話しを渋滞にハマった車中に戻すとしよう。
それでもなんとか明石を過ぎた頃から少しずつ車もスムーズに走り出したが、時間はすでに午後3時にならんとしていたので、このまま2号線を進んでいては何時に岡山入りできるかわからないと考え高速に乗ることにした。
時間も時間でもあることだし、そろそろ今夜の宿をどうするかくらいは考えておいた方がいいだろう…ということで、とりあえず有名所の温泉地である“湯郷温泉”あたりにでも行ってみようか…ということになった。姫路の手前で播但連絡道路に乗り、進路を北に取って中国自動車へ向かう。
中国自動車道からやっと岡山県入りである。もちろん岡山県に入る手前の山の中で『三つ首塔』はこの辺りだったのだろうか…との思いを馳せることは忘れなかった。
美作I.Cを降り、“湯郷温泉”まではほんのわずかである。
町営の駐車場で一時車を休ませ、観光協会で宿が取れるか訊ねてみることにする…。…が、やはり、ゴールデンウィークであり、名の知れた温泉街ともなるとさすがに簡単には宿など残っているわけもなく、敢え無くここでの温泉宿泊は断念。
でもいいのだ。町営駐車場のおじさんとの会話で“生岡山弁”を初めて味わえたのだ!「遠い所、ようおいでんさったなぁ〜。まぁ、ゆっくりしてってつかぁさい」…!これこれ!こうでなくっちゃ!!もうこの言葉だけで大満足である。
とは言ってもここで宿泊できないとなるとここにいても仕方ないのだ。次の温泉でも…と考えたが、さすがにゴールデンウィークというタイミングとなると、そうは上手くはいかないものである。電話で粟倉など何カ所かあたってみてもやはりどこも予約なしでは…と断わられ続け、半ば自棄気味に「こうなったら地図にある温泉を片っ端からあたってみてどこかに落ち着こう!」と地図を頼りに岡山県内を迷路荘…否、迷走し始めることとなったのだ。北西に向かって奥津・湯原方面を目指すか、無難に岡山市内に向かう途中でさりげなく地図上に記載されている温泉印をあたってみるか、判断のしどころだが、湯郷がこの盛況ぶりならやはり奥津・湯原も同じだろう…ということで、岡山市内を念頭コースを選択となった。
湯郷を出ると先ず英田町の大芦高原温泉という文字を目指して374号を南下。温泉町というのではなく昨今流行りの町営の温泉施設で低料金での宿泊も可能らしいので…との期待もやはり考えることは誰しも同じらしく、ここも空きなし。次は和気町の和気鵜飼谷温泉。ここも町営温泉施設。事情はここも変わり無し。更に南下して山陽自動車道にでも乗って岡山市内へ向かっても良かったのだが、ハッキリ言ってここまで温泉に袖にされ続けて「くそ〜!なんとしても温泉に浸かってやろう」とムキになっていたのだ。そう、ここまで何カ所も温泉施設に立ち寄っていながらも、宿泊を前提に考えていたので、いずれの施設でも温泉には一滴たりとも触れてさえいないのだ。車を北進させて佐伯町まで戻り、484号から吉井町へ。おっとここにも“湯免温泉”の文字…が地図にはあるのだが、一体これはどういうことなのだ?484号線を走っていると確かに「天然ラジウム」とか書かれたそれらしい看板が道路沿いにあったのだが、これはほとんど廃虚ではないか。ここじゃないのかな?う〜む。やってないのかな?えぇ〜い、こんなところで悩んでいても仕方ないわ!パスパス!さっさと先に進みましょ!…そして車は更に西に向かい、建部町の八幡温泉郷へ。こうなると横溝ツアーどころか岡山県温泉巡りへと主旨変更してのドライブとなってしまった感じであるが、ここも4軒の宿泊施設のいずれも満員とのこと。
岡山県にたくさん温泉があるらしいということは聞いていたが、岡山県民って、これほどまでに温泉好きなのかぁ…。
さすがにここに至り、すっかり陽も暮れてしまうと温泉などどうでもよくなってきてしまった。考えてみると、ここまでの18時間余の大半を途中休憩を所々に挟んではいるものの運転しっぱなしで流石に疲れてきたかな…と感じ始めてきた上、肝心な横溝岡山にはぜんぜん触れていないのだ。何しに遥か岡山くんだりまで私は来ているのだ?…タイトルの『横溝正史ワールドに触れてみたい』も看板倒れと非難されても仕方ない。
ともあれ、これ以上の温泉地巡りもおそらくは時間的にも徒労となってしまうであろうとのやっとの決断からあっさりと岡山市内のビジネスホテルへと方向転換。これで連れも一安心したことであろう。
岡山市内にてあまりにも呆気無くネグラを確保することができたので、ホテルを出て近くの繁華街にてやっとのこと夕食にありつく。
ホテルの従業員の対応や繁華街で若い人達の会話などにも耳を傾けていたのだが、湯郷温泉で耳にしてちょっと感激すらしたあの横溝正史の小説でお馴染みとなっていた岡山弁を耳にすることはあまりなかったような気がした。都市部ではやはり違うのだろうか?ちょっと残念。
ホテルに戻ってシャワーを浴びて、明日こそ看板に偽り無しといえるツアーにしたいものだ…との思いを胸にしながらそそくさと就寝。
就寝直前の「明日は早くからここを出てまた走り廻るから…」という言葉を果たして連れはどんな思いで聞いたのだろうか…。時計はもうすぐ日付けが変わろうかという時刻を指し示そうとしていた。
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