天国に一番近いKanon(真琴編)


「えっと…これで買い物は全部だな」
俺は秋子さんのお使いで商店街に買い物に来ていた。
すでに買うモノは全て買った。あとは帰るだけだ。
「うぅ寒い…早く帰ろう…」
そうして水瀬家への帰路に着いた時、
俺の前に奇妙な人物が立ちはだかった。
「…なんだぁ?」
俺の前に現れたそいつは全身を黒いマントで覆い、
その姿はわからない。怪しいことだけは確かだが。
「あんただけは許さないんだから…」
聞こえてきた声は意外にも若い女の子のものだった。
バサァッ!
マントを派手に脱ぎ、中から現れたのは
長い髪を二つ横にたばねたGジャンの女の子だった。
歳は俺と同じか下くらいだ。
「覚悟しなさーい!」
そいつはワケも話さずいきなり襲いかかってきた。
「甘いっ!」
ぺちっ
だがそんなハエも止まるようなパンチが
俺に当たるはずもなく、俺は簡単に反撃した。
つってもただのデコピンだが。
「あうーっ、よくもやったわねーっ」
そいつはムキになって殴りかかってくるが
俺は余裕でそれら全てをかわしてみせる。
「あ、あうーっ、なかなかやるわね…」
つーかお前息あがってるぞ。
「あ、あたしが本気になればあんたなんかぁ…」
ばたっ
そう言い残してそいつは雪の地面の上にぶっ倒れた。
「おい、どうした。おいってば…」
気絶してるのか、そいつは反応しなくなった。
この寒さだ。このままほっといたら明日には
死体の一つでも出来上がってるかもしれん。
むぅ、それはさすがにまずい。
「くそっ、なんでこんな事に…」
俺はやむなくこいつを背負って水瀬家に連れ帰った。

「わ、大きなおでん種…」
「ちゃうわボケ」
水瀬家に到着するなり名雪がボケをかましてきた。
こいつのどこをどう見たらおでんの具に見えるんだ。
「あらあらどうしたの?」
そこで秋子さんが現れた。
秋子さんは俺の背中に背負われたこいつを見てつぶやいた。
「…ジャムの材料?」
「どんなジャムっすか」
詳しく聞くのは怖いのでやめておく。
なんなんだこの一家は…ま、それはともかく。
「道端で倒れたんですよ。ほっとくのもアレなんで
ちょっとばかし休ませてやってくれませんか?」
「了承」
さすがだ、一秒で了承が出た。
「とりあえず私の部屋まで運んで置いてください。
あとで食べる物持っていきますから」
「はい、お願いします」
というわけで俺はこいつを秋子さんの部屋まで運んでいったのだった。

数十分後。
目を覚ましたこいつは秋子さんの持ってきた食事で回復した。
ただ単に腹が減っていただけらしい。
「で、お前名前は?」
とりあえず俺はこいつの素性を調べることにした。
「沢渡真琴…」
なるほど、真琴か。
「出身はどこだ?」
「あう…しゅっしん?」
意味がわからないのか、逆に聞き返してくる。
「住んでる所だ」
「…わかんない」
「わかんないってお前…」
「祐一、そんな聞き方じゃ真琴ちゃん怖がるよー」
横から名雪が割り込んできた。
むぅ、そんなにきつい聞き方したか、俺?
「真琴ちゃん、どこから来たの?」
「…わかんない」
俺にかわって名雪が質問したが結果は同じのようだ。
「じゃ歳はいくつ?」
「…覚えてない…私何にもわからないの…」
「もしかして記憶喪失なのかな?真琴ちゃん」
マジで?と言いたかったが名雪の表情は本気だった。
「ホントに何も覚えてないの?名前以外に何か覚えてない?」
「えっと…あたしそいつに復讐しに来たの」
そう言って真琴は俺を指さした。
って俺?
「祐一、何かしたの?」
名雪は冷ややかに俺を見つめる。
俺って信用ないのか?ちょっと傷付いたぞ。
「そんなわけあるか、こいつとは初対面だぞ」
「覚えはないけど何か傷付くような事したのかも」
名雪は俺を軽くにらむ。
暗に7年前に俺が名雪にした事を言ってるな、ちくしょう…
「でも俺はこいつの事なんか知らん。ホントだっ」
「とにかくこれじゃ帰すに帰せないよ」
俺の反論を軽く無視して名雪は真琴の方を見る。
「今日は泊まっていってもらうしかないね」
「えっ、いいの?」
真琴は表情を明るくして名雪の顔を見る。
「待て、何故そうなる。こういうのは警察に…」
「おかあさん、いいよね?」
「了承」
はうっ、秋子さん了承しちゃったよ。
ていうかいつの間にいたんだ。
「あうっ、ありがとうーっ」
嬉しそうに声をあげる真琴。
結局俺の意見は却下され、真琴は水瀬家に泊まることになった。

その夜。
「疲れた…寝よ…」
ベッドに入って眠りにつく俺。
ギィィィィィ…
だがその数分後、眠りかけてた俺は
ドアが開く音で目が覚めた。
「よーし、寝てるわね…」
部屋に入ってきたのは間違いない、真琴だ。
寝かけていたのに何しにきやがった。
俺は寝たふりをして真琴が近付いてくるのを待った。
「えいっ」
ぺとっ
「ほわぁっ!」
顔につけられた奇妙な感触に俺は飛び起きた。
「真琴!てめぇ何をする!」
「わっ、なんで真琴だってわかったの?」
「わかるわボケぇ!今のはなんだぁ!」
「コンニャク」
確かに真琴の手にはコンニャクがにぎられている。
それを俺の顔にくっつけてきたのか。
「どっから持ってきた」
「下で探してたら見つけた」
「勝手に家のモン持ち出すな!きちんと始末してこい!」
「あうーっ」
「待て、まだ話は終わってない」
落ち込んだ顔をして部屋から出ていこうとする
真琴を俺は引き留めた。
「なによぉ」
「お仕置きだっ」
ぽかっ
「あうーっ!叩いたぁ!」
「やかましい!夜中にしょーもないイタズラすんな!
おかげで目が覚めちまったじゃないか!!」
俺の怒鳴り声に真琴は悔しそうな表情を浮かべた。
「あうーっ、覚えてなさいよ!」
捨てゼリフを残して真琴は去っていった。
全く、はた迷惑な…

さて、本当に目が覚めてしまったので
暇になった、テレビでも見るか…
一階に降りて俺はテレビの電源をつけた。

ザ――――――――ッ……

だがテレビには砂嵐が流れるだけだった。
「あれ?番組が終わるにはまだ早い…」
その時、砂嵐の中に文字が浮かび上がってきた。

『3日後の午後5時までに沢渡真琴が相沢祐一に勝てなかったら
相沢祐一が即死亡』


次の日(あと3日)
朝イチで俺は商店街に足を運んでいた。
「やはりこれを使うのが手っ取り早いだろう」
俺は用意しておいたたい焼きを取り出し、叫んだ。
「あゆーっ!たい焼きだぞーっ!」
「うぐぅ、たい焼きっ!」
ぱくっ
「早っ!」
瞬時にそいつは俺の背後から現れて
たい焼きをかっさらっていった。
「やはり来たな、あゆ」
「あ、祐一くんおはよ」
そいつ、月宮あゆはたい焼きを食べながら
平然と挨拶をかわしてきた。
「おはよじゃねぇ。なんだ今回の命題は?
なんで俺が見ず知らずのガキ相手に負けにゃならんのだ?」
「うぐぅ…命題には必ず意味があるよ…だから諦めずに頑張ってね」
相変わらずだな…だが今回はごまかされんぞ。
「前から聞きたかったんだが…あゆ、お前は何者だ?」
「うぐぅ…天使だもん…」
「それは前にも聞いた。その天使のお前が何故俺に
こうして命題を突き付けてくるのかその辺を詳しく聞かせろ」
あゆは少しうなった後ゆっくりと話し始めた。
「…実を言うと…ボク正式な天使じゃないんだ…」
「なにぃっ!?お前モグリの天使だったのか!?」
「違うよ!見習いだよ!祐一くんが命題を全部クリアしたら
ボクは正式に天使って認められるのっ!」
「…ということは俺の命題はお前が天使になるための試験も兼ねてるのか?」
「うん、まぁそうなるかな…」
「むぅ、だったら頑張るのやめようかな…」
「うぐぅ」
「冗談だ、命題クリア出来なかったら俺は死ぬんだろ?
付き合ってやるよ、こうなったら」
するとあゆはにこっと笑って俺の顔を見つめてきた。
「祐一くん…ありがと」
「別にお前のためじゃねーよ」
「大丈夫…祐一くんならきっとクリア出来るよ」
「あゆ…」
「祐一くんばいばい、たい焼き美味しかったよっ」
あゆは手を振りながら走り去っていった。
ふぅ…なんだかんだ言って俺はあいつが天使だって事
認めちまってるなぁ…

さて…あゆにも会ったことだし、帰るか…
「祐一っ!」
その時目の前にいきなり真琴が現れた。
「お前なんでここに?」
「朝起きたら祐一さっさと出掛けちゃうからついてきたのよ!
祐一、さっきの女誰よぉ?」
「お前に関係ないだろうが。そういうお前は
なんで俺にそうつっかかってくるんだ?
ホントに俺はお前なんか知らないぜ?」
「あうーっ、あたしだってよくわかんないわよぅ。
とにかくあんたに復讐したくてしょうがないのよっ」
そういや記憶喪失だとか言ってたな、本人も理由覚えてないのかよ。
でも俺はこいつに負けてやんなきゃなんない。
どうしたもんか…
「あうっ、猫だ」
と、いきなり真琴が前に現れた猫に興味を向けた。
真琴は猫を抱き上げてご満悦の様子。
「えへへ、可愛いね」
「飼わんぞ」
「まだ何も言ってない…」
「名雪が異常なまでの猫好きだ。
そのくせ猫アレルギーだ。
猫を見せたが最後、ヤツはくしゃみを連発してでも
地の果てまで猫を追い続けることになる」
「嘘でしょ?」
「いや、あながち嘘とも言い切れない所が怖い」
自分で言ってなんだが俺は名雪の変人ぶりを再確認していた。
ここに名雪がいたら「祐一ひどいよー」って言うんだろうが。
「とにかく連れて帰るわけにはいかん、それがこの猫のためだ」
「あうーっ」
ぐぅぅぅぅぅぅぅ
と、いきなり真琴の腹が盛大に鳴った。
「お腹すいた…」
「なんだお前朝飯食わずに来たのか」
「祐一に復讐する事ばっかり考えてたから…」
おいおい。全く世話の焼ける…
「しゃーねぇ、おごってやるからついてこい」
「な、なによぉ、このあたしが敵に情けをかけられるとでも…」
「よだれたらしながら言っても説得力がねえぞ」

つーわけで俺はコンビニで肉まんを二つほど買ってやった。
「あうーっ、肉まんーっ」
肉まんが気に入ったのか真琴は嬉しそうにかぶりついていた。
「にゃーっ」
「なんだ、その猫まだいたのか」
さっきの猫が真琴の足元にじゃれついてくる。
「もしかしてお腹すいてるのかな…」
真琴は残る一つの肉まんを猫にやってみた。
猫は一瞬においを嗅いだ後、肉まんにかぶりついた。
「あ、食べた。やっぱりお腹すいてたんだ」
「おいおい、なつかれたらどうすんだ。
さっきもいったが連れて帰るわけにはいかんぞ」
「わかってるわよぉ…」
猫を未練がましそうに見つめる真琴を引き連れて
俺達はその場をあとにした。

「祐一っ、街って楽しいねっ」
その後も真琴を引き連れて街を散歩する俺。
真琴は見る物全てに興味を示し、実に楽しそうにしている。
うんうん可愛いものだ。
ってこいつ俺への復讐忘れてるな…
「わ、すごい綺麗ー」
今度は真琴が店のショーウィンドウに気を取られている。
真琴が夢中になってる間、俺は暇だ。
その時、俺の前に見知らぬ女の子が立ち止まった。
「…あなたは…その子のお知り合いですか?」
「え?」
いきなりその子は妙な事を聞いてきた。
「いや、知り合いってわけじゃない、
何故だか俺はこいつに狙われている」
「そうですか…」
そう言ってその子は俺のそばを通り過ぎる時こう言った。
「私のようにはならないでください…」
「は?」
それきりその子は振り向くことなくそのまま去っていった。
「あうーっ、祐一どうしたのよぉ」
「あ、いや…なんでもない」
真琴に聞かれても俺はそう答えるしかなかった。

その夜。
「疲れた…寝よ…」
ベッドに入って眠りにつく俺。
ギィィィィィ…
だがその数分後、眠りかけてた俺は
ドアが開く音で目が覚めた。
って、昨日と同じ展開じゃねーか。
「あうーっ、今度こそ寝てるわね…」
起きてるっつーの。
いや、待てよ?これは好都合だ。
ここはわざとくらってやって
さっさと命題をクリアしてしまおう。
俺は寝たふりしてそのまま真琴が仕掛けてくるのを待った。
「覚悟しなさいよーっ、えーと」
ごそごそ
真琴は何かを探しているようだ。
「えーっと…」
ごそごそごそ…
真琴はまだ何かを探している。
「こ、これで勝ったと思うんじゃないわよっ」
何も見つからなかったのか、
そう言って真琴はそのまま帰っていった…
「って終わりかいっ!」
俺のツッコミは誰にも届かなかった。

翌日(あと2日)
この日は学校で普段通りの生活をしていた。
あぁ、平和っていいなぁ…
「おい、相沢」
その放課後、帰ろうとした所で北川が声をかけてきた。
「見ろよ、校門の所、女の子が立ってるぜ」
「ん……げ!」
窓から外を見ると校門の所に真琴が立ってやがる。
あいつめ…
すぐに俺は教室を飛び出して廊下を走り出した。
と、そこへ昨日の女の子が俺の前に再び現れた。
「あっ…お前昨日の…」
「同じ学校…でしたか…」
そりゃこっちのセリフだっつーの。
制服の色からどうやら1年のようだ。
「あの子…来てますよ…」
「わかってる!全くあいつ何しにここまで…!」
あの子とは言うまでもなく真琴のことだ。
「やはりあの子は…あなたのお知り合いですか?」
「…なんだよ…やけにしつこく聞いてくるじゃないか?
待てよ?お前…あいつ、真琴について何か知ってるのか?」
「真琴…それがあの子の名前ですか…」
女の子はしばらく沈黙した後ゆっくりと答えた。
「あの子自身については知りません。
でも…あなたはあの子に会っているはずです…」
そう言って去ろうとする女の子を俺は思わず呼び止めた。
「待て!そういうお前は一体何者なんだ!?」
「…天野美汐と言います」
それだけ言い残して天野と名乗る女の子は去っていった。

「あうーっ!朝起きたら祐一いないから
どうしようかと思っちゃったじゃないのっ!」
校門で出会うなり真琴は文句をぶつけてきた。
「どうやってここまで来たんだよ…」
「秋子さんに場所教えてもらった」
なるほど…
「祐一どうしたのー?」
その時後ろから名雪が声をかけてきた。
「あ、真琴学校まで来たんだー」
ちっとも驚いてない名雪。
どうしてこいつはこうものんきなんだ。
「とにかく帰ろうか、いつまでもここにいたら
目立ってしょうがない」
俺は真琴を連れて水瀬家への帰路についた。
「それでねっ、香里ったらね…」
帰る途中、名雪は俺に話しかけてくる。
内容は他愛もないただの世間話だ。
しばらくして話が途切れた時、今度は
真琴が話しかけてきた。
「あうーっ、祐一。名雪と仲いいの?」
「は?なんでそんな事聞くんだよ」
唐突な質問に俺は一瞬目が点になった。
「し、知らないもん!祐一のばかっ!」
「…なんで?」
ムキになる真琴に俺は何も言い返せない。
そこへ名雪はぽつりとつぶやく。
「祐一と真琴仲いいねーっ」
「「違うっ!!」」
珍しく俺と真琴の意見が合った瞬間だった。

その夜。
「よぉ、調子はどうだ?」
俺は夜の学校で舞と落ち合っていた。
前回の命題以来、今でも時々こうして
舞の魔物退治に付き合っているのである。
「今日の差し入れは肉まんだ」
「肉まん…嫌いじゃない」
相変わらずの無表情だが視線が肉まんを入れた
袋に向けられているのがまるわかりである。
「さて…今日は魔物来るかな…」
「わはらはい(わからない)」
「舞、口を空にしてからしゃべれ」
舞と二人で夜の学校に立ちつくす。
しばらくして舞が動いた。
「来たか!?」
舞の剣が近付いてきたモノを薙ぎ払った!
「あうーっ!」
「へ?」
しかしそこにいたのは腰抜かして
廊下に座り込んでいる真琴の姿だった。
「お前なんでここにいるんだよ!」
「あうーっ、今日こそ復讐しようと思ったら
祐一どっか出掛けちゃうだもん…」
こいつ、どこにでもついてくるな…
「すまん舞、俺はこいつを連れて帰らねばならん。
あとは頑張ってくれ」
「はちみつくまさん」
ちなみに残った肉まんは真琴に食われた。
「あうーっ、祐一あの女誰よぉ」
「詳しく話すと長くなるのでやめとく」
「あうーっ…」
結局この日はこれだけで終わってしまった。

翌日(最終日)
あっという間に命題最終日だ…
まずいな、いまだにクリアの目途がたってない。
つーか真琴がろくに攻撃してこないもんだから
負けようがない。
なんとかしなくてはな…
「祐一さん何を考えてるんですか?」
「いや、なんでもない」
今、学校の昼休み。
栞が弁当を作ってくるというので
中庭にやってきたのだが。
「栞、弁当の量多すぎやしないか?」
「はりきって作りましたから」
「はりきりすぎ」
本当に物凄い量の弁当だ。
こんな量を食べられるのはどこぞの
盲目の先輩くらいのもんだ。
「どうぞ召し上がれです」
むぅ、仕方ない。
とにかく一口食ってみよう。
もぐもぐ…
「ふむ。味は悪くない。なかなか上手いじゃないか」
「練習したんですよー」
なるほど、なかなかたいしたものだ…
この量でさえなければ。
そう思って二口目を頂こうとしたその時。
「あうーっ!祐一なんでここにいるのよぉ!」
ぶうっ!
思わず俺は口の中のものを吹いてしまった。
いきなりそばの茂みから真琴が飛び出してきたのだ。
「真琴ぉっ!また来たのかぁっ!」
「うるさいわねっ!この女誰よっ!」
「そんなのお前に関係ないだろうが!」
「なっ、なによ…」
おや?俺に怒鳴られたのが効いたのか
真琴はちょっとうつむいて震えていた。
「祐一のバカぁっ!」
「あっ…」
真琴は思いっきり叫んでそのまま走り去ってしまった。
な、なんかまずいこと言ったか…?
「祐一さん、お弁当…」
「あ、あぁ」
しまった、真琴に食べるの手伝ってもらえばよかった。

その日、学校から帰るなり秋子さんが話しかけてきた。
「真琴ったら祐一さんに会いに学校行ってから帰ってこないんですよ」
あれから真琴が戻っていないのか?
まぁここは真琴の家じゃないし、戻ってこなくても
ある意味当然ではあるのだが…
って、このままいなくならなれたら
俺、命題クリア出来ないじゃん!
やばい!今4時だ、あと1時間しかない!
「俺、探してきます!!」
俺は慌てて飛び出して街へと探しに向かった。

真琴を探して町中を走り回る俺。
だがまともな手がかりもなく、当然見つかるわけもない。
走り疲れた俺はその場で息をきらして立ち止まっていた。
「はぁ…はぁ…くそっ…どうしたらいいんだ…」
「何をしているのですか…」
「…天野!?」
そこへ突然、またあの女の子が現れた。
「そうだ、真琴どこ行ったか知らないか!?」
「あの子なら…町外れの丘です…」
藁にもすがる思いで尋ねるとなんと天野は
真琴の所在を教えてくれた。
「そうか…サンキュ!」
「待って下さい」
再び走り出そうとした所で天野に呼び止められた。
「一つだけ言っておきます」
「え?」
「これ以上あの子を…傷つけないで下さい…」
天野の表情は少し悲しそうだった。
「それってどういう…」
「それでは…」
言うだけ言ってまた天野は去っていった。
むぅ。よくわからん。
だが今は気にしている時間はない。
真琴を見つけなければ。

あちこち迷ってようやく辿り着いた丘の上で
真琴は猫とたわむれていた。
「真琴、ここにいたのか」
「祐一っ!…何しに来たのよぉ」
真琴は俺を見るなり不機嫌そうな顔をした。
「あれ?その猫この前の…」
そこにいたのは2日前に真琴が
街で見つけた猫であった。
「この子もあたしと同じ…一人だったから…」
「へ?」
「また真琴は一人ぼっちなの!」
「お、おい、全く話が見えねぇぞ」
俺にかまわず真琴は一気にまくしたてる。
「真琴は祐一に復讐するために来たのよ!
なのに何よ!祐一は真琴ほったらかして
いろんな女と会ってなんか楽しそうに!」
…やたらと女の事聞いてきたのはそれかよ。
「祐一にとって真琴は一体何なのよ!?」
呆気にとられた俺は一言だけ言った。
「…ようするにお前復讐は口実で
俺にかまってほしかったのか?」
「あうーっ、そうじゃなくて…もぅ祐一のバカーっ!」
「おい、待てっ!」
慌てて俺は走り去ろうとする真琴の手をとった。
「あうーっ、離してよ!祐一なんかだいっきらいーっ!」
「落ち着けってお前」
俺の手を振りほどこうと暴れる真琴。
とりあえずこいつどうしようかなぁ…
「じゃあどうしてほしいんだよ、やってやるから言ってみろよ」
「…いいの?」
「ああ」
真琴は落ち着いたのか暴れるのをやめた。
「じゃぁ…目をつぶって…」
「え?」
「いいから!」
怒鳴られ、仕方なく目をつぶる俺。
「いくよ…」
だんだんと真琴の息づかいが近付いてくる。
ま、まさか!?おい俺達はまだそんな関係じゃ
ゴンッ!
「だーっ!?」
いきなり頭に鈍い痛みが走り、俺はたまらず
頭をおさえてうずくまった。
見ると真琴も痛そうに頭をおさえている。
…こいつ頭突きくらわしてきやがったな。
「ひ、ひっかかったわねーっ。とりあえず復讐成功よーっ」
子供レベルの復讐だな…とは言わずにおいた。
ピピピピピ
あ、腕時計にセットしておいたアラームが鳴った。
5時だ…どうやら命題はクリアしたようだ。
ってこんなのでいいのかよ…
「今回はこれで許してあげるわよっ。
これからは真琴をナイアガラにしちゃダメよっ」
「それを言うならないがしろだ」
「うるさいわねっ、祐一、帰るわよっ」
「へいへい…」
やれやれ、どうにか機嫌は直ったようだ。
本当に世話の焼けるヤツ…
「あ、でもこの猫どうしよう…」
真琴は一緒にたわむれていた猫を抱き上げて
心配そうな表情をした。
「秋子さんに聞いてみろ。多分一秒で了承が出る」
「そうだねっ、それならこの猫名前何にしよっか?」
「肉まん…じゃ変だな。よし、ピロシキだ。略してピロだ」
「あうっ、ぴろーっ、ぴろーっ」
ぴろと名付けられた猫を抱いて真琴は嬉しそうな声をあげた。
こうして俺と真琴は仲直り?して水瀬家へと戻った。

あれ…?そういや5時になったのに死にそうな目にあってないぞ…?
だがそれは水瀬家に戻った時判明した。
帰ってくるなり秋子さんから名雪が倒れたと知らされた。
「新作ジャムを食べてもらったら突然、ね。
今回はちょっと失敗だったみたい」
人が倒れる程のジャムって…
もしクリアしてなかったら俺がそれ食って死んでいた?
…あまり考えないようにしよう。
幸い名雪は翌日には回復したことを付け加えておこう。

「どうやら祐一くん、命題クリア出来たみたい」
その頃あゆは祐一が命題をクリアしてほっと一息ついていた。
ぱらっ…
そこへ、空から一枚の紙が降ってきた。
「あっ、天国からのメッセージだ、どれどれ…」
あゆは紙を広げて、次の瞬間言葉を失った。
「…うそ…」


後書き
この真琴編は非常に難しかったです。
とにかく真琴をどう動かしていいやら困りました。
その結果舞と栞もからめて強引にイベントを作ったりしました。
多分賛否両論あるような気がしますが
これが私のやり方です。どうかご容赦を。
唯一、死ぬ原因がジャムってのは気に入ってますが(笑)
この辺から命題とあゆの謎も少しずつ明らかになってきました。
次回真相が明らかになります。
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