essay/時短備忘控 0

固定されたもの

授業が終わるとサドルに腰掛けるのももどかしい有様でチャリをまたぎ店の前に到着すると大急ぎで制服の上着を後ろの荷台にくくりつけ18歳未満であることを巧く隠したつもりで堂々と目の前のドアを開ける。

ドアの中、あの頃のパチ屋はどの店もパチ屋独特の匂いを発していたがあれはなんだったのだろう。

多くもない客だがその間を見てまわり適当に台選びをすませると百円玉をサンドに落とし30発ほどの玉を両手でありがたく受け取る。それをそのまま上の受け皿に流して上半身を少し右に傾け、台の右下にあるレバーを右手で操作し玉を弾くのだが、当時はまだ手打ちの時代で、この玉の弾き方にもいくつか流儀があった。

レバー(玉射出装置)は二つの部分、台の中のバネと連動している棒状の可動部分(いわゆるレバー)と指を引っかけるなどして手を固定するためにその右下から突き出ている棒(補助バー)とからなる。
玉を弾く原理は、レバーはその左端で台とつながっているからこのレバーをその左端を軸として時計回りつまりレバーの右端を下方に押し下げる動きで台の中のバネが縮み、押し下げたレバーを離すと中の縮んだバネが反発して瞬間的に元に戻ろうとするからその力で玉が弾かれるというもの。だから指一本でもポンポンと玉を弾くことはできるのだが、それでは玉の弾かれ先をコントロールすることはできない。

(なんか話が細かくなってきたなァ)

玉の弾かれ先をコントロールすることは手打ち時代のパチンコの要諦だからこれをおろそかにすることはできない。なのでどうするかというと、フックの法則を思い出すことになる。これによると、玉を打ち出す力はレバーを引き下げる力に比例するのだから、レバーの引き加減をコントロールすることが玉の弾かれ先をひいては今日ただ今の勝ち負けをコントロールすることに等しいことがわかる! まあ、あたりまえだけど。

レバーの引き加減をコントロールするには、その引き下げる動きをコントロールすればいいのだが、具体的には、親指でレバーを押し下げる、下がってきたそのレバーを人差し指で止める、親指を離す、という一連の動作を繰り返すことになるわけで、つまりレバーの引きを止める人差し指の位置で玉の弾きをコントロールするのだ。(左利きの人はまた違うのだけど要は同じ)

そのためにあるのが補助バーで、右手をこの棒上に置くことで人差し指の位置を固定することができた。この棒の上に手を小指から乗せる人もいたし、棒を薬指と小指ではさむ人もいた。打ち手の手の大きさとレバーの動かし方でその人なりのやり方があった。

先ほど流儀といったのはレバーを引くときに手全体を補助バーを中心に小気味よく動かしながら引くやり方と、手は補助バーの上に石の如く固定し、レバーは親指の動きだけで引くやり方とあったからで、多くはこの二通りの中庸に落ち着くのだが、技量がアップするにつれ後者に近づく傾向があった。

ただそうなると問題が生じないでもない。レバーの最上位置と補助バーは結構離れているので、よほど大きな手の持ち主でないかぎり、手を動かさず普通に補助バーの上に置いたままではレバーに掛けるとき親指にかなり負担のかかる動きを強いることになる。そこで普通の大きさの手しか持ち合わせていない者は補助バーの上で小指を立てるようにして、言わば手全体に背伸びさせる格好をさせねばならないのだ。

そうすると手だけでなく腕全体をやや上げたままの打玉姿勢を取り続けることになる。この姿勢だと背筋も伸びて、まるで社交ダンスで女性をリードする男性の右腕の如く、である。これは結構目立つ。遠くからでもプロであることまるわかりだ。もっともそうであること自体がカッコイイことではあったのだけど。

中身よりも見かけから入ることをモットーとしているボクはもちろんこのやり方を真似しました。下は黒いズボン、上はワイシャツ姿でしたけど。で、現在に至っているわけで。

そうか〜、あの日の右手以来、ボクの中ではあの補助バーの上で時間の流れも一緒に固定されたのかぁw

2005.5.28

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