「レコスタな君」

それはある晴れた暖かい春の日の午後。
ふと訪れたアミューズメントスペース、
そこに「その人」はいた…

「レコスタ」

それは、自分のノドに自信がある人、
勘違いまくりでウマイと思ってしまった人、
どうしてもウケ狙いでやらざるをえない人、
罰ゲームでしぶしぶやってる人

そんな人たちが集う禁断のマシーン(なのか?)

※正確には「カラオケ」を歌って、その歌声を
CDに録音できてしまう。尚且つ、その場で
CDジャケットまでも作成することで、まるで
製品か(大げさ)のようなものを作ることが
出来てしまう、というアーケードマシン。

いつも目にはするものの、やる勇気は無く、
またやっている人も滅多に見ないんだけど
そこに「その人」はいた。

最初は何気なく通り過ぎるだけのはずだった。
でも、そのBOXの前を通った時、なんとも
言えない高い高い声
が外に漏れているのを
聴いてしまったのです。そう、とても大きく…。

ハッとした私は思わず立ち止まり中を覗く。
外からは張り紙がしてあったりして、中は
よく見えない。かろうじて見える部分でも、
歌詞の移ったモニターの一部と歌っている
「その人」の背中しか見えない…どんな人なのだろう。

歌詞と漏れてくる歌声から推測すると、その曲は
矢井田瞳の「MyDarlin」であることがわかる。

声がかなり高い…高いけど、女の人の声じゃないのは
2秒でわかった…。ふむ、男の人か…。男の人で
矢井田を歌う、しかも裏声バリバリで…かなりの猛者だ。

漏れてくる歌声から終わりの方のサビ部分である
事がわかった。「ダ〜リンダ〜リ〜ン、☆#○Ω……」
す、すごい裏声だ。英語の歌詞部分がかなりウソっぽいけど。

BOXが静かになる…歌が終わったようだ。おそらく
次はCDのジャケット撮影になるはず。となれば、
中央の大きなモニター、そうさっきまで歌詞が映って
いた部分には、ジャケットになる予定の画像が大きく
映し出されるはず…私はそれを見逃さなかった。

すばやくいい位置をキープすると小さな窓部分から
覗きこむ。中では「その人」がカメラを覗き込み
自分の欲しいアングルを模索しているところだった…。

は! はぅ…。

「その人」の顔は、こう言っちゃなんだけど、
矢井田のイメージは微塵も無く、そして裏声とも
連動しない…例えるなら「アムパムマン」

そんな「アムパムマン」だけど、微妙に顔の
角度を変えたり表情を変えたりしつつ最高のモノを
探してるようだ…。でも、私の独断と偏見から
言わせてもらえば、どれも「浮かない顔」だけど。

そりゃね、私だって人の事をとやかく言えるような
顔じゃないです。だいたい、こんなことをウェブ上で
堂々と公開するようなヤツですから性格だって、
とてもじゃないけど「いい」なんて言えませんよ。

でもね、それでもやっぱり、これは言いたいし
書きたいんですよ。それぐらいショックだったって
いうことなんです。もう写真を撮って載せたいぐらい。

「その人」が納得するカットを得られる前に
制限時間が来たようで、なんとも「浮かない顔」の
ままジャケットが決定。決定したジャケット画像は
CDが吐き出されるまで大画面に映しっぱなしらしい。

さすがに「その人」も辛いのか、自分のハンカチで
画面の顔部分を覆っている…あぁ、なんとも寂しい時間。

数分が経ちCDが出てきたらしい。画面が切り替わるのと
同期して「その人」も荷物をまとめてBOXが出てきた…。

は! はぅ…。

「その人」の汗かきっぷりと言ったら…まさに滝。
髪までビッショリな感じの「その人」は、BOXの
外の意外な人だかりに一瞬たじろぎ、そそくさと
その場を後にしてしまった。手荷物のバックが
ちょっとかわいい水色のチェックだったのは内緒だ。

しばらくその場でまわりの観客も立ち止まったまま
「その人」を目で追っていたけれど、「その人」
視界から消えると、まるで魔法が解けたみたいに
バラバラになってしまった。不思議な数分間だった…。

唯一の心残り。

「その人」が「あのCD」をどういった用途に
使うつもりなのか…。プレゼントなのか、自宅用
なのか。それを確認出来なかったのが心残り…。


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