<序>

 このような形でこの旅行について記述を残してみようなどとはあまり真剣に考えていなかったので、すでに旅行(2002.5.3〜4)から二ケ月以上も経過してしまっていますが、『枯葉(草?)も山の賑わい』ということで、HPらしきものを作ってみようかな…と考えた時、こんな『旅行記』もついでだから載っけてもいいかな…くらいの安易な気持ちでつくられている記述です。
 
 ゴールデンウィークの連休に岡山県各地を巡る旅行をしようと思い立ったのは、もちろん今年が横溝正史生誕百周年の年だからに他ならない。
 学生時代に横溝正史の小説に触れ、その世界に魅せられて以来何十冊と読み耽ってはみたものの、瀬戸内海に浮かぶ孤島や山あいの“村”や地下に広がる鍾乳洞といったものを実際に知ることなく育った者としては、それらを想像しておよそのところを理解しうる為の手掛かりと言えば映画化、あるいはテレビドラマ化された横溝作品を通してだけであり、いずれにせよ作品の持つ空気感をもっと感じてみたいと思った時、やはり潮の匂いや風、山の空気などブラウン管やスクリーンなどを通してでは感じる事の出来ない物足りなさを感じていたのである。そうした気持ちを少しでも満足させるには、やっぱり実際に行ってみるっきゃないだろうといった、あまりにもいい加減と言ってしまえばそれっきりの考えがあったうえで、折角の百周年記念の年に何かお祝い気分を盛り上げたいイベントしたいな…というお祭り気分からの個人的なイベントである。
 もちろん何十年も前に書かれた横溝作品の中で描かれているような風景がそのまま現在も残っていると思うほどは愚かではないつもりだし、実際に行ってみたのはいいのだが、行ってみたら「なんだこんなところか…」と失望してしまうような光景に出会ってしまうかもしれないという恐れもないわけでもなかったのだが、横溝正史最後の作品であり、やはり岡山県が舞台となっている「悪霊島」に登場する三津木五郎が着ていたクリーム色の半袖のスポーツ・シャツの胸元に書かれていた『 I WILL SEE EVERYTHING ONCE』という言葉が強い後押しとなったことは付記しておきたい。
 また、今年が横溝正史生誕百周年の年であることを最初に知ったのも、今回の旅行に際していくつかの目的地のポイント案内の参考とさせていただいたのも…否、それ以前に今回の旅行のキッカケと言っても過言でないのは、昨年来、ふとしたキッカケからネットで活動されている熱心な横溝正史あるいは金田一耕助ファンの方々のHPに出会い、深く感銘を受けたことが発端であり、これらのHP管理者の方々には言い尽くせない程の感謝を改めてここに書き添えておくことも忘れてはいけないところである。
 なお、この旅行の後、某横溝ファンサイトによる岡山でのオフ会があったり、横溝正史生誕百周年を記念して出版された「横溝正史に捧ぐ新世紀からの手紙」に掲載されている「金田一耕助を追いきれなかった岡山の旅(岩井志麻子)」といったもののことを知っていたならば、この旅行ももう少し違ったものになっていたかもしれず、たまたまそういったモノを知る以前の思い付きだけの個人的な旅行であることも一言言明しておきたい。
 元々が独り旅…それもキチンと計画しての旅行ではなく、ほとんど“放浪”といってもいいような行き当たりばったりの旅行が好きで、時折あちらこちらへと愛車で出掛けて行っては一泊、時には二泊と宿の予約も入れずに飛び込み素泊まりで宿泊先を確保して、観光旅行者向けというよりは地元の人が集まるような呑み屋や食堂で食事するといった楽しみ方ばかりをしてきたので、今回の旅行も大体のところは前出の横溝/金田一ファンの方々のHPなどで勉強させてもらってポイントを押さえておきながらも、実際の移動等に関しては出たトコ勝負みたいな感じで予定していたのだ。
 しかし、今回はひょんなことから大阪在住の友人との二人旅になり、いつものような無軌道な行動を謹まねばならなくなったことは岡山県にとっては幸いとなったと同時に、そう何日も岡山県内をウロウロしているわけにもいかなくなり、岡山で一泊してあとは廻れるだけ何カ所か廻ってみようか…というように方向性は絞られたのであった。


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