力は必要ないだろう。
この旅でそなたは立派に成長した。
私がいなくてももう大丈夫だ」
「師匠・・・俺は・・・」
「やめてくれ。そんな目の前で泣くのは・・・」
少し涙ぐむキリュウ。なんだかんだでこの旅でキリュウと14号はいい師弟関係を築いていたようだ。
「なぁ・・・14号。最後に聞いておきたいんだけどさ・・・」
「・・はい?」
翔子に質問され、涙で濡れた顔を上げる。
「14号ってのは邪灯団にいた頃の名前なんだろ?
お前の本名は?」
「・・・岩吉(がんきち)って言います・・・」
「そうか・・・岩吉殿、そなたのこれからのさらなる活躍・・・期待しているぞ」

「お次は・・・・」
「あっ、せんぱーい」
「愛原?」
「ちょっとあの二人止めて下さいよぉ」
「あの二人って・・・まさか・・・・」

「さぁ!よってらっしゃい、見てらっしゃい!」
「いつもより多く回しておりまっせー!!」
染五郎が村の中で芸を披露していた。
たかしはその客引き。
「いやぁ、商売繁盛、けっこーけっこー」
「さすがは染五郎、俺の魂の友なだけあるぜ!」
「当然やがな!長旅を終えてわいの芸にも磨きがかかったで!
そこにたかしの客引きが加わるんや、鬼に金棒やで!」
「染五郎ー!」
「たかしー!」
いきなり男泣きする熱血男二人。
「たかし・・・もうすぐ帰ってまうんやな・・・出来れば残って一緒に芸人やりたかったで・・・」
「すまねぇな、染五郎・・・だが!俺達は魂の友情によって結ばれている!!
それは何があろうと変わらない!俺達は永遠に魂の友だ!
俺はお前をけっして忘れないぜ!!」
「当たり前や!!忘れたらどつきにいったるわい」
そう言うと染五郎は再び傘を回し始めた。
「さぁ!時間ギリギリまで頑張って稼ぐでえ!」
「おお!さぁ、みんな、染五郎の芸を見ていってくれぇ!!」

「・・・・もうあの二人は止められないな・・・・・」
「二人ともとっても楽しそうですわ」
「あうぅ・・・あたしついていけません・・・・」

「お主達ここで何をしておる?」
「あっ、ドクロ将軍・・・・・」
「そういえば金剛さんはこれからどうするんですか?」
「儂はまた修行の旅に出る。剣の道を極めるにはまだまだ修行が足りんからな」
「ふぇぇ・・・・大変なんですねぇ・・・」
「大変といえばあの小娘はどうするつもりじゃろうな・・・」
「あの小娘って・・・・」
「阿修羅じゃよ。皇鬼のいなくなった今、あやつに居場所などあるのか・・・」
「あ・・・そうか・・・」
あれでも真剣に皇鬼のことが好きだった阿修羅。
彼女はどうなるのだろう・・・・
「心配ないんじゃない?」
「ルーアン!」
「僕もいるんだけど・・・」
「乎一郎も・・・それよりどういうことだ?」
「見に行けばわかるわよ」

「・・・・これ全部あなたが書いたのですか?」
「そうよー。このあたしの6本の腕と三身の術を駆使すれば!
これくらいたいしたことないわ」
村の一角にある小さな家に阿修羅と出雲と離珠の姿があった。
離珠は黙々と饅頭にかぶりついている。
「どうした・・・わぁっ!!」
阿修羅を訪ねてきた太助達が見たのは部屋一面に散らばった漫画と3人の阿修羅。
「なんで3人になってんだよ!」
「あー・・・さっきまで書いてたから・・・」
「もしかしてこれ全部・・・阿修羅の書いた同人誌・・・・」
「そうよ」
明るく振る舞う阿修羅。
なんだか嫌味な雰囲気が抜けて表情が優しくなっている。
「あの・・・・大丈夫?」
「何が?」
「・・・・余計なこと聞くかもしれないけど・・・皇鬼のこと・・・・」
「・・・ああ、そのことね。大丈夫。もう諦めたから」
「諦めた!?」
「うん・・・・あの後ね・・・あの亀女に鬼神城で何もなかったか聞いたの」
(亀女・・・・涼ちゃんのことか・・・・)
「そしたらあいつ・・・・なんて言ったと思う?」

「あたしが捕まってた時?うーん、別に何もなかったけど・・・」
「本当に?本当に何もしてない?誘惑したりとかしなかったでしょうね!」
「あたしをなんだと思ってるの・・・まぁ強いて言えば少し話をしたかしら」
「話!?な、内容は!?」
「んっとね・・・・」

鬼神城で玉の中に閉じこめられている時・・・・
「皇鬼・・・あんたに聞いておきたいことがあるわ」
「なにかな?」
玉の中から涼が話しかけてきた。
「何故邪灯団を創ったの?あんたなら一人でも充分世界征服は出来るはずよ」
仮に皇鬼対邪灯団全戦闘員の対決を行えば間違いなく皇鬼が勝つだろう。
それくらい皇鬼は強い・・・強さのバランス滅茶苦茶だが事実なのだ。
「確かに、俺一人でも出来るだろう。その自信もある」
「では何故?どうしてわざわざこんな手の込んだことを」
そう言うと皇鬼は少しずつ語り始めた。
「邪灯団は邪魔者を始末するための組織ではない。邪魔者を見つけだすための組織なのだよ」
「なんですって?」
「2万年前、俺は一人で世界征服を実行して、もう少しでそれは完遂されるはずだった・・・
しかし、あの時!天神の鎧を纏った戦士が現れ、俺は倒された。
天神の鎧・・・この皇鬼、唯一の誤算だった。
あの失敗を繰り返さぬよう、俺は邪灯団を創った。
天神の鎧を使える素質のある強い戦士を見つけだすために。
いわば組織は囮なんだよ」
「そしてその思惑通り、こうしてあたしを人質にしてみんなをおびき寄せたわけね・・・なるほど」
「ふん、天神の鎧さえなければ俺の勝ちは決まっているからな」

「びっくりでしょ?皇鬼様にとって邪灯団はそれだけの存在でしかなかったのよ。
もちろんあたしも・・・それだけ天神の鎧の力を恐れていたってことなんだけど・・・・」
「風神雷神や黒天狗、亡鬼さえも・・・そんな些細な存在だったのか?」
「話はまだ続きがあるの」

「もう一つ聞きたいことがあるわ。あなたは・・・どうして世界征服をしようとするの?」
「・・・・逆に聞くが何故そんなことを聞く」
「鬼族には極希に強大な力を持つ者が現れるらしいわね。
・・・それがあなたなんでしょ?皇鬼」
「・・・そうだ。確かに俺は鬼族に生まれた天才だ。
幼い頃からとにかく器用だった。出来ないことなど何一つなかった・・・
だから・・・・つまらなかった。あまりにも全てが簡単過ぎて・・・
そしていつしか感じるようになっていた。
この力でどこまで出来るかって・・・・
自分の力の限界を知りたい、そう思った。
その手段として俺は世界征服を選んだ・・・・」
「そして失敗した・・・・もう2万年前の話ね」
「あれで挑戦は終わったと思った。だが今回こうして俺は復活した。
もし神というものがいるのなら神は俺にもう一度機会を与えてくれた。
そう解釈して俺は世界征服に再挑戦した・・・・」
「何故その力を正しく使おうとしないの?」
「ふん・・・誰がなんと言おうとこれが俺の生き方だ。
これは俺の決めたことだ。今更変える気などない」
「あなたはわかってるのね・・・自分のしていることが悪いことだって」
「ふん・・・だったらなんだ?」
「別に。あたしも今更あなたを止めようなんて思わないわ。
性格なんてそんな簡単に変えられないもの。
あたしだってこの10万年の生き方を変えようなんて思わない」
「・・・変わった女だな、お前」
「それはどうも」

「皇鬼様は・・・誰よりも自分の気持ちに正直に生きたわ・・・・」
「そういや最後に言ってたな・・・『俺は後悔しない。俺は俺が望むままに生きた』って」
「もしかしたら世界征服なんてどうでもよかったのかも・・・・ただ自分の限界に挑戦したかったから・・・・」
「そう考えると・・・意外と可哀想な奴なのかもな。
なんでも出来る天才だけど・・・生き方に関しては不器用な奴だった・・・・」
「でもね、あたしが驚いたのはあの亀女がそこまで皇鬼様のことを考えてたってことよ。
あたしでさえ知らない皇鬼様の気持ちをあいつはわかってた・・・・
そして思い知らされたの。あたしは皇鬼様のことなんにもわかってなかったって・・・・
それを悟った瞬間、あたしは皇鬼様を諦めた・・・
180歳の小娘のあたしじゃ皇鬼様の力になれない・・・そう思ったから」
「な、なんか大人になったね・・・阿修羅」
「恋は女を強くするのよ」
深くうなずくルーアン。
「皇鬼様は・・・・あなた達に倒されたことも本望だったのかもね。
おかげで皇鬼様は満足に死んでいったもの・・・ありがと」
「阿修羅・・・・」
「もうふっきれたわ!これからは同人一筋よ!漫画を書いて書いて書きまくるのよ!」
「生き生きしてるよ・・・」
「いい話だねぇ・・・」
武器を持つ手をペンに変えて、新たな生き甲斐に向けて阿修羅は頑張ることにした。
阿修羅は今までにないくらいの爽やかな笑顔を浮かべていた。

その頃、涼の家。
「ええええええええええええ!!」
突然ヨウメイの絶叫が聞こえてきた。
「2万年前に現れた皇鬼を倒した戦士って・・・涼ちゃんの夫だったのぉ!!?」
「そうよ、驚いた?」
「うん、結婚してたってことに・・・まさか人妻だったとは・・・・」
「そっちかい!」
涼の突っ込みが入る。
「懐かしい話だわ・・・あの時あたしが夫の天神の鎧になったのよねぇ」
「それじゃ!魔封刀は旦那さんの形見・・・・」
「・・・魔封刀を使える条件・・・それは心清きこと。
あたしが初めて太助君に会った時、これはいけるって思ったわ。
だってシャオちゃんという精霊がついてるんですもの。
心の清さは保証済みじゃない?」
「じゃ・・・・鳳凰は・・・・」
「うん。皇鬼を倒した後夫に頼まれてね。
悪人に利用されないよう、鳳凰を眠りにつかせてくれって・・・・」
「鳳凰を封印したのは・・・あなただったの!?」
「わざわざ3人の番人を用意して・・・大変だったわ」
「もしかして・・・・天神の鎧も・・・・」
「皇鬼の失敗は天神の鎧が術だということを知らなかったことなのよ」
「どういうこと?」
「天神の鎧に必要なのは純粋な絆・・・
でもそんな簡単に使えるようにはなれない。
邪灯団はあなた達が天神の鎧を使えるようになるための絶好の修行相手だったってわけ。
皇鬼は天神の鎧を使える素質のある者を早く見つけて始末するために邪灯団を創ったけど、
結果として相手にみすみす力を与えてしまった・・・・皮肉よねぇ」
「・・・・・・・・・・」
(もしかして・・・・涼ちゃんは初めから全部わかってた?
今回の事件の展開は全て涼ちゃんの予測範囲だったんじゃ・・・・
主様が魔封刀を使えたのも・・・・鳳凰や天神の鎧を復活出来たのも
涼ちゃんの計算通りだったのかも・・・・・)
「見た目は私達と変わらないのに・・・・中身はすごい大人だったんですね・・・」
「ふっ・・・10万年の経験と知識、そして若さを兼ね備えた女だから」
「・・・だからこそ皇鬼の気持ちをわかってあげられたんですね」

「それじゃ・・・旦那さんは・・・」
「とっくの昔に死んだわ。普通妖怪の寿命は約1000年。
でも亀妖怪のあたしは100万年・・・・どっちが先に死ぬか容易に想像つくわよね?」
「ゴメン・・・余計な事聞いちゃった・・・」
「もういいよ。昔の話だから・・・」
そう言う涼の顔は少し寂しそう。
「涼ちゃんは・・・旦那さんのこと好きだったのね・・・・」

「あたし・・・シャオちゃん達の気持ちわかるよ。
夫もたくさんいた友達も・・・みんな先に歳取って死んじゃった・・・」
「・・・10万年だもんね・・・シャオリンさん達よりもそういう経験多いよね・・・」
「でもね!悪い事ばかりでもないのよ!
長く生きていればそれだけいろんな人に出会えるもの!
次はどんな人に出会えるだろう・・・って
考えるだけでワクワクするの!
おかげでこうしてあなた達にも出会えた!
10万年生きてきて初めてよ!人間に出会えたのは!」
「涼ちゃん・・・あなたってすごく・・・強いのね」
彼女が数多くの妖怪から信頼されているのもこの心の強さがあるからかもしれない。

そこへ太助達がぞろぞろとやってきた。
「おっ、ヨウメイいたのか。そろそろ帰るぞ」
「は、はい!」
「じゃみんな外に出よう。太陽の光が必要だから」
外に出た太助達人間勢は一塊りに集まった。
「準備いい?」
「ああ、いつでもやってくれ」
涼達5人の妖怪が囲むように立った。
光の五封星の陣だ。
「ヨミを送り返したのと同じ要領で・・・・これで人間世界に帰れるわ」
「ああ・・・・ありがとう・・・・」
「礼を言うのはこっちよ・・・おかげでこの世界も平和になったわ・・・
本当にありがとう・・・・」
「涼さん・・・お元気で・・・・」
「うん・・・・じゃあね!!」
シュッ!!

一瞬の閃光とともに太助達の姿は消えた・・・・

ドーーーーン!!
「あいてててて・・・・・」
「どこだここは・・・・・・」
ここはどこかの家の部屋の中。
しかし見たことあるような・・・・
「おーっ!おかえり!無事にすんだようだな!!」
「おじさん!!」
思い出した。ここは七梨大二郎の家だ。
ということは帰ってこれたということだ。
「妖怪の人間世界侵略を未然に防いだ。立派だよお前達」
「いや・・・・妖怪にもいろいろいたよ。
すげぇいい人とかもいっぱいいたからね」
「そうかそうか。それは貴重な体験をしたなぁ」
「あのな・・・・元はと言えば叔父さんが変なマシンを造ったからこんなことになったんだろ?」
「わかっている。やはりあのマシンは危険だったな・・・・それで今度はな」
「え!?」
「イヤな予感・・・・」

「いくぞ!今週のびっくりどっきりメカ!!」
「叔父さん、そのネタはもういいって・・・」
ジャーン!
「大幅に改良を重ねて造ったイタコマッシーン・改だ!!」
「全然わかってねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「にゃーはははははははは!!!!」
「うっ・・・この笑い声は・・・・」
ドーン!!
「今度こそこいつですごいの呼び出して楽して豪勢な生活してみせるッチ!!」
「またお前かぁ!!」
「スイッチオーン!!」
ポチッ
「えっ!?そんないきなり・・・・」
ドッカーン!!

「な・・・・なに!?」
「これは一体・・・・」
「あーっ!師匠!!」
「おぉ!たかし!!」
「ちょっと!執筆中だったのに!!」
出てきたのは涼、金剛、岩吉、染五郎、阿修羅だった・・・・
「あ・・・あら?予想外のものが出てきたッチね・・・・」
唖然とするザコノビッチ。
後ろで太助が拳を握りしめていることには気付いていない。
「せっかくの感動のエンディングをぶちこわしにしやがってぇぇぇぇぇぇ!!」
バキッ!
「結局こういうオチだったッチかぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・」
キランッ

おしまい。


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