労働契約は必ず書面で


事業主と従業員の関係というのはいつから始まり、いつ終わるのでしょうか?世の中ではいろいろな基準がありますが、法律上では、「契約」が結ばれている間ということになっています。この事業主と従業員との間で結ばれる契約を「労働契約(雇用契約)」といいます。
では、この労働契約というものはどのように結ばれるのかというと、労働契約に限らず契約は口約束だけで成り立ってしまいます。つまり、労働で言うならば、事業主の「うちの会社で働いでくれませんか?」という応えに従業員になろうとしている人の「分かりました」の一言で労働契約が結ばれてしまいます。もちろん、口約束なので証拠も何もありません。お互いのあいまいな記憶だけが頼りです。
そのままずっと何もなければこんな程度の口約束だけでも良いでしょう。ただ、ひとたびトラブルが起こった時、例えば、労働時間や賃金、あるいは退職の際に事業主と従業員で折り合いがつかなくなった時、口約束だけではお互いにあいまいな記憶による主張が繰り返されるだけです。それにより、各種団体や行政機関へ相談に持ち込まれる可能性や、さらには司法の場に持ち込まれることになれば、莫大な時間と金額がかかることになりかねません。また、そのような労働トラブルを起こした事業所として世間に公表されることによりブランドイメージは損なわれ、求人が減り、売上も減り、従業員も労働意欲を失くし次々と退職していき、やがては…なんてこともあり得ない話ではありません。
とはいえ、ここまで大きな話にならないにしても、労働トラブルは出来るだけ防止したいとは思うもの。事業主の頭の悩みどころでしょう。では、防止するには何が必要かといえば、まずは労働契約を書面に残しておくことです。この書面のことを「労働契約書(労働条件通知書)」と呼びます。書面にしておけば、労働トラブルがあった場合、契約時にはどのような内容を交わしたのかという証拠になります。これだけでも労働契約を書面にするメリットは大きいです。また、有期契約の場合、必ず書面を作成しておかなくてはいけません。
では、この労働契約書はどのように作ればいいのかというと、内容や様式はどのような形でも構いません。とはいえ、それだと分からないですし、下手なことを記載してやっぱりトラブルを起こしてしまっては意味がないので、ある程度の基準があります。ここでは全ての従業員に最低限必要な内容を取り上げておきます。
労働条件の明示として必ず記載しなければならないものとして以下の項目があります。
1.労働契約の期間に関する事項
2.就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
3.始業及び就業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けで就業させる場合における就業時転換に関する事項
4.賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金、賞与その他これらに準ずる賃金を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期に関する事項
5.退職に関する事項(解雇の事由を含む)
これらに加え、有期労働者については、「有期労働契約を更新する場合の基準」も必ず記載することになります。また、「昇給に関する事項」は明示は必ず必要ですが、書面に記載する必要はなく、口頭による明示でも足ります(ただし、個人的には口頭よりも書面に明記することをお奨めします)。
他にも、明示しないと効力にならない任意的な契約もあって、こちらは書面は必要なく事業主が口頭による明示でも足ります。
詳しくは、各都道府県労働局のサイトに労働契約書のひな形が掲載されているのでそちらも是非参照してください。
こうして作った労働契約書は、従業員の採用直後、あるいは出来るだけ日を置かずに明示してお互いに記名押印を行なってください。
また、必ず2枚作成し(2枚とも原本が望ましいです)、そのうちの1枚は従業員に渡してください。
さて、労働契約書の最大のメリットは上記のように労働トラブルを防ぐことにありますが、もうひとつのメリットとして、雇用保険の助成金申請のために必要となる場合があります。
雇用保険の助成金申請で必要な書類としてよく出てくるのが、「就業規則」、「タイムカード」、「賃金台帳」、「労働契約書」の4つ。例えば、申請要件もしっかり満たしていて、就業規則やタイムカード、賃金台帳の書類も揃っているのに、労働契約書は交わしていなかった、すぐに契約書を作って交わそうにも申請期間に間に合わなくて申請出来なかった、なんてことがあったらとんでもないです。事前に作っておけばこんな場合でもスムーズに物事を進めることが出来るでしょう。
書面の作成は時間や手間がかかって少し大変かもしれませんが、今後のことも考えて作成しておくことをお奨めします。