ヘンな部活

<後編>


 レンジは何故部活を辞めるのか。
 その問いに対する答えを求め、昼休みと放課後の張り込みを始めて3日目。
 この2日は放課後、運動神経の高い(それでいて超絶美少女の)私をもってしてもレンジの 俊足にはまかれてしまった。というのも私がレンジ尾行の行動を共にしている北瀬先輩が実 はそんなに足が速い訳ではない。別に北瀬先輩が足が速くなくたっていいのだ。足が速いレ ンジと足の速くない北瀬先輩どちらを取るかと言われればやはり迷うことなく北瀬先輩なん だし。デートする時にかけっこする訳でもないんだし。私はそうやって自分を納得させてき た。はぁ・・・。
 しかし、3日目はうまくレンジの行方を追い続けることが出来た。北瀬先輩の発案で私と携 帯電話で連絡を取りながら別行動でレンジを尾行するという作戦を取ることにしたのである。 北瀬先輩ってあったまいい!一緒の行動じゃないのがちょっと残念だけど憧れの人との電話 連絡というのもまた恋心をくすぐられる。
 下り電車に乗って4駅。レンジが建物の中に入っていくのを見届けた。すぐさま北瀬先輩 に電話をし、看板を読み上げる。
「箕島病院・・・?え?」
 読み上げててつい疑問の声をあげてしまった。
 内科、産婦人科、一般整形外科、スポーツ外科を行っている病院だ。・・・スポーツ外科?
 まさか。
 だが、考えられる答えは1つしかないような気がする・・・。
 レンジは野球がを断念せざるを得ないほどの怪我をしていたのか。
 ともあれ、病院の待合室で北瀬先輩を待つことにした。
 しかし、そこでレンジに出くわしてしまった。レンジは目を丸くして、
「あっ、サクラコじゃねーか!」
「レンジ!」
「どうしてここに?」
「へっ」
 素っ頓狂な声をつい出してしまった。慌てて誤魔化す。
「あ、あのちょっと生理痛で」
 最悪だ。何でこんなことを言ってしまったのだろう。生理は2週間前に終わっているから 嘘とは言え、恋愛対象外の、好色レンジにそんなことを言った自分を呪いたくなった。
 レンジの目に哀れみの色が浮かんだ。
「そっか。女も色々大変だな」
「うるさい!」
 本来の目的を誤魔化したという意味では成功なのだが、ついカッとなってしまう。
「レンジこそ、ここへ何しに?」
 カッとなってたせいもあってついズバリな質問をしてしまう私だった。
「あ、ああ、実はこの前の練習で捻挫してな・・・」
 レンジは左腕の長袖をめくった。包帯が見える。
 捻挫だったの?確かに捻挫のようだが、自宅から電車要らずで学校に行けるレンジがこん な遠くの病院までよく来る気になるものだ・・・、とその横を綺麗なナースのお姉さんが通り 過ぎて行った。
 レンジの鼻の下が伸びているのが明らかだった。
「なるほど。レンジはあの人を見にここへ来た訳ね・・・」
 そんな私にレンジの返した言葉はこれまた最悪だった。
「デヘヘ」
 私は呆れた。そんな理由で野球部を辞めるとは全国の球児達(発覚の有無問わず不祥事を 起こしてない善良な球児限定)に土下座して謝れっ。
 何でレンジというのはこうもインテリジェンスのかけらもないのだろう。

 その後、レンジが診察を受けている間、北瀬先輩が病院の方来てレンジにバレないよう合 流し、更に翌日そのナースに事情を説明して
「甲子園球児って私が女子高時代から憧れてたのよねえ」
とレンジに言ってもらうことに成功した。
 お陰でレンジは野球部に復帰。
 北瀬先輩は今回の経緯を包み隠さず部長および主将に話した。真相を聞いた時にはさすが に部長も主将も口をあんぐり開けて絶句していたがレンジの女好きは今に始まったことでは ない、ということでお咎めナシとのことだった。

 そして今日もグラウンドでは野球部の練習が元気いっぱい行われている。その練習を横目 に自転車を押す北瀬先輩の斜め後ろを私は歩いた。
「それにしても──」
「ん?」
「レンジは野球部辞めたままで捻挫が治って・・・それからどうするつもりだったんでしょうね」
「はは、そうだな。怪我でも病気でもないのに病院に行ったって仕事が忙しいだろうナース が相手するとは考えにくい。さほど後先考えずに行動したんだろうな。ただ──」
 そこで北瀬先輩は自転車を止めた。
「ただ、中学時代サッカーで結果を出してたのに高校でどんな理由であれ野球を始めてこっ ちでも頭角を現す辺り、レンジはきっと見えない所でも凄い努力をしているんだと思うよ」
「そうですかねぇ」
「そうさ。やるからにはひたむきに頑張るところは見習いたいもんだ」
「北瀬先輩がレンジを見習うだなんて・・・」
耳を疑った。必要以上に私はうろたえてしまったが、北瀬先輩は軽くウインクをして、
「なんてな。オレはオレらしくいくよ」
「はい!」
「さて。そろそろ暗くなってきたな。自転車乗ってく?家まで送るよ」
「はい!」
 私は後ろに乗ると北瀬先輩を掴んだ。
 そう、自転車なら足の速さなんて気にすることはない。北瀬先輩の背中にもたれながら私は 目を閉じて幸せを堪能した。

 (おわり)

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