scribbles 6

共有共有と歌うように口を尖らせその都度涎をペッペッと飛び散らせヒラリヒラリと机の間を泳ぐように歩いて近づいて来るとヘナヘナなネクタイをフニャリと肩越しに背中側へ振り垂らし両手でズボンのベルトを掴んで腰の周りにグルグル回しに回し始めたその男はその仕草のまま「どよ、昼飯?」と半分は天井を見つめながら声を裏に翻して言う。
ドヨ、ヒルメシ?

「現代スカ」問題について述べている文章 を読んでいた私は画面右上で時を刻んでいる数字をチラと見ると浅く溜め息をついて黙って立ち上がり画面からログアウトした。

目の前の男は私の後方に視線をくれてせわしなく眼球を動かしそれでいて溢れんばかりの涎でベチャベチャな口内をしきりに私にあるいは私の後方にいる何かに見せつけるようにしながらその中に次々と飯粒を放り込みグンチャグンチャと咀嚼を繰り返しその合間を縫って「どなのよ、××ちゃん」などと私の名を粘ついた声で口にする。
ドナノヨ。

時間に背中があるのなら思い切り押してやりたい気持ちを塩と油で汚れた喉の奥深くに白い紙コップの中の水っぽい水を流し込んでなんとか飲み下そうとするが嘔吐なのか嗚咽なのか汚物なのか私の胸部の反応は繊細に心理的なものでちょっとと断ってトイレットに立ったのだが生憎店内にはトイレットは一つしかなくその一つしかないトイレットのドアのノブは先客が中から鍵を掛けているのだろうかビクともせず仕方なくドアの前で佇んでいたがいつまでたってもそのまま何の気配もない。

その姿勢でなにがドナノヨだ!と嘔吐だか嗚咽だか汚物だかの反射に耐えつつ毒づいているといつの間に近づいてきたのかそのドナノヨが私の肩に両腕をまわし私を抱くようにして私の右の耳を舐めまわしながら再び「どなのよう」とクチャルクチャル音を立てながら甘えるように囁くではないか。途端に私は締まりもなく出すものを出してしまい下半身を暖かく濡らしてしまうとその時の怖気るような快感と不快に驚いたのか発作的に男を突き飛ばしてしまった。

突き飛ばされて男は踏ん張りもなくやけに派手な音をたてて床の上に仰向けの格好で倒れ込んでいったがその際の飛跡なのだろう男の涎でもって空中に半弧が描かれそれは粘膜状に広がりを見せ米粒が所々で島になっているその涎の粘膜を通して向こうを透いて見れば可愛いので密かに好意を抱いていたショートカットの女の店員が両の手のひらを頬に平行に広げけたたましい悲鳴を上げるその最初の一音がまるでサイレンのようにそう広くもないこの豚丼屋いっぱいに広がろうとしてるのだ。

にもかかわらずその時何も知らぬげに柔らかげにどこかのどかな風情でトイレットのドアが静かに開くと中から見たこともないほど巨大な男が腰を屈めるようにしてゆっくり出てくるや胸といい尻といい爛れんばかりに赤く唸っている肉をプルプルとひと震いさせ信じられないほどの敏捷さで可愛い女店員に走り寄りその口をぶ厚い掌で塞ぎそのまま彼女を抱きかかえるようにして店外に出て行きちょうど青だった店の前の横断歩道を脱兎のごとく走り渡り向かいの路地奥にプッツリと姿を消してしまう。

その時やっと半弧を描き終わった仰向け男の涎は各点で凝集するや玉となって五月雨のようにサメザメと男の全身に降り注ぎいい値段がしたに違いないテラ色のスーツや薄紫色の地に黒い水玉模様の散ったシャツや方っぽはどこかに飛んで行ってしまった鈍色の蛇革靴などをグジュ濡れにすると後には小さな虹が架かっている。

私は今胃の中に入れたばかりでまだ未消化の豚肉と米粒と玉葱とまだ水っぽい水を倒れている男の腹の上に心ゆくまで嘔吐し次いでむせびに変わり始めた嗚咽で喉を鳴らしながらゆっくりとトイレットに入ると下の汚物を処理するために中からしっかりとドアに鍵を掛けた。

2004.8.11

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