Oct. '01
10/14 吉祥寺 Star Pine's Cafe RIKKI UTIKISAMA LIVE
吉祥寺スターパインズ・カフェ RIKKI UTIKISAMA(御月様) LIVE
話は、いきなし一ヶ月と二週間さかのぼる。なに?ついて行けないだぁ?甘ったれるんじゃない、ぺしぺしぺし、お仕置きじゃ折檻じゃ、ぺしぺしぺし、どうだ参ったか、はぁはぁはぁ…。
だいぶ、ストレスが溜まっているようですな。原因は、引越しか。
一ヶ月と二週間さかのぼって、山梨県は河口湖町の「河口湖ステラ・シアター」の外。Mount Fuji Aidの開場時間直前、避暑地らしい、という気温をいささか下回った曇り空の下、オレは生ビールを飲んでいた。
「もう、買った?」主語抜き、前置詞抜きで唐突に話題を振ってきたのは、さっきまで当日券売り場に並んでいた某氏である。
オ「何の話でごぜえやしょう」
某「RIKKIだよ」
オ「だから、オレはおととい、前売りを買ったんだって」ほれ、とオレはチケットを見せてやる。
某「ちがう、スター・パインズだよ」
オ「え?なに…?」
某「スター・パインズ、今日が発売日なんだよっ!」
あーちゃー、忘れてたぁ…。慌てて携帯電話を取り出し、「ぴぴぴ、ぴあって何番だっけ?」
ところが、さすがは避暑地山奥富士山の麓。アンテナを立て、顔の前にかざし、西を向いたり東を向いたりするが、なかなかアンテナ・マークが表示されない。そのうえ、本日は土曜日である。「ぴあ」の電話の競争率は、早稲田大学のタレント教授がいる学科並みかそれ以上なのだ。
「つながらない…」
しょうがねぇなこいつは、と言いたげな顔で、ヤマトンチュ氏が自分の携帯電話をオレに渡す。電話を変えたくらいで繋がる訳がねぇじゃねぇか、と思ったが、受け取ってダイアルを押す。一瞬の無音、そして呼び出し音が鳴り、「はい、チケットぴあでございます」。
数分後、「ありがたやありがたや」と拝むようにして携帯電話を返し、オレは二杯目の生ビールに取り掛かる事にした。そして…。
時は移って、九月も終わる頃、ディスクマンに入れる出勤BGMを選んでいたオレは、「RIKKI、スター・パインズ・カフェ、ぴあ!」と三題噺みたいに記憶が蘇った。昼休みを待ちかねて、会社の近くの「チケットぴあ」に走る。電話予約の番号を伝えるが、当然「期限が過ぎてますね」…うん、まぁ、そうだろうな…。
「まだ、チケットはありますか?」なにしろ、今回は限定150名という話だ。正直な話、オレは諦めていた。
「まだ、お席はありますね」マジですかい?「お取りしますか?」はいはい、お願いします。
そして当日。正直言って、オレは気が重かった。先月のMount Fuji AidでのRIKKIの出来は、どんなに贔屓目に見ても誉められたものではなかったし、さらにその前に溯っての下北沢 LaCana でも、オレとしては満足いくものではなかったからだ。支払う金銭の対価としてどうのという以前に、素晴らしい歌手が才能を浪費していく過程を見せられるみたいでやりきれない気分が重くのし掛かってくるのだ。今回は、ライブの直前に発売されたミニ・アルバム「加那鳥(カナリア)」プロモーション・ツアーの最終日ということで、それも不安の一要素。くたくたのRIKKIかよ…。
やっぱ、チケットが手に入らない方がよかったのかなーなどと思いながら、スター・パインズ・カフェに着き、ステージの幕開きを待つ。
やがてクロアキ(黒田亜樹:Pf)とともに、RIKKIが三味線を持って登場。
最初は、「眠りの森の美女のパヴァーヌ」(って公式HPのライブ曲目表に出てたけど、三味線持って出てきたよな。二曲目にクレジットされてるのが「燕」だったんだけど、これも弾いてるはずがないんだ。2ステ一曲目の「のぼたんぬ花」が正解のような気もするけど、誰か憶えてる人がいたら教えて。情けない話だが、RIKKIの声が聴こえてきただけで、心神喪失状態のオレなので、そこいら辺はまるっきり役立たずなのだ)。
そして「悲しくてやりきれない」、「俊良主節〜塩道長浜」、「素敵だね〜秋ヴァージョン〜」。
いい。
すごくいい。
すごくすごくいい。
すごくすごくすごくいい。
艶々と、しっとりと、伸びやかにRIKKIは唄っていく。
ハードなプロモーション・ツアーが、いい方に作用したのだろう。
加那鳥(カナリア)とは、なんのメタファーなのか。
多くの人口に膾炙されるカナリアとは、童謡(としては知らない人の方が多いだろうが)の「うたを忘れたカナリア」だろう。オレは、RIKKIがそんなカナリアになりつつあることを恐れていた。しかし、この加那鳥(カナリア)は、童謡のカナリアではなかった。
歌のカナリアは、「うた」を忘れて(忘却)しまったのだが、加那鳥(カナリア)は、あれやこれやに取り紛れて「うた」を(ちょいと置き)忘れてしまっていたんだろう。
でも、もう大丈夫だ。加那鳥(カナリア)は、プロモーション・ツアーのどこかで「うた」を取り戻した。またいつか、どこかに「うた」を(仕舞い)忘れるようなことがあっても、すぐに取り戻してくれるだろう。
いつもの連中と少しお酒を飲み、オレは幸せな気分で家路を辿った。
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