story 17

He is my hero! part2

いつもの居酒屋大海原。
話題は“与作”の真実からいつしかイズミダ君と彼女のなれそめへ。

 

サユ「それって、わたし、なんだかイズミダくんが可哀想なような気がしちゃって、それで彼が、あ、彼女の付き合ってた彼がね、お店に飲みに来たとき、わたしそのこと彼に言っちゃったの。ちょうどその時、彼女お店休んでて、彼はそのこと知らずに来たみたいなの。『なんでいないの?』って聞かれちゃったから、ついっていうか、とにかく言っちゃったのよ。他の誰かと付き合ってるみたいよ、て。そしたら彼、ものすごい顔で怒り出しちゃって。わたし、シマッタア〜って思ったけど、もう遅かったわ」

ツッ「その彼が実はヤー公だったんだよね」

ぼく「ゲッ!」

サユ「わたし、人のあんな怖い顔はじめて見た。それはどこの何奴だ?なんて、もう、言葉使いからガラリと変わっちゃって、とにかく凄い声だった。怖かったんだけど、イズミダくんの名前だけは、わたし言わなかった。誰だか知らないって、何とかその場はそれで押し通したわ」

エミ「頑張ったわよね」

サユ「ううん。でも翌日から彼女はいなくなった。お店にも出てこないし、彼女の家に電話しても誰も出ない。すぐにイズミダくんも心配してやって来た。それでわたし、そのことを正直に言った。実は彼女には彼がいて、イズミダくんとのことをその彼に言っちゃったって。イズミダくん、何も言わずに聞いてた。それからイズミダくんが言うには、彼女に彼がいることは知ってたって。ちゃんと彼女から聞いてたのね。その彼がどうも危ない人間じゃないかって、彼女から相談もされてたんだって。たぶん、××組の奴だろうって、イズミダくん言ってた。もう、わたしなんかより詳しく知ってたの。で、わたしに、心配するなって言ってくれた。僕が何とかするからって」

タカ「カッコイイですよね」

オオ「ホント、まんま映画の筋書きだよね」

エミ「オオミネくん、黙って!」

サユ「わたしそう言われて、もう、なんだかホッとして、イズミダくんの胸で泣いたわよ。ママもイズミダくんに、警察に行った方がいいっていってた。でもイズミダくんは、それぐらいじゃ警察は動かないって」

ジャ「民事不介入ってやつ?」

タカ「誘拐は民事じゃないでしょ。ただまだ事件になってないから」

サユ「でも事務所の場所ぐらい聞けるだろうからって、イズミダくんその足であそこの交番に行ったみたい。でもそれからイズミダくんまでいなくなったの」

ツッ「それから三日してもイズミダくんも彼女も行方知らずでさ、事務所に監禁されてんじゃないかって、みんなで話してたんだよ。でも、情けない話、俺は別に何もしなかった。意気地がないよ。逆に面白がってたりしてさ。でもまあ、結局一週間ほどしてイズミダくんは現れた。朝一スールにやって来たんだ。まるでいつものようにね」

ジャ「ただし身体中包帯だらけだったよな」

オオ「松葉杖ついて、あれは見物だったよね」

ツッ「イズミダくん、俺たちを見つけると、ちょっと笑ってさ、『いい台ある?』って言ったよな。それ聞いて、ホント俺も泣けたよ。ある、あるって言ってさ、スールで一番回る台を打たしてやるよ、って言うと、『いや、2番目でいい。あまり回ると身体に障る』なんてさ」

サユ「わたし、イズミダくんも彼女もホントに無事で良かった。ううん、イズミダくんは大ケガしてたけど、今では何ともないみたいだし。ほんと、二人に何かあったら、それってわたしのせいじゃない?それが何とか二人とも無事だったから、ほんとに良かった。彼女はほんとにオオミネくんの言う“与作”にされるところだったのよ」

エミ「オオミネくん!」

タカ「サユリちゃんのせいじゃないですよ。遅かれ早かれそうなってたはずです。相手が相手だしね」

ジャ「だよな」

サユ「ありがと。で、それをイズミダくんが行って、頼み込んで連れてかえってきたの。イズミダくんはボコボコにされたけど、それでも頼んだんだって。何か取引みたいなこともあったかもしれないけど、イズミダくんは、そんなものないって。彼女も何も言わないし。ともかくそれ以来イズミダくんはわたしの中では英雄なの。わたし、たぶんイズミダくん以外の男の人を好きにはなれないと思う。それぐらい大好き」

ぼく「へえ〜、知らなかったなあ。イズミダくん、すごいなあ」

タカ「そろそろ余所へ行きますか」

ジャ「“Spring Field Forever”って曲あったなあ」

タカ「ビートルズの曲なら“Strawberry Fields Forever”ですよ」

ツッ「勘定、勘定。エミイとサユリちゃんはいいよ」

オオ「“イズミダくんよ永遠に”ってこと?ジャンボにしちゃシャレてるね」

エミ「あら、払うわよ」

サユ「わたしも」

ジャ「いいって!」

オオ「エミイの分は僕が払います」

ぼく「じゃあサユリちゃんの分は僕が。イズミダくんの話、とっても良かったし」

サユ「ありがと」

ツッ「じゃ行こうよ。歌でも歌う?」

ジャ「オオミネくんに“与作”歌ってもらおうぜ」

オオミネくんを除く一同「いいね、いいね」


居酒屋大海原から全員退場。
舞台は近くのカラオケボックスへ。

かくしてアケドの夜は更けてゆく。

2003.11.30

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