『倫敦精霊探偵団』



第30話「強敵!ズィッヒェル!」

「はぁっ!!」
ズィッヒェルが攻撃してきた!
「うわわっ!!」
慌ててよけるビリー、だがそこへ
「ふんっ!」
バキッ!
「ぐあっ!!」
「ビリー!!」
ズィッヒェルの蹴りがビリーを直撃した。
「つ・・・強い・・・・」
さすがに結社の参謀、ただものじゃない。
スラムのチンピラなんて相手にならない。
「このぉっ!!」
アリエスが後ろから傘で頭を殴る!
バコッ!
「くっ・・・おのれっ!」
ドンッ!
「アリエス!!」
ズィッヒェルは容赦なくアリエスにも攻撃を加える。
「くっそぉぉぉぉ!!」
ビリーは用意していた火薬をぶちまける!
「うおっ!あちちち!!」
ズィッヒェルもこれにはダメージを受ける。
「ガキが・・・調子にのるな!!」
ガシッ!
「うぅっ・・・・」
ズィッヒェルはビリーの服の襟元を掴んで持ち上げた!

「離しなさーーーーーい!!」
「うおっ!?」
アリエスのメガホン攻撃で一瞬ひるんだズィッヒェル!
その隙にビリーはズィッヒェルから離れた!
「おのれぇぇぇぇ!!」
ドンドンッ!!
「うっ!」
ズィッヒェルの猛攻になかなか近づけないビリーとアリエス。
「よし・・・・」
ビリーは火薬を取り出し、ズィッヒェルの少し前に放り投げた!
ボンッ!
「ハハハ・・・どこを狙って・・・・ん?」
火薬の煙で視界をさえぎられたズィッヒェル。
そこへ
「えいっ!」
ドムッ!
「うぐっ!」
アリエスが傘でズィッヒェルの腹を突いた!
さすがにきいたのかうずくまるズィッヒェル。
「いまだ!!」
すかさずビリーがパチンコをズィッヒェルめがけて連射する!
「とどめだ!」
最後は火薬をズィッヒェルの顔面めがけて・・・・
ドッカーーーン!!

「・・・おのれぇ・・・・」
「しぶとい・・・・」
かなりのダメージを負ったがまだズィッヒェルは立ち上がる。
その時
「そこまでネー!」
ホルスタインが遅れて到着した!
「チッ・・・・また邪魔が入った・・・」
舌打ちするズィッヒェル。
「しかたない。今回はひきあげるぞ!」
「はいであります、チクタク」
「あっ、待ってよー!」
そのままズィッヒェル達は去っていった・・・

数日後。
「展示期間は終了。これからアメリカ行きの船で持って帰るんですね」
「イエース。ミンナサンキューネ。とくにビリー&アリエス。とっても助かったネー!」

「それではホルスタインさん、お元気で・・・・」
「ジャーネー!シーユーアゲイン!」
こうして天体運行観測器は盗まれることなく、事件は解決した。

「しかし、ホイヘンスも結社の仲間だったとは・・・
恐らく装甲兵も彼の技術だろうね・・・
そしてそれを楊宗元が売る・・・・
あとはどこで造ってるか、だな・・・・」
そう語るエヴァレットの目は真剣だった・・・ 


第31話「病弱の少女」

今日はとくに事件もない。平和だ。
「あにきー、あそぼー」
「あんたねぇ・・・とはいえ確かにちょっと退屈ね」
「二人ともぼやかないで・・・」
ビリー、アリエス、ボブの3人は住宅街を歩いていた。

「ぶーん」
「あっこらボブ!」
退屈しだしたボブが勝手に走り出し、どこかの家の門に入っていった。
「ああ、もう。あんた相棒にどんなしつけしてんの」
「俺のせいか?」
とにかくボブを追ってビリーとアリエスも門の中に入る。
「失礼しまーす・・・え?」
アリエスが見たのは庭で遊んでいるボブと知らない少女だった。
「むにむにー」
「あははは!おもしろーい!」
ボブは意味不明な行動をとっているが少女は楽しんでいるようだ。
「こら、変な遊び教えないの。ごめんね。勝手に入ってきちゃって」
アリエスがボブを止めに入る。
「ううん、すごく面白かった」
少女はにっこりと微笑んで見せてくれた。

「マリアちゃん・・・だっけ?お家の人は?」
「おじいちゃんがいるけど今は出掛けてるの」
「そっか。それでここで遊んでたんだね」
「うん・・・あたし体が弱くて外で遊べないから・・・」
「え?」
「前は平気だったんだけど・・・」
「そうなんだ・・・」
余計なことを聞いたかなとちょっと不安になるビリー。
「あたしね・・・一度でいいから夕日が見たいの」
「夕日?」
「うん。前はそこからでも見えたんだけど今はぜんぜん・・・」
「ほんとだ・・・」
このあたりは高台にあり、綺麗な夕日がおがめそうなものだが大量の煙で全く見えない。
「夕日・・・見たいなぁ・・・」
「マリアちゃん・・・」

この時、ビリー達を見つめる影がいたことを知る者はいない。


帰宅後。屋根上に登って寝ころぶビリー。
晴れ渡る青空。しかし一方ではあんなに大量の煙が発生しているのだ。
それを知って少しビリーは落ち込んでいた。
「いつか私が言った意味・・・わかったかね?」
「!!スペクター!!」
いつの間に現れたのか、スペクターがそこに立っていた。
「ひさしぶりだね・・・随分と活躍しているようで・・・
うちの弟子にも見習ってほしいよ」
「はぁ・・・」
「それより、今日君が会っていたマリアという女の子・・・
彼女の体が弱り始めたのは工場が出来てからなんだ・・・」
「工場?」
「ウェイン&ガース工業というんだがね・・・・
例の煙もそこの工場から出ているんだ。あれ以来夕日は見られなくなった・・・」
「・・・・・・そうなんだ・・・・」

「・・・・・よし!工場の人に頼んで夕方だけでも
工場の煙を止めてもらおう!」
「何!?そんなことが出来るのか!?」
「わかんないけど、やってみる!アリエスとボブも誘おう!」
そう言うとビリーは家の中に入ってアリエスとボブを探しに行った。
「全く・・・元気な子供だな・・・」 


第32話「会社突入」

ガタンゴトン・・・・
今ビリー達は倫敦市内を走る地下鉄の中だ。
「ウェイン&ガース工業は・・・・次の駅だね」
「社長さん、話聞いてくれるかしら・・・」
「さぁね。とにかくやってみよう」
「ぶーん」
「ボブ・・・地下鉄で騒ぐな・・・」

「着いたぁ・・・・」
駅は会社の手前にある。
普段は社員の通勤に使われているのだろう。
ビリー達はウェイン&ガース工業本社までやってきた。
「さぁ・・・行くぞ」

会社受付。
「いらっしゃいませ」
「あのー・・・社長さんに話があるんですけど」
「アポイントのほうはとってありますか?」
「へ?」
「アポイント?」
「あんパン?」
「違う・・・『あ』しか合ってないぞ、ボブ」
「アポイントってのは今日この時間に会いますよっていう約束のことよ」
「そんなのないわよー」
「うーん・・・とにかく社長に連絡だけでもします」
そう言って受付のお姉さんは社内電話を使いだした。
「はい・・・・はい・・・・・わかりました」
ガチャン
「よかったわね。社長が会ってくれるそうよ。そこのエレベーターを使ってね」
「やったぁ!!」

社長室。
「失礼しまーす」
会社の最上階にある社長室に入るビリー達。
奥の椅子に社長とおぼしき人物が座っていた。
「君達かい。さっき連絡を受けた。私がこの会社の社長、ウェインだ」
「初めまして、エヴァレットさんの弟子のビリーです」
「同じくアリエスです」
「むいむいー」
「・・・・こっちの汚いのは気にしないでください」
「ほぉ・・・エヴァレットさんの・・・活躍は聞いていますよ」
「実は話があるんです。ここの工場の煙のせいで空が見えなくて・・・・夕日も見られないんです。
せめて夕方だけでも煙を止めてもらえないでしょうか?」
「・・・それはつまり、夕方に工場の操業を停止してほしいと?」
「は、はい・・・・」
少し考えたような表情になるウェイン。
「・・・・・わかった。毎日とはいかないが夕方は工場を止めよう」
「ほんとですか!?」
「ああ。それでいいかね?」
「はい!ありがとうございます!」
「そうか、それはよかった」
「では、これで失礼します。マリアちゃんに知らせよう!」
ビリー達は社長室を去っていった・・・ 


第33話「倫敦の夕日」

「社長さんいい人だったわね」
「うん、こんなにうまくいくとは思わなかったよ」
「あにきー。あれ・・・・」
「ん・・・・・・・・・・!!」
「どうしたの?」
「みんな隠れて!」
物陰から様子を伺うビリーたち。
その視線の先には・・・・
「マシナリータ・・・・ズィッヒェル・・・・」

「ズィッヒェル。装甲兵の製造状況は?」
「はっ。予定より10パーセント進んでおります」
「よろしい。ウェインはなんと言っている?」
「はっ。この先も装甲兵の製造を続けると」
「うむ」

「聞いたか?」
「ええ・・・」
「装甲兵は・・・この工場で造られてるのか!?」
「あの社長さんも仲間!?いい人だと思ったのにー」
「急いで先生に知らせよう!」

社屋を脱出し、地下鉄の駅へと向かうビリー達。
その時!
「むわてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」
「この声は・・・社長さん!?」
スタッ
「げ・・・・」
「うぉまえたちぃぃぃぃぃぃ!!
夕日が見たいなどとかこつけてこの工場の秘密をさぐりにきたのだなぁぁぁぁぁぁ!!
ただではかえさぁぁぁぁぁぁぁん!!」
突然現れた怪人はダブダブのズボンととんがった靴。
そして上半身は顔を隠すマント以外は裸という変な格好。
「へ・・・・・ヘンタイ・・・・・・」
アリエスはただ一言そう言った・・・

「ウェインさん・・・あんた一体・・・」
「ちがぁぁぁぁぁぁう!今のわたしは『マンタマン』どわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「キャラ変わってますよ・・・」
「とにかく社長さんも敵だったってわけね」
「正体を知られたからには絶対にかえさぁぁぁぁぁぁん!!」
ウェイン、いやマンタマンが攻撃してきた!
「うわっと!」
「まだまだぁ!」
さらにマンタマンは攻撃を繰り出す!
「くそっ・・・変な格好のわりには強いな・・・」
「うるさい!」
ドッゴーン!
「ぐあっ!!」
マンタマンの攻撃でダメージを受ける!

「くそっ!こっちも攻撃を・・・」
「させるかぁぁぁぁぁぁ!!」
マンタマンの特殊攻撃!
「うぐっ・・・力が・・・」
「ははははーっ!見たかマンタマン様の力をぉぉぉぉぉぉ!!」
「ヘンタイのくせして強い・・・」
「しつこい!」
だが実際ビリー達はピンチである。
「とどめどわぁぁぁぁぁ!!」
マンタマンがブーメランのようなものを投げつけた!

パクッ
「あ!?」
「むいー」
なんとマンタマンのブーメランをボブが空中でキャッチ!しかも口でくわえて。
「犬かお前は・・・」
「でもチャンス!」
すかさずアリエスが本でマンタマンを後ろからどつく!
「あでっ!」
痛さでうずくまるマンタマン。
「今度はこっちの番だ!くらえっ!」
ビリーのパチンコ連射攻撃!
「いててててて!くそぉぉぉぉぉ!!」
なんとか体勢を立て直そうとするマンタマン。しかし
ゴーーーーーン
「はぐっ!?」
ボブのシャベル攻撃でまた体勢を崩してしまう。
「ナイス、ボブ!くらえっ!!」
ビリーが火薬を投げつける!
ドッカーン!
「うっぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
さすがにボロボロになったマンタマン。
「ま・・・まいったぁぁぁぁぁぁ!!」
叫びながらマンタマンは逃げ去っていった・・・

「・・・とりあえず勝ったな・・・」
「なんか・・・やなもの見せられたって感じ・・・
帰りましょ。もうすぐ夕方よ」
「夕方・・・・あっ、そうだ!夕日!!」

マリアの家。
「わーい!夕日だ夕日だ!!」
念願の夕日を見られてはしゃいでいるマリア。
「綺麗・・・・」
「すごーい、おひさまピカピカだぁ」
「・・・しばらくこんな綺麗な夕日見てなかったよ・・・」
ビリー達もまた美しい夕日の光景にしばし見入っているのであった・・・

そして、その姿を見守る影。
「ありがとう・・・ビリー君」 


第34話「中華街の秘密」

「やぁ、ビリー。おはよう」
「おはようございまーす」
翌日、目覚めたビリーにエヴァレットが話しかけてきた。
「どうやらウェインはすでに高飛びしてしまったらしい。
とはいえこれで装甲兵を造る工場はなくなったわけだ」
「そうですか。よかった・・・・」
その時!
「エヴァレットさん!」
ドアを勢い良く開けて中年の男性が入ってきた。
「市長さん!?どうしました!?」
「大変です!万博に展示されている機械動物達が暴れだし、住人を襲っているとのことです!!」
「なんですって!?・・・・わかりました。すぐに行きます」
エヴァレットは市長と一緒に出掛けてしまった。

「どれどれ・・・」
部屋の窓から外を見てみるとあちこちに機械犬や機械猫が歩いているのが見える。
「うわぁぁ・・・」
その時
「ビリー!なにしてんの!?」
「アリエス!?」
いきなり事務所の部屋にアリエスが入ってきた。
「事件よ事件!こういう時こそあたし達の出番よ!」
「そ、そうなの?」
「そうなの!さぁ行くわよ!」

というわけでビリーとアリエスも外に出ようと事務所の玄関を開けたその時!
「きゃっ!!」
「ヴァージル・・・」
いつの間にかヴァージルが玄関に立っていた。
「いるならいるって言ってよぉ・・・」
「・・・・君達の力を貸して欲しい」
「え?」
「ついてきてくれ・・・・」

倫敦の郊外に中華街というものがある。
ここにはアジア、主に中国から渡ってきた人達が住み暮らす街だ。
「こんな所になんの用が・・・」
「シッ!」
「?」
物陰に隠れて様子を見るビリー達。
「あっ!あいつらは・・・・」

中華街の奥の方に人だかりが。
「マシナリータ・・・ズィッヒェル・・・」
「ホイヘンスにジャンプコンビ!」
「なんだって結社の連中がここに・・・・」

「ホイヘンス!誰が勝手に機械メイドを展示していいなどと言った!」
「作品を発表したいのは科学者としての欲求であります、チクタク」
「全く・・・お前は勝手ばかり・・・」
「私は天才であります!ついに魂を持つ機械を造りだしたであります、チクタク!!」
「機械に魂などいらん!素直に人間の言うことを聞いていればいいんだ!!」
「マシナリータ様・・・今はそんなことを言っている場合ではありません。
楊宗元が機械メイドを奪い去ったのです。なんとしてでも取り返さねばなりません」
「うむ・・・そうだな。行くぞお前達」
「へーい」

「機械メイド?前に俺達が探したあの・・・・」
「あの機械メイドはホイヘンスが造ったの?」
「でも楊宗元が機械メイドを奪ったって?あいつは結社の仲間じゃなかったのか?」
「・・・彼女がとうとう生まれてしまったんだ」
「まーたわけのわかんないことを・・・・」
「行くよ・・・」
「よくわかんないけど・・・結社がからんでるなら行かなきゃな!」
ビリー達はこっそりマシナリータ達の後を追った・・・・ 


第35話「潜入、楊宗元のアジト」

中華街の奥深くにひっそりと建つ謎の館。
ここがアジアの裏社会を牛耳る武器商人、楊宗元のアジトなのである。
「ここに楊宗元がいるのか・・・」
「結社の連中もね・・・」
「急ごう、彼らに機械メイドを渡すわけにはいかない」

こっそりとアジトに潜入したビリー達。
「ところでさ・・・一つ心配なんだけど・・・」
「何?」
「もし途中で結社の連中と鉢合わせたりしたらどうするの?」
「それならしばらくは大丈夫。彼らは楊宗元を探して歩き回っている」
「ヴァージル・・・わかるの?」
「僕達は・・・真っ直ぐに楊宗元を目指す・・・・こっちだ・・・」
そう言うとヴァージルは場所を知っているかのように歩き始めた。
「すごいわね・・・ヴァージル・・・」

途中で結社の連中に会うこともなく、順調に進んでいくビリー達。
結社は楊宗元の居場所を知らないがこっちはヴァージルの案内がある。
どっちが早く着くか、言うまでもない。恐らく結社の連中を追い越しているだろう。
「・・・・!」
「どうしたの?ヴァージル」
「気を付けて・・・」
「ん?」

シャーッ

「キャーッ!ヘビーッ!!」
「楊宗元のものだろうね・・・侵入者を通さないために・・・」
「じゃ楊宗元は近いんだな?」
「その前にこいつを倒さなきゃいけないだろうけど・・・」
「よーし!くらえっ!」
ビリーは火薬を投げつける!
ドーン!
「このこの!」
さらにパチンコで追い討ちをかける!
「アリエス!頼むよ!」
「あーん、もう・・・気持ち悪い・・・」
恐る恐る近付いてヘビに一発お見舞いする!
ダメージが大きかったのか、ヘビは動かなくなった。
「ふぅ・・・やれやれ」
「ちょっとタイムロスしたね。行こうか」

しばらく進むとやけに大きな扉の前にきた。
「ここに・・・楊宗元がいるはずだ・・・」
「よし・・・・いくぞ!!」
ガラッ!

「・・・・・これはっ!!」 


第36話「機械仕掛けの魂」

「これはっ・・・」
アジトの最深部で見た光景にビリーは絶句した。
それは浮かんでいた。空中に。
それは明らかに人とは違う物質で構成されていた。
そしてその傍らに探していた機械メイドが座っていた。
「彼が・・・・楊宗元だ・・・」
「・・・マジ?」
「に・・・人形みたい・・・」
「みたいじゃなく、そのものなんだ・・・」
「え!?」
その時楊宗元の声が聞こえた。
『この娘はわたさん・・・誰にも・・・・』
「何者なの・・・こいつ・・・」
呆然とするアリエス。
ビリーはなんとか心を落ち着けて、パチンコを構えた。
「とにかく・・・機械メイドは返してもらうぞ・・・」
『待って!!』
その時機械メイドが楊宗元をかばうように立ちはだかった。
『この人を傷付けないで!お願い!!』
「・・・・機械メイドがしゃべった!?」
驚くビリー。その時ヴァージルが前に出た。
「・・・大丈夫・・・僕が助けてあげる・・・」
『・・・どうするというのだ』
「君が本来いるべき世界へ・・・送ってあげるよ・・・」
『お前が私を・・・解放してくれるのか?』
「さぁ・・・ゆっくり休んで・・・・」
キィーン・・・
その時ヴァージルの手から光が放たれた。

ガシャッ・・・
光がやんだ瞬間、楊宗元の体は力が抜けたように地面に落ちた。
『・・・あの人は・・・』
「・・・これで大丈夫だよ・・・・君もいくかい?」
『はい・・・』
キィーン・・・
同じ手順を機械メイドにも施した。そして機械メイドもまたその場に倒れ込んだ。
「・・・どうなってんの?」
「見てのとおり・・・楊宗元は・・・人間じゃない。
初代楊宗元が影武者として造りだした人形なんだ」
「人形・・・」
「しかし楊宗元の影武者を続けていくうち彼は魂を持ってしまった・・・
その時から彼は影武者ではなくなった・・・本当の楊宗元になったんだ・・・
それから彼は人形の体で生き続けたんだ・・・
300年も・・・たった一人で・・・・」
「そんな・・・」
「機械メイドはそんな彼がやっと見つけた仲間だったんだ・・・
彼は・・・・寂しかったんだ・・・・」

バタンッ!
「きさまら!ここで何をしている!!」
「げっ!ズィッヒェル!!」
そこへいきなりズィッヒェル達結社の連中が現れた!
「こんな所まで来るとはな・・・やはりきさまらは邪魔だ。ここで始末してやる!!」
「くっ・・・」

「待てッ!!」
その時部屋の中にたくさんの警官が現れた!
「その声は・・・先生!?」
「くそっ!エヴァレットか!!」
喜ぶビリーと舌打ちするズィッヒェル。
「外の機械動物の暴走はお前達の仕業だな?
中華街での行動を知られないようにするための陽動だ」
「くそっ・・・退却だ!!」
「待てーっ!!」

その後、事務所にて。
「助かりました・・・先生」
「間に合ってよかったよ。あれからホイヘンスは捕まえられたけど
他の連中には逃げられちゃったよ」
「そうですか・・・」
「でも結社の受けたダメージは大きいよ。
製造のウェイン、技術のホイヘンス、そして販売の楊宗元と、
重要なポストを3人も失ったんだからね。
これで少しはおとなしくなるかな?」


その後機械メイドは再び万博に展示された。
ただ前に比べ、表情が乏しくなったが・・・・ 


第37話「消えた蒸気」

「ふわぁぁぁ・・・・」
いつものように目覚めたビリーは事務所に降りていった。
「やぁ、おはよう。早速手伝って欲しいことがあるんだ」
「なんですか?先生」

「えーっ!?蒸気が止まっちゃった!?」
「うん。蒸気は裏通りにある巨大スチームで作られ、それを蒸気管理局が受け取り、各家庭に送る・・・
ところが巨大スチームからの蒸気が一行に送られてこないんだ。
蒸気はどこに消えたのやら・・・・」
「それで、どうすればいいんですか?」
「うん、まずはどこかに蒸気がきてないか探してみよう。
僕は万博方面を調べるよ。ビリーは地下鉄の駅を頼む」
「わかりました!」

外に出た所で早速アリエスとボブと合流する。
「事件よ事件!蒸気の行方をつきとめるのよ!」
「じけんー、じけんー」
「よし、行くぞ!」

地下鉄の駅。
「蒸気かい?きてないよ。おかげで地下鉄も動かず・・・まいったよ」
「そうですか・・・」

その後、知っているいくつかの駅をまわってみたが結果は同じ。

「結局地下鉄の駅に蒸気はきてないね」
「エヴァレットさんの方はどうかしら?」

万博会場。
「そうか・・・駅にはきてなかったか・・・」
「こっちはどうですか?」
「うん。こっちも今の所何も発見はないけど・・・」
その時、一人の警官が大急ぎでやってきた!
「報告します!どうやら巨大スチームに局が取り付けた覚えのないパイプが数本あり、
それが真っ直ぐ万博会場に向かって伸びているとのことです!」
「なんだって!?しかしここには異常は見られないけど・・・」
真剣に考え込むエヴァレット。
「とにかく蒸気管理局へ行ってみよう」
エヴァレットは走って行ってしまった。

「俺達は・・・どうする?」
「あたし達も行くわよ!」
その時
「ちょっと待ってー」
ドンッ
「あたた・・・またお尻から着地しちゃった・・・」
「ヤングゴースト?」
「これ、お手紙。エヴァレットさんに渡してねーん。それじゃ」
「えっ?それだけ?」
用件をすませてヤングゴーストはさっさと帰っていった。
「と、とにかく・・・行こうか」

蒸気管理局。
「ふーん・・・おかしいなぁ・・・・」
「あっ、エヴァレットさん、いたー」
ビリー達も管理局へとやってきた。
「何かわかりましたか?」
「いや・・・なんにも・・・」
悩んでいるエヴァレット。どうやらかなり難しい事件らしい。
「あ、そうだ。さっきこんな手紙受け取ったんですけど」
ビリーはヤングゴーストから預かった手紙をエヴァレットに渡した。
「・・・これはっ!」
顔色を変えたエヴァレットが飛びだしていった!
「あっ!先生!!」 


第38話「エヴァレット抹殺計画」

「先生行っちゃった・・・」
エヴァレットはヤングゴーストの手紙を見た瞬間、大急ぎで出ていってしまった。
呆然とするビリー達。
「と・・・とにかく。あたし達も調査を続けましょう」
アリエスの言葉に賛成し、外に出たその時!!

「キャーーーーーッ!」
「うわーーーーーっ!!」
突然市民の悲鳴が!!
「なんだっ!?」
見ると向こうから見覚えのあるものが歩いてくる!
「装甲兵!?しかもあんなにたくさん!?」
「危ないわ!隠れるわよ!!」
ビリー達は慌てて物陰に隠れた。

その時!!

ゴゴゴゴゴゴ・・・・
「な、何?」
「地震か?」
「あうー」

万博会場近く。
ボコッ!
ボコボコボコ・・・・
地面を突き破り、とてつもなく大きな塔が姿を現した!
「な、なにあれぇ!!」
「あの塔・・・・機械で出来てる・・・」
「おっきーい・・・」
突如現れた機械の塔は遠くにいるビリー達にも確認出来るほど大きかった。

『全世界に告ぐ!倫敦はたった今我々怪人結社が占拠した!!』
いきなり塔から放送が流れてきた!
「この声・・・マシナリータ!!」

塔の最上階。
「知っての通り、倫敦に2万機の装甲兵を配置した。
いかなる軍事力をもってしてもこれを排除することは不可能と断言する!」
マシナリータが塔から放送を続けている。
「各国政府は我々が倫敦を拠点とし、全世界を支配することを認めよ!!
24時間以内に要求がのまれない場合は力ずくということになる!!」
一呼吸おいてマシナリータは別の方向を向いた。ズィッヒェルがすでに準備を整えている。
「そして・・・見せしめとして、倫敦が誇る天才私立探偵、ジョン・エヴァレットを・・・・・」

「明朝、処刑する!!」

なんとエヴァレットが塔の天井から逆さ吊りにされていた!!


「先生が・・・捕まった!?」 


第39話「目指すは機械の塔」

夜。
怪人結社に乗っ取られた倫敦の街はひっそりと静まり返っていた。
「大変なことになっちゃった・・・・」
アリエスがつぶやく。
「ねー・・・どうする?」
ボブも心なしか心配そう。
「・・・行くしかないだろ!俺達で先生を助けるんだ!!」
「・・・そうね。今こそあたし達が頑張る時よ!!」
「がんばるー」

「さて・・・問題はどうやってあそこまで行くか・・・だな・・・」
倫敦の街には2万機の装甲兵が配置されている。
一体だけでも強敵の装甲兵をこんなに数多く相手に出来ない。
「なんとか見つからずにいけないかしら・・・」
「あにきー。まかせてー」
「ボブ?」

万博会場近く。
「ついたよー」
「はぁ・・・はぁ・・・よくこんな道知ってたな」
「呆れる通り越して感心するわ・・・」
ビリー達はボブの秘密の通路を使って一気にここまでやってきた。
もっとも通るのに難しい道ではあったが。

会場内。
「どこかに手がかりは・・・」
「待って!誰かいる!!」
こっそり物陰に隠れて様子を見る。
「マシナリータと・・・・もう一人誰だ?初めて見るキャラだけど・・・」
マシナリータと一緒にいるのは機械の鎧に身を包んだ謎の人物だった。
「・・・倫敦中の蒸気を集めるとはな・・・考えたな」
「機械の塔を動かすにはどうしても必要だった。
感謝するぞ、マン・オブ・スチーム。お前の技術がなければこの計画は成し得なかった」
(あの鎧男はマン・オブ・スチームって言うのか・・・)
「私はこの世を蒸気のパラダイスにしたかったのだ。
それを・・・あの私欲の固まりのような人間のいいように扱われてしまった!
この計画で私は今度こそ蒸気のパラダイスを実現させてやる!!」
マン・オブ・スチームは熱く語っている。
「勝手にするがいい・・・私は世界に破壊と混乱をもたらしたいだけだからな」
マシナリータは恐ろしいことをさらりと言ってのける。
そのまま二人は去っていった。
「どこ行くんだ?あっちは人工太陽へのエレベーターがあるけど・・・」

人工太陽展示場。
「これはっ・・・」
外観が見える展示場から機械の塔への通路が出来上がっている!
「ここから機械の塔に通じているのか・・・」
通路は会場と塔を繋ぐ長い渡り廊下のようになっている。
「よし・・・行くぞ!!」
そう言って乗り込もうとしたその時!!

バサッ・・・
「スペクター!?」
突然、ビリー達の前に立ちはだかるようにスペクターが現れた!!
「・・・君達に恨みはない。だがここから先は通すわけにはいかない!!」 


第40話「最強の番人」

機械の塔を目前にスペクターが立ちはだかった。
「ここを通すわけにはいかない・・・・」
「ちょ、ちょっと?」
いきなりの登場に動揺するビリー。
「そうはいかないわよ。こっちはエヴァレットさんを助けなきゃいけないの!
時間があまりないの、だからそこをどいてちょうだい!!」
アリエスが思いっきり怒鳴りつけるがスペクターは動じない。
「頼む・・・このまま帰ってくれ・・・・」
どこか悲しそうな目をしているのは気のせいだろうか。
「うー・・・ビリー!こうなったら強行突破よ!!」
「う、うん!」
スペクターには悪いがこっちも急いでいる。
何がなんでも通らなければならない。
「たぁぁぁぁ!!」
アリエスが先頭にたって突っ込んでいく!
「・・・すまない」
バリバリッ!!
「!!」
スペクターの攻撃がアリエスを直撃した!!
「アリエス!!」
「大丈夫・・・気を失ってるだけだ。
もう一度言う。頼むからこのまま帰ってくれ・・・・」
「くっ・・・・」
しかしここで引き下がるわけにはいかない。
「行くぞ!ボブ!!」
「あうー!」
今度は二人で突撃する!!
「・・・うぅっ・・・」
スペクターはためらいながらも攻撃してきた!
バシッ!
「うわっと!」
なんとかよけたビリーはパチンコを打ち込む!
「・・・・」
バサッ・・・
「えっ!?」
しかしスペクターはマントでいとも簡単に防御してしまった。
「てーい!」
ボブが突撃するが、
ゴンッ
「あうー・・・」
杖で小突かれ、簡単にやられてしまった。
「ボブ!くそっ・・・」
ビリーは火薬を投げつけるが、
バサッ
またもマントで防御されてしまう。
「そんな・・・・」
「・・・すまない」
バシッ!
「うわぁぁぁぁぁ!!」
ビリーもまたスペクターの攻撃に倒れてしまう。
「う・・・・・」
はっきりいって手も足も出ない。
スペクターは強すぎる。
断言する。勝てない。

「仕方ない・・・いったん引こう。何か考えなきゃ・・・」
ビリーはアリエスとボブを連れてその場から離れていった・・・・ 


第41話「ひきょおもの!!」

エレベーターを降りて、いったん下に戻ってきたビリー達。
「うーん・・・」
「アリエス!ボブ!大丈夫か!!」
「・・・スペクターは・・・」
「ダメだ。とてもかなわない。このままじゃ機械の塔に入れない・・・」
「困ったわねぇ・・・・」

「助けてー!」
「ん?」
その時ビリー達の元に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「マリアちゃん?」
「あっ!ビリーおにいちゃーん!!」
マリアは泣きながらビリーの元へ走ってきた。
「ひっく・・・ひっく・・・」
「どうしたんだよ?こんな所まで来て・・・」
「待ちやがれー!!」
「!!」
バネでジャンプしながら二人組が現れた!!
「ジャンプコンビ!!」
「略すな!ジャンピングジョー&ジェニーだ!!
とにかくそのガキを返してもらうぜ・・・」
「やなこった!お前らがほしがるってことはなんか企んでるな?」
「あんた達なんかにマリアちゃんは渡さないわよ!」
「あうー!」
「うぎぎぎ・・・こうなったら・・・」
「やるのか?」
「カモーン!装甲兵!」
「結局自分じゃ戦わないのね・・・」

ジョーの呼びかけに一体の装甲兵が現れた!
「やっちまえー!!」
装甲兵がビリー達に襲いかかってきた!
「くそっ!みんなで一気にやっつけるぞ!」
3人で装甲兵に戦いを挑む!
一体だけならなんとかなる!
「たぁっ!」
「えいっ!」
「むいー!」
3人はそれぞれの攻撃で少しずつ装甲兵を追いつめていく。
「キャー!」
「マリアちゃん!」
「へへっ。今のうちにこいつは頂いていくぜ」
「しまった!くそっ・・・」
ビリーはすかさずボブを抱え上げ、
「頼むぞ!」
「あうー!」
ジョーに向かって投げた!

ガブ
「うっぎゃああああああああ!!!!」
投げつけられたボブはそのままジョーの股間に噛みついた!
「どこに噛みついてんだー!!いてぇー!!離せぇー!!」
涙目になってるジョー。すでにマリアを捕まえることは忘れている。
「離れなさいよー!」
「いでででででででで!引っ張られるー!!」
ジェニーが引き剥がそうとするがボブはしっかりと噛みついて離さないため、引っ張られてよけいに痛い。
「今のうちに装甲兵を片づけるんだ!!」
「わかってるわよ!!」
ビリーとアリエスは装甲兵に連続で攻撃をしかける!!
「とどめだ!!」
ドッゴーン!
ビリーの渾身の一撃で装甲兵は動かなくなった。
「マリアちゃん、こっちに!」
「ボブ。もういいぞ」
ようやくボブがジョーから離れる。
「さぁ、次はお前達の番だ!!」
「ちっくしょぉぉ・・・こうなったら・・・」

「逃げるっ!!」
びよーん、びよーん
二人はバネでジャンプしながら大慌てで逃げていった。
「ふぅ・・・とりあえず勝ったか・・・マリアちゃん大丈夫?」
「うん・・・あ、そうだ!おじいちゃんが!!」
「おじいちゃん?」


「マリア!!」
「おじいちゃーん!!」
スペクターとマリアは目に涙を浮かべ、互いの存在を確かめるように抱き合った。
「驚いたわ・・・マリアちゃんがスペクターの孫だったなんて・・・」
呆然とするビリー達。
「すまない、ビリー・・・孫娘を人質にとられていたとはいえ
怪人の誇りを捨て、結社に協力してしまっていた・・・
未熟なわしを許してくれ・・・・」
「スペクター・・・・」

改めてビリー達は機械の塔の入り口に向かう。
「みんな行くぞ!先生を助けるんだ!!」