scribbles 14

扉文~世界が閉じるとき

午前0時が過ぎた

最終日を迎えていた野球狂リーグはその瞬間、Not Foundの文字と共にかつては野球狂リーグのものであったURLを表示するだけの白い空虚なスクリーンとなり、かつてその場所で繰り広げられたであろう多くの名勝負の記録も、惜敗続きの不運なチームの今夜こそはと願う熱き予感も、それら幾多の名勝負を指揮してきたあの名監督たちが放たないではいなかった音なき闘いの熱気も、どうしたことだろう、昨日まであれほど確かなものであった「試合開始」のクリックボタンも、どこにもないではないか。

そうか
こうして世界は閉じるのだ

夢でもない。幻でもなかったはずだ。毎日毎夜、幾度も幾度もそこを訪れては、ハンドルネームだけの友人たちとハンドルネームだけのわたしは挨拶し、時にはおずおずと文などしたため合い、あのボタンやこのボタンをクリックしテーブルを選択し数値を消し数値を入れ再びボタンをクリックしいつまでも繰り返し、蚕が小さな繭を編むようにそうしてわたしは彼らはネット上に小さな世界を描いてきたはずだ。ゆっくりと。静かに。

だが
こうして世界は閉じるのだ

閉じることは世界のありようとして不思議なことではない。むしろあらゆる世界は必ずいつかは閉じるに違いない。もちろんそんなことは知っている。いや、わかっていると思っていた。しかしそれは間違っていた。わたしは何も知らなかった。なにもわかっていなかった。こんなに小さな世界さえ、閉じるということがどういうことなのかを!

世界が閉じた先、その一瞬に垣間見えたのは、恐ろしいほどに寂寞とした無為の山々と、耐えられないほどに白々とした無策の曠野ではなかったか?そしてそのなかで消えゆかんばかりにゆらりとして影のように仄めいていたのはこのわたしの何かではなかったか?

こうして
世界がひとつ閉じた

2005.6.1

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