『横山自動車修理工場二階(居住区)瑞穂の部屋前』

とりあえず無駄だと分かっていながらも紅零は瑞穂の部屋の扉をノックする。

「瑞穂起きろ。時間だ起きろ!!」

激しくノックしても一向に起きる気配はない。

無論ドアには鍵がかかっている。

仕方なく紅零は針金を二本取り出し、鍵穴に刺し込み動かす。

あっという間に鍵が外れ、ドアを開き中に入った。

 『瑞穂の部屋』

何気にきちんと整理整頓された部屋。

日の良く入りそうな大きな窓はカーテンで閉じられている。

女の子らしい配色の壁紙に様々な小物。

小さなテレビに洋服箪笥が一つ。

他には白色の勉強机と本棚。

そしてこの部屋の主はベッドで猫のように丸くなっていた。

青に近い色の髪を肩まで伸ばした少女で、一般から見ても凄い可愛いの部類に入る。

「うみゃ・・・・・・」

なんだけどもなんか鳴いていたりする。

紅零は困ったように頬をかく。

実は瑞穂には紅零を驚愕させた事が一つあるのだ。

それは・・・

「仕方ない・・・やはり少し試すか・・・」

紅零は小さなゴムボールを瑞穂に放り投げる。

刹那、瑞穂の足がゴムボールを正確に紅零に向い蹴り返す。

が、あっさりと紅零は受け止める。

そう、瑞穂は紀柳並に朝が弱いのだ!!

「今日の位置はそこか・・・・・・それなら。」

だがなれている紅零は極小さな水風船を五つ用意し、それをほぼ同時に投げつける。

それぞれの水風船を瑞穂の両手足が受け止めるが、その内一個が瑞穂の顔に当たり、少量の水を撒き散らす。

「うわっ!?」

冷たい水の感触に思わず瑞穂は起き上がった。

その時に放り投げた水風船を紅零がキャッチする。

ちなみにベッドは少ししか濡れていない。

「おはよう瑞穂。もう仕事の時間だぞ、はやく着替えろ。」

少しの時間固まっていた瑞穂は我に返る。

「あ、紅零さん、おはようございます。」

ただ紀柳と違う点は起きさえすれば普通の人よりも目覚めが良いと言う点が大きな違いである。

「先に下に行っていてください、すぐに私も着替えて行きますから♪」

瑞穂はパジャマの袖で猫のように顔を拭くとベッドから降りた。

「あ、そう言えば私もまだ作業着に着替えていなかったな・・・・・・」

気が付いた紅零は瑞穂の部屋を出る。

 『横山自動車修理工場一階 修理ドッグ』

「横山さん、瑞穂は起こしておいた。もうじき来ると思う。」

何時の間にやらコーヒーなんぞすすっていた横山さんに声をかける。

大抵はどんな人も呼び捨ての紅零だが横山さんは数少ない例外のようだ。

仕事の上司と言う点もあるだろうが、その人の良さや人望、人柄の所為もあるだろう。

だが一番の点はその機会に関する知識と腕の良さ。

そして一度受けたら絶対に完璧な状態にして返す仕事に対する情熱などだろう。

紅零が珍しく尊敬に値すると感じる人間だった。

もっともその言動やのほほんとした仕草からはそこまで凄い人だとはわからないが。

ちなみに飲み物が好きな事でも有名。

「いやぁ〜、ありがとう紅零くん。私も瑞穂を起こすのは大変だったんだ。君が居てくれて助かるよ。」

「あれを起こすのが楽だと言われると逆に恐ろしいが・・・・・・」

そう言いながら奥にある部屋に向う。

「着替えてくる。」

それを聞いた横山さんが口を開く。

「覗いて良いかな?」

「良いわけありません・・・・・・」

ちなみにこれは何時もの事だ。

無論紅零も冗談だと分かっている。

「はっはっは。流石に駄目ですよね。」

と言いながら笑っているの背中で聞きながら、紅零は特に嫌な感じはしなかった。

それどころか何かが楽しい。そう感じていた。

 『更衣室』

ロッカーを開く。

中にいれてあるクリーム色の作業服(ここでの標準作業服)を取り出す。

ベストをハンガーにかけ、ロッカーに入れる。

作業着に手っ取り早く着替え、軽く身支度を整える。

戦封剣を取り出し、足のふくらはぎあたりについているポケットに入れる。

ロッカーを閉め、鍵をかける。

そして作業場へと続く扉を開けた。

 『横山自動車修理工場一階 作業場』

「あ、紅零さん。」

元気に手を振る瑞穂。

ちゃんとクリーム色の作業服に身を包んでいる。

ちなみにこの距離わずか五メートル。

手を振る意味はないし必要はない。

やはり何時もの事なので紅零は軽く手を上げて答える。

横山さんは更衣室の隣にある事務所の目の前にあるパイプ椅子に腰掛けて、今度は緑茶なんぞすすっている。

ちなみにリサイクルショップと事務所は同じである。

「今日一日よろしくお願いしますね、紅零さん♪」

ぴょこぴょこ跳ねて近付いて来た瑞穂が元気に挨拶をする。

「ああ、こちらこそよろしくな。」

「それじゃ瑞穂に紅零くん。まあ事務所の方にでも入りなさい。」

横山さんが口を挟む。

「は〜い。」

「わかりました。」

三人は事務所へと移動する。

 『横山自動車修理工場兼横山リサイクルショップ事務所』

中に入ると一人の女性が椅子に座っていた。

「あ、お母さんおはよう♪」

そこに居たのは瑞穂の母、雪穂だった。

「今日も元気ね瑞穂。」

年齢は36歳だがどう見ても20代にしか見えないほど若々しい。

ちなみに髪の色は青に近い。

「やあ雪穂。そっちの方は来てるかい?」

「まだですよ。開店時間は十時なんですから。」

そして雪穂は紅零のほうを見る。

「紅零さん、今日もよろしくね。」

「はい。こちらこそよろしくお願いします雪穂さん。」

紅零にとっては雪穂さんも尊敬に値する人間だ。

自分の考えを持ち、ベストの結果を導き出す事ができるほどの行動力と決断力を持つ。

まず迷わずに答えを出し、自分が正しいと思った事を貫き通す。

それでいてそれが間違っていたのなら間違いを悔い改める柔軟さを持つ。

「ところで紅零くん。正式にうちの社員にならないかい?」

唐突に横山さんが紅零にたずねてくる。

「君なら何時でも大歓迎なんだがね。」

それを聞いて紅零は少し困ったように頬をかく。

「別に考えても良いんですが、場合によっては長い間休む事もありますし、突然辞めるかもしれませんから。」

「そんなのは別に良いよ。ねえお母さん。」

瑞穂が雪穂さんに同意を求める。

「ええ、休むのは事前に知らせてくれれば一向に構わないし、もし辞めたくなっても止めないわ。」

「うんうん。辞めると言い出しても別に構わないから、とりあえずはならないかな、社員に?」

少し紅零は考える。

「毎日は来れませんが?」

「はっはっは。一向に構わないよ。そんなにうちは仕事は多くないから、時々手伝う形で良いよ。」

紅零は更に考えこむ。

「それに・・・・・・私は人間じゃありませんけど。」

「はっはっはっはっは。そんな事とうの昔に気付いてたよ。」

「そうそうって、そうなの紅零さんっていうかお父さん気付いてたの!?」

横山さんの言葉につい同意した瑞穂だったが実は気付いていなかったらしい(普通は気付かない)

「な!き、気付いていたんですか!?」

流石に紅零も驚愕する。

「な〜に、家の馬鹿息子のクラスメイトの太助くんが精霊の主だかなんだかで、

 紅零くんも太助くんの家に住んでいるんだから精霊だって事ぐらいわかりますよ。」

「そ、そうだったんですか・・・・・・」

紅零は横山さんの説明に納得した。

「それに結局紅零さんは紅零さんなんですから、気にしませんわ。」

雪穂さんは落ちついた仕草でお茶をすする。

かなりの好条件に文句の付けようもない。

そして意を決したように口を開く。

「わかりました。」

「ありがとう紅零さん♪」

何故か真っ先に瑞穂が喜ぶ。

「まあ今まで通りによろしく頼むよ。」

「ですね。」

横山さんと雪穂さんも歓迎してくれる。

「ああ、こちらこそよろしく。」

 『一時間後 横山自動車修理工場兼横山リサイクルショップ事務所』

「暇だね・・・・・・」

机に突っ伏している瑞穂が呟く。

「確かにな。」

暇なので工具の手入れをしていた紅零も呟く

「はっはっは。仕方ないさ。」

今度は紅茶をすすっている横山さんが答える。

ちなみに雪穂さんはリサイクルショップの方に移動している。

「比較的安全で平和な街だからね。この鶴ヶ丘は。」

横山さんが紅茶にミルクを継ぎ足しながら説明(?)をする。

「事故でも起きないかなぁ。」

瑞穂がさらりと怖い事を言ってのける。

「そうだねぇ。事故でも起きれば仕事が入るのにねぇ。」

横山さんも怖い事に同意する。

まあ二人とも冗談だが。

「二人とも・・・・・・もし起こったらどうする?」

「紅零さん。そんな訳ないって・・・」

刹那、激突音が聞こえてくる。

ガラス越しに見える道路で黒煙が上っているのが分かる。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

三人は見事に沈黙する。

横山自動車修理工場の入り口の前にタイヤが転がってきて倒れた。

「・・・嘘から出たまこと・・・・・・それとも口は災いの元・・・・・・か?」

紅零は取りあえず楊明から習ったことわざを口ずさんで見たが、なんの解決にもならなかった。

 『数十秒後 横山自動車修理工場前の道路』

「ワゴン車の右側面に常用車が突っ込んだようだねぇ。でもあんまり壊れていないねぇ、ワゴン車の右後ろ以外は。」

取りあえず横山さんは冷静に解析をした。

のほほんとした口調は相変わらずだ。

「うむ、どうやら怪我人はいない様だな。それにガードレールが少し壊れた程度か。」

紅零も冷静に周りの被害状況を分析する。

「うっひゃぁ〜・・・・・・派手だけどあんまし酷い壊れ方じゃないね。」

瑞穂は興味心身に近づいて観察する。

突如ワゴン車の左前・・・運転席のある場所の扉が開き、一人の青年が飛び出してくる。

「まったくなんでこんな事に・・・・・・」

紅零はその顔に見覚えがあった。

「お前は出雲・・・・・・」

呼びかけられて振り向いたのは宮内神社の神主にして二重人格軟派氏の宮内出雲だった。

「おや、紅零さんじゃありませんか。まったく見て下さい、冗談になってませんよ。」

額に手を当てて大きくため息をつく。

ワゴン車を調べていた瑞穂が口を開く。

「ねぇお父さん。この子どうしようか?」

瑞穂がワゴン車をさすりながら何時の間にやらレッカー車に乗っている横山さんに呼びかける。

「このままじゃ可哀相だよ。」

出雲はようやく隣にいる少女、瑞穂に気が付いた。

自分のことを言っているのだと勘違いした出雲は瑞穂に一瞬で近づく。

「分かってくれますか、私の気持ちを・・・・・・」

すかさず瑞穂の手を取り、話しかける出雲。

ちょっと固まっていた瑞穂は口を開く。

「ねぇ、彼方がこの子の持ち主?」

瑞穂は自然な動作で出雲の手を振り解く。

「え、ええ。」

出雲は何時の間にか手を振り解かれていた事に動揺(?)した。

「それじゃあこの子うちで直す?すぐそこだし。」

「あ、ええ・・・・・・お願いします。」

取りあえず車を直してくれるそうなので出雲はお願いした。

ちなみにもう一台の方はとっくに横山さんが話しをつけ、レッカー車でドッグにいれてある。

「それじゃお父さん。話しついたよぉ〜!!」

「う〜ん、わかった。」

横山さんは手早く車をドッグに移動させた。

その時に瑞穂もドッグに移っている。

ちょっと呆然としている出雲に紅零が釘を刺す。

「瑞穂は人にはほとんど興味がないからな。無駄だぞ。」

紅零は横山さんから瑞穂にアタックして崩れ去って行った者が数知れない程いるのを聞いていた。

「そ、そうなんですか・・・・・・」

まだ少し固まったままの出雲は取りあえず気のない返事をする。

「さて、事務所の方に来てもらおうか。正式に手続きをしてもらう。」

紅零はそう言うと出雲を事務所に連れて行った。

 『横山自動車修理工場兼横山リサイクルショップ事務所』

横山さんは既にもう一人の方とは手続きを済ませており、出雲は事故の相手に会う事はなかった。

ちなみに瑞穂は既に乗用車の修理に取りかかっている。

「いやぁ、大変でしたね。それじゃあ修理ついでにオーバーホールしますか?」

「え、ええ。お願いします。」

横山さんは今度はハーブティーなんぞすすっている。

出雲は近くにいた紅零に耳打ちする。

「(どうなんですかここは?腕が良いと評判らしいんですけど、高かったりしたら困りますよ。)」

「(ここの修理費は他の所よりも安いし確りと仕事もする。買った時よりも良い状態で帰ってくるから安心しろ。)」

その言葉を聞いて出雲は少し安心したように椅子に座り直る。

この後約十分間話し合いが持たれる。

そこで提示された料金は出雲の考えていた者よりもずっと安く、保証も完璧だった。

何より出雲が驚いたのは明後日には直っているという事だった。

直すだけならともかく、オーバーホールも含めて明後日までに直っているというのははやかった。

「それでは私は学校に行かないといけませんので。よろしくお願いしますね。」

出雲は事務所を出て、真っ直ぐに学校に向った。

 『横山自動車修理工場一階修理ドッグ』

「さ〜てと、一仕事しますかね。」

横山さんは気合の入らないのほほんとした声で気合を入れると仕事に取り掛かった。

そして紅零も仕事に取り掛かる。

まず瑞穂が素早くパーツの位置などのメモを取り。

紅零は無駄のない動きでワゴン車をばらして行く。

そしてそのばらした部品を横山さんと瑞穂が修理、点検、微調整に手入れをして行く。

瑞穂が足りない部品などがないのなら発注するためメモを取る。

基本的にこれを繰り返し時間が過ぎて行く。

 『午後十二時二十五分』

「お父さん、そろそろお昼ご飯にしようよ。」

瑞穂が油塗れの手を止め、片手をお腹に当てる。

「お腹すいたよぉ〜・・・・・・」

それを見て紅零は苦笑する。

「横山さん、そろそろ休憩にしましょう。」

「う〜ん。一段落付いたし、良いでしょう、お昼ご飯にしますか。」

「やったぁ〜♪」

その言葉に瑞穂が文字通り飛び上がって喜ぶ。

「瑞穂、その前にきちんと手を洗うんだ。」

事務所への扉のドアノブを掴みかけた瑞穂はその言葉に動きを止め、自分の手を見る。

言うまでもなく真っ黒だった。

「あはははは・・・・・・・・・そうしますね。」

「ついでに顔も洗うんだな。」

そう言われ、瑞穂は鏡を見る

「・・・・・・うん。」

瑞穂の頬は所々油がついていて、黒くなっていた。

「そう言う紅零くんの顔も黒くなっているよ。」

横山さんに指摘され、紅零は鏡を見る。

「ふ、確かに。言えた義理じゃないな。」

「そう言えばそうですよね。おあいこです♪」

無邪気に笑う瑞穂に紅零は苦笑した。

「二人ともシャワーを浴びてきた方が言いですよ。」

横山さんの提案に紅零も瑞穂もうなずく。

「あ、それから二人はもう終わって良いですよ。今日は学校も午前までのようですし。お昼は外で食べてきなさい。」

その言葉に紅零の動きが一瞬止まる。

「そうか、それならはやく油を落として来た方が良いな。」

紅零はとりあえず手の油を落とし、更衣室の奥にあるシャワー室へと向った。

ちなみにその後を瑞穂がついてくる。

 『シャワー室』

更衣室で髪をほどき作業着を脱ぎ、ロッカーに押し込む。

その際に戦封剣をちゃんと回収する。

そしてシャワー室の個室の一つに入り、取っ手を回しお湯を出す。

何気にその動作一つ一つがきまっていたりするのだが、本人に自覚はない。

シャワーを浴び、顔を洗いながら紅零は少し思いにふけっていた。

(まさか、このような時代が来るとは思いもしなかった・・・・・・平和で戦いもなく。

 この私が人々と生活を楽しむとは、本当に良い時代だな・・・・・・)

 『約十分後』

更衣室に戻った紅零は身体を拭き、ここに来る時に着ていた服を着る。

髪を拭き、ドライヤーを使って乾かして行く。

今度はポニーテールにせず、腰まで届く髪をそのままにしている。

そこにシャワー室から瑞穂が出てくる。

「うぅ〜。やっぱり油はしつこいなぁ・・・・・・」

瑞穂は猫のように首を振って水滴を飛ばす。

紅零は軽やかに飛び、それを回避した。

瑞穂は急いで身体を拭き、ロッカーに入れていた私服を着込む。

「ところで紅零さん。何所かに行くんですかぁ?」

瑞穂が髪を拭きながら質問してくる。

「ああ、約束があって学校までな。それから昼食を食べるつもりだ。」

「ふぇ〜そうなんですかぁ。私も一緒に行っても良いですか?」

「ああ。別に構わないが。」

「あ、ありがとうございます♪」

瑞穂は紅零とは反対の方を向き小さくガッツポーズをした。

(やったぁ〜紅零さんと一緒に食事だぁ〜♪)

実は瑞穂は紅零に憧れており、しいて言うのなら紅零の事が好きなのだ(誤解はしないように)

まああれだけ動作の一つ一つがきまっていてかっこ良かったら無理もない事だが・・・・・・

「早くしろよ。」

「あ、はい!」

紅零に催促され瑞穂は急いで髪を拭く。

 『午後一時 学校前の道路』

「で、紅零さんは誰と約束したんですかぁ?」

瑞穂に問われ、紅零は口を開く。

「楊明と約束したんだ。朝ちょっと、色々あって学校帰りに何かおごらされる予定だったんだ・・・・・・多分あと二、三人は来るな。」

「そうなんですか・・・・・・でもなんであと二、三人来るんですか?」

不思議そうにたずねてくる瑞穂に紅零は答えを返そうとした。

「それは私の友達も一緒だからです。」

だがそれは別の者が答えた。

「楊明、早かったな。」

そこに立っていたのは制服姿の楊明だった。

「ええ、午前授業でしたし、一年は二年生より早かったんです。」

「そうか、なるほどな。」

紅零は納得したような返事をする。

そして楊明の後ろにいる三人の少女がそれぞれ口を開く。

「紅零さん、すいません。私達も良いですか?」

三人のうち、ショートカットの少女の熱美がすまなさそうに聞いてくる。

「今日一日お願いしますね、紅零さん♪」

三人のうち、髪を二箇所で束ねている少女、ゆかりん(本名不明)が元気に言う。

「紅零さん、美味しい物お願いしますね♪」

三人の最後の一人、花織がある種の止めを刺す。

「楊明、私はおごるとしか約束していなかったんだが・・・・・・」

「ははは、ちょっと話しが弾んじゃったんですよ。気にしないで下さいね。」

「言っておくが店はそちらで選んでくれ。私はそう言う店は知らないからな。」

疲れたように紅零はため息をつく。

「私、美味しい所知ってますよ♪」

ちょっとばかしかやの外に追いやられていた瑞穂が名乗り出る。

「え、何所なんですか?」

ゆかりが取りあえず反応。

「えっとねぇ・・・・・・」

そのまま瑞穂と話しこむ。

「・・・・・・・・・あ、紅零さん。この人は誰なんですか?」

少し固まっていた楊明が瑞穂の事を紅零に聞く。

「名前は横山 瑞穂と言って私の働かせてもらっている横山自動車修理工場の工場長の娘で、私の仕事仲間だ。」

それを聞いておきながらも楊明は統天書を開き、そして閉じた。

「なるほど、良く分かりました。それに花織ちゃん達と仲良くなってますし・・・・・・」

「何時の間に・・・・・・」

楊明と紅零は少々呆れていた。

 『二十分後』

「それじゃ瑞穂さんおすすめの喫茶店“ディ・マージェ”に決定!!」

「おおぉ〜♪」

「ちょっと花織、それに瑞穂さん。注目集めてるってば!!」

花織が高らかに宣言しそれに瑞穂が同調する、その所為で回りの通行人の注目を浴びている。

ちなみに紅零はその五人から数歩離れた位置にまで後退し、微妙に他人の振りをしていた。

 『午後一時三十分 喫茶店“ディ・マージェ”店内』

ディ・マージェは小さな、大通りから外れた所にある本当に小さな喫茶店だった。

五人は楽に入れるが十人は入れない。そんな広さ。

でもかわりに落ちついたふいんきで樹の臭いがした。

一切の照明器具はなく、あまり大きくない窓からの光だけで少し暗かったが、その暗さがいっそうふいんきをかもし出している。

かなり昔のクラシック音楽が聞こえてくる。

「良い所だね・・・・・・」

「そうだね・・・・・・」

感動したようにゆかりんと熱美が感嘆の声を漏らす。

「ロマンチックな所だね・・・・・・ああ、七梨せんぱ〜い・・・・・・」

「花織ちゃん!!また違う世界に行っちゃったよ・・・・・・花織ちゃん!!」

あっちの世界に飛んで行ってしまった花織を楊明が一生懸命もどそうと呼びかける。

「良い所じゃないか。」

「そりゃあもう。私のとっておきなんですよぉ♪」

紅零の感想に瑞穂が言葉を並べる。

「って、そろそろ席についた方が良いよ。ここのウェイトレスが困ってるよぉ♪」

「ウェイトレス?」

ゆかりんと熱美は奥にいる小さな女の子を見つけた。

年の頃7、8歳。

淡い黄緑色の髪をポニーテールにしていて、肌は透ける様に白いが、けして儚さを感じさせない。

ウェイトレスの格好をした可愛らしい少女が立っていた。

見つめられているのが恥ずかしいのか、頬は赤く染まっている。

「可愛い・・・・・・」

熱美がポツリと感想を漏らす。

「可愛い!」

ついゆかりんが少女に抱きつく。

少女はなんか「あうあう」言いながら顔を真っ赤に染めている。

だけども全然嫌がってはおらず、抵抗していない。

「ほんと、可愛いですね。」

楊明が近づき頬を指で突っつく。

その度になんか「あうあう」鳴く。

すると奥のカウンターから声が聞こえてきた。

「あまりその子で遊ばないでくれませんか、お嬢さんがた・・・・・・それからできれば席についは貰えませんかな?」

奥のカウンターにいたのは一人の老人だった。

白髪で人の良さそうな顔をしており、何故か老人特有の弱々しさを感じない。

「え、あ、す、すいません。」

熱美が急いで席につく。

ゆかりんも少女を離し、楊明は少女で遊ぶのを止めて席につく。

紅零と瑞穂は元々席についていたが花織は相変わらずあっちの世界から戻って来ていない。

「七梨せんぱ〜い・・・・・・」

なんか夢を見ているような顔で天井を見上げている。

多分花織の目には満天の星空でも輝いているのだろう。

見るにみかれた紅零が立ちあがり、かるく花織の側頭部を一撃する。

花織ははっと我に帰り、周りを見まわす。

「え、紅零さん・・・・・・私なにを・・・・・・?」

「花織はまたどっか行っちゃってたんだよ・・・・・・」

「とりあえず席について。」

「う、うん・・・・・・」

花織は言われるがままに席につく。

紅零は既に席についていた。

「お嬢さんがた、何にしますかな。」

老人の言葉に反応するように少女がメニューを持ってくる。

「あの・・・はい・・・・・・」

恐る恐るメニューを熱美に渡す少女(熱美の位置がもっとも全員がメニューを見やすい位置なのである)

「ありがとう。」

笑顔で受け取ってもらい、少女は赤くなりながら小走りで奥に戻って行こうとする。

「ちょっと待ちなさい。」

老人に呼びとめられ少女は動きを止め、老人の方を見る。

老人は暖かな優しい顔で口を開く。

「お嬢さんがたと一緒にお昼を食べなさい。わしがつくってあげるからの。」

少女は最初は分けが分からなかったようだが、意味を理解するとパッと笑顔になり、楊明達の顔を見た。

「一緒に食べよ、ね♪」

ゆかりんがそう言うと皆首を縦に振る。

少女は机の内側に椅子を出し、楊明達と向かい合うように座った。

 『数分後』

「食べたい物は決まったようですな。」

老人の言葉に皆がうなずく。

注文はこうだ。

楊明はシーフードスパゲティ。

花織はオムライス。

熱美はナポリタン。

ゆかりんはランチセット。

瑞穂はハンバーグにライス。

紅零はミックスピザ。

少女はミニランチセット。

「ふむ、シーフードスパゲティーにオムライス。それにナポリタンにランチセット。

 ハンバーグにライス。そしてミックスピザにミニランチセットじゃな。」

一息で言えないのは老人らしい。

メモをとりながら再度口を開く。

「あと飲み物はなんにするかな?飲み物は一杯までは無料じゃよ。」

「良いんですか!?それじゃあ・・・・・・」

花織が取りあえず考えこむ。

考えこんでいる花織をよそに他の面々が口を開く。

「それじゃ、私は紅茶でお願いします。」

まず楊明。

「私はえっと、ハーブティーで。」

「私も!」

熱美とゆかりんが同じものを。

「私はりんごジュースぅ〜♪」

「私はコーヒーを。ブラックで頼む。」

瑞穂を紅零がそれぞれ頼む。

「紅零さんかっこいぃ!!ブラックなんかじゃ私頼めないよぉ♪」

瑞穂が歓声(?)を上げる。

「私は甘いのが苦手なんだ・・・・・・」

「そうなんですか、紅零さん?」

熱美が聞いてくる。

「ああ、食べると気分が悪くなって来るんだ・・・・・・」

「かわいそうだね・・・」

「そうですよね、あんなに美味しい物が食べられなんて。」

ゆかりんと楊明が同情する。

「あう、オレンジジュース・・・」

五人のやり取りを無視して少女が消え入りそうな声で頼む。

「うむ、紅茶にハーブティー二つ。アップルジュースにオレンジジュース。

 そしてコーヒーをブラックで。ところでそこのお嬢ちゃん、どうするのかね?」

老人はまだ注文していなかった花織にたずねる。

「えっと・・・それじゃあミックスジュースを!!」

花織らしく元気良く注文する。

「うぬ、ミックスジュースじゃな。」

メモに書きながら口を開く。

「それから全員の頼んだ物にはサラダがつきますからな。」

そう言うと老人は奥に消えて行った。

 『数秒後』

楊明がもらしながら統天書を開く。

「何調べてるの楊ちゃん?」

「ここの料理についてだよ熱美ちゃん。えっと、へぇ〜すっごく美味しいらしいよ、ここ。」

「そうなんだ。」

その会話を聞いていた瑞穂が口を挟む。

「ここディ・マージェはね、一度来ただけなら思い出に消え、もう一回これたら二度と忘れられないお店なんだよ。」

「一度来ただけでずっと覚えてそうだよ?」

ゆかりんの言葉に瑞穂は首を振る。

「それはないよ。ここは魔法のお店で、それに幻のお店でもあるの。それにここ、メニューに値段がかいてないでしょ?」

「そう言えば・・・・・・」

花織がそう言えばと思い出す。

「ここはね、値段は満足いっただけ払えば良いの。だから満足しなかったらお金を払わなくても良いんだよ。そんな事ないけど。」

そして問い掛けるように話す。

「ここ、私達より前に誰か居た?」

その言葉にみな首を振る。

「でしょ?きっとたくさんの人達は一回は来た事があるんだよ。

 でも忘れちゃって誰も来ない。偶然もう一回来れた人達だけが来れる幻のお店。」

瑞穂は笑顔を浮かべる。

「きっとみんな忘れちゃうよ。私だってそうだったもん。

 でも紅零さんと楊ちゃんは覚えてるかもしれないね。だって精霊さんなんだから♪」

そして紅零と楊明の方を見る。

「今度またみんなで来ようね。今度は二人の案内で。」

「ええ、わかりました。」

「考えておこう。」

 『数分後』

何時の間にか居なくなっていた少女がトレイに乗った料理を運んでくる。

順々に料理がテーブルに並べられてくる。

「外見は普通なんだね。」

花織がちょっとつまらなさそうに感想を述べる。

「この前行った“ばくばく亭”の料理がおかしすぎただけにね。」

熱美がその感想に答える。

「量は多すぎず少なすぎず。それに私達の料理によって量が違うみたいだね。」

「きっと私達の食べる量を考慮に入れてる作ってあるんだよ。きっとちょうど良い量なんだよ。」

ゆかりんの疑問に楊明が答える。

「そう言えば何度か来てるけど、いっつも残したりしないし、それで足りないって事なかったなぁ。」

瑞穂がそう言えばと付け足す。

「それでは食べるとするか。」

話しが一段落ついた頃合を見計らって紅零が催促をする。

少女も急いで席につく。

紅零が最初に、そして他の面々が後に続く。

「いただきます」

「「「いただきま〜す!」」」

「あう・・・いただきます・・・」

ちなみに最後のは少女の声。消え入りそうな声なのでほとんど掻き消されている。

それぞれが料理に口に入れると歓声が上がる。

「やっぱりおいしぃ〜♪」

瑞穂が満足げな表情を浮かべる。

「すっごく美味しい・・・・・・これシャオ先輩と同じくらい美味しいよ!!」

「ううん、材料が良いだけあってこっちの方が少し美味しいよ・・・・・・

 多分高い食材使ってるうえ目利きもいいんだろうね、八穀さんほどじゃないけど。

 まさかシャオリンさんと互角の腕を持つ人がこの世に二人も居たなんて・・・・・・」

熱美の感想に楊明が訂正(?)をいれる。

ちなみにもう一人は空の事だ。

ゆかりんの頼んだランチセットの内容はサンドイッチが3種類にコーンスープ。それにちっちゃいハンバーグがついている。

ミニランチセットはそのままランチセットを小さくした物だ。

「そう言えばこの子、なんて名前なの?」

気付いたように花織が名前を聞く。

「そう言えばそうだね。」

「なんて名前なの?」

熱美の言葉に反応してゆかりんが少女に名前を聞く。

「あう・・・・・・ル・・・・マ・・・ジ・・・・・・」

「え・・・?」

聞き取れなかった熱美は顔を近付ける。

「あう・・・あう・・・・・・ル、ルミ・マージェ・・・・・・」

「ルミ・マージェちゃん?」

熱美の言葉に首を縦に一回振る。

「よろしくルミちゃん♪」

「あう・・・・・・♪」

なんか嬉しそうだ。

「へぇ〜。みんなこれでもうここの事覚えてるト思うよ。」

「え、なんで?」

瑞穂の言葉にゆかりんが“?”を浮かべる。

「本当は2回目以降来た人だけルミちゃんの名前を知る事ができるんだよ。と言う事は花織ちゃんは以前にここに来た事があるんだぁ♪」

「う〜ん、そうかもしれない・・・・・・」

頭に“?”を浮かべながら花織は肯定する。

「だから私は言わなかったんだけどねぇ。本当はルミちゃんから教えてくれるんだよ。」

「そうなんだ・・・・・・」

そうして時間が過ぎて行く。

 『一時間後』

「「「ご馳走様でした。」」」

デザートまで頼み満足げな六人。

ちなみに紅零は相変わらずで、おかわりしたコーヒーなんぞ飲んでいる。

「それじゃお代を払うかな。」

紅零が何時の間にかカウンターに座っていた老人に声をかける。

「今日は色々とルール破りの日じゃったのぉ。流石は精霊さんとその友達じゃわい。」

実は話しを聞いていた老人は暖かな笑みを浮かべた。

「お代はこれで良いかな?」

紅零は一万円札を差し出す。

「ちょっと多い気がするがのぉ。」

「生憎と細かいのがないので、それでも良いだろう。私としてはそれでは足りない気がするしな。」

「過大評価し過ぎじゃよ。まあ受け取っておくかのぉ。」

紅零からお金を受け取り老人は楊明達の方を見てこう告げた。

「ルミがお嬢さんがたに懐いてしまったようなのでな、できれば今日一日遊んでやってはくれないかな?

 できれば今日一日と言わず明日明後日ものぉ。」

老人は暖かな笑みを浮かべる。

「ええ、こっちもルミちゃんのことが気に入っちゃいましたので、お安いご用ですよ♪」

楊明は満足げな顔で微笑んだ。

「それにこっちには強いボディーガードさんが居ますしねぇ♪」

瑞穂の言葉にみなが紅零を見る。

瑞穂は以前紅零に助けられている。

そのおかげで紅零は横山さんの所にお世話になっているのだ。

「私の事か・・・・・・まあ否定はしない。人の役に立つ事は好きだからな。」

「あまり関係ない気がしますけど?」

「気にするな。」

紅零は楊明の突っ込みを軽く流す。

「そう言うわけでルミちゃんをあずからせてもらいますね♪」

何時の間にやらルミを抱いているゆかりんが笑顔でルミに頬ずりする。

「あう、あう・・・」

ちなみに全然嫌がっていない。

「ルミちゃんを私達の家に泊めても良いですか?」

明日は日曜なので楊明が聞いてくる。

「一向に構わんよ。ルミもその方が嬉しいじゃろうて。」

でもルミは老人の顔を見つめる。

「なぁに、心配いらん。わしは結構強いんじゃぞ、信用せんか。」

「うむ、その足取りから見て只者ではないな。かなりの使い手と見える。」

紅零の言葉に老人は嬉しそうに目を細める。

「なぁに、お前さんのほうがわしよりも強いじゃろうて。ルミを任せたぞい。」

「ああ、ちゃんと送り返す、約束しよう。」

その言葉に老人は暖かな笑みを浮かべた。

「それじゃあ美味しかったです。またきますねぇ♪」

瑞穂が老人に挨拶をする。

「あう、行ってきます・・・」

ルミが老人に手を振って出て行こうとする。

「ちょっと待たんか。」

「?」

老人に呼びとめられルミは歩みを止める。

「ルミ、その格好のまま行くのかの?目立ってしょうがないぞい。」

指摘されルミは頬を赤く染める

 『約十分後』

ルミは厚手のワンピースに着替え、上からコートを羽織る。

背中にはリュックを背負っている。

「あう、行ってきます・・・」

「行ってきなさい。」

暖かな笑みを浮かべて老人はルミを連れた楊明達を見送る。

「ルミもようやく明るくなってきたわい・・・・・・約束は、守っておるぞい・・・・・・」

老人は遠い目をして、楊明達からは見えない位置に立て掛けてあった写真を見る。

その写真にはまだ三歳にも満たない頃のルミと、その両親と思われる人物が老人と共に写っていた。

 『午後3時 大通り』

「みんな、“ディ・マージェ”のことは覚えてるね。」

「もちろん!!」

ゆかりんが楊明の言葉に反応する。

みんな覚えているようだ。

「それじゃあルミちゃん、とりあえず買い物にレッツゴー!!」

花織の言葉にルミは大きく首を縦に一回振る。

花織は楊明の、ルミは近くに居た熱美とゆかりんの手を取り一緒に走り出す。

その後を追って紅零と瑞穂が走り出す。

 『十分後 デパート』

「今日はここで買い物に決定!」

花織が元気に手を振り上げる。

「まったく、元気なものだな。」

息をまったく乱さないで紅零は立っていた。

「ええ、本当に元気ですねぇ・・・」

「まったく、花織は相変わらずなんだから・・・」

「また楊ちゃんが大変な事になってるよ・・・」

「あう、大丈夫・・・?」

ちょっと付かれた様に瑞穂に熱美。

そしてゆかりんとルミは花織に引っ張られて来たが為に死にかけている楊明の身体を心配する。

「・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・全然・・・・・・大丈夫じゃ・・・・・・ない・・・・・・」

楊明は肩で息をして地面に座りこんでいる。

「仕方がない、私が楊明を見ているからみな行くがいい。今日はあまり時間が残っていないからな。」

「え、でも・・・」

熱美が心配そうに楊明を見る。

「だ、大丈夫だから・・・熱美ちゃん・・・・・・行って・・・きなよ・・・・・・ルミちゃんは・・・熱美ちゃんに・・・一番・・・懐いてるみたいだから・・・・・・」

「う、うん。でも後で来てね。」

「うん、わかった。」

取りあえず楊明は近くにあったベンチに腰を下ろす。

「紅零さん、楊ちゃんの事よろしくお願いしますね。」

「ああ、まかせろ。」

花織の言葉に紅零はうなずく。

「うぅ〜・・・紅零さ〜ん、また後で〜!!」

「ああ、わかったわかった、後でな。」

何故か悲しそうに瑞穂が手を振ってくる。

そして二人を除いた面々がデパートに消える。

紅零は楊明の隣に腰掛ける。

楊明が荒い息を整えるのにかなりの時間を要した。

比較的呼吸が楽になってくると楊明は口を開いた。

「すいません、紅零さん・・・」

「気にするな、私は買いたいものなど無かったから、一向に構わない。」

楊明は統天書をめくり、あるページでそれを止める。

「嘘をつかないで下さい。CDプレイヤーを買いたかったんでしょ?それにCDも数枚。」

「う・・・ま、まあ確かに欲しかったが、今日明日に欲しいと言うわけでもないからな・・・・・・」

紅零は無類の運動好きで、それと同じぐらい音楽好きなのだ。

運動や音楽と付けば取りあえずなんにでも興味を示す。

ちなみに歌は凄く上手い。

「しかし相変わらずだな楊明。」

「何がですか?」

すっかり冷静さを取り戻した二人。

紅零はあまり他人のことに興味を示さないが楊明はその反対に厄介ごとに首を突っ込みたがる。

二人とも似ている点も多いが反対の点も多い。

だからこそ気が合っているという説もある。

「体力の無さ。」

「い、いきなりそれは無いでしょう紅零さん・・・いくらなんでも失礼ですよ。」

紅零の唐突な言葉に楊明は取りあえず反論(?)をしておく。

「すまない・・・だが帰ったら本気で体力作りをしないとな。」

「そうですね。」

紅零は指摘された所を素直に聞き、間違っていたと思ったらすぐに謝る傾向がある。

その為他人と口論になる事は少ない。

ただ戦闘になったりすると性格が大きく変るが・・・・・・

「ところで花織達の様子を見なくていいのか?」

「そうでしたね、えっと・・・」

楊明はものすごい勢いで統天書をめくり、ある所で止めた。

「えっと・・・・・・ええ!?」

「どうした楊明!!」

楊明のただならぬ様子に紅零は思わず立ちあがり、戦封剣を居れてあるポケットに手を突っ込んだ。

「どうしたんだ楊明!!」

「どうしたもこうもありませんよ!!花織ちゃん達が、花織ちゃん達が・・・・・・」

紅零が緊張した面持ちで楊明の言葉にしかと耳を傾ける。

「私に内所でワッフルを食べてるんですよ!!」

その言葉に紅零は思わず地面に盛大に突っ伏した。

 
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