<初日-2002.8.7 A.M>

 2002年8月6日夜半。お盆の帰省ラッシュの大渋滞には巻き込まれたくないと思い、世間一般でいわれているところのお盆休みより早めに夏休みを取ることができたので、この夜のうちに関東を脱出して、前回の非開館日に訪れるという失敗を反省を活かし、7日水曜日(!)の真備町ふるさと歴史館の開館にあわせた為の出発である。
 平日の深夜だということもあり、大型トラックの多さには霹靂させられるが、渋滞がないだけマシである。一度体験済みだとある程度は時間の詠みもできるので、前回の時よりは気持ちも楽である。
 およそ600kmの道程をゆったりと途中休み休み走り、夜明け過ぎには関西に到着。
 諸用を簡単に済まして、前回素通りになった神戸をちょっと廻ってみる。
 横溝正史生誕の地、神戸市の東川崎と、自分のHPにも取り上げた『悪魔の手毬唄』に出て来る兵庫区西柳原というところがどんなところか見て来ようと思っていたのだ。が、今更ながらに思い返してみると、時代は大きく変わってしまっているうえ、つい七年半前にはあの阪神淡路大震災もあったのである。
 関東で生活していると、やはり当時の震災のことは記憶から薄れてつつあることは否めない。…ヤレヤレ。あの震災直後に神戸に来て、実際に倒壊したビルや町並みを見ているというのに…。およそ観光気分で訪ねてみても、かつての横溝正史を忍ばせるような香りはほとんど感じられることはなかったのも無理もないのかもしれない。この辺りがどれくらいあの震災の被害を受けたのかは知らないが、面白半分にこうしてやって来て、数十年前の町の面影がどうのこうのと好き勝手思ったりするのは、あの震災を体験した人たちにとっては「何言ってるんだ」と呆れ返るようなことなのかもしれない…と、ちょっと感慨深い思いにとらわれてしまう。
 しかしながら、そういったことだけで、折角の旅行気分を台無しにしてもつまらない。そんなことを一々考えていたら、何処へも行けなくなってしまう。別に悪いことしてる訳じゃないんだから、気を取り直して楽しまないと損である。
 と、そんなこんなで、神戸観光もそこそこに、前回同様国道2号線を西へ。一路岡山へ向かう。
 やはり、お盆休みとズレていることもあってか、前回のような渋滞に出くわすこともなく、車はスムーズに流れる。
 昼前には岡山市に入ることができた。
 暑い!!
 いや、暑いだけならまだしも、この喧噪は一体何なのだ!?
 国道2号線といえば交通量もそこそこある道路であろうに、その道路の両側から聞こえてくる、蝉やらなんだかよくわからない様々な虫の鳴き声。
 森や山の中とかいうのであればわからなくもないのだが、町中であってさえコレである。わざわざ車から降りて確かめることまではしなかったが、民家と民家の間、ビルの脇のちょっとした茂みにも、きっとめちゃくちゃ沢山の虫がいたに違いない。この鳴き声には圧倒させられる。
暑さや陽射しよりもむしろ、この鳴き声の方に『真夏』を実感させられてしまった。車で来たからエアコンをビシバシ全開にしてなんとかなってはいるものの、電車や歩きなどと考えたら、とてもじゃないがそれだけで脳までが溶けてしまいそうな感じですらある。
 ともあれ、岡山市内をゆっくりと走りながら、何軒か出発前にチェックしておいた古本屋に行ってみる。
 『横溝World』のふみさんから「『悪魔の手毬唄』の廣済堂ブルーブックス版ならちょくちょく見かけますよ」と御案内いただいてから、いずれは見に来てやる!と思い描いていた岡山古本屋巡りである。

 万歩書店・古本市場といった岡山県を中心として(?)何軒かの店鋪を持っている古本屋を見て廻る。
 なるほど、関東/東京・横浜・川崎近辺の大型古本チェーン店とは、似ていつつもちょっと異なった感じはある。新書サイズの在庫の多さはなかなか他所ではお目にかかれない在庫量で(私の廻って見た店鋪に限っての感想であって、全ての店がそうだとは断言しない)、これなら「廣済堂版をちょくちょく見かける」というのも何となくわからないでもないような気にさせられる。もっとも、気にさせられるだけであって、実際には行ってみてもなかなか欲しいと思っているものに巡りあえるわけでもないのが古本屋なのである。この時も結局、これといった収穫はなかった。
 HPを公開してから、あるいはちょっと誤解されている向きもあるかもしれないので、お断りしておくが、私は取り立てて古本蒐集家ではないのである。『悪魔の手毬唄』が掲載されていた『宝石』に関しては、確かにムキになって買い揃えてしまったが、それだけのことであって、他には何も集めるといったことはしていないのだ。『これ』と自分で思った物に対しては執着するものの、他のモノに関しては例えそれが、他の人にとってはどんなにお宝であろうとも、まるで興味がない…というのが襟裳屋なのである。だから、どこそこの古本屋さんにこれこれがありましたよ〜とか言った親切な情報を人にお知らせすることができないのは、教えてもらってばかりで、申し訳ないなぁと恐縮しきりなのである。
 さて、古本屋巡りばかりに時間をとられると、真備町のふるさと歴史館の開館時間に間に合わなくなってしまう。と、いうことで、あっさりと古本屋巡りを切り上げて、いよいよ真備へ向かう。


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