TE−RA2
〜寺とYシャツとマハラジャ・・・?〜




 随分と暖かくなってきた。
 ギラギラと照りつける太陽が眩しい。だが、まだ8月の猛暑からすればまだまだだ。
 私、真原瑠宇音[まはら るうね]は小学生の頃は夏休みにはお寺の境内や神社の社の奥
にある林などで男の子にまじって鬼ゴッコやかくれんぼや高鬼や色鬼や警ドロなどをこな
したものだ。
 あの頃は髪が短かったし、ヤンチャだったから男の子(もちろん美少年)と間違われる
こともあった。結構足が速かったし、遊び仲間の間で並み居る男の子を差し置いて一番元
気だったぐらいだ。
 そして、今私はその思い出の場所の1つであるとあるお寺に来ている。
 お寺までの道は木々が空を多少なりとも塞ぐ為、街中よりは涼しい。
 それより何よりとても懐かしい。
 就職活動の終わった私は彼氏である三坂洸[みさか みつる]と共にここへ戻ってきたのだ。
 就職という人生の大イベント。それで内定という結果を出した自分をもう一度見つめ直
したくなったのかもしれない。
 ここへ来た他の理由として純粋に私がお寺が好きなのもある。
「なあ」
 先ほどまで黙っていた洸が口を開いた。私は洸の方(右側)を向く。
 これまで付き合って2年と9ヶ月と28日と23時間になるが洸はお寺の良さをどうも
イマイチわかってない。
 残念だが、私好みの素敵な男に育成してやる、などと常々思っている。
 そんなことを思っていると早速洸が
「もう飽きた」
 これだ。お寺の良さへの理解不足。洸には本当に困ったものだ。
 私の彼氏で居ながら寺院に限らず日本の文化というものへの関心が薄い。
 やれサッカーだの、やれ車だの、やれネットワークゲームだの、やれ瑠宇音が欲しいだ
の。(最後のはちょっと私ののろけが入ったかもしれない)
 しかし、無理にわかれと言っても洸には馬の耳の念仏に違いない。わかれようと言えば
うろたえるに違いないが。
 だが、私は最近考えている。
 洸は洸らしく居ればいいんじゃないかと。逆に日本古来の文化や私の小学生時代のこと
にあまり関心を持つ姿も似合わない、と思うようになった。
「洸、鬼ごっこしようよ」
「鬼ごっこ?お前一体いくつだよ!」
「失礼ね!レディーに年齢[とし]を聞くもんじゃないわ」
 私は憤慨した。
「ごめん。・・・ってそう言う意味じゃなくてさあ・・・」
「ほらほら。じゃんけん」
「・・・ぐー」
「ぱー」
「う、負けた・・・」
 やる気なさそうにしぶしぶじゃんけんでグーを出した洸だが負けたとわかった瞬間の落
胆の表情を私は見逃さなかった。
 こんな洸が私は好きなのだ。
「はい、洸が鬼ね」
「やる気しねー」
「いつも部屋で二人きりの時に抱きつこうとするようにやればいいのよ」
「人聞きの悪いこと言うなっ!」
 私の魅力に溺れて抱きつこうとするくせに顔を真っ赤にして反論する洸だった。
 私は5mほど駆け去り、
「ほらほら、おいで」
と洸にあかんべーをして挑発した。
「よしっ。絶対捕まえてやる!」
 洸が追い駆けてきた。
 ・・・意外と足が速い!
 かけっこには今でも自信のある私なのだが・・・。
 捕まったら大変だ。私の操が・・・就職が・・・命が・・・。
 私の心臓は早鐘のように高鳴った。
「キャーッ!痴漢〜!変態〜〜!!」
 悲鳴をあげながら逃げる私。
「ちょっと待てよー!なんでそんなこと言うんだ!」
「警察呼ぶっ!」
「呼ぶなよ!ただの鬼ごっこだろ!」
 必死に逃げる私だったが足元に何か蔓のようなものがひっかかって転んでしまった。
「いたぁ〜い!」
「大丈夫か?」
 心配そうな表情で私に駆け寄る洸。さすが私の彼氏だけあって、優しい。
「どれどれ。膝を擦りむいたみたいだな」
 私の生足を見て言った。後で思えばよくヨダレを垂らさなかったものだ。
 それにしても就職活動も順調だった私が転んで怪我するなんて。
「こんなのも小学生以来かも・・・」
 私はぽつりとひとりごちた。
「歩けるか?」
「うん、歩ける」
「さ、起きて」
 洸が手を差し出す。しかし私はその手を掴まない。
「どうした?」
「ここでタッチしたら私が鬼になっちゃうでしょ」
「おい〜。そんなこと気にしてる場合かよー」
「気にするよ。私はいつでも鬼ごっこは命懸け。捕まりそうになれば鬼の男の子への心理
攻撃も辞さなかったし。例えば金田君が1年の時に捕まえたらおもらししたことをバラす
よって叫んだり」
「さっきもつくづく思ったが、怖いな・・・お前との鬼ごっこは・・・」
「とにかく鬼になるのは嫌なの」
「わかったよ。じゃあおしまい。俺の負け」
 お手上げのポーズをしてみせてくれた。
 やった!私の勝ちだ。そう、いつだって正義は必ず勝つのだ。
「よかった」
 私は微笑むと手を差し出し、洸はその腕をしっかりと掴んでくれた。
「さて、じゃ行こうか」
「え〜、おぶってくれないの?」
「さっき歩けるって」
「彼女が歩けると言っても心配しておぶってあげるのが彼氏ってもんでしょ。そして、私
は少し顔を紅潮させて『洸の背中って広くてあったかいね』なんて言う訳でしょ?」
「何なんだ、その予定調和は・・・」
「とにかく、おぶって」
 私だって就職活動が終わったばかり。彼氏に甘えたい盛りなのだ。
 実際のところはいつもはこうではない。普段は冷静沈着なのだから。
 それでも洸の笑顔には弱いけど。
「わかったよ。・・・お姫様抱っこの方がいいとか言う?」
「それは今度。楽しみにしてるね」
「あ、ああ」
 洸の顔が少し引きつったように見えたがきっと気のせいだ。

「また来ようね」
「ああ」
 階段を降りながら洸は私をおぶったまま応える。
「また鬼ごっこしようね」
「・・・ああ」
 洸にやや間があった。躊躇っていたのだろうか。いや、それは多分気のせいだ。
「今度は洸が転んでね」
「ええっ?」
「私が愛情込めて手当てしてあげるからね」
「そりゃあ、どうも王女様」
「冗談に決まってるでしょ。洸に怪我なんかさせたくない」
 そして一呼吸置いてから
「洸、愛しているよ」
と言った。
 付き合って随分経つというのに洸の耳が真っ赤になっていくのがとても可愛かっ
た。

       (完)

制作年月日:2002/06/03
UPLOAD:2002/07/01
制作者:テール
コメント:次回作は書く書かないを含めて未定です

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