小説「まもって守護月天!」(知教空天楊明推参!外伝)


その3『年に一度の・・・』

「太助ー!!!」
二年一組。授業が終わった途端に、たかしの元気な声が教室に響いた。
そのあまりの大きさに失神するものが続出・・・したかどうかはさておき、
太助は勢いのある友人の方を耳を手で塞ぎながら振り返った。
「なんだよたかし・・・。」
「今年もパーティーはおまえの家だ!!じゃあな!!!」
「は?お、おいたかし!!!」
一方的に告げると、たかしは猛ダッシュで教室を出て行く。
その凄さに、生徒達全ては成す術もなく見送るだけであった。
「太助様、パーティーって?」
帰る仕度を終えたシャオが太助の傍にやって来た。
先ほどのたかしの行動に目を丸くしているのは他の皆と同じである。
「多分クリスマスパーティーだよ。ほら、去年も家でやっただろ。」
「クリスマス・・・まあ大変!!だったらプレゼントを用意しなくては!!」
クリスマスという言葉を聞いて慌てふためくシャオ。
以前翔子につかれた嘘をまだ信じているのだ。
プレゼントをもらえなかったらサンタクロースの朝御飯になってしまう、という事を・・・。
「シャオ、何もそんな慌てなくっても・・・。」
「いいえ太助様。これは命に関わる事なんです!」
シャオのただ事でない様子を見て、太助はじろりと翔子を睨む。
視線が合ったところで、翔子は笑いながら二人のそばへとやって来た。
「山野辺ぇ〜・・・。」
「なんだよ七梨、その目は。いいじゃんか盛り上がるからさ。」
「そういう問題じゃないだろ!!シャオに変な事を吹きこむなよ!!」
少し怒り気味に立ち上がる太助。だが翔子はそんなのはどこふく風だ。
太助に構わず、素早くシャオの傍へ言って更になにやら吹きこんでいる。
飽きれてそれを見ている太助。そこへ、ようやくダメージから立ち直った乎一郎がやって来た。
他の皆も立ち直っていたのか、ぞろぞろと教室を出ていっている。
「ねえ太助君。どういうパーティーをするの?」
「どういう・・・って、別にいつもと変わんないんじゃないの?」
いつもとは、とりあえず食べて騒いで歌って(歌はたかしくらいだが)
一般に言われる普通のパーティーである。
「乎一郎、なんか変わった事でもやりたいのか?」
「うーん、そういう訳じゃないけど・・・。ごめん、変な事訊いちゃったね。
ただでさえ勝手にたかし君に決定されて辛いのに・・・。」
「あ、ああ良いよ、別に気にしてない。いつもの事だしさ・・・。」
笑っている太助の顔はなんだか疲れ気味。いわゆる愛想笑いだというのは疑う余地もない。
(一体誰に対して愛想笑いを振り撒いているのか、ということは謎だが)
「さて、それじゃあかえろっか、シャオ。」
「は、はいっ!!」
妙に気合の入ったシャオの声。慌ててそれに振り向く太助と乎一郎。
どうやら翔子とシャオの秘密のお話は終わったようだ。
「・・・シャオ?」
恐る恐る太助が聞くと、シャオは必死な形相で太助に迫った。
「太助様!急がないといけませんわ!!」
「は?急ぐって何を・・・。」
「今年はサンタさんがご機嫌斜めで・・・あ、すいません、内緒ですぅ!!」
言いかけてはっと口を閉じるシャオ。そして人差し指を当てて“しーっ”。
かなり妙な事を吹きこまれたのは間違いないようである。
「おい山野辺・・・。」
「なんだ?」
「お前、シャオに何言ったんだ?」
「シャオが内緒だって言っただろ、だから言っちゃだめなんだよ。」
あくまでも笑いを崩さない翔子。しかし、太助はそれに動ずることなく告げた。
「一番大切な人と二人っきりでプレゼント交換をして、最後にキスとかじゃないだろうな?」
「・・・凄いな。」
いきなり当てられて翔子は小さく拍手。当然太助は更に言う。
「何考えてんだ〜!!もうちっとマシな事考えろよ!!!」
「太助様!!古くからの言い伝えなんです!!
そうしないとサンタさんに酷い目に遭わされて食べられてしまうって・・・。」
横からシャオが強く反発。たじっとなった太助にかわってそれを乎一郎がなだめた。
「まあまあシャオちゃん、落ち着いて。」
「乎一郎さんもそう言っていられませんわ。ルーアンさんと!!」
「えっ・・・そっか、ルーアン先生と・・・。」
シャオの意外な発言に乎一郎がほわ〜んとなる。
翔子にしてはしてやったり。そして太助はますますがく〜んと。
ちなみにルーアンは早々に職員室に呼ばれて教室には居ない。
キリュウは、授業が全て終わる前にさっさと家に帰ったようである。
とりあえず打つて無しかと思われる太助だが、静かに最後の抵抗を見せた。
「シャオ、一つやりたい事があるんだけどいいかな?」
「はい?ええ、どうぞ。」
「山野辺が言った事、古くからの言い伝えだって言ったよな?」
「ええ。」
「なんだ七梨、そんな妙な事を疑ってんのか?そういうのは良く無いなあ。」
けらけらと笑う翔子。しかしそれを無視して太助は更に言った。
「ヨウメイにそれが本当かどうか訊いてみよう。別に良いだろ?」
「なにー!!!!?」
一番に声を上げたのは翔子。太助に掴みかかろうとする彼女をなだめたのは乎一郎である。
「ま、まあまあ、山野辺さん。」
「遠藤の役って一体・・・。なんて言ってる場合じゃ無い!なんでヨウメイに訊く必要があるんだ!!」
「何いってんだ、ヨウメイに聞く事によって更に知識が深くなるだろう?
そうすれば対策もばっちりだ。なあシャオ?」
「まあ、それは名案ですわ!」
浮かれ気分で居るシャオを見て、翔子はだんまりになった。
確かに太助の言う事は筋に通っているので逆らえない。
しかしヨウメイに話せばたちまち嘘だという事がばれてしまう。
何とかしようと頭を抱え出す翔子であった。
「・・・どうしたの?山野辺さん。」
「話しかけるな遠藤・・・。くっ、いつから七梨はこんなに鋭く・・・。
いったいどうすれば上手く・・・。」
しきりに悩む翔子に戸惑う乎一郎。と、そこへ幸か不幸か訪問者が。
「七梨せんぱ〜い!今年のクリスマスパーティーについてなんですけど〜!!」
耳がき〜んとなる声が教室中に響き渡る。
そこにいた者は思わず両の手で耳を塞ぐのだった。
「ちょっと花織、声おっきいよー・・・。」
「うう、耳が〜・・・。」
「野村さんみたい・・・。」
「せんぱーい!どんなパーティーにしますか〜!!」
三人の親友、熱美とゆかりんとヨウメイの文句もさらっと流し、再び大声で叫ぶ花織。
そして教室の中へと、一緒に来た三人と入ってきた。
「愛原、もうちょい考えてだな・・・。」
「え?何がですか?」
太助がたしなめるもどうやら花織は良く分かっていない様子。
しかし、それは別にどうでもいい事だったので、早速ヨウメイへと顔を向けた。
「ヨウメイ、一つ教えて欲しい事が・・・」
「ええーっ!!?」
太助の教えてという言葉にすぐさま反応した彼女は、花織にも負けないくらいの声で叫んだ。
もちろんそこに居た一同は皆耳を塞ぐ・・・。
「ヨウメイぃ〜・・・。」
「あ、どうもすいません。だって嬉しくって・・・これでサンタさんに食べられなくて済むし!
で、何を教えて欲しいんですか?」
目を輝かせて訪ねるヨウメイ。シャオをも押しのけんばかりの勢いで太助の傍に寄ってきた。
「まったく・・・。えーとだな・・・ちょっと待て、今なんて言った?」
「え?何を教えて欲しいんですか?って。」
「違う、その前だ!」
「ああ、サンタさんに食べられなくて済んだ、って事ですね。それが何か?」
「なにーっ!!?」
「「「「「ええーっ!!?」」」」」
太助の叫びの後に、シャオを除く全員が声を上げる。
いきなりの事に驚いた様子も見せず、ヨウメイは平然と見まわす。
「どうしたんですか?皆さん。あ、大切な事を教えておかないといけませんね。
今年はサンタさんのプレゼント過程が初めて作られた年の丁度倍でして・・・。」
淡々と妙な説明を始めたヨウメイ。皆は引き込まれる様にそれに聞き入った。
「・・・というわけで、えらく大変なんですよ、今年のクリスマスは。
とにかくプレゼントを貰わないとあの世に連れていかれるわけですからね。
私がたまたまこの時代にいて、運が良かったですね〜、皆さん。」
長い長い説明を終えたヨウメイ。
しんと黙りこくっていた面々だが、やがて花織がすっと手を上げた。
「あの、楊ちゃん、それ本当?」
「えっ、知教空天である私の言う事を疑うの?親友として悲しいよ・・・。」
くすん、と泣き始めるヨウメイ。あわてて花織は駆け寄った。
「ご、ごめん楊ちゃん、疑ったりして。ほ、本当なんだ・・・。」
「うん。だからね、ちゃんと身構えててよ。でも良かった、主様が訊いてくれて。
すっかり忘れてたよ・・・。」
涙を拭いて、太助の方ににこりと笑いかける。と、太助はひきつった顔で尋ねた。
「あの、ヨウメイ。山野辺が言ってた事も本当?」
「山野辺さんが?」
「ああ。どういう風にプレゼントを・・・っての。」
言われて翔子の方を見たものの、すぐに統天書をめくり出したヨウメイ。
ふむふむと頷いたかと思うと、すました顔でパタンとそれを閉じた。
「嘘ですよ。」
「なんだ、嘘か。良かったあ・・・。」
「最後はキスじゃ有りません。一緒に寝て同じ夢を見るのです。
ふむ、実行しておかねばなりませんね・・・。」
「ちょっと待てー!!!」
ホッとした太助だが、続いたヨウメイの言葉に突如立ち上がった。
「なんだよそれ!プレゼント貰うだけじゃあダメなのかよ!!」
「ああ、説明補足しておきますね。実はサンタさんの○○って事柄は、別に知らなくていいんです。
知らなければ、別にプレゼントを貰えなくても何ともなら無い。
ただ、知ってしまった場合は、その知識を得た原因の人物、つまりは知教空天であるこの私。
その主は、山野辺さんが言った事を実行しなければならないんです。
もちろん私から情報を得たそれ以外の人も、それなりにプレゼント交換を行わないといけませんよ。」
「・・・つまりは、知らぬが仏、って事か?」
「ええそうです。でもね、主様から訊かれたからには教えないわけにはいかないじゃないですか。ね?」
なんともまっすぐな瞳で太助を見るヨウメイ。
がく〜んとうなだれた太助に、更に周りの面々からきつい視線が送られる。
変な知識が加わったのは太助の所為でもあるからだ。
「七梨、お前って奴は・・・。」
「・・・待て、山野辺。よくよく考えれば、ヨウメイが勝手に喋り出した事じゃないか!」
「私の所為にしてもいいですけど、プレゼント交換をしなければならないのは変わりませんよ。」
「うっ・・・。ええーい、こうなったらヤケだ。シャオ!!早く帰ろう!!」
「は、はいっ!!」
途端にシャオを引っ張って教室を出る太助。
それを皆は見送っていたが・・・。
「お、おい待てよ七梨!!」
「七梨先輩〜!!」
「ちょっ、花織〜!!」
「待ちなさいって〜!!」
「僕も帰るよー!!」
あっという間に、教室にはヨウメイだけが取り残された。(偶然にも皆は気付かなかった)
と、それと入れ違いになるかのようにガラッと開く扉。ルーアンが入ってきたのである。
「あれ?今さっきたー様たちの声がしたと思ったのに?」
「さっき出ていったの見なかったんですか・・・。
そんな事よりルーアンさん、いい事をお教えしましょう。」
「え、なになに?いい事って。」
いい事という言葉に反応して傍に寄っていくルーアン。
「実はですね、今年のクリスマスは・・・。」
こうしてまた一人新たに、妙な知識を植え付けられた者が・・・。


・・・そしてクリスマスイブ。
やはりというか、たかしの提案通りに太助の家でパーティーが行われる事となった。
参加者は七梨家の者、花織、熱美、ゆかりん、たかし、乎一郎、出雲、といつものメンバーだ。
しかし、何故か皆がそわそわとしている。プレゼント交換を行わなければ成らないからだ。
(結局の所、パーティー参加者全員にヨウメイは話をしたらしい)
とは言っても・・・。
「おーし!!これからプレゼント交換を行う!!みんな、用意しろー!!」
司会のたかしによって、それぞれがプレゼントを用意した。
つまりは、皆で交換を行おうというわけである。
しかしその場に太助とシャオだけは居ない。太助の部屋で二人っきりだという状態なのだ。
「たく・・・なんでたー様とシャオリンとが・・・。」
「まあまあルーアン先生。ハイ、クリスマスプレゼントです。」
「御食事券・・・。ありがと、野村くん♪じゃあ遠藤君、海老の殻。」
適切なプレゼントを受けとって御機嫌な声を出した割にはけちくさい、
ルーアンの出したもので皆ががくっとなる。
しかし、うれしそうにそれを受け取る乎一郎であった。
「以前と違って、中身キレイに繰り抜いて・・・芸術作品ですっ!!」
「おっほっほ、私って器用でしょ?」
高笑いするルーアンを見て、たかしと花織がひそひそと話をする。
「なるほど、乎一郎の隣にわざわざ座ったのはそういう事だったのか・・・。」
「手抜きですね、おもいっきり。」
「ん!?そこの二人なんか言った!?」
「べ、別に、なんでもありませんよ。ほら乎一郎。」
「う、うん。じゃあ熱美ちゃん、これを。」
と、乎一郎が取り出したのは・・・花である。真っ赤なバラだ。
「遠藤先輩、これって・・・造花ですか?」
「そうだよ。枯れないからいいかなって。」
「まあその方がいいですよね・・・。それじゃあ出雲さん、私からはこれです!」
元気良くプレゼントを取り出した熱美。それは一つのキーホルダーだった。
雪の結晶をかたどった、輝く飾りである。
「ほほう、これはきれいなものを・・・。」
「でしょう?偶然見つけたんですよ。」
それは、以前花織達四人でファンシーショップへ行った時に買ったもの。
密かにこの時を待っていたようでもあるが・・・。
「素敵な物をありがとうございます、熱美さん。」
「いえ、そんな・・・。」
にこりと笑ってプレゼントを受け取る出雲。そして次なる人物へと向いた。
「それでは那奈さん。これをどうぞ。」
「さんきゅ・・・って、なんだこれ?」
「幸運を呼ぶ御守りですよ。特別に仕立てたんです。」
説明をしてふぁさぁと髪をかきあげる出雲。
那奈はそんな彼を呆れながら見ていたものの、それを有り難く頂戴した。
「さて、翔子。あたしからのプレゼントはこれだ!」
「おおお!!こ、これは・・・瓠瓜ぁ!?」
なんと、那奈が差し出したのは瓠瓜。
いつの間にシャオに呼ばれていたのか、愛くるしい顔を見せていた。
「那奈ねぇ、ホントに本当?」
「何が?」
「瓠瓜がプレゼント?」
「・・・違うよ。瓠瓜、吐き出していいよ。」
「ぐえ。」
那奈に言われて、瓠瓜が体内から呑み込んでいた物を外に出す。
そこに現れたのは・・・。
「本!?」
「そうだ。適当なもんが無くてさあ〜。」
「・・・“おじいちゃんのすご〜い技”。何処かで見たようなタイトルだな。」
「なんだそうか?まあ読んでくれよ、あはははは。」
笑いながらぱしぱしと翔子の背中を叩く那奈。
合わせて周りの皆も引きつり笑いを浮かべるのだった。
「さてと、それじゃあヨウメイへのプレゼントはこれだ。」
落ちついた翔子がヨウメイへと箱を差し出した。
「へえ〜、これは・・・なんか音がしますね。」
「・・・まあいいから開けてみなって。」
「はーい。」
包みを開けると、その箱の中に入っていたのは・・・。
「・・・これって、腕時計ですか?」
「そ。時間を知るのにもいちいち統天書開けなくてもいいだろ。」
「ありがとうございます♪」
アナログ式のなんともシンプルなものだったが、ヨウメイは嬉しそうにそれを腕にはめた。
そして、御機嫌な顔で自分のプレゼントを取り出す。
「はいゆかりん、私からはこれだよ。」
「・・・鉛筆?」
「そう、万能鉛筆。これ一本で全てのペンの字が書けるんだよ。」
「全て?」
「そ。シャープペン、色鉛筆、筆の字だって書けちゃうんだから。」
「うっそお・・・。」
ゆかりんを含め、皆は驚きの色を隠せない。見た目はただの鉛筆なのだから。
「ま、今度試してみてね。」
「う、うん・・・。えーと、それじゃあキリュウさん、あたしからはこれです。」
深く入らずに納得し、ゆかりんは自分のそれを差し出した。
「・・・これは手袋か?」
「ええそうです。キリュウさん寒いのが嫌いだっていうから。」
「しかし・・・小さすぎないか?」
「大きさは万象大乱で調節してください。このデザインが可愛かったから。」
「う、うむ、ありがとう・・・。」
お礼を言ってはいるが、明らかに戸惑っているキリュウ。
ゆかりんが差し出した手袋は、真っ赤な布地に可愛らしい竜の絵が縫い付けられてる物だった。
どうやらキリュウの柳と龍をかけていたものらしい。
「ふう、では花織殿。私からはこれだ。」
疲れた顔ながらもキリュウは自分の物を取り出した。
「うわあ!!これって竹とんぼですか!?」
「良く知っているな。ゲーム好きだからこういうのが良いと思ってな。」
「なんか年期が入ってるような気がしますけど。」
「私特製だ。気にされるな。」
「・・・まあいいや。キリュウさん、ありがとうございますっ。」
結局は笑顔を見せた花織。例の如く顔を赤くしたキリュウは少しばかり俯くのであった。
「それじゃあ野村先輩。あたしの取っておきのプレゼントを。
でもなあ、本当は七梨先輩にあげるつもりだったのに・・・。」
「悪かったな、俺で。太助の分まで受け取るからさ。」
「はいはい、まあしょうがないよね・・・。では、じゃじゃーん!!」
で〜んと花織がプレゼントを見せる。
それは・・・巨大なおもちゃセットだった。
その大きさは並みのものではない。一体何処にこんなものを持っていたのか。
たかしのみならず、全員が驚きの表情となるのだった。
「あのう、愛原さん、これはなんでしょう・・・。」
「なんなんですか野村先輩、改まっちゃって。一生遊べるおもちゃセットでーす!
去年より更に磨きをかけてパワーアップさせたんだから!!」
「そうなんだ・・・。太助は去年こんなのを受けとって・・・」
「それがね、置き場所がないからって言われて断られたんですよお。
だから野村先輩にあげます。ちゃんと去年のにプラスされてますっ!」
得意げに胸を張る花織。たかしはただ呆然とそれを見ているだけしか出来なかった。
しんとする中、距離が近いながらもひそひそと話をする者も居た。
「・・・ねえ楊ちゃん、要は七梨先輩のお下がりだよね。」
「うまいね、ゆかりん。しっかしどうやってもってたんだろ。
ひょっとして万象封鎖の極意かなあ・・・。ふむっ。」
何やら閃いたヨウメイ。何気なく統天書をめくり出した。
それをよそに、花織はもう一度たかしに言う。
「さあ野村先輩、受け取ってくださいよ。」
「あ、ああ・・・。ありがとう・・・。」
受け取らないといけないという意識からなんとかたかしはそれを受け入れた。
とりあえずこの時点でプレゼント交換は御終い。全員、サンタに連れて行かれる事は免れたのだ。
「ふう、全く妙なイベント・・・」
「ああー!!!!」
疲れて息をつこうとしていたルーアンの声がヨウメイによって中断させられる。
いきなりの事に当然びっくりした面々。隣にいたゆかりんが恐る恐る聞いた。
「どうしたの?楊ちゃん。」
「午後十時以降は、話を聞いたもの全員でゲーム大会をしないと!!」
「はあ?なんなのそれ。」
思わず聞き返したゆかりん。だが、ヨウメイはたじろぐことなく続けた。
「いいですか、良く聞いてくださいよ。
ゲームをする事によって楽しむ。これは天界にいる神様達にとっても、
それを見たりするのが大変喜ばしい事なんです。
今晩私の話を聞いた者達のそれが見られないと・・・問答無用で地獄に連れて行かれます。」
「そ、それでどうなるの?」
「もちろん死ぬって事ですからね。それで・・・。」
世にも恐ろしい事柄を次々と並べ立てるヨウメイ。
全ての話が終わった後で、花織が慌てて叫んだ。
「大変!!早く七梨先輩とシャオ先輩も!!」
「うん、花織ちゃん、急いで!!」
言われてだだだっと駆け出す花織。ここぞとばかりにたかしとルーアンと出雲も駆けて行く。
黙ってその光景を見送っていた翔子がヨウメイをつついた。
「おい、話が違うじゃないか。」
「何言ってんですか。もうプレゼント交換が終わってると分かったからこう言ったんですよ。
それに、後二人きりってのは寝るときでいいんです。」
「そういやそうだったっけ・・・。」
少し頭を抱え込む翔子だったが、那奈にぽんと叩かれて気にしない事にした。
皆がそのままでいる中、キリュウだけは不思議そうにヨウメイをじっと見つめていた。


少し時間を戻して太助の部屋。
なんともまごまごした雰囲気で、太助とシャオの二人が居た。
プレゼントをちゃんと二人とも用意して身構えていたものの、やはりいざとなると緊張しているようだ。
しかし、長い沈黙時間に終止符を打つように、太助が口を開いた。
「あ、あの、シャオ・・・。」
「は、はい・・・。」
「その、これ・・・。」
顔を赤くさせながら太助が差し出したのは小さな箱。
シャオはそれをすっと受け取った。
「開けてもいいですか?」
「あ、ああ・・・。」
ぱかっと小さな箱を開けるシャオ。そこにあったのは・・・
「まあ、きれいな指輪ですね。」
「う、うん・・・。」
「ありがとうございます、太助様。大切にしますね。」
嬉しそうに笑って指にそれをはめるシャオ。
そしてもう一度微笑むと、自分の分を取り出した。
「どうぞ、太助様。」
「あ、ああ。」
緊張したままでシャオからのプレゼントを受け取る太助。
包みを解くと、そこに現れたのは・・・
「へえ・・・凄くあったかそうなマフラーだな。」
「ええ、寒いから丁度いいと思って。本当は自分で編みたかったんですけど・・・・。」
「えっ?」
早速それを身につけた太助だが、シャオの言葉に反応した。
「慌てて作って変に出来あがってもあれですし・・・。
何しろ今回は時間が無かったものですから。」
「そうか・・・。」
残念そうに喋るシャオ。しかし、太助も残念そうな顔をしたのを見てぱっと笑顔に変えた。
「でも、でもね、来年こそ頑張って作ってみようかなって。
けれどマフラーはもう買っちゃったから・・・セーターなんてどうですか?」
「俺に尋ねなくても・・・。シャオが作ってくれるのなら何でもいいよ。」
「本当ですか?」
「ああ。シャオが作ったものはとっても心がこもってるからさ。」
「太助様・・・。」
うれしげな顔を見せるシャオ。
言った後にハッとして顔を赤らめる太助。
二人はお互いの顔を見て“あはは”と笑い合う。随分緊張がほぐれた様だ。
「ふう、それじゃあこれからどうしようか。」
「プレゼント交換は無事に済みましたもんね。でも寝るにはまだ早いですよね・・・。」
ちらりとベッドを見るシャオ。
つられて太助も見たが、そこで再び顔を赤らめる。
同じ様に、シャオも頬を赤く染めるのだった。
そこで会話が途切れ、二人の間に沈黙の時が流れる。と其の時、
バーン!!
と、勢い良く扉が開いて花織が姿を見せる。
突然の事にびっくりして、二人は思わず抱き合うのだった。
「ああー!!!ふ、二人して何やってんですかー!!」
「あ、愛原?い、いやこれは・・・。」
「か、花織さんこそどうしたんですか?」
誤魔化す事も兼ねてシャオが逆に質問。と、それに答えたのは・・・。
「ヨウメイちゃんが、皆で楽しくゲームをしなきゃいけないって言ってさ・・・。」
たかしが素早く花織の横に出る。密かに、ルーアンの視界を遮る為でもあった。
「ちょっと野村くんに小娘、どきなさいよ!!」
「ま、まあまあルーアンさん。」
暴れるルーアンをなだめる出雲。チラッと部屋の光景が見えた彼は、
絶対にルーアンに見せては成らないと、本心を押し殺してなだめ役に徹するのだった。
「ほら、七梨先輩もシャオ先輩も!!」
「う、うん・・・。」
「わ、分かりましたわ・・・。」
苛立つ花織に急かされてようやく離れて立ち上がる太助とシャオ。
プレゼントをとりあえず部屋に残して、皆がいるリビングへと四人と共に降りて行くのだった、
かくして、急激に開始されたゲーム大会。
とにかく楽しまなきゃだめだという事で、
日頃の鬱憤を晴らすかのようにそれに熱中し始める面々であった。


屋根の上。激しいゲーム大会で騒いでいる皆をよそに、キリュウとヨウメイの二人が座っていた。
途中からは抜け出しても良いという規約を、ヨウメイが説明して討ち立てたのである。
もちろんそのままではキリュウが寒いので、ヨウメイが気温調節をしている。
「・・・なあヨウメイ殿、今日のこの騒ぎは一体どういう事か説明してくれ。」
「騒ぎも何も・・・ああ、もうすぐ日が替わりますね。
それではキリュウさんに一足早くお教えしましょう。」
「ふむ。」
頷くキリュウ。
腕時計をチラッと見ていたヨウメイは、ふふっと息をついて口を開いた。
「あれは全部嘘なんです。」
「なんだと!?」
思わず立ち上がったキリュウ。ヨウメイは“まあまあ”と彼女を落ちつかせるのだった。
「山野辺さんがサンタさんに食べられるなんて話をしていたのを統天書で知って、
それで、私なりにアレンジを加えて考え出したものなんです。」
「なるほど、それで翔子殿達は驚いた雰囲気を見せていたわけか。
それにしても嘘とはどういう事だ?知教空天がそんな事を言っていいのか?」
「・・・これは、過去の主様から貰ったクリスマスプレゼントなんです。」
昔を懐かしむ、そんな目をしながら、ヨウメイは静かに語り出した。
「昔々、遥か昔、とある主様に仕えていた時にクリスマスが訪れたんです。
丁度その時期が私が主様の元を離れる時と重なりまして・・・。」

「ヨウメイ、最後に一つだけ教えてくれ。」
「なんでしょう?」
「クリスマスプレゼントは何が欲しい?」
「・・・別に要りませんよ。もはや私には無駄な事です。」
「そうか・・・。いや待て、どうしても僕がプレゼントしたいといったら?」
「それは・・・喜んで受け取りましょう。」
「よし。まずヨウメイ、君は嘘をついたことがあるか?」
「そんなのある訳ないじゃないですか。嘘を言っては知教空天の名折れです。」
「でも、嘘を言いたい時とかはあるんじゃないのか?」
「・・・そりゃあまあ。でも・・・」
「言う事は出来ない、だね?」
「え、ええ・・・。」
「やっぱり・・・。そこでだ、今日、このクリスマスイブの日だけは嘘をついていい。
それがこの僕からのクリスマスプレゼントだ。」
「そんな!主様、私は・・・」
「ただし!ちゃんと考えて嘘を言うんだ。もちろん一年の鬱憤を晴らすつもりでさ。」
「あのね・・・。でも、今の主様は許しても、後の主様達は・・・。」
「その時は僕がすぐさますっ飛んで行って文句を言ってやる。もしくは説得する。
これでどうだい?」
「・・・まさかその為に私からあんな事を教えて欲しいと言ったのですか?」
「いいや、そうじゃない。あそこまで教えてもらったお礼にと思ってさ。」
「そうですか・・・。分かりました、この日だけは嘘をついちゃいますね♪」
「おっ、その気になったか。それでこそヨウメイ。」
「当然ですっ。主様・・・。」
「なんだ?」
「クリスマスプレゼント、とっても嬉しくなかったですよ♪」
「・・・ぷっ、あははははは!!早速嘘を言ってるな。」
「やっぱり顔に出ちゃいますよ。」
「まあそのうち立派な嘘が言えるようになるさ。それじゃあな、ヨウメイ。」
「ええ、さようなら。」

・・・という事です。最後にさようならなんて言ってますが、再び出会ったんですよ。
だから、一番最後に言った言葉も嘘、ですね。」
昔話を終えたヨウメイ。だが、キリュウは納得のいかない顔でいる。
「・・・一つ質問してもいいか?」
「ええ、一つだけならいいですよ。」
「・・・その主とは何者だ?何年も後に再び会ったのだろう?」
「それだけは教えられません。ちょっとだけ言うと、あんな人は初めてでした・・・。」
にこりとして返すヨウメイ。その顔は、“これ以上は喋りませんよ”と言っているようだ。
それを見てキリュウは諦めたのか、“そうか”とため息をついて空を見上げた。
不思議とそれとなく嬉しくなったのか。一緒になってヨウメイも空を見上げる。
雲一つ無い澄みきった夜空に、沢山の星がやさしい輝きをみせていた・・・。

≪おしまい≫