風呂から上がった後、テレビを見ながらくつろぐ。
言っておくけどビールなんて飲んでないぜ。俺はオヤジじゃないんだからな。
天気予報を見ると、この雨はどうやら明日の朝まで続くらしい。
なんだ、にわか雨とかじゃなかったんだな。ちっ、俺の詠みは外れって訳か。
その時、『ピンポーン』という呼び鈴の音が。
「誰だ?こんな時間に、しかも外は大雨だぞ・・・。」
疑問の表情を浮かべたまま俺は玄関へと向かった。そしてがちゃりとドアを開ける。
「はーい、どちら様・・・シャオちゃん!!」
そう、シャオちゃんだ。傘もささずに来たのだろうか、ずぶ濡れの状態で立っている。
「どうしたのシャオちゃん、そんなに濡れて・・・。」
一応訊いてみた俺だが、シャオちゃんの表情を見てはっとなった。
全然生気が感じられない。目も何処を見ているのか分からない、そんな顔だ。
しばらく何も言えずに黙っていると、シャオちゃんがゆっくりと顔を上げた。
目には大量の涙が浮かんでいる。雨粒じゃない、涙だ。
「たかしさん・・・うわああああん!!!!」
「しゃ、シャオちゃん!!?」
シャオちゃんはおもいっきり声を上げると同時に俺に抱き付いてきた。
いきなりの事に気が動転するも、俺は優しく言う。
「とりあえず中へ入りなよ、な?」
今だ俺の胸の中で泣きじゃくっていたシャオちゃんだったが、ゆっくりと顔を離してこくりと頷いた。
そして俺はシャオちゃんを中へと招き入れるのだった・・・。
リビングにてシャオちゃんを待つ。と、バスローブに身をつつんだシャオちゃんがやって来た。
そう、びしょ濡れだった彼女にお風呂に入ってもらったんだ。当然の事だろう?
それにしても色っぽい・・・。やっぱ湯上りは違うなあ・・・ってそんな事言ってる場合じゃないっての!!
シャオちゃんの目は真っ赤だった。風呂に入っているときも相当泣いてたんだろうな。
「落ち着いた?とりあえずここに座ってくつろいでよ。」
「・・・・・・。」
無言のままシャオちゃんは俺の前の椅子に腰を下ろした。
やはりというか目がうつろだ。この様子じゃあ何も喋りそうに無いなあ・・・。
「ところでシャオちゃん、おなか空いてない?俺なんか作るよ。」
立ち上がると、シャオちゃんは遠慮深そうに首を横に振った。
「ひょっとして、晩御飯もう食べちゃったとか?」
するとまたもや首を横に振る。おなか空いてないのかなあ・・・。
「あ、あのさ、一応晩御飯を・・・」
「たかしさん・・・」
「えっ?」
やっとの事で口を開いてくれた。けれどその顔は今にも泣き出しそうだ。
これは傍についてちゃんと話を聞かないと・・・。
というわけで、俺は再び腰を下ろした。
「私、私・・・。」
ようやく言葉を発したと思ったら、また泣き出してしまった。
慌てて俺はシャオちゃんの両肩に手を置く。
「つらいんなら喋らなくていいから。ひょっとして太助の事・・・」
「太助様なんて知りません!!!」
突然キッと顔を上げたかと思うと大声で怒鳴ってきた。
びっくりして俺は手を離す。
俺の様子を見てか、シャオちゃんは慌ててうつむくのだった。
「す、すいません・・・。」
「い、いや・・・。」
そうか、やっぱり太助がらみか。多分喧嘩か何かしたんだろうな。
たく、シャオちゃんを泣かせるなんてとんでもない奴だな。
それ以前になんでこんなに早い時期に・・・。
「あの、たかしさん。一つお願いが・・・。」
「なに?」
「しばらくここに泊めていただけませんか?」
「え、ええっ!?」
「あ、あの、あつかましい事は分かっているんです。
でも、私は、七梨家に戻りたくはありません・・・。」
言いおわるとシャオちゃんは再び泣き出してしまった。相当深刻な様だ。
しかもこの雨の中家出だぞ、家出。ここはばっちり面倒を見てあげないと。よし!
「シャオちゃん、言いたい事はよく分かったよ。
詳しい事情は聞かないからさ、気がね無くこの家で暮らしてくれ。」
「ぐすっ、本当に良いんですか?」
「もちろんだよ!それに、丁度俺んち家族が誰もいないんだ、旅行に行っちゃってさ。
だからその、俺と二人っきりになるけど・・・。」
「ありがとうございます、たかしさん・・・。」
初めて笑顔を見せてくれたシャオちゃん。まだ少しばかり泣いてるけど。
それにしても言って初めて気付いたなあ。そうだよ、今はシャオちゃんとこの家に二人っきりじゃないか。
という事はシャオちゃんと中学生にあるまじき夜を・・・って、いかんいかん、俺は何を考えてるんだ!!
せっかくシャオちゃんがこの俺を頼ってきてくれたんだから、俺がしっかりしないと。
「あの、たかしさん?」
「へ?」
ふと我に帰ると、シャオちゃんがまっすぐな瞳で俺を見つめていた。
な、なんだろう・・・。
「晩御飯は私が作りたいのですが、宜しいですか?」
そうか、そう言えば晩御飯について途中になってたっけ。
「えっ、う、うん。」
頷くと、シャオちゃんはぱあっと顔を輝かせた。
何がそんなに嬉しいのかよくわからなかったけど、
とりあえずシャオちゃんの手料理が食べられるのもいいもんだ。
「それじゃあたかしさんは座っててください。」
「いや、俺も手伝うよ。まだこの家に慣れてないだろ?」
「それではお願いします。」
シャオちゃんはなんとも言えない明るい表情になる。
それが嬉しくて、俺もついつい浮かれるのだった。
というわけで、朝食後に早速二人で外へ出る。
シャオちゃんの服は、実は親のを借りている。何着ても似合うからなあ・・・。
麦藁帽子をかぶった、その真っ白なワンピース姿は真夏の天使(さっきも言ったけど)。
「それじゃあたかしさん、行きましょう。」
言うなり、シャオちゃんは俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。
暑苦しいなんてことは当然却下だ。感激のあまりその場に立ち尽くす俺・・・。
「たかしさん?」
「あ、ああごめんごめん。それじゃあ遊園地へ向かって出発!!」
「はいっ!!」
そして二人並んで歩き出す。道行く人が俺達に注目している・・・?
そりゃあまあ、どっから見てもアツアツのカップルだもんな。
と、向こうの方から人影が・・・。
「あれって・・・。」
「出雲さんですね。」
言うなりシャオちゃんは目を伏せた。なんだ?なんか様子が変だな。
「おや野村君、・・・と、そちらはシャオさんですね。これからどちらへ?」
丁寧に挨拶をしてきたものの、何やら怪訝そうな目つきだ。
ひょっとして太助とシャオちゃんの間に何かあった事を知らないのか?
「えーと・・・。」
説明しようと思ったら、シャオちゃんにぐいっと手を引っ張られた。
何事かとシャオちゃんの顔を見ると・・・。
「逃げましょう、たかしさん。」
「えっ。」
俺が反応すると同時に、シャオちゃんはだっと駆け出した。
なすがままに俺が引っ張られて行くのは言うまでも無い。
振り返ると、ため息をついててくてくと歩き去って行く出雲の姿が。
いいかげん走ったところで俺はストップをかける。
「ちょっとシャオちゃん、もういいって。」
「はあ、はあ・・・。」
止まると同時に、大きく息をつくシャオちゃん。
全力で走ってたのか。それにしても一体どうして・・・。
「さあたかしさん、早く遊園地に行きましょう。」
「シャオちゃん・・・いや、何でも無い。じゃあいこうか。」
「はいっ!」
理由を聞いておきたい気もするけど、やっぱり本人が言い出すまでは・・・。
ともかく俺とシャオちゃんは遊園地にやって来た。
昨日の大雨は何処へやらという感じの空。その所為か客もかなりの量だった。
「うああ、沢山居ますね。」
「そうだね、はぐれないようにしないと。」
「大丈夫ですわ、こうしていれば。」
さっきまで離していた手を俺の腕に深く絡ませてくるシャオちゃん。
だ、大胆になったなあ。誰の影響だろう・・・。
まあ細かい事は気にしない。ここまできたらたっぷり楽しむ!
「じゃあ行こうか。」
「ええ。」
俺もシャオちゃんもルンルン気分で遊園地へと足を踏み入れるのだった。
ジェットコースター、メリーゴーランド等の様々な乗り物に乗る・・・。
二人仲良く、すっかりデート気分だ(いや、実際これはデートなんだけど)。
「たかしさん、次あれ入ってみましょう。」
「お化け屋敷・・・。シャオちゃん、怖かったらいつでも抱き着いていいんだよ。」
なーんてな、カッコつけすぎかな。第一シャオちゃんはあんまり怖がりじゃな・・・
「はい、頼りにしてますわ、たかしさん。」
おおっ!?い、いいのか?
というわけでドキドキのお化け屋敷へ・・・。
中は雰囲気を出すためか暗い通路から始まっていた。ついでに生暖かい風も。
「不気味ですね、たかしさん。」
「あ、ああ。」
と、シャオちゃんが俺の服をぎゅっとつかんできた。
確かに不気味だけど、そんなにこわ・・・
「きゃああ!!」
「うわっ!?」
突然シャオちゃんがおもいっきりしがみついてきた。
周りを良く見ると、何処から出たのか首吊り人形が・・・。
「シャオちゃん、大丈夫。これは人形だよ。」
「うう、ふええ・・・。」
な、ひょっとして泣いてる!?そうか、やっぱりシャオちゃんは繊細な・・・。
「シャオちゃん、この俺がしっかり護るから。」
「は、はい・・・。」
ますますぎゅっと俺の体をつかむシャオちゃん。
そんなこんなで、出口までシャオちゃんは叫んでは俺にしがみつくの繰り返しだった。
外へ出た時には、なんだか目が真っ赤・・・。
「シャオちゃん、大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。えへ。」
ないた後の顔に少しばかりの笑み。なんて可愛いんだ!
笑顔が素敵なシャオちゃんに乾杯!だぜ。
「たかしさん、喉乾きませんか?」
「そうだな、ジュースでも飲もうか。」
というわけでジュースを買って飲む、が、なぜか買ったのは一つ。
「あのさ、シャオちゃん。二つ買おうよ。」
「えっ・・・、ああ、そうですね・・・。」
なぜかちょっと残念そうなシャオちゃん。ひょっとして間接キッスを狙っていたの・・・?
そんな馬鹿な・・・いや、有りうるかも・・・。
うんうんと頭をうならせていると、シャオちゃんが買ったジュースを差し出してきた。
「はいどうぞ、たかしさん。」
「ああ、ありがとう。・・・あのさ、シャオちゃん。」
「たかしさん!今度はあれに乗りませんか!?」
俺の言葉を遮ってシャオちゃんは観覧車を指差した。
“ふう”とため息をついて俺は立ちあがる。
「じゃあ行こうか。」
「はいっ。」
またもや腕を絡ませてくるシャオちゃん。なんか変だな・・・。
昨日来た時から様子が変なのは分かり切ってるんだけど・・・。
で、観覧車の中。俺は思い切って聞くことにした。
「シャオちゃん、太助の事なんだけど・・・」
「太助様の話なんてしたくありません!!」
途中で叫んだかと思うと笑顔を曇らせるシャオちゃん。
それでも、構わず俺は続けた。
「いいから聞かせてよ、太助と何があったのさ。ついこの間太助に・・・」
「止めてください!!」
ついにはシャオちゃんは泣き出してしまった。
しまった、やっぱり聞くべきじゃなかったな・・・。
「ごめんよ、シャオちゃん。」
しばらくの間、なんともいえない気まずい空気が流れる。
俺は、ついさっき買ったジュースをすするしか出来なかった。
と、うつむいていたシャオちゃんの顔が上がる。
「・・・たかしさん、私のこと好きですか?」
「ぶーっ!!」
思わず俺はジュースを吹き出してしまった。
「シャオちゃん、いきなり何を・・・」
「いいから答えてください!私は・・・たかしさんが好きです。」
「・・・・・・。」
俺のことが好きだって?でもなあ、みんなも好きだなんて後に続くんじゃ。
「教えてください、たかしさんは私が好きじゃないんですか?」
「いやいや、もちろんシャオちゃんの事は好きだよ。でも・・・。」
「でも、なんですか?」
「シャオちゃんは、みんなのことも好き・・・」
「違います!!私は、たかしさん、あなたの事が好きなんです!」
「シャオちゃん・・・。」
そういえば恋愛感情を理解したんだっけ。という事は本当に?
「一番俺が好き?」
「はい!!大好きです、たかしさん!!」
言うなりシャオちゃんは俺に力いっぱい抱きついてきた。
それと同時に声も立てずに泣き出した。胸の辺りが冷たくなってくる。
シャオちゃんの涙が、いっぱいいっぱいあふれてるんだろうな・・・。
俺は無言のままシャオちゃんを力強く抱きしめる。
「俺も大好きだよ、シャオちゃん・・・。」
「たかしさん・・・。」
しばらく俺達はそのまま観覧車を何週も乗った。
そして、遊園地を出たころには日が西へ傾いていた。
「随分遅くなっちゃったな。早く帰ろう。」
「ええ、晩御飯は何がいいですか?」
「えーと・・・何でもいいよ。シャオちゃんが作る料理は何でも美味しいから。」
「まあ、ありがとうございます。」
少し照れながらもシャオちゃんは笑顔で答えてくれる。
やっぱり、シャオちゃんはそういう顔が一番だよなあ、うん。
「たかしさん。」
「なんだいシャオちゃん。」
「私、たかしさんと居るだけで幸せです。これからもよろしくお願いします。」
「あ、ああ、もちろん!!」
嬉しい、嬉しすぎるぜ!!俺と居るだけで幸せなんて・・・ああ、生きてて良かった。
そして俺達は、仲むつまじく夏休みを過ごすのだった。
そしてあっという間に食事終了。
太助の食べっぷりのすごかったのなんの。ルーアン先生も引いてるくらいだったぜ。
それで、例によってリビングにてシャオちゃんの入れたお茶をすする。
「さて、それじゃあ聞かせてもらおうか。どうしてシャオちゃんが家出したのか。」
しかし肝心の太助とシャオちゃんは黙ったままだ。やっぱ気まずいのかな。
戸惑っていると、ルーアン先生がすっと手を挙げた。
「あたしが説明してあげるわ。良いわね、たー様、シャオリン。」
迷っていたものの、二人はこくりと頷いた。そしてルーアン先生が喋り出す。
「あれは大雨の日だったわね・・・。」
雨が降っているので外へも出掛けるわけが無い。
というわけで、家の中であたしはたー様に引っ付きまわっていたの。
「たー様あん、ルーアン退屈う。」
「だからって引っ付くなあ!!今日一日ずっとこうだな・・・。」
「ルーアン先生、それは良くないって。」
「ま、まあ、あれはあたしもやりすぎだったなって、あははは、それでね・・・。」
「もう、何が不満なのよ。やっぱりシャオリンがいいの?」
「えっ、あ、いや、まあ、そう・・・と、とにかく引っ付くなよ!!」
「ちょっと、ちゃんと答えてよ。シャオリンと一日中引っ付いていたいの?」
「いや、まあ・・・。」
「ちゃんと答えるまでずっとこのままだからね。」
「えっ、それはちょっと・・・。」
「あら、ルーアンさん、太助様。二人とも仲が良いんですね。」
なんとシャオリンとばったり出会ったの。
そんでもって堂々とそんなセリフを。誰の影響か知らないけど、まったく強くなったもんね。
けれど、それがたー様の気に触ったのかしら。た―様ったら・・・。
「なんだよそれ。シャオはなんとも思わないのかよ!」
「なんとも・・・思わない訳ないじゃないですか!!ちょっと言ってみただけです!!」
「なんだって!?そうか、山野辺がまた変な事を・・・。」
「翔子さんは悪くありません!!どうして太助様はそんな事を・・・。」
「そんな事より、どうして素直に妬きもちやかないんだよ。仲が良いんですねなんて言って!!」
「だからそれはちょっと言っただけなんですって!!」
「ちょ、ちょっと二人とも・・・。」
慌ててあたしはたー様から離れて二人の仲裁役に回った。
けれど、そんなあたしにもお構い無しに、どんどん二人の言葉はエスカレートしたの。
「どうせ、俺なんかよりも出雲の方が良かったとか思いだしたんだろ!」
「非道い・・・。どうしてそんな事言うんですか!!
太助様だってルーアンさんや花織さんにべたべたされて・・・そっちの方が良いんじゃないんですか!?」
「俺はそんな事は無い!!きっぱり断ってるじゃないか!!」
「あんなの、全然きっぱりじゃ無いです!!」
「じゃあシャオはどうなんだよ。前に宮内神社に泊まりこみに行った事があったよな。」
「あれは、キリュウさんに言われて・・・。」
「試練だってか?けれどそれを間に受けて俺からすっぱり離れて・・・。
その時に“ああせいせいした”とでも思ってたんじゃないのか!?」
パシン!!
そこで口喧嘩は終わったわ。シャオリンがたー様のほっぺたをひっぱたいたから。
「シャオ・・・。」
「・・・太助様なんか大っ嫌い!!!」
そして泣きながらシャオリンは家を出て行ったの。
たー様は呆然とそれを見送っていたって訳。
けれど、不良じょーちゃんは海外旅行で居ない、いずぴーは喧嘩の原因。
「・・・というわけで、シャオリンは野村君の家に行ったんだと思うわ。
で、後は最初に説明した通り。たー様はひたすら落ちこんでたって訳。」
「なるほど・・・。けれど太助、お前落ちこむ前にどうしてシャオちゃんを探しに行こうとしないんだよ。」
終始無言の太助に問い詰める。と、太助は少しうつむいて話し始めた。
「だって・・・シャオになんて言えば良いんだ?
いくらはずみでも、あんな非道いこと言っちゃたんだ。
とてもじゃないけど会わせる顔なんて無いよ。」
「太助様・・・私は・・・。」
今度はシャオちゃんが喋り出した。そういえば太助とは状況が違ってたもんな。
「私は、たかしさんの所でいろいろお世話に成らせていただきました。
一緒に遊園地に行ったり、お食事したり・・・。」
「つまりは、恋人同士って事をやってたって訳だな。
いやあ、あの時のシャオちゃんは大胆だったぜえ。堂々と腕組んで歩いたりしたし。
なんといっても、俺のこと大好きなんて言ってくれたり、俺と居るだけで幸せなんて言ってたしな。」
「な、なんだって!?」
がたっと立ちあがる太助。そしてシャオちゃんの方を信じられないといった目で見る。
「本当か?シャオ。」
「・・・ええ、本当です。だって、私・・・。」
うつむいたまま泣き出しそうになるシャオちゃん。
とりあえず立っている太助をもう一度座らせ、俺は改めて口を開いた。
「とりあえず太助、なんでシャオちゃんがこんな行動取ったか分かるよな?」
「・・・・・・。」
「おい、すぐに答えられるもんだろ。シャオちゃんが可哀相じゃないか!!!」
思わず太助の胸倉をつかむ。と、太助は申し訳なさそうな顔になる。
「俺は、俺は・・・。」
「俺は、じゃわかんねーだろ!!」
頭に来た俺は太助をシャオちゃんの前にそのまま放り投げた。
ずでんと床に転がる太助。
「野村君、もうそこまでにしときなさいって。この二人はほんと悩みやすいタイプなんだから。」
「ルーアン先生、もとはと言えばルーアン先生が原因でしょうが。」
「あら、あの程度で喧嘩になるような二人がいけないのよ。
だいたいね、たー様。一番悪いのはあなたなのよ。
シャオリンの気持ちも考えないであんな事言って・・・。
まさか守護月天の宿命から解き放っただけで満足してんじゃないでしょうね?
キリュウも言ってたじゃない。解き放ってからが最大の試練だ、って。
それとシャオリンもシャオリンよ。もうちょっと考えて行動しなさいよ。
たー様がこんなにやつれるまで戻ってこないなんて・・・。
野村君の言う通り、なんであんたがそんな事やってたかは分かるけど、
こんな深刻人間のたー様に対してやるもんじゃないでしょ!」
ルーアン先生のお説教がリビングに響く。
すごいな、さすがは大人って感じがするぜ。
けれど一つ引っかかる事が・・・まあ良いや、後で聞こうっと。
「とにかく、二人とももっとお互いの理解に努める事ね。
今度喧嘩したら、このあたしがただじゃおかないからね!!」
「分かったよ、ルーアン。」
「ルーアンさん、ありがとうございます・・・。」
ようやくというか、太助もシャオちゃんも納得のいった表情に成った。
ふう、やっと一段落着いたみたいだな。
さてと、さっき気になった事を聞いてみるか。
「ルーアン先生、どうしてシャオちゃんを探そうとしなかったんですか?」
「だって、あんな状態のたー様をほっとけないじゃない。」
「でも、コンパクトを使えば・・・。」
「それで見付けてどうするの?たー様をそこへ連れて行く?」
「あ、そうか・・・。」
「そういう事。だから納得しておきなさい。」
ルーアン先生の言う事ももっともだと思うけど、なんか言い訳っぽいよな。
とにかく、今回の事件の解決の糸口は俺にかかってたって訳か。
ふと太助とシャオちゃんを見ると、いつのまにか仲良さそうに寄り添って寝ている。
なんか悔しいけど、しょうがないよな。やっぱりこの二人はこれでいいんだ。
ルーアン先生と目で頷き合って、二人をシャオちゃんの部屋へと寝かせる。
一緒の布団で・・・か。いいのかな・・・。
「ルーアン先生、いいんですか?」
「仲直りしたみたいだしね。せめてものサービスよ。」
サービス・・・。えらく大胆なサービスだな。
まあ、疲れきって寝てるだろうから間違いは起こらないと思うけどな。
そして安らかな二人の寝顔を見ながら、静かに扉を閉めてそこを後にするのだった。
<おしまい>