scribbles 20

扉文~映画『日陽はしづかに発酵し... 』

黄色の腐土に展べられし世の終わり
春の樹遠く夏の黒陰

 

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この世界にこんな土地があるのか。
そんなことも知らぬ無知さ加減はほとんど罪だと見知らぬ人から後ろ指指されても返す口があまり開かぬ、
と一人で首肯する。

舞台となるその地はトルクメニスタンというらしい。
南はイラン、アフガニスタンに接し、西はカスピ海を臨む広大(ひろだいではありませんw)なところ。
イラン、アフガニスタンはアジアに属するとされているようだけど、北に隣するカザフスタン、ウズベキスタンなどと同じく、トルクメニスタンはNIS諸国(New Independent States)と呼ばれる旧ソ連からの独立国のひとつだ。

パンフレットによると、監督のアレクサンドル・ソクーロフは1951年のシベリア生まれだが、軍人であった父とともにトルクメニスタンに住んでいたこともあったという。そしてその地をこうして映像化してみせたわけだが、これから推測するにこの地での少年時代にはあまりいい思い出はなかったのかもしれない。

 

主人公の青年は、この地特有のなにかの病気を論文にしようと単身この地に住まっている医師で、どうやらその病気の原因としてやはりこの地特有のある宗教様式を関連づけようとしているようだ。

でもこの青年、見かけはまず医師には見えない。髪が長くて肩まであるし、なにより地元の人々を小馬鹿にしているんじゃなかろうかと思えるぐらい、ひとりでいい身体をしている。お腹はポコッと音がしそうなぐらい割れていて、脚も長いし、何といっても彼のお尻がすごい。汗で濡れたパンツの割れ目を挟み込んでる双尻の盛り上がりなんか見てるとその気はなくてもその気を催しそうだ。劇中、姉からと不思議な子どもからと都合二回もその健康美貌を讃えられている。

その上運動能力も超人までいかないにしろかなりのもので、その身軽さは随所に描かれている。暑苦しい夜に窓際にひょいとジャンプしてうずくまっているから、もしや?と思って見ていると、そこからホントにバク転して床に敷いた蒲団に着地しちゃった。

 

冒頭から終わりまでこんな映画は他では見たことないし、見ながら感じることができる感じも、こんな感じは他の映画から得たことがない。

でもこの感じはなにかを思い出させるな、と思っていると、それは映画ではなくて小説だった。村上春樹氏の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』(1985)がそれだ。

わたしがそうであるように、氏のファンの方ならこの映画もきっと気に入るんじゃないかと思う。

 

映画『日陽はしづかに発酵し... 』より

2006.12.3

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