「浄水器」

ピンポーン♪

彼は突然やってきた。

インターフォン越しに聞いた限りでは、水道の工事でまわってきているとか。
機器の取り付け作業のみで、お金はかからない。在宅の家から順番にまわってますとのこと。

玄関を開けると、一見爽やかそうな男性がいた。

「暑いですねぇ。実は浄水器の取り付け工事をしているんです。台所まで入らせて
いただければ、そこで機器をつけまして、簡単な説明をしたら帰ります」

といか言ってる。ん〜、どういう流れなのかピンとこなかったけど、
在宅してる順番にまわっているというから、ほぼ強制で全員なのかな、とか
勝手に解釈して台所まであげた。これが間違いの始まり。

その人は、どこぞの水道会社の人で、無料で各家庭に浄水器を取り付けて
まわっているらしい。うちの建物の給水塔で、以前に動物の死骸が出たとかで
衛生的に万全を期する為に無料で浄水器をつけているんだ、と力説してた。

うちの給水塔で動物の死骸が出たなんて、全然聞いた事がないけど
「ま、いっか」ということで続きを聞くことにしてみた。

うちはうちで、以前に懸賞で当たった浄水器をつけていた(実売15000円ぐらいのやつ)
ので、別にいらなかったんだけど、どうせ無料なら、ということでつけさせた。

工事というか、取り付け自体は超簡単で、5分ぐらいで終了。
とりあえずコップを2つ用意しろ、っていうから2つコップを渡すと
原水と浄水を2つ用意してきた。飲み比べろってか?

ふむふむ、と飲んでみる。まぁ、違うと言えば違うけれど、しょせん
暑さの中での中途半端な温度の水だから、どちらも大してうまくない。
しいてあげれば、浄水の方が味がマシな気がする程度。

とりあえず、こっちが「やっぱり浄水の方がいい感じがしますね」と答えると
満足げに「でしょ〜?」とか言ってる。まったくもって、営業スタイル出しすぎ

「じゃ、機器の説明に入りますね」といって、床に資料を広げはじめる。
その資料には水道水に含まれる有害物質やら、塩素量とかの悪性要素について
つらつらと書いてあった。で、あれ?と思ったのは、その資料がどうも
ずいぶん前に見たことがあるものっぽかったのだ。ふむ〜と、薄らいでいる
記憶をひっかきまわすと出てきましたよ。私が中学高校の頃に愛読していた
「ウータン」という雑誌の記事が。そうそう、あれあれ。マンションとかの
給水塔が危ない、とかっていう特集で給水塔内で発見されたカラスの死骸とか
赤錆にやられまくった水道管とか載ってた、載ってた〜、ってまんまアレじゃん!

「この資料はわが社が独自に調査した結果でして〜…」

その人は淡々と説明を続けてる。私はこの記事で気づいてしまった。
これはあやしい商売なんだろうなぁ、きっと設置代金とか本体代金は
無料だろうけど、他で取る気なんだろうなぁ、とか。ま、気づくのが
若干遅かったけど(苦笑)本来は家になんて入れないのが本当なんだけど
なんか寝起きだったし、完璧にボンヤリしてたからヤラれてしまった…

ましてや、昔の雑誌の資料を「わが社独自の調査結果」として堂々と
ウソついてるし、無料、無料を強調しているところなんて超あやしい!

「で、ですね、本体と設置工事費(大したことしてない)は無料なんですが…」

きたよ、きたよ、こういうのでありがちな「が」が来たよ!

「毎日の使用料というのをいただいております」

ほらね、ほらね!これでガッポリ儲けるっていう寸法だろうね。

「1日130円という格安価格にてご提供となっております」

おいおい、1日130円ってことは、月額4000円弱でしょ。
となると、うちの浄水器が1年でカートリッジ1回交換なので8000円ぐらい。
ってことは、その6倍も費用がかかるってことじゃん!っていうか、
年間48000円って…超ボッタクリじゃない?いや、それ本気で言ってんの?!

「1日130円ですから、ペットボトルの水を買うことを考えるとお得ですよね?」

そりゃ、毎日ペットボトルの水を買う家ならば、得と思えるのかもしれない。
でも、うちは高級な浄水器をつけてますから、ペットボトルの水なんて
買いません。だから、そういう計算なんてなりたちません。ましてや、
カートリッジ交換タイプだけど、1年に1回程度で8000円だから
どう比較しても、こっちの方が損じゃないですか?と言ってみたのに
ほとんど相手にされず、向こうは向こうで勝手に説明を進めてる。

ん〜、マニュアルの想定にない事態だから、向こうはこっちの相手が
出来なくなってるってことか…こりゃ、完璧アウトだね。

「どうですかね?強制じゃないのですが、せっかくの機会ですから…」

いやいや、強制だったら困るし、全然「せっかく」じゃないっつの。

「いえ、そんなに高いものいりません。今ので十分満足してますから、はずしてください」
「そうですか?この機会を逃すと、次回は通常通り本体と工事費もはいりますが?」
「使うことはないと思いますので結構です」
「わかりました、では取り外します」

そういって、その人は、取り付けた時と同じように器用な手つきで
あっというまの機器を取り付けなおした。きっと、ものすごい数の
家庭を回ってきているのだろうねぇ。手際のよさが物語ってた。

「お宅の会社がわかるような資料と貴方の名刺をくれませんか?」

と尋ねてみたら、その人は少し慌てた様子で

「いま、持って来ていませんでした。車に置いてありますので、あとでポストへおいれしときます」

そういって、機材を持つとそそくさと出て行ってしまった。

ん〜、今回は素直に出て行ってくれたから良かったけど、部屋にあげて
しまったのは、大失敗。おかげで余計な話を聞かされたし、いろいろ触られたし…
寝起きとはいえ、やっぱりしっかり見極めないと、いつもこうやって素直に
退散してくれるとは限らないわけだし…ちゃんと気をつけなければ!と再確認。

ちなみに、その後、ポストに資料がはいった様子はない…


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