『倫敦精霊探偵団』
第1話「少年探偵誕生!」
チュンチュン・・・・
「ふわぁぁ・・・朝かぁ・・・・」
ここは倫敦のスラム街。貧しい者達がここで野宿をしながら生きている。
主人公の少年、ビリーもその一人だった。
ぐぅぅぅぅ・・・・
「腹減ったなぁ・・・・」
空腹を覚えたビリーはその足でパン屋に向かった。
「おっ、ビリーおはよう。ほれ、パンだ。これ食って元気だせ」
「おじさんサンキュー」
もらったパンをほおばりながらビリーは街をフラフラと歩いていた。
「あっ。あにきー」
「おはよう、ボブ」
ビリーよりも年下の少年が走り寄ってきた。
彼の名はボブ。ビリーと同じこのスラムに住む孤児である。
何故かビリーをあにきと呼んで慕っている。
「パン食うか?」
「うん。ありがとあにきー」
そう言ってパンを口いっぱいにほおばるボブ。
そこへ。
「よぉ・・・うまそうなもん食ってんじゃねーか」
いかにもがらの悪そうな青年が近付いてきた。
この辺では有名なかっぱらいである。
「悪いけどパンはもうないよ」
「なにいってんだよ。ここにあるじゃねーか!」
そう言ってビリーの食べかけのパンに手を伸ばす。
「おっと!」
すかさずビリーはかわして、かっぱらいを睨み付けた。
「調子のんじゃねぇぞ・・・ガキが・・・」
怒りの表情を浮かべながらかっぱらいが近付いてきた。
「ていっ!」
ビリーは素早くパチンコを取り出しかっぱらいの目を狙って撃った!
ビシッ!
「いてっ!?」
その隙を逃さすビリーはカバンの中から花火を取り出した。
「それっ!」
火をつけた花火をかっぱらいに投げつける!
「あちっ!あちちちちちちち!」
たまらずかっぱらいは逃げ去って行った。
「あにきつよーい」
「へへ」
「へー・・・見事なもんだね」
「!?」
その時後ろから聞き慣れない声がした。
そこに紅いスーツに身を包んだ青年が立っていた。
「怖がらずに大人に立ち向かって・・・勇気あるね。君」
「誰だよ・・・・」
「僕はエヴァレット。探偵だ。君の名は?」
「ビリー。こっちはボブ」
「なかなか見込みのある少年だ・・・ビリー。
探偵になる気はないかい?」
「探偵?」
これが全ての始まりだった・・・
第2話「伝説の怪人スペクター」
ビリーがエヴァレットに探偵の弟子入りをして数ヶ月が経った・・・
スラムで暮らしていたビリーにとって探偵の生活は全てが新鮮。
今日も彼は子分のボブと一緒に倫敦の街を走り回っていた。
エヴァレットの探偵事務所
「ただいまー!先生!」
「おっ、ビリーお帰り」
エヴァレットは倫敦でナンバー1の実力を誇る私立探偵だ。
そのおかげで街の人間の信頼も厚い。
「あれ?先生その手紙は?」
「ああこれかい?挑戦状だよ」
「挑戦状?」
『今夜、鉱物学者アイヴォリー教授の持つ原石を頂きに参る。
スペクター』
「スペクター?」
「かつて僕のライバルだった怪人さ。
紳士的な態度と技巧をこらした手口で今までいろんな芸術品を盗んでいたのさ。
でもおかしいな・・・彼は引退したはずだが・・・・」
「よくわかんないけど事件なんですね?」
「まぁそういうことだね・・・この挑戦、受けてみるかい?」
「はい!」
すぐさまビリーは事務所を飛びだした。
「あっ、あにきー。じけん?」
「ああ!いくぞボブ!目指すは鉱物学者の家だ!」
第3話「アリエス参上!」
鉱物学者の家。
「こんにちはー」
「おぉ。来てくれたか。話は聞いています。私がアイヴォリーです。
さぁ、上がってください」
教授は快くビリーとボブを迎えてくれた。その時
「パパー?お客さん?」
「ああ、探偵さんだよ」
「探偵!?それじゃ・・・・」
現れた少女は慌ててやってきたが・・・
「・・・・なによ、エヴァレットさんじゃないじゃない」
「この人達はエヴァレットさんの弟子なんだよ」
「それにしては頼りなさそうね・・・・」
「こら!」
「ふーんだ」
少女はそっぽを向いてしまった。
「すいません。この子は私の娘のアリエスなんですが・・・
どうにもわがままで・・・」
「パパ!そんなことどうだっていいでしょ!?」
「ああ・・・とにかく、本題に入りましょう」
「挑戦状では今夜・・・この原石を狙ってやつが現れるはずなんです」
「へー・・・これが・・・」
教授に原石を見せてもらうビリー。
「あにきー。げんせきってなーに?おいしーの?」
「食べられるわけないでしょ。バカね」
アリエスは二人が気に入らないのか軽口を叩く。
「あ、そうだ!俺先生からこれをあずかってきたんです!」
そう言ってビリーはカバンから石を取り出した。
「先生はこれを本物の原石とすり替えておくんだって言ってました」
「なるほど。じゃ本物はビリーさんが持って・・・」
「えー!!だったらあたしが持つ!」
「アリエス、わがまま言っていかん」
「プー・・・わかったわよ」
そう言ってアリエスは石をビリーに渡した。
「予定は今夜・・・・夜にもう一度集合だ!」
第4話「対面。スペクター」
「じゃあにきー。またねー」
「おお。夜にまた来い。おくれんなよ」
ビリーはひとまずボブと別れ、夜まで休むことにした。
「たっだいまー」
ビリーの部屋は事務所の屋根裏部屋にある。
エヴァレットが用意してくれたものだ。
「さてと・・・・」
ビリーは部屋の窓を開け、屋根上へと飛びだした。
「ふーー・・・・気持ちいい・・・・」
ビリーはこの屋根上で寝ころんで空を見上げるのが好きだった。
こうしているとなんだか落ち着いた気分になれる・・・・
「・・・・・最近空が汚れてきたな・・・・」
「!!」
いきなり誰かの声が聞こえてきた。
「この街は蒸気が発達して生活が便利になった・・・・
しかし・・・その代償としてこの美しい空を失っているような気がする・・・・」
声の主は50を越えているであろう老人だった。
何故か顔には仮面をつけている。
「あ・・・あんたは・・・・」
「おや、驚かせてすまないね。私はスペクター。以後お見知りおきを・・・」
そう言って老人は丁寧に挨拶をしてきた。
「す・・・・スペクター!?昔先生のライバルだったっていうあの・・・」
「昔の話だ。今は引退して普通の老人をやらせてもらっている」
「で・・・でも・・・鉱物学者の家に予告状を・・・・」
「そこで君に頼みがある。私の名に傷がつかないためにも、
この事件をぜひとも解決してもらいたい」
「なんだって・・・・」
「お手並み拝見させてもらうよ・・・」
バサッ
「・・・・・消えた!?」
スペクターはマントを翻したかと思うと忽然と姿を消していた。
「・・・・どういうことだよ・・・・・」
第5話「奪われた原石」
夜、ビリーとボブは再び鉱物学者の家に来ていた。
「もうすぐ・・・予定の時刻ですね」
緊張しているアイヴォリー教授。
「スペクター・・・来るかしらね・・・」
落ち着かない様子のアリエス。
「あにきー。たいくつー」
のんきなボブ。
「事件を解決してくれって・・・どういう意味だ・・・」
昼間のスペクターの様子に疑問を持つビリー。
ガタンッ!
「!!?」
「停電か!?」
突然部屋の明かりが消え、動揺する一同。
「懐中電灯を!」
パッ
「一体なんだ・・・・あっ!!」
気が付くとテーブルに置いてあった原石がない!
「そ・・・そんな・・・」
「いや、大丈夫。盗まれたのは偽物の方・・・」
ビリーが持ってきた偽物にすり替えておいたはずだった。
ところが。
「パパ・・・ごめんなさい。あたしこいつに偽物渡したの・・・」
「え?」
「だって頼りなかったし・・・ほんとに盗まれると思ってなかったから・・・」
ということは・・・今ビリーが持ってるのは偽物で盗まれたのは・・・・・
「・・・・・・・・・・・」
バタッ
「パパ!?しっかりして!!」
あまりのショックに倒れる教授。
「うぅっ・・・・」
ダッ!
「アリエス!?どこへ!!」
「まってーあにきー」
突然外へ飛びだしたアリエスを追ってビリーとボブも駆け出した!
第6話「事件の真相」
スラム街に来た所でビリーとボブはアリエスを見失ってしまった。
「どこに行ったんだ・・・」
「あにきー。こっちからおねえちゃんのにおいがするー」
ボブがくんくんと鼻をならす。
「でかしたボブ!」
「どういうことよ!話が違うわ!」
スラムの外れでアリエスは5人の少年達と対峙していた。
「あたしはエヴァレットさんに会いたかっただけなのよ!」
「へへへ・・・・俺達がそんな約束守るかよ・・・・」
「いいから原石返しなさい!」
「やーだよー・・・・へへへ」
「そういうことか・・・・・」
「!!」
そこにビリーとボブが現れた。
「全部お前らの仕業だったんだな・・・・」
「ビリー・・・てめぇ・・・・」
ビリーはこの5人の少年を知っていた。
スラム街の悪ガキグループ「ちびっこギャング団(自称)」。
「ビリー・・・これは・・・その・・・」
「細かいことは後で聞く。まずは原石を取り返そう」
「くそっ!みんなやっちまえ!!」
5人が一斉に襲いかかってきた!
「全く・・・・」
ビリーは得意のパチンコを取り出し
ビシッ!
「いてっ!」
顔面に一発お見舞いする。
「くそぉ!」
横から2人が来る!
「てやっ!」
そこへ花火をぶちまける!
「あちちちちちち!」
たまらず2人は逃げまどう。
一方のボブは
「このやろ!」
ピョーーーーーーン
高くジャンプして攻撃をかわし、
そのまま重力の加速にまかせて
ゴーーーーーーーーン
強烈な頭突きをくらわした。
「かはっ・・・・」
あまりの痛さに倒れ込む。
ボブは何事もなかったかのようにケロッとしている。
「このやろーーーー!!」
残った1人が襲いかかってきたその時
「いい加減になさい!」
バキッ!
「はぐっ!」
アリエスが愛用の傘で足を引っかけた。
ちびっこギャング団、全滅。
「挑戦状は偽物。全ては子供の悪戯だったってことか・・・
おかしいと思ったんだよね。引退したはずのスペクターが今更出てくるなんてさ。
まぁ原石は返ってきたし、とりあえずめでたしかな」
翌日、事務所でエヴァレットに事件の顛末を説明した。
街の人気者、エヴァレットに会いたがっていたアリエスを
あの悪ガキ達がそそのかし、今回の計画が始まった。
最もアリエスはエヴァレットに会えればそれでいいわけで、
本当に盗まれるとは思っていなかったのだ。
しかも来たのはエヴァレットではなく小汚い少年2人・・・・
結局のところ、今回の事件にスペクターは関係なかったのである。
「彼は紳士だからね。身に覚えのない盗みの疑いをかけられたくはなかったのだろうね」
とエヴァレットは語る。
「屋根上でスペクターが言ってたのは・・・こういうことだったのか・・・」
一気に力の抜けるビリー。
こうしてはた迷惑な泥棒騒ぎは幕を閉じたのだった。
第7話「少女探偵アリエス」
チュンチュン・・・
「ふわぁぁ・・・朝かぁ・・・」
眠い目をこすってビリーは事務所へと降りてきた。
「それでは今日からおねがいしまーす」
「うん、頑張ってね。あ、ビリー。丁度よかった」
「先生・・・・・と、アリエス!?」
事務所にいたのはエヴァレットとアリエス!
「紹介するよ。今日からうちで探偵をすることになったアリエス君だ」
「た、探偵!?」
「なによ、その驚きは・・・不満なの?」
「だって・・・この前ここにきてメチャメチャ怒られてたじゃん」
「ぐっ・・・」
この前の原石泥棒事件の真相を知ったアイヴォリー教授が
数日前アリエスを連れて謝罪に来ていた。
『この度は本当に申し訳有りません』
『いいですよ、別に・・・アリエス君は騙されてただけですし・・・』
『でも偽の予告状を出したのは事実です!
もう二度とこんなことのないようよく言っておきますので・・・
これ、アリエス!ちゃんと謝りなさい!!』
「初めからこうすればよかったのよ・・・
今日からあたしは少女探偵よ!しっかりついてくんのよ!!」
「・・・いい根性してるよ全く・・・・」
「それじゃ、エヴァレットさん!早速行ってきます!」
「うん、気を付けてね」
こうして倫敦の街に新たな探偵が誕生したのであった。
第8話「いざ、探偵協会へ」
事務所を出たところでボブがやってきた。
「あにきー。おいらもいくー」
「・・・そういやこいつもいたのよね。こんなのが仲間・・・・」
ちょっと嫌そうな顔をするアリエス。
「ところでこれからどこに行くんだ?」
「決まってるじゃない。探偵協会よ!!」
探偵協会。全ての探偵をサポートするために創られた公認の団体。
ここに来ればたくさんの資料が手にはいるし、
町中から寄せられた依頼を受けることが出来る。
「探偵なら探偵協会に行くのが常識よ!」
はりきるアリエスを先頭に3人は探偵協会の事務所へと入っていった。
「あら。こんにちは。小さな探偵さん」
受付の女性、アイリーンが出迎えてくれた。なかなかの美人で人気もある。
「依頼?ええ、一つ来てるわよ。受けてみる?」
「もちろんです!」
即決してしまうアリエス。まだ内容も聞いていないのに・・・
「日記探し?」
「そう、依頼人の女の子は大事な日記をなくしてしまったの。
当然中にはプライベートなことがいっぱい書いてるから誰かに読まれたら大変よ。
なくした日記を探し出してほしいというのがこの依頼の任務よ」
「なるほど・・・」
「まかせてください!頑張って見つけだしてみせます!
行くわよあんた達!」
すぐさま事務所を飛びだしていくアリエス。
「・・・・・話はまだ終わってないのに。
登録は済ませたわ。依頼人に連絡するから待ち合わせに向かってね。
それと・・・あの女の子にも教えてあげてね」
「はぁ・・・・」
早くも疲れるビリーであった・・・
第9話「日記騒動」
待ち合わせ場所にて、依頼人の女の子と出会ったビリー達。
「・・・日記をなくしたの?」
「はい。実はあたし・・・ケインっていう男の子が好きなんだけど、
あの日記にラブレターの下書きを挟んでるんです。
もし見られたりしたら・・・・・・・・きゃっ(はあと)」
「・・・・で、どこで落としたか心当たりは?」
「はい。友達の家に遊びに行く途中だったのでたぶんそのどこかだと・・・」
「オッケー。わかったわ」
「早速探しに行こうか」
というわけでビリー達は日記の捜索を開始した。
「えっ!本当ですか?」
「あぁ。この前見たよ。誰か小さな男の子が女の子の後をつけてたよ。
その時になんか拾ってたみたいだったが」
「やったわ・・・有力情報ゲット!」
地道な聞き込みの勝利である。
どうやら日記は誰かに拾われているらしい。
「おっ、噂をすれば・・・あの子だったよ」
「えっ!?」
丁度その時一人の少年が通りかかった。
すかさずビリー達は聞き込みを開始する。
「えっ?な、何?」
「ねぇ、君。最近このへんで何か拾わなかった?」
「・・・・・」
ダッ
「あっ逃げた!?」
「追うわよ!」
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・・追いつめたわよ・・・」
「あのさ・・・別に犯人捕まえるわけじゃないんだよ・・・」
追いかけっこをすることしばし、少年を行き止まりまで追いつめた。
「教えて・・・最近何を拾ったの・・・・」
「実は・・・これを・・・」
アリエスの気迫に押されてか、少年は一冊の本を取り出した。
「やっぱり・・・・あの子の日記だったのね・・・・」
「うん・・・・この前つけてたら落としたのを拾って・・・
すぐ返そうと思ったんだけど・・・・その・・・
ラブレター見たら返すに返せなくて・・・・」
「あっちゃー・・・・見られてしまっていたか・・・・」
「えええええ!?あんたがあの子の言ってたケイン君!?」
「ラブレターの相手が僕だったから・・・びっくりしちゃって・・・・」
「・・・・ははーん、なるほど読めたわ。あんたあの子が好きなんでしょ?
だから後をつけたりなんかしてたのよ」
「・・・・うん」
アリエスの言葉にケインは頬をほんのり赤く染める。
「でもその日記はあの子のものだし、返さなくちゃ」
「うーーーーーん・・・・・」
ピーン
「そうだ!この子に日記を返してもらおうよ!」
というビリーの提案で・・・・
「あ、あの・・・これ・・・日記・・・」
「ケイン・・・・」
「ごめん・・・中見ちゃった・・・・」
「そう・・・・」
「あ、あの、この際だから言っちゃうけど、実は僕・・・・・」
「なーんか、すっかり二人の世界作っちゃってるわねー」
呆れた様子のアリエス。ともあれ今回の依頼は成功だ。
「とにかく、うまくいってよかったじゃない」
「まぁね。あたしも日記落としてみようかな・・・」
「へ?」
「別に」
第10話「人として」
今日もビリー達は探偵協会で依頼をうけていた。
「今回の依頼はいわゆる尾行よ。
依頼主の奥さんは子供がどこで誰と遊んでるか気になるの。
ぜひとも調べてほしいって」
「ふーん・・・尾行ねぇ・・・」
「面白そうね。アイリーンさん、あたし達その依頼受けます!」
というわけでビリー達は依頼人の奥さんの待ち合わせ場所に向かった。
「全くあなたという人は!そんなこともわからないの!?」
「それはこっちのセリフよ!毎回毎回こんなことばっかり!」
待ち合わせ場所には着いたのだが、
二人の主婦が激しい口論を繰り広げており、とても話しかけられる状況ではなかった。
「ふんっ!やってられないわ!」
「二度と顔も見たくないわ!」
ようやく終わったのか、片方の主婦が帰っていった。
ビリー達は恐る恐るもう片方の主婦に話しかける。
「あの・・・探偵協会に依頼された奥さんってのは・・・・」
「あら?いやだごめんなさいねー。みっともないとこ見せちゃって」
「うちの子はトマスって言うんだけどね。最近友達が出来たみたいで
よく外に遊びに行くようになったの。でも誰と遊んでるのか気になって・・・
悪い子と一緒じゃないかと気がかりでねぇ・・・それでお願いしたの」
「なるほど・・・」
そこへ
「おかーさーん。僕遊びに行ってくるねー」
小さな少年が走り去っていった。
「あの子がトマスよ。丁度良いわ。早速お願い」
「よし、あんた達行くわよ!」
ビリー達のトマスの追跡が始まった。
トマスはどんどん先に進んでいき、ビリー達も付いていくのに必死だ。
「いったいどこまで遊びに行くのよ・・・」
トマスが角を曲がった。
「今よ!」
そそくさと角まで進むと・・・
「あれっ?」
トマスの姿は影も形も見えなくなっていた。
「おかしいわね。確かにこっちに・・・・」
その時
「こっちー」
ボブが壁を探り、なんと隠し通路を発見した!
「さすがボブ!」
「何者よ・・・あんたの相棒・・・」
隠し部屋の中は少し暗いが広くて遊ぶには丁度良い場所だった。
「たぶんトマス君はこの中だ。ボブ、頼む」
「まかせてあにきー」
鼻をくんくんと鳴らし、トマスの居場所を探り出す。
「みーっけ」
「!!」
数秒後、隠れていたトマスと知らない女の子を発見した。
「お願いです!このことはお母さん達には黙っててください!!」
「え・・・どうして?男の子と女の子が遊んでたって別におかしくないわよ?」
「僕とクリスは最近友達になったんですが・・・その後で知ったんです。
僕のお母さんとクリスのお母さんはすごく仲が悪いんです」
「まさか・・・あの時の喧嘩相手・・・」
「もしお母さんが知ったら僕達一緒に遊べなくなるんです。
だからここで隠れて遊んでることは秘密にしてください!」
「・・・・・・・・」
ビリー達は依頼人の主婦の元へ戻った。
「ご苦労様。それでどうでした?」
(どうすんの?ビリー)
アリエスが耳打ちしてくる。
探偵であるなら事実を伝えなければいけないのだが・・・・
「・・・・すいません。見失いました・・・・」
「まあ!探偵のくせに尾行も出来ないの!?
全く・・・所詮子供ね。もういいわ。別の探偵雇うから帰って頂戴!!」
まくしたてながら主婦は去っていった。
「これで・・・・よかったんだよね?」
「さあ・・・・・ね」
第11話「新たな怪人」
今日も倫敦の街を練り歩くビリー達。
探偵協会には行ったが今日は依頼がないので暇なのだ。
「退屈ねー。なんかおっきい事件でも起きないかしら」
「おいおい。いいじゃないか別に・・・ん?」
街のど真ん中に大きな人だかりが出来ている。
「なんだなんだ?」
人混みをかきわけ、ぴょこっと顔を出してみると、何やら顔立ちの整った青年が歩いてくる。
「キャー!ミニプリオさまー!!」
「こっちを向いてくださーい!!」
女の子の黄色い声援が止まらない。
「そういや今日は・・・ドナルド・ミニプリオがここの劇場で
ミュージカルをやるのよね。それでこんなにファンが・・・・
あんなのがいいのかな?あたしはエヴァレットさんの方がいいけどなー」
「みゅーじかるってなーにー?」
「あー、はいはい。さっさと帰りましょ」
と、アリエスが言ったその時!
「キャー!!」
「なんだ!?」
「か・・・壁・・・」
「壁?・・・・・これはっ!」
いつ描かれたのか、近くの壁に文章が記されていた。
『王家の首飾りを今夜頂きに参上する。
ヤング・ゴースト』
「思い出したわ!今日のミュージカルにミニプリオが首飾りをつけて出るのよ!」
「それじゃ・・・怪人はそれを狙って・・・」
「ふふふ・・・ひさびさの大きな事件、ワクワクしてきたわ!」
「あにきー、じけん?おいらがんばるー」
「ヤングゴースト・・・・か」
第12話「スペクターからの願い」
エヴァレット探偵事務所。
「先生!」
「ビリー。話は聞いてるよ。怪人の予告状だね?
そのことなんだが・・・君にこんな手紙が届いてる」
「え?」
『君に頼みがある。屋根上で待っている。
スペクター』
早速ビリーは自室の窓から屋根上へとわたっていった。
しばらく進むとコーヒーを飲みながらたたずんでいるスペクターを発見した。
「待っていたよ。ビリー君。まずは・・・・いつぞやの礼を言わなければね。
ありがとう。おかげで私の濡れ衣は晴らされたよ」
「この手紙は・・・・」
「ああ、君に頼みがある。ヤング・ゴーストの予告状は知ってるね?」
「知ってるけど・・・」
「実は私の弟子なんだよ」
「えぇっ!?」
「説明しよう。昔私がまだ現役だったころ、ゴーストという相棒がいてね。
もうとっくにこの世にはいないが・・・最近その孫が私の所に来てね。
怪人をやりたいと言い出してね・・・でもはっきりいってまだひよっこだ。
そこで君にヤング・ゴーストと対決してもらいたい」
「俺に・・・」
「君もエヴァレット君の弟子、いい経験になると思う。
これを渡しておくよ」
スペクターが差し出したのは劇場のチケット。
「これで入れるはずだ。君の健闘を祈る」
バサッ
マントを翻し、スペクターはまたしても一瞬で消えた。
「・・・・こうなったら・・・やってやるか!!」
第13話「ヤングゴースト参上!」
スペクターにもらったチケットを持って、ビリー達は劇場へとやってきた。
「まさかこんな形でミュージカルを見ることになるとはね・・・・」
「気を抜くなよ。いつヤング・ゴーストが現れるかわかんないからな」
緊張した面持ちで最前席に座るビリーとアリエス。
「あにきー。おしっこー」
「・・・・あんた緊張感ってもんないの?さっさとトイレ行ってきなさい」
しばらくして舞台の幕が上がった。
主演のミニプリオが舞台の中心で踊り、歌う。
「ふーん・・・芝居はまぁまあうまいわね」
冷めた目で見てるアリエス。
そしてミニプリオが舞台の前に移動し、まさに独壇場となったその時!
バリーン!!
突然天井を突き破って何者かが飛び込んできた!
「いったーい・・・お尻から着地しちゃった・・・・」
それは仮面をつけてはいたが一目で若い女性とわかった。
突然の乱入者に唖然とする観客一同。
「ふっ・・・ヤング・ゴースト参上!王家の首飾り頂くわ!」
驚いて腰を抜かしているミニプリオから首飾りを奪い取る。
「じゃあね、ボーヤ。チュッ」
そのままヤング・ゴーストはロープを使って天井の穴から逃げていった。
「で・・・出たぞ!ヤング・ゴーストだ!追うぞ!!」
大急ぎで屋上に上がる3人。
「くそっ・・・逃げられたかな・・・」
舌打ちするビリーにアリエスが、
「ねぇ・・・・あれ・・・」
「ん?」
「いやーーーーん!あたしったらどさくさ紛れにミニプリオにキスしちゃったーーーん!!
みんなに自慢したーーーい!
でもそしたらあたしが犯人だってばれちゃうしーーーー、
怪人ってきびしーーーーーん!!」
「・・・・・まだいたのか・・・・」
一人で狂喜乱舞しているヤング・ゴーストを見てちょっと呆れるビリー達であった。
「そこまでだ!首飾り返してもらうぞ!」
「あらやだ、追っ手が来ちゃった。でも子供3人。軽くひねってあげる!」
戦闘の構えを取るヤングゴースト。
「よし!いけボブ!!」
「それーーーー」
とてててて・・・・
「?」
真っ向からヤングゴーストに突っ込んでいくボブ。
「ふっ、所詮子供のやること・・・」
ぴょんっ
ぺとっ
「えっ!?」
ボブはいきなりジャンプしてヤングゴーストの顔に貼り付いた!
「ちょっと見えない!離れてよ!!」
あわてふためくヤングゴースト。
「隙あり!!」
「観念なさい!!」
すかさずビリーとアリエスが攻撃する!
「痛い!痛い痛い!!」
子供となめてかかっていたヤングゴーストは意外にあっさりと倒された。
「ふっ、たいしたことなかったわね」
勝ち誇るアリエス。
「そんな・・・あたし捕まっちゃうの?監獄行きなの?」
さっきまでの元気も消え失せ、失意に陥っているヤングゴースト。
そこへ、
「これでわかっただろう?怪人はお前が思ってるほど生易しくないんだ。
一瞬の油断がこういうことになるんだ」
スペクターが突然現れた。
「ビリー君、協力感謝する。これで少しは怪人の厳しさもわかっただろう。
首飾りは君が返しておいてくれ。それでは失礼するよ」
バサッ・・・
スペクターはヤングゴーストを連れ、消え去っていった。
こうして事件は無事に解決した。
首飾りが返ってきたことでビリー達は市から感謝された。
話を聞いたエヴァレットも誉めてくれた。
「なかなか頑張ったね君達。
しかしヤングゴーストとはね・・・受け継がれていくねぇ、
ゴーストてって名前も」
第14話「ネズミパニック!」
「えいっ!このっ!」
事務所の大家さんが何か騒いでいる。
「何やってんですか?」
「ネズミよネズミ!ああもうまた出てきた!」
大家さんは箒でネズミをはたいて追い払っていた。
ドンドン
突然玄関をノックする音が聞こえた。
「こんにちは。ビリーいます?」
「あら、アリエスちゃん。ビリー、お客さんよ」
「え、俺に?」
「最近街にネズミが大量発生してるの、知ってるわね?」
「知ってるよ。お店とかにも入ってきて結構問題になってるみたいだね」
「あたしはね、このネズミの大量発生。何かあると思うのよ!
どう?あたし達で調査してみない?」
「うーん、別にいいけどどうやって調べるのさ?」
「あら、こういうことにはうってつけがいるじゃない」
「というわけなんだ。ボブ、いけるか?」
「うん、まかせてー」
そう言うとボブは鼻を鳴らしながら街を歩き出した。
「アリエス・・・段々ボブの扱い慣れてきたね・・・」
「慣れたくないけど・・・」
そんな二人はお構いなしにボブはどんどん進んでいく。
このままいけばどこからネズミがやってくるのか突き止められそうだ。
やがてボブは街を外れ、下水道までやってきた。
「え・・・ここに入るの?いい服着てくるんじゃなかった・・・」
アリエスは嫌そうな顔をしながら下水道に入っていく。
「く・・・くさい・・・」
薄暗い下水道の中を進んでいくビリー達。
「ああもう、早く出たい・・・」
お気に入りの服を汚して不機嫌なアリエス。
と、その時!
「あにきー!なんかくるよー!」
「へ・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突然大量のネズミが現れ、ビリー達に向かってきた!
「もしかしてあたし達敵と思われてる・・・」
「くそっ!なんとか退治するんだ!」
それぞれがネズミ達相手に戦い始めた。
しかし数に差がありすぎる。
一匹ずつは弱いのだがネズミは何匹でも出てくる。
「これじゃきりがない!このまま突破する!」
倒すのは諦め、ビリー達は大急ぎで下水道の奥へと走っていった!
「はぁ・・・はぁ・・・もう追ってこないな・・・」
「あんな数のネズミ初めて見たわ・・・夢に出るかも・・・」
ヘロヘロ状態のビリーとアリエス。そこへ
「あにきー・・・あそこからなんかきこえるよ」
「へ?」
ボブの指さした先には扉が。
「こんな下水道に・・・扉?」
恐る恐る近付いてみる。
「・・・とりあえず荷物の積み込みは完了ね」
「じゃ俺達も行こうか」
しばらくして声は聞こえなくなった。
「入るわよ・・・」
第15話「メタリックアーミー」
「これはっ・・・」
ビリー達は下水道で発見した謎の部屋に入って驚きの光景を見た。
「なに・・・これ・・・」
部屋の中には数多くの木箱が並べられており、しかも中には火薬が入っている。
そして何よりビリー達の目を引いたのは
「これ・・・なんなの・・・」
部屋の中央に置いてある謎のロボットだった。
「あにきー。いったいなんなの?」
「わかんねぇ・・・でもなんかやばい雰囲気がする。
ここは早く出た方がよさそうだな・・・」
と、扉に手を掛けたその時
ガシャンッ!!
「え!?」
ガシャンッ!!
「う・・・動き出したぁ!?」
突然謎のロボットが動き始めた!!
グッ・・・
ドゴォォォォン!!
「うわぁぁぁぁぁ!!」
ロボットはとてつもない力で周りのものを破壊し始めた。
「どうすんのよ!!」
「なんとか止めないと!えいっ!」
ビシッ!
「あ・・・」
ビリーの得意のパチンコも鋼鉄のロボットには通用しない。
「ちょっと!こっち来たわよ!!」
ロボットはビリー達の方へと向かってきた!
「くそっ!パチンコがダメなら花火でどうだ!!」
ドーーーーーン!!
グラッ・・・
「ちくしょう・・・弱いか・・・」
少しは効いたようだが威力が弱すぎる。
「そうだ!!ここの火薬を・・・」
ビリーは木箱の中から火薬を取り出した!
「くらえっ!!」
バコーーーーーン!!
「どうだ・・・」
ズーーーーン・・・・
さすがに効いたのかロボットは動かなくなった。
「よし・・・今のうちに逃げよう!先生に報告だ!!」
翌日。
「ビリー。君の言った通り、下水道にたくさんの火薬とロボットのようなものがあったよ。
恐らくあそこはネズミの住みかで、そこを追い出されてネズミが街へ出てきたんだね」
下水道調査から帰ってきたエヴァレットが報告をしてくれた。
「それで・・・あの部屋は一体誰が・・・」
「うむ。調べた結果、恐らくあそこは
楊宗元(ようそうげん)の武器密輸グループの倉庫だということがわかったよ」
「楊宗元?」
「アジア系マフィアのボスだよ・・・
確か初代が現れたのは300年前で・・・
今もなおその名が受け継がれているという・・・」
「やっぱりあそこってやばい所だったんだ・・・」
ネズミ捜査で予想外の発見に思わず身震いするビリーであった・・・
第16話「精霊探偵ヴァージル」
「うーん・・・」
「どうしたんですか?先生」
「ああ、ビリー。この新聞を読んでくれ」
『またも負傷者!やはり石像の呪いか!?』
「?」
「もうすぐ万博が開かれるのは知ってるね?
そこには数多くの展示物があり、今回の石像もその一つ。
ところが最近その石像のまわりで負傷者が絶えないんだ。
噂ではその石像には呪いがかかっているとか・・・」
「へー・・・不思議なこともあるもんですねぇ・・・
よし!先生!!俺達でその石像を調べましょう!!」
「僕は行かないよ」
「へ?」
あっさりと断ったエヴァレットに呆然とするビリー。
「ど、どうして!?」
「僕はこういうの興味ないんだ」
「でも・・・」
「大丈夫。こういうのには詳しい人がいる。紹介してあげるよ」
「え?」
「あーあ、暇だなぁ・・・」
アリエスは一人倫敦の街を歩いていた。すると
「あら?ビリー!」
偶然にもビリーと遭遇した。
「どうしたの?なんか事件?あたしもついていくわ!!」
「まぁ事件だけど・・・その・・・詳しい人の協力が必要なんだ」
「誰よ、詳しい人って」
「さぁ・・・先生は特に何も教えてくれなかったけど・・・」
その人の家はスラムを抜けた開発地区の外れにあった。
「ボロボロじゃないの、このアパート・・・
ほんとに人が住んでるの?」
「住所はここで合ってるはずだけど・・・」
そしていよいよその人の住んでいる部屋へ・・・
ギィィィィィ・・・・・
「キャーーーーーーーッ!!」
部屋に入るなりアリエスは悲鳴をあげた!
「こ・・・・この人・・・死んでるの?」
アリエスが見たのは椅子に腰掛けたまま動かない一人の青年だった。
「・・・・誰?」
「よ、よかった、生きてる・・・」
「あの・・・あなたがヴァージルさんですか?
エヴァレットさんの紹介で来ました、ビリーとアリエスです」
「・・・・そう」
ヴァージルはこの世でただ一人の精霊探偵。
幽霊騒ぎなどといった警察が相手にしないような事件を専門とする特殊な探偵だ。
ただ、あまり人との接触を好まず、普段はこうして部屋に閉じこもったまま。
彼の無口と無表情はそのせいらしい。
「と・・・とにかく・・・ヴァージルさんの力が必要なんです!来て下さい!」
「・・・・・わかった」