事業主と労働者


社労士の仕事は事業の三大要素のうちの「ヒト(人)」を扱う仕事ということは何度かお話をしました。では、社労士の扱う「ヒト(人)」とはどのようなものがあるのでしょうか。
これはいろいろな考え方があるとは思うのですが、大まかに分けると、
・事業主
・労働者
・被保険者
この3つなのかな、と思います。
事業主というのは社長とか代表取締役とか、労働者というのはサラリーマンとかそういった人のことですね。
では、被保険者とはどんな人かというと、労働保険や社会保険の給付を受けられる人、とだけ思っていてください。というのも、社労士の取り扱う法律によって範囲が違っていたり、あるいは同じ法律の中でも細かく分けられていたりとやたらややこしいです。今回お話する趣旨とは違いますし、いずれ別の機会があればそこでお話してみようと思います。
さて、事業主と労働者、このうち労働者といわれて思いつくのは先述のサラリーマンだけでなく、OLやアルバイト、パートといったおなじみのものや、ちょっと頭を捻ってみれば、派遣労働者や日雇い労働者、外国人労働者なんて答えも出てきそうですね。そして、「労働者を使用しているのが事業主だ」と、そんなイメージを筆者を含めて皆さんは思っているはずです。
では、法律では労働者や事業主はどう考えられているのでしょうか?労働について基本的な内容を定めている「労働基準法」では、労働者は以下のように明記されています。
第9条 この法律で、「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
…あれ?思っていたイメージとちょっと違う…?では、「労働者を使用する者」とはどのような人をいうのでしょうか。
第10条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者、その他その事業の労働者に関する事項について事業主のために行為をするすべての者をいう。
急に人が増えてしまいました。しかもよく分からない人が出てきていますが、とにかく、労働者を使用する人は事業主だけではないようです。
この関係をもっと分かりやすくするとすれば、「上司と部下」が分かりやすいかもしれません。でも、仕事の内容によっては上司と部下の関係が逆転することもあるはずです。あるいは部下を持つ上司にさらに上司がいれば部下を持つ上司も部下となります。つまり、9条と10条はそういうことを言っているわけです。
ちなみに、この労働基準法による労働者について「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で賃金を支払われる者をいう」とあることから、正社員はもちろん、アルバイトやパート、試用期間中の労働者、派遣労働者、日雇い労働者や外国人労働者等も労働基準法の適用を受けることになります。
さて、少し話は変わって、事業主と労働者の関係はどのように生まれるのでしょうか。もちろん、「労働契約」によって生まれます。
労働契約に限らず、契約というのは書面で行われるのが多いと思いますが、実は口頭でも成立してしまいます。例えば、労働者の契約について定めた「労働契約法」にはこのように定められています。
第6条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
簡単に言えば、「お金払うから今日から働いてくれる?」「はい分かりました」だけで成立してしまうと言っています。これが労働トラブルの元になるのは皆さんも知っての通りです。たしかに口頭でも許されてはいるものの、頭を抱えるような問題にまで発展することがないように労働契約書を作成し、事業主と従業員それぞれ1枚ずつ持っておくのが重要になってきます。
では、話を戻して、労働契約法では使用者と労働者とはどのような人なのでしょうか。
第2条
1.この法律において、「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。
2.この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。
先ほどの労働基準法とはだいぶ違って、使用者というのは労働者に給料を出して使用する人、と言っています。つまり、労働契約法では使用者とは事業主そのものということです。こちらの方が我々が思う労働者と事業主のイメージに近いですね。