〜鬼哭街〜


あらすじ

 近未来の上海。テクノロジーの進化により人間に近いサイバノイドが町に溢れ、更にはその技術で驚異的な人体改造を繰り返し、超人となった者たちも多かった。そんな彼らに支配される、欲望と狂気の町に、一人の復讐鬼が帰ってきた。男は上海マフィアの殺し屋であったが、一年前その組織に裏切られ、からくも命を取り留めたのであった。
 しかし、戻ってきた上海で驚くべき事実を知る。それはたった一人の肉親である妹が、既に同じく組織により殺されたことである。しかも幹部たち全員に凄惨な陵辱を受けた挙句、生きたまま脳の情報をすべて吸い取られるという、地獄の苦痛の中で殺されたという。
 男はそれを知った瞬間、復讐の鬼と化すことを決意した。一振りの刀を手に戦いを挑む、組織への復讐劇が今幕を開ける。それは毒雨降る上海を、血と叫びに染める物語の始まりだった。
「恩義も知らぬ、名も知らぬ! 我は修羅! ただ一刀の修羅よォ!」


 シナリオは分岐等がない一本道なので、正確に言うとゲームではなくビジュアルノベルです。ニトロプラスのシナリオと言えば、ハードで無骨でスピーディ。そのシナリオを担当してきた虚淵さんの、骨太のストーリーを派生等一切無く、一気に展開させたいというかねてよりの希望だったのでしょう。そしてそれは、見事に読者を最後まで引っ張り込み、息つく間もなくラストへと連れて行かれます。
 シナリオの軸となる主人公の目的は、上記のとおり妹の為の復讐でもあるのですが、もうひとつ「妹の復活」も果たそうと、途中から願い始めます。それというのも100%吸い出された「妹の脳内ソース(情報)」は5つに分割され、幹部たち所有の愛玩人形のメモリに使われていたのですが、それを集めてひとつに戻すと、元通り妹の脳を蘇えらせられる…と聞いたからです。最初はその話に半信半疑だった主人公も、少しずつ奪われたメモリを代用人形の脳内に増やしていく度に、懐かしい仕草や思い出を語り始めていくことに歓喜を覚え、自分の命が尽きようとも妹を復活させることに妄執を見せ始めていくのでした。
 それに並行して繰り広げられる凄惨な復讐に絡み合い、上海マフィアの跡目争い、それに基く幹部間の抗争、更にうまみを狙うロシアンマフィアまで登場し、魔都の闇が一層深く語られます。
 更に秀逸なもうひとつのテーマが『中国拳法』でして、肉体改造により未曾有の能力を得た拳法家たちとの、常軌を逸する戦闘はまさに壮絶の一言。そんな怪物たちに、生身と剣一刀で立ち向かう主人公の鮮烈な戦い方は、ますます悲哀を深くさせていると思います。
 最終決戦は、自分の兄弟子であり、妹の婚約者であり、主人公を裏切った首謀者、劉(リュウ)。フィナーレを飾るに相応しく、持ちうる技の全てをぶつけ合う凄惨な戦闘の果てに、主人公が得たものとは? そしてすべてを取り戻し、蘇ったはずの妹は、果たして本当に、あの妹だったのでしょうか……?
「俺が……何も知らなかっただけなのか……」
 妹と過ごした日々を思い返し、死の淵で目を閉じていく主人公。そんな彼を待ち受けていたのは、余りに美しく、そして悲しい最後だったのでした。
「だいすき、あにさま」
 妹の微笑みが、主人公にとって救いだったかどうかは分かりません。それは、どうぞプレイされた上で、ご確認ください。