Feb. '03
2/23 ピンポンズ&ネリヤ★カナヤ at 池袋東武百貨店催事場
2001年4月7日、日本橋三越での「鹿児島物産展」で、中孝介&中村瑞希の「島唄ライブ」が行われた。今回の東武百貨店と違い、屋上のイベントステージでのライブだったのだが、150ほどの観客席にいたのはおよそ10人という寂しい光景であった。
曇天の、いつ雨が降り出しても不思議がない天候だった。
ベッドを抜け出したオレは、パソコンを立ち上げると朝食の支度をしながら、おさだまりの情報チェックを行った。
あいかわらずアメリカのブッシュ政権はイラクのフセイン政権に対する脅迫を続けており、攻撃のための兵員並びに物資の集積を続けている。とはいえ、ニュース種に餓えた気が早いマスコミですら「早くても三月初旬か」との予測を立てているようで、差し迫った危険の兆候はないようだ。
「とりあえず、きょうも一日、平穏な暮らしがおくれそうだな」
呟いたオレの手が止まった。
「池袋東武百貨店の鹿児島物産展におけるピンポンズのステージにネリヤ★カナヤが飛び入り出演。ただし13:00〜の1ステージのみ」という情報が目に入ったのだ。
もとよりこの日のピンポンズのステージについてはオレも注目しており、13:00〜、15:00〜、18:00〜の3ステージのうち15:00〜と18:00〜を見に行くつもりではいた。手許の時計を見ると、埼玉の川沿いにあるオレの棲家から池袋まで行くのに、じゅうぶんな余裕を持てる時刻だ。朝食を済ませ、身支度をして出かけることにした。
東武百貨店の鹿児島物産展会場についたのは、12:40頃。早くもというか当然というか、結構な人出である。
ひととおり会場内を廻ってみると、思ったとおり周囲の熱気に取り残されたようにして、特設ステージがぽつんとある。周りの壁には、観光地・奄美大島をアピールするための写真の展示。椅子が10脚ほど置かれており、歩きつかれたお年寄りたちの休息所になっている。この人も座っていた。おや、するとこれはピンポンズの出番待ち、ということか。司会のお姉ちゃんがナニやらしゃべっているが、誰も聞いてはいない。
まぁ椅子も埋まっているし、一昨年の日本橋三越(注1)のようなこともあるまい。ナニゴトもほどほどがいちばんだ。立ち見でも見易いし。
と思っていたら、次から次へと人が集まってくる。ほぼ時間通りにピンポンズが登場する頃には、特設ステージの周りは立ち見でぎっしりだ。
ピンポンズは、三味線を持った貴島康男が中央、メンバーそれぞれの名前は忘れたが、ジャンベが客席から見て左に、サイド・ヴォーカルがその反対という立ち位置。ちなみにあと二人、ギターとベースのメンバーがいるのだが、今回は仕事で来られなかったという。おっと、忘れてはいけない。東京在住の奄美出身の方だと思うが、日舞ふうの五、六十年配の和装の踊り手が二人、うしろで踊ってた。ピンポンズの音楽というのは、貴島康男の資質もあるのだろうが、島唄からそれほど外れたモノではないので、踊りも違和感を感じるものではなかった。見てなかった、というのもあるが。
「朝花節」からはじめたピンポンズが、一、二曲演奏したところで、ネリヤ★カナヤが紹介され、立ち見客を掻き分けて平田輝がギターをかかえて登場。おや、相棒は、と見ると既にステージ上に。
「どこにいたのだろう?」と傍らにいたtabicchiに問うと、
「踊りの人たちと一緒にいたのに気がつかなかった?」との応え。
「小石は川原に、木は森に隠せ」というが、おばたちに紛れてオレの目を欺くとは、敵もサル者である。つーか、いつから敵になったんだってーの。
物産展会場の片隅に小さく仕切られた特設ライブスペースの、そのまた端に設えられたステージには、ピンポンズ3人、ネリヤ★カナヤ2人に踊りが2人の合計7人が乗っかり、夏の湘南江の島海岸も真っ青だ。
これで見物人が少なかったらシャレになんないのだが、既に触れたとおり、満員の大盛況である。それも、「おーし、聴いてやろうじゃねえか」的なテンションが漲っている人が多いようだ。むしろ、あまりの見物人のテンションの高さに貴島康男も「もうちょっとリラックスして聴いてください」といささかビビリ気味なのが笑えるが、それでもその場は、なぜか和まない。
やってる側も午後の早い時間帯でエンジンが掛かっていなかったのか、「悪くないんだけど、もう一息」てな感じだ。いや、本来はそこまで言っちゃいけないとオレも思っているのだが、康男のステージングの上手さをオレは高く評価しているだけに、ついつい贅沢を言ってみたくなる。ネリヤ★カナヤの二人についても同様で、「まだ目が覚めてないね」って思う。そういうオレの方が、寝てるのかもしれんが。
まぁ、そんな感じで一回目のステージは終わった。
楽屋に引き上げようとするネリヤ★カナヤに声を掛けると、「結局、ぜんぶ出ることになりました」だと。騙したなー。
仕方がないので鶏飯を食べ、物産展の各コーナーをうろうろぐるぐると廻って時間をつぶそうとするが、ナゼかどこのコーナーに行っても試食・試飲コーナーでは相手にしてもらえない。金がないのがそんなに見え見えなのだろうか、実に悔しい。
なんとか時間をやり過ごして特設ステージに向かう。今度もすごい数の見物人。
一回目がいちおうピンポンズがメインのステージだとすると、二回目はネリヤ★カナヤがメインのようにも見える。比率としては、一回目が8:2でピンポンズ、この二回目は7:3でネリヤ★カナヤといったところか。
一回目に比べるとあっさりしたステージで、不満気な見物人に貴島康男は「6時からの三回目は、もっとたくさんやりますから」だと。この商売人がぁっ!
そう言われてしまっては、こちらも帰るに帰れない。しかし、時刻は3時半。あと2時間半もあるっちゅうこっちゃ。どへぇぇぇ…。
なにしろ鶏飯は食っちまったし、物産展が行われているフロアにはこれといって休憩する所もないし、あってもとっくに誰かが座ってるしで行き場がない。
「ビールでも飲もうか」と屋上ガーデンの軽食コーナーに行くが、寒くてビールどころではない。それでも夢使い氏とひごっち氏が居て、あくまきと大学芋をご馳走になって、喜んだオレではある。
にもかかわらずしかしそれでもやっぱりあにはからんや、一時間は余っている。「結局行き場のないトリオ」を結成したtabicchi、ひでさんと一緒にレストラン街の「カリフォルニア・ピザ」で時間と空腹をやっつける。
さて、そろそろよかんべぇと特設ライブコーナーに向かうと、まだ5分ほどあるというのに、早くも満員、大盛況である。やっぱ康男は人気あるなぁ、と感心せざるを得ない。
この3回目のステージでは、ピンポンズとネリヤ★カナヤの比率はまた8:2くらいか。つーか、康男のワンマン・ショーぽかったかな?最近お得意の「やいま」はやったし、2回目ではラストに「ROCK調(奄美島唄の「六調」のネリヤ★カナヤ・バージョン)」だったのが、「ワイド節」〜「六調」の正統派ストロングスタイル・パターンだったし。
一日かけて3ステージを堪能させてもらって、(メンバーふたり抜きの)ピンポンズの音楽をなんとなく掴むことが出来たような気がする。貴島康男は、理論的にどうこうというミュージシャンではなく、本能でやってる音楽家なのだが、彼なりに「奄美の島唄」を進化/変化させていこうという意図が、垣間見えた3ステージだった。
まず、彼は極端な変化を望んではいない。いきなり外国の音楽を取り入れて「どうだ驚いたか」的な新機軸をやるつもりはまったくない。地続きの、ゆっくりとした進化/変化を望んでいるようだ。いや、進化/変化という事態を、むしろ必要悪としているのかもしれない。「奄美の島唄」の原型を保護/保存するために、甲羅を身につけるように「他の要素」を取り込もうとしているのではないか。
貴島康男は、去年、25歳になった。世間的な基準から言えば「若者」と言える。しかし、「奄美の島唄」は、彼をもはや「若者」として扱ってはくれない。
「奄美の島唄」において「ギャラを貰える」唄者としては、彼はとうに「第一線のベテラン」なのだ。ナニしろ、こうした物産展や観光客誘致のイベントに招かれる唄者のなかで、彼のすぐ上の年齢といえば、47歳の福山幸司なのだから。
ジャバラ・レーベルでの「新機軸」を数多くこなす中孝介や中村瑞希(love!)に比べれば、「保守本流」イメージが強い貴島康男だが、彼と親しい人に聞くと、「エレキ三味線なんか持ち歩いとった」こともあったらしい。オレは、ピンポンズを、その線で予想していたのだが、貴島康男はもっと大きなモノを作ろうとしているようだ。
フル・メンバーのピンポンズを見たい。
このページの先頭へ