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青年よ、靴は履いとけ

先日僕の隣に、ある青年が座った時に次のこと、感じました。
世界は豊かだなあ、ってね。

その青年は、ほぼ毎日この店に来ているようでした。でもこれまで、言葉を交わしたことはなく、見かけるにしても、遠くからでしかなかったので、彼がどんな人間なのか、うかがう機会はありませんでした。
だからこの時初めて知りました。 実は彼はとんでもない男だったのです。

何がかっていうと、その青年、信じられないほど不潔だったのです!
何か召し上がってるんだったらごめんなさい。今から彼の不潔ぶり、細か〜く説明していきます。

まずはジャンパーのことからいきます。
この男、分厚いジャンパーを着ていたんだけど、店内は暖かいから、ジャンパーを椅子の背に着せかけて座ってました。するとそのジャンパーの腕が、下に山積みしてある僕の玉箱の上に乗っかってるんです。だもんだから玉の上げ下げをするたびに僕は自らそのジャンパーの腕に自分の鼻先を近づけるわけで、これがたまらんのです。袖の部分は変色してるし、なんだかとっても汚いし、その間、呼吸は止めてなきゃいけませんし。

次に気になったのが、プレイ中ずっと彼が指で自分の顔の辺りをしきりにいじっていることです。
気にかかるんですが、僕はこんな時に顔を向けてまで見つめるような、そんな失礼なことは出来ないので、何をしてるのか判断が付かないんです。
それでも横目で必死に見た結果、どうやらニギビだかなんだかを潰してるんだとわかりました。その時点でゾ〜ッと寒気が走りました。
一連の行為を終えると、その指先を自分の衣服になすりつけたりするんです。何かが指に付着したんでしょうね。ウワ〜ッ。その手でハンドルを、あっ、持った。もう二度とその台は打てなくなりました。

それからふと床に目をやると、彼は両足をスニーカーから出してくつろいだりしちゃってるのがわかります。
右足は組んで、左膝の上にもってってます。そしてその右足は靴下も脱いでます。
その時僕は彼の右隣だったので、僕の側には足先ではなく、膝が来ているんです。
そして今初めて気がつきましたが、いつのまにか彼の左にはちゃんと他のお客さんが座ってるじゃないですか。彼に同情しました。そして自分を祝福しました。あっちじゃなくてよかった〜。
だって、彼は顔をいじくるのに飽きると、左手を右足に伸ばし、その指の間をまさぐっている模様なんですから。あちゃ〜、水虫かよ。こりゃひどい。彼の左隣のお客さんが可哀想すぎるぞ。
わ〜っ、その左手でそのまま玉をつかむんじゃない、つかむな〜、つかんじまった。あの玉はどこへ行くんだ。

ふ〜。こんな風なんで、僕はなんだか少しずつ落ち込んでいきました。
掻きすぎたのか、いつの間にか彼の右足指の股にはティッシュが挟んであります。
どうやら水虫の進行は右足で止まっている様子。左足で同じことをされなかったのはこの日唯一の幸いでした。

ホント、想像を絶する人っているもんですね。
僕には人前でああいうことは絶対出来ません。

でもその後、お互いに大ハマリを克服したあたりから、話をするようになり、話してみると、彼はパチンコに関して確かな知識を持っていて、その点、敬意を持って接するべき男だということがわかりました。
そうなるとその後は彼のことを不潔だとは感じなくなったのです。これも不思議ですね。

でも青年よ、靴だけは脱がないで履いておいて欲しいぞ。

2003.6.2

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