警部物語


「事件は迷宮入りでしょうか。警部」
 舟木が心配そうに話し掛ける。
 くだらない質問だ。私の答えはいつも決まっている。
「私はどんな時でも全力を尽くして真実を追究する」
 舟木は私の威勢におされたようだが、すぐに表情が和らいだようだ。
 だが、確かにこの事件は謎が大き過ぎる。動機のありそうな人間は何人か挙がっている。 しかし、物証はおろか状況証拠も見当たらない。いずれの人間もアリバイが成立している からだ。
 こんな時は得てして「刑事の勘」というのが頼りになるものだ。
 私は顎に手を当てて少し考える。
 スナックのママ。彼女には昨日事件についていくつか訊ねたがあのやはり何か隠してい るように感じられた。ママが犯人とは思えないが事件の進展の大きな鍵になりそうな気が する。
 待てよ?ひょっとするとコロシの現場は3丁目だったのではあるまいか。車で移動をし て殺人現場を錯覚させている。
 ママはきっと何かを知っている。私の思い付きは次第に確信へと変わっていく。
「舟木。3丁目のスナックのママ。もう一度洗ってみてくれ」
「はい、わかりました!」
 舟木は手を額にあてる例の警察のポーズを取って答えると走って捜査本部を出て行った。
 はっはっは、全く威勢の良いやつだ。
 ――あれで、もう少し冷静ならいいのだが。

「警部!洗ってきました!」
「それでどうだった?」
「おちました」
「そうか!」
 やはり刑事は経験がものを言うのだと確信した。
「縮んだものもありました!」
「は?何を言ってる?」
「あんまり慣れてなかったんですよ。いやあ、洗濯って難しいですねえ」
「・・・」

 事件は見事に迷宮入りした。


   END

制作年月日:2003/01/02
制作者:テール
注意:フィクション

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