社労士の取り扱う仕事


社労士の取り扱う仕事とはどのようなものがあるのでしょうか。言葉をそのまま解釈すると、「社会保険」と「労務」を扱う「士(サムライ)」?いやはや、何のことだか分かりませんね。
以前にも挙げましたが、社労士法第1条では社労士とは以下のように明記されています。
第1条 この法律は、社会保険労務士の制度を定めて、その業務の適正を図り、もって労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与するとともに、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資することを目的とする。
これを簡単にまとめると、これも以前の繰り返しですが、事業所や従業員にとって大切な労働保険や社会保険の加入その他に協力することで、事業所の発展と従業員の福祉に協力し、事業の三大要素としての、「ヒト(人)」、「カネ(金)」、「モノ(物)」のうち、「ヒト(人)」を扱う仕事、だということです。
では、この「ヒト(人)」を扱う社労士の仕事として何があるのかというと、大きく分けて3つあります。
その3つを簡単に言うと、
1.事業主に代わって労働社会保険関係の届書、申請書の作成および提出すること
2.労働社会保険関係の帳簿を作成すること
3.労務管理その他の相談に応じ、または指導をすること
です。
これら3つの業務のうち1.と2.を業として行なうことは社労士にしか許されていません。
ちなみに、労働社会保険関係というのは、「労働基準法」、「労働安全衛生法」、「労災保険法」、「雇用保険法」、「労働保険徴収法」、「健康保険法」、「国民年金法」、「厚生年金保険法」等であり、これらを少し難しい言葉で「労働社会保険諸法令」と言います。
1.は「1号業務」と呼ばれていて、雇用保険や健康・厚生年金保険の取得・喪失届、離職票、年度更新、報酬月額算定基礎届、36協定、その他各種の届書や申請書に関することはこの業務にあたります。社労士にとって接する機会が最も多く、そして基本的な業務といっても過言ではありません。本来事業主が行なうこれらの書類を作成し、提出を社労士に代行することで、事業主の負担を大きく減らすことに繋がります。
2.は「賃金台帳」や「従業員名簿」といった帳簿に関する業務で、「2号業務」と呼ばれています。もしかしたら、賃金計算やタイムカードの管理を社労士に任せてるよ、という事業主もいると思いますが、それはこの「2号業務」に基づいて行なわれています。
3.は「3号業務」」と呼ばれる業務です。これに関する範囲は幅広く、個々の社労士のセンスがものすごく問われる業務です。まさに社労士業務の花形ともいえるでしょう。しかし実はこの「3号業務」、残念ながら社労士以外の人でも出来てしまう業務です。とはいえ、事業を行なうために非常に大事な労務管理や労働・社会保険について、社労士以外の人に相談し、指導を受けるというのはいささかの疑問があります。もちろん筆者はそのような方々を否定はしませんし、才能がある方も多くいるとは思いますが、労働社会保険諸法令に通じ、それに裏打ちされた知識や経験、能力を持った信頼出来る「社会保険労務士」に相談し、指導を受けることが事業の発展に繋がるのではないでしょうか。
この他、社労士は「保佐人」として裁判所において陳述することが平成27年4月から認められています。これは事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項に最も近い立場にあり、かつ、精通している我々社労士が保佐人として、訴訟代理人である弁護士とともに裁判所に出頭し陳述出来る制度です。
さて、社労士の業務には社労士法に明記されているものの、「普通の社労士」には出来ない業務があります。それは、特定の法律に基づくあっせん、調停、民間紛争解決手続についての手続業務は「普通の社労士」では行なうことが出来ません。この業務を、「紛争解決手続き代理業務」と言います。もっとも、これらに関する相談や指導は「3号業務」として全ての社労士は行なうことは出来るのですが、「1号業務」として行なうことは出来ません。行なうことが出来る社労士は限られていて、社労士がさらに研修と試験を経て、登録に付記を受けた「特定社会保険労務士(以下、「特定社労士」)」しか行なうことが出来ません。ちなみに筆者は残念ながら「特定社労士」ではないので、紛争解決手続き代理業務は取り扱っていません。
それにしても、この特定社労士を、「スーパー社労士」だとか、「普通の社労士よりも上位の存在」だと思っている人は多いのではないでしょうか。筆者自身、実際にそういった発言や感じ方を見聞きしたことが少なからずあります。しかし実際はそうではなく、特定社労士は社労士法に明記されている業務を全て取り扱うにすぎない、という認識が正しいのではと思います。もっと言えば、社労士の中でも労働トラブルの解決に関する専門家が特定社労士だ、とも言えるでしょう。そう考えると、特定社労士と特定ではない社労士とに大きな差はない気がします(もちろん、能力もあり著名な社労士には特定社労士が多いのは事実です)。事業主は自らの事業の状況や実態に応じた社労士を顧問もしくは契約先として選ぶことが最も重要だということは言うまでもありません。
社労士が行なう主な業務は以上ですが、これらの業務を行なう場合に社労士は身分を表すものとして「証票」と「会員証」を携帯しておかなければいけません。家や車の中に置き忘れたということではない限りは必ず持っています。ですので、「本当にあの人社労士かな?」と思った時には「証票と会員証を見せて」と言ってみると良いかもしれません…って、そんなのはちょっとやりすぎですね。