scribbles 3

こりゃ何やあ、汚ないのう〜、あちこち黒ずんどるがな。掃除もせんのかのう、なんか変なニオイもするのう。ここにゃ何もないし、壁でも見とるしかないんじゃろうが。

しかしこうしてじっとしとると、嫌あな事ばっかし思い浮かんでくるのう。つい先達てのことじゃが、サマシトワの奴、ワシが寝とったらワシの顔をまたぎながら屁ぇこきやがったのう。人が知らん思うとるんじゃろうが、知っとるんよのう。ありゃあ臭かったわ。ワシぁ、涙が出たで。なんであげなことされにゃあいけんのかい。馬鹿にしやがって、ガキが。三年殺しの技ぁかけてやりゃあよかったのう。

腹減ってきたわ。もう何時頃かのう。誰も来んのう。誰かおらんのかのう。
また嫌なこと思い出したのう。ありゃあ、5年も前のことか、ソルモンカが退役した時じゃったと思うが、久しぶりにアガルハゲと会うたらドデカネスへ遊びに行かんかゆうて誘われたんじゃが、ワシぁ一考もせんと断ってしもうて、そしたらクダルカワにひどう非難されたのう。せっかくアガルハゲが誘うてくれたのに、人の気持ちが分からんのかゆうてのう。ありゃしもうたわ。

考えてみりゃあ、ワシぁ人のこたぁほとんどおもんぱかったことがなかったのう。なんでかのう。人付き合いは面白いけえのぅ、嫌いじゃないんじゃが、人と会うた後はひどう自己嫌悪するけんのう、それがわずらわしいんかのう。とにかく人間ちゅうもんはくだらんくせに微妙に複雑じゃけえ面倒なわ。人の道を説いて糊口をしのいどるワシがこの有様じゃけえのう、ほんま情けが辛いわ。

や、誰か来たんかの?

 

「おお、ステラクソよ。ご無事で何よりです」

「誰かと思えばインドクレか。よう来てくれたの。で、どうなっとるんや?」

「ステラクソよ、大丈夫です。看守長には金子を握らせました。さ、わたしと一緒にここを出ましょう」

「待て待て、インドクレよ。なんでわしがここを出るんや。そがいなことしたら意味ないがな」

「ステラクソよ、教えてください。意味とは何なのです?」

「ええか、国はワシを捕まえた。国家権力ゆうやつを発動しやがったんよ。構造の力はこうして行使され、また逆に力を行使することで構造が培われてゆく。それが大事なことじゃとワシは思うとる。国という構造はワシも認めとるし、じゃから国がワシを科人として裁くゆうんならそれに従うのがワシの生きる意味じゃろうが」

「しかしステラクソよ、あなたは決して罪人ではない。今回の事件は誰かの陰謀によるでっちあげなのです。何もかもが茶番に過ぎないのです」

「ええかインドクレよ。曲がりなりにも一応は裁判にかけられ結審してしもうた今、なんで捕まったんかゆう理由はもうどうでもいいんよ。まあこの国の裁判のあり方にゃあ不備も文句もいろいろあるんじゃが、それをいちいちあげつらう時間ももうないよのう」

「そんな理屈はどうでもいいじゃあありませんか、ステラクソよ。そんなことよりわたしはあなたに生きていて欲しいのです。いつまでもわたしたちのそばにいて欲しいのです。」

「そりゃ違わあ、インドクレよ。落ち着きゃあ、おもえもわかるとは思うがの」
「ところでインドクレよ、なんか食べるもんないかのう?おお、それそれ。お、せんじがら挟みパンかあ!ワシの大好物じゃ。ふむふむ。ちゃんとフクシマチのじゃの。美味い!」
「よっしゃ、そんならインドクレよ、別れの時じゃ。もういんどくれ」

 

ニャハハ。言うたった。泣きながら帰りよったが、インドクレのやつよう来てくれたわ。むぐむぐ。看守にカネ渡した言うとったが、もったいないことさせたのう。そんな簡単に出れるんなら出りゃよかったかのぅ。ふう、切ないのう。それにしてもインドクレめ、ワシの名前の最後の2文字にアクセントつけるの止めえ言うたのにいっそ直っとらんのう。よいよのう。


せんじがら挟みパンかあ。これが最後の食事かの。ワシもとうとう死ぬんか。
・・・
む、ふぅぅ。

2004.8.1

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