おいらもつらいよ ~クマジロウ劇ぱわ流浪~ 0

おいら、こうして旅立つのだ ~旅立ち篇~

麦酒を一杯、めし一杯。夕飯終えて楊枝をくわえ、縁側でのそりと横になり、大きくなりやがったお腹をさすって、西の空、まっ赤に夕焼けてゆくお月さんを愛でながらちょいと乙な気分に浸っていると、ちょうどそこにやってきたカニがのんきそうな声で言うんだな。

「おい、クマさんよ。そんなに閑なら劇ぱわでもやらねえかい」
「お生憎だがな、おいらおまえと違って見た目ほど閑じゃないんだよ」
「なに言ってやんで。クマさんほど閑そうな人間、自慢じゃねえが、おいら他に知らねえぜ」
「なに言ってやんでたあなに言ってやんで。こう見えてもなあ、おいらのおつむは絶えずぐるぐるぐるぐる回ってるんだ」
「どこをだい。屁でもねえ。どうせ同じところを回ってるんだろう」
「屁たあなんだ、屁たあ。恥ずかしながらと尻の穴からひり出てくるあの屁にされたんじゃ、おいらのおつむも黙っちゃあいねえぜ」

こうなると月見もなにもありゃしない。乙な気分なんざとうからどこかに消え去って、膨れたばかりの腹さえがなんだかぐうと音を立てる。

「まあいい。おまえと争っても埒もない。おまえのその愚かさに免じて今日のところは勘弁しよう」
「そうかい。クマさんがそう出るならおいらも引っ込むがね」
「で、なんだい」
「へへへ。劇ぱわだよ、クマさん。劇ぱわ。やらねえかい」
「げきぱあたあなんだい。おまえのような激しいパアのことか」
「はは、これだよ、まったく。げきぱあじゃないよ、げ・き・ぱ・わ。ゲームだよ」
「ゲームってあれか、おまえがいつもピコピコやってる、あのピコピコのことか」
「ああそうだよ。ピコピコじゃないけどね。パソコンでやるネットゲームさ」
「ふん。知っての通り、おいらパソコンもネットもつきあいがねえんだ。悪いな。おととい来やがれ」
「だからさ、そこはおいらが一から十まで百までも、根掘り葉掘りクマさんに指導しようってんじゃねえか」
「おうおう。上等じゃねえか、この馬鹿が。おまえがおいらになんの指導をしようってんだ。イモの堀り方かあ。それともおめえのおカマの堀り方か」
「そうじゃねえって。けんか腰になっちゃいけねえよ、クマさん。騙されたと思ってまあやってみなよ。クマさん、ハマルと思うんだけどなあ」
「馬鹿野郎。誰がそんなもんにハマルかあ。しっ!しっ!とっととさっさとどこかへ失せやがれ」

月日が経つのを見た者は未だにいないなどと申しますが、てなことがありまして早いものであれからかれこれ2年の月日が過ぎようとしております。その間どういう風が吹いたものやら、今ではおいらも激しいパアならぬいっぱしの劇ぱわ人としてこの厳しい渡世を送る羽目に至っております。あのカニの奴も今では一国一城の主、自分の劇ぱわサイトを管理する身でして、そこではおいらも劇ぱわプレイヤーのひとりとして日夜あくせく奴の世話になっていたりするわけですな。胸くそ悪い。

そこで。そこでおいらも思い立ちまして。なにをと問われりゃお答えしますが、旅立ちですよ。ピンコと立つのはあそこばかりじゃないんです。しがないおいらが旅に立つ。とはいえいつもの、ほれ、アテとてないふらり旅とは今回ばかりは違うんですな。ツテはないけどアテはある、目指せおいらよ劇ぱわ仙人、というわけでして、ありがたい劇ぱわ経をなんとかこの手にしてカニの野郎を見返したいと思うのです。そうすりゃ胸もすうーとして気持ちいいでしょうからね。

さあさあ、お立ち会い。
カニはいがいが、にわとりゃ二十歳(はたち)、
いもむしゃ19で嫁に行く、ときた。
黒い黒いは何見てわかる、
色が黒くてもらい手なけりゃ、
山のカラスは後家ばかり、ね。
色が黒くて食いつきたいが、
わたしゃ入れ歯で歯が立たないよ、ときやがった。
どう!
ここから見えやしないけど、
あの山遙か、向こうの方に劇ぱわというcgiゲームがあるという。
どう!
そいつは重畳。
今日は天気もいいし、四角四面の鞄を提げてあすこへ旅立つものとしよ。
おっと、夜中にお腹を壊しちゃいかんから腹巻きだけは忘れるな。
それじゃみんな、達者でな。
おいら、ひとつ行ってくるよ!

2005.12.20

 

この文章の最終節、クマジロウによる旅立ちの啖呵はその前半で、映画 『男はつらいよ・純情篇』(1971) 内のものを一部改変したものが引用されています。
クマジロウが同映画シリーズの大ファンでして、それがためいつのまにか知らず寅さんの物言いや所作が身についてしまってるようです。
早急に改めるよう説得しますので、それまで寛容な目で見てやっていただけると幸いです。
(2005.12.22  taka)

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