フェリーの下船は、短い停船時間と早朝ということもあってたいへん慌しくなります。私は、あちこちのフェリーの乗下船でゴア・ソックス片方、グローブ1セットをなくしています。また、乗船時に財布(なんと、全財産入り)を落としてフェリーの案内所に届けてもらったことすらあります。また、フェリーの車両デッキと桟橋を連結する部分(なんて呼ぶんでしょうね)は滑り止めに波型が打ち出してあるだけの鉄板なので、雨の時はじゅうぶん気をつけましょう。トラックや突っ走るフォークリフトに注意して。安全第一が鉄則です。
予定時刻どおりに名瀬に着いたら、そして何よりも晴れていたら、あやまる岬を目指しましょう。太平洋から昇る朝日が、どどーんと景気よく出迎えてくれます。雨が降ったら? 北国の冬に雪がツキモノのように南の島には雨がツキモノです。なに、梅雨以外では二十四時間降り続くことはありません。ゆったり構えて、南国気分を味わってください。ただし、島の北東部以外はアップ・ダウンが激しく、古い舗装道路は滑りやすいので気をつけて。
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'94/ 5/ 1 あやまる岬 方面。 撮影者: quickone |
エラそうなことを並べ立てていますが、実をいうと私は、「あやまる岬で朝日」コースを採ったことがありません。奄美の北東部へ行ったのは一度きり。そのときは、島の西側から、龍郷湾、赤木名海岸、蒲生崎観光公園と回ってあやまる岬に向かったのです。
あやまる岬には、国民宿舎あやまる荘があります。実用一点張りの外観は、もう少しどうにかならないものかと思ってしまいますが、中規模以上の宿泊施設の外観は、日本じゅうどこでも同じですから我慢しましょう。
キャンプ・ツーリング派の私としましては、風呂の確保が重要な課題となりますので、入浴のみが可能か聞いてみましたが、そんなことを聞かれるのは初めてだという顔で断られました。三日分の無精ひげも良くなかったのでしょうね。
あやまる岬の一帯は、奄美本島のなかでも特に観光開発が進んでいるところで、老舗のここ以外にもさまざまな施設があります。また、すぐ近くには奄美でも五指に数えられるという美しいビーチ、土盛海水浴場があります。
あやまる岬を後にして北上すると、奄美本島最北端の笠利崎の手前で行き止まりです。地の果て気分を味わったら、蒲生崎観光公園を目指しましょう。蒲生崎観光公園は、その昔、壇ノ浦の合戦に破れた平氏の落ち武者が奄美にまで逃げ延びて、ここに源氏の追っ手に備えて見張り台を作ったというところです。いまではよく整備された公園内に観光展望台があるだけで、当時を偲ばせるものは何もありませんが、ここからの眺めはすばらしく、しばし佇んでしまいます。
赤木名海岸は、奄美には珍しく広い砂浜です。キャンプ場を求めて行ってみましたが、地図に掲載され、行先案内板に表示されているのにもかかわらず、トイレ・シャワー・休憩所という海水浴場三点セットも見当たらない寂しさに、写真を撮っただけで引き上げることにしました。
今になって考えてみると、上陸したばかりで先への期待感と、風が吹き抜ける海岸が、わたしの目にフィルターを掛けてしまったのかもしれませんね。
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'94/5/ 1 赤木名海水浴場。撮影者:quickone
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夜明け直後の龍郷湾はさざ波ひとつ立たないような静けさで、何も知らずにいきなり岸辺に立たされたら、きっとここは内陸の池か湖だと信じてしまうだろうと思えるほどでした。あとで、どうしてもっと写真をとらなかったのだろうと後悔しましたが、海岸の赤土(本当に湖のよう!)がちょっと興ざめだったのと、朝飯で頭がいっぱいだったのとで、通り過ぎる景色だけで済ませてしまったのです。
龍郷湾沿いに名瀬へと向かうと、龍郷の高倉群、西郷隆盛が奄美に島流しになっていた時に住んでいた家、ソテツの大群落といった観光ポイントが点在しています。
当時は気づかなかったのですが(どん臭いともいう)、民俗、歴史、自然とバラエティに富んだ取り合わせで、椎名誠風に言えば、「オヌシやるな」といったところでしょうか。
海岸沿いを名瀬に戻ります。
先はまだまだ長いので、ここらで腹ごしらえをしておきましょう。しかし、まだまだ早い時間なので、こういうところしかあいてないかもしれません。
食事を済ませたら、さらにディープな大島南部に行きましょう。もちろん、食後の腹ごなしに名瀬市ハブセンターというのも、困ってしまうくらい胃腸が強い、という人にとっては悪くない選択です。
また、名瀬市内にはあまり知られていませんが、ループ橋があります。九州自動車道の鹿児島ルート全線開通でえびのループ橋を通れなかったあなた、その悔しさをここで晴らしていってはいかがですか? その他にも、名瀬は旅人を思わずズッコケ(死語)させる愉しみがいくつもあります。
名瀬からは、フェリーターミナルを右手に見つつ、県道名瀬・瀬戸内線を大和村に向かいます。ぱらぱらと点在していた人家が途切れ、登り坂の傾斜が急になり、登坂車線が現われたなと思ったら、右手に大浜海洋公園の入り口があります。
大浜海洋公園は、名瀬市民の憩いの場として親しまれ、奄美群島の海水浴場では、もっとも設備が整ったところです。大浜海洋公園のビーチサイドから海沿いの遊歩道を3分ほど(だったと思います)歩くと、これぞオーシャンビューといえるキャンプ・サイトがあります。大浜キャンプ場です。きれいな芝生のキャンプ場は無料で、オン・シーズンの昼間には管理人さんも居られます。名瀬市民にも人気があるらしく、ここで二週間過ごしたというライダーは、「名瀬の病院の看護婦さんと一緒にバーベキューやった」と自慢していました。もちろん、ド突いてやりましたとも。
ここをキャンプ地と決めて荷物を降ろすもよし、まだ先へ進む方のうち、ソロ・ツーリストの方は覚悟を決めてください。これより先は、例えゴールデン・ウィークなどのハイ・シーズンであっても、人里離れたキャンプ場で自分ひとり、という状況は珍しくありません。
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