scribbles 22

扉文~映画『ストーン』

館内に寝息の輪唱こだまして
あらがいがたし双瞼降下す

 

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タルコフスキー監督の『サクリファイス』(1986)は二度見に行って二度とも完睡してしまった作品として忘れがたいものがあるのだが、ひょっとするとそれは『ノスタルジア』(1983)だったかもしれず、しかも二度ではなく三度であった可能性すらあるのだが、今その真実は歴史の中に埋もれようとしているw

そのタルコフスキーに自身の劇映画第一作『孤独な声』(1978)を高く評価されたというソクーロフも、わたしを眠らせることにおいて先輩に負けてはいなかった。

『ストーン』(1992)は88分のそう長くはない作品なんだけど、これがすごい。のっけから睡魔という亡霊が画面狭しと静かに暴れまわっている。わたしは顔面筋をひきつるほどに張りつめるのだが、まぶたのやつがどうにも言うことを聞いてくれない。涙が出そうになって小さな声さえ出そうになって、気がついてみるとあたりからはすうすうと安らかな呼吸音が聞こえてきているではないか。

あちらからこちらから立ち上る寝息ののろしが天井に達しそこからゆっくりと降りてくる。それが満々として館内に行き渡り、ずぶずぶと座席に沈み込んだままのわたしにはもはや逃げ場を見いだす術がない。

zzz...

島状健忘症というか拾い見というか、パラパラと軽やかに本をめくっただけのような印象をもって劇場を出てみると、どんよりとした冬空がやけに眩しく高かった。

 

映画『ストーン』より

2006.12.6

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