小説「まもって守護月天!」(試練だ、野村たかし!)


『熱き魂、いざ!』

いつものように学校に登校する俺。しかし今日の俺は新たな決意を胸に抱いていた。
昨日の夜、必死に考えたんだ。
“このままじゃ、いつまで経ってもシャオちゃんのハートはゲットできない。”って。
というわけで考え出したのが、
キリュウちゃんの試練を受けてシャオちゃんのハートをゲットするという作戦だ。
太助よりもすごい所を見せれば、きっとシャオちゃんも・・・
「おはよう、たかし。なにそんな所で突っ立ってるんだ?」
いきなり声をかけられて振り向くと、太助がいた。シャオちゃんも一緒。
「おはよう太助。そして、おはようシャオちゃん。今日もいい天気だねえ。」
「おはようございます、たかしさん。
曇ってますがたかしさんにとってはいい天気なんですか。よかったですね。」
な、なに、曇り・・・。そうか、そいつはうかつだった。
まあシャオちゃんがよかったって言ってくれたんだからよしとしなくちゃな。
あれ?キリュウちゃんは・・・。
「太助、キリュウちゃんはどうしたんだ?」
「キリュウならまだ寝てるよ。無理に起こすのもなんだと思ってさ。」
くっそう、なんだってこんな日に。ここは一発文句を言わないと。
「おい太助、それじゃあキリュウちゃんがかわいそうじゃないか。
ちゃんと学校に連れてくるのが主ってもんだろ!?」
すると太助の奴、こっちをじとーっと睨んだかと思うと、こんな事を言ってきた。
「だったらたかし、お前が起こしてこいよ。ルーアンには俺から言っておくからさ。」
「なんだって!?いいだろう、俺とおまえの違う所をばっちり見せつけてやるぜ!」
気合を入れて太助の家へ向かおうとすると、シャオちゃんが言ってきた。
「たかしさん、軒轅に乗っていきましょう。私も一緒に行きますから。」
なんと、シャオちゃんが俺の手伝いをしてくれる!?
ふっ、太助。おまえの負けのようだな・・・。
「じゃあシャオ、気をつけてな。」
「はい、分かりましたわ、太助様。」
そこで俺はこけそうになった。
あ、あれ?別に特別な事じゃないのか?
「たかしさん?それでは行きますよ。」
「あ、ああ。太助、後悔するなよ!」
「おまえもな・・・。」
太助に一言浴びせてから学校を後にする。
後悔するなだって?キリュウちゃんを起こしに行くだけだろうが。
軒轅に乗ってシャオちゃんと二人きり・・・。今日はしょっぱなからついてるぜー!!

数分で太助の家に到着。空を飛ぶとやっぱ早いよなあ。
軒轅から降りて太助の家に入る。なんだか新鮮な気分だぜ、こりゃ気合が入るよな。
しかもシャオちゃんと二人っきりじゃないか。ああ、俺は今・・・
「キリュウさんの部屋はここですわ、たかしさん。」
「え?あ、ああ、ありがとうシャオちゃん。」
キリュウちゃんを起こすという目的でここまで戻ってきたんだよな。
さあて、ここからしっかりしないとな。シャオちゃんにいい所を見せてやるぜ!
キリュウちゃんの部屋をノックしたが返事はない。するとシャオちゃんがドアを開けてくれた。
「どうぞ、たかしさん。」
「ありがとうシャオちゃん。さてと・・・。」
部屋に入って目に入ったのはキリュウちゃんの寝姿。
ま、待てよ、男の俺がこんな所に来ていいのか?
い、いいよな。キリュウちゃんを起こすためだ。・・・よし!
「キリュウちゃん、起きろー!!」
試しに大声で叫んでみたが反応が無い。うーん、直接起こすしかないのか。
そして俺がキリュウちゃんに近づいたその時、
「たかしさん、危ないですわ!」
「へ?」
シャオちゃんが慌てて叫んだが、ときすでに遅かったようだ。
キリュウちゃんの蹴りが勢いよくとんできた。
「う、うおっ!?」
たまらず俺は部屋の壁に吹っ飛ばされた・・・。
「う、ううう・・・。な、なんなんだ・・・?」
「たかしさん、キリュウさんは寝起きがすごく悪いんです。
だから、気をつけて起こさないと・・・。」
「そ、そうなんだ、ははは・・・。」
寝起きが悪いって?そういう事は先に言って欲しかったなあ。
というよりは、寝起きが悪いって問題じゃない気もするが・・・。
でも、ここで負けてちゃ男がすたるってもんだ。
新たに気合を入れなおし、俺は立ちあがった。
「シャオちゃん、いつもキリュウちゃんは誰に起こしてもらっているんだ?」
「え?」
いきなりこんな事を聞くのもなんだが、それなりにコツというものがあるはずだ。
俺はじっとシャオちゃんの答えを待つ。するとシャオちゃんはこう言った。
「いつもキリュウさんは自分から起きてくるんです。
どうやって起きているのかは私は知りませんけど。」
「そ、そうなんだ。」
なるほど、誰かに起こしてもらっているって訳じゃないんだ。
となるとやっぱり俺が頑張らないとな。よーし、もう一度!
再びキリュウちゃんに近づく。もちろん慎重に。
幸い攻撃を受ける事も無く無事にそばによる事が出来た。
しかし・・・。かわい〜なあ、なんだか幸せな気分・・・
『どげん!!』
油断していた俺に強烈なパンチが繰り出されてきた。偶然にも俺のみぞおちにそれはヒット。
吹き飛ばされると同時に、俺はそこを押さえてうずくまった。
「う、うう・・・。」
「たかしさん、大丈夫ですか?だから気を付けないと・・・。」
な、情けない・・・。俺が油断してしまうなんて。
くっ、こんな事で参っててどうするんだ、俺の熱き魂はこの程度でへこたれはしない!
再び気合を入れて立ちあがった。もう一度・・・!!
気合の入った顔で再度近づく。
キリュウちゃんは“うーん”というねごとと共に寝返りを打ってきたが、それだけだった。
ほっ、毎回毎回攻撃を仕掛けてくるって訳じゃなさそうだな。さてと・・・。
「俺流の起こし方パート1。枕を上手く使って・・・」
「たかしさん、枕をキリュウさんに投げつけるんですか?」
シャオちゃんの突然の突っ込みに思わずこけそうになる。
「そうじゃないって。頭の下にしいている枕を上手く動かしてさ・・・」
「でも、キリュウさんは枕をしいてないみたいですが。」
その言葉にキリュウちゃんの方を見ると、なるほど枕は必要ないといった所にあった。
そういや寝返りをうってたっけ。
そうこうしているうちに再び寝返りをうつキリュウちゃん。
「うーん、結構寝ている間に動き回るんだな。
しょうがない、ここは不本意ながらパート2を使うとしよう。」
「たかしさん、ひょっとしてキリュウさんを揺り起こすとか?」
うっ、するどい。
「ま、まあそういう事だよ。体のどっかをおもいっきり揺らして・・・」
「やめた方が良いですわ。太助様もそれで・・・。」
太助がなんだって?それこそ良いじゃないか。
太助が起こせなかった方法で起こす事ができれば、俺の株が上がるってもんだ。
「心配いらないってシャオちゃん。よーし・・・。」
そして俺はキリュウちゃんの頭を両手でつかむ。
それにしても、寝ている女の子の頭を・・・。普通こんな事やっていいもんじゃないよな。
「ここで頭を・・・」
次の行動に出ようとした瞬間、俺は知らない間にかべに吹っ飛ばされていた。
「な、なんだ、何が起こったんだ?」
全身が痛い。どうやら壁にたたきつけられたようだ。
「たかしさん!だから言ったのに・・・。
太助様もキリュウさんを起こそうとキリュウさんに触れたとたん、
家の外まで飛ばされた事があったんですよ。」
「い、家の外!?」
恐ろしい、キリュウちゃんは密かに怪力の持ち主だったんだろうか・・・。
「ええい、こうなったらパート3だ!!」
そして俺は三度目立ち上がった。今度は容赦無しだ!!
「あ、あの、たかしさん。パート3って何ですか?」
シャオちゃんが恐る恐る聞いてきた。俺はくるっと振り返ってそれに答える。
「もっとも強烈なやつだよ。こちらから攻撃を仕掛けるわけだな、うん。」
「こ、攻撃ですか?でも・・・。」
シャオちゃんはなんだか震えているようにも見えた。しかしそんなことは気にしていられない。
ここまできたらなにがなんでもキリュウちゃんを起こす!
熱き魂をさらに熱く燃やして、俺はキリュウちゃんのそばにやってきた。
「キリュウちゃん、覚悟・・・!!」
そして俺が攻撃を仕掛けようとした瞬間、
「万象大乱!」
という声が聞こえてきた。俺もシャオちゃんもびくっとなって、その声の主を探す。
キリュウちゃんが起きたのか?いや、そんなはずは無いな。まだ寝息を立ててる・・・。
しばらくの間きょろきょろとしていると、シャオちゃんがこちらを指差しているのが目に入った。
「どうしたの、シャオちゃん?」
「た、たかしさん、危ない!!」
シャオちゃんがそう叫んだ瞬間、頭に重い衝撃がきた。
大きな本だ。な、なんでこんなものが・・・?
気絶しそうになりながらも何とかそれを押しとどめ、頭の本をどける。
すると今度はキリュウちゃんの拳が繰り出されてきた。
油断していた俺はたちまち壁に吹っ飛ぶ
・・・と思いきや、なんだかクッションのようなものに着地した。
ふう、4度目は免れたようだな・・・とほっとしたのもつかの間、
天井からなんと大きなカッターナイフが・・・!!
俺の目の前に落ちてグサッと刺さった。あぶない、後ちょっとずれてたら俺は・・・。
「たかしさん、大丈夫ですか?」
「あ、ああ、なんとか・・・。」
シャオちゃんの声に答えて立ち上がった瞬間、後頭部に大きな衝撃が走った。
こ、今度はだめだ。俺は気絶を拒むことはできなかった。
しかし、薄れ行く意識の中でキリュウちゃんが起き上がるのを見た。
よ、よくわからないけど、起こすことに成功した、のか・・・?

「・・・さん、たかしさん。」
「う、うーん、しゃ、シャオちゃん?」
シャオちゃんに揺られて、俺はがばっと飛び起きた。
結局気絶しちまったなんて・・・。それよりキリュウちゃんを。
「シャオちゃん、キリュウちゃんは?」
「キリュウさんならもう起きましたわ。これもたかしさんのおかげですね。」
「えっ!?」
慌てて部屋を見回すと、赤くなりながらうつむいて座っているキリュウちゃんが目に入った。
おおっ、俺のおかげでキリュウちゃんが起きたって?
俺もやるじゃないか。どうだ太助、おまえなんかより俺はすごいんだ!
・・・っと、挨拶くらいはしておかないとな。
「おはよう、キリュウちゃん。」
「・・・野村殿、どうしてわざわざ起こしに来たのだ?」
「へっ?そりゃ・・・俺が起こしに来ようと思ったから。」
するとキリュウちゃんはきっと顔を上げて、こちらを見た。
あ、あれっ?なんか怒ってない?
「それだけの理由でか?自分の欲求を満たすために人の部屋に侵入するのは許せぬな。
シャオ殿もシャオ殿だ。今日は遅めに起きると昨日言ったではないか。」
「あっ!そういえば!すいません、すっかり忘れてました。」
な、なんか話がまずい方向へ行っているような。これはやばいかも・・・。
「野村殿。」
「は、はいっ!」
「とりあえず学校に行くぞ。そこでそなたに試練を与えることにする。」
「げっ!!?」
何で俺に試練が来るわけ?くそー、これも全部太助のせいだ!
「ではシャオ殿も行くぞ。やれやれ、まさかこんなことになるとはな。」
「本当にすいません、キリュウさん。以後気をつけます。」
そして七梨家を出る。キリュウちゃんは短天扇に乗って、
俺とシャオちゃんは軒轅に乗って。
しっかしなんで俺が・・・。
キリュウちゃんを起こしに行った事が、俺に与える試練につながるなんて。
・・・あれ?でも好都合じゃないか。
もともと俺はキリュウちゃんの試練を受けるつもりで、今日学校に来たんだった。
なーんだ、やっぱり俺は最高についてるじゃないか!
軒轅の上でるんるん気分になりながら、学校に到着した。

そしていろいろあって放課後。なんでも、試練を行うのは放課後の方が都合が良いらしい。
太助、シャオちゃんといったおなじみのメンバーが、見物客として俺達を見ていた。
断っておくが、ここは校庭だ。こんな何も無いような場所で試練とは・・・。
「たかしさん、頑張ってくださーい。」
おおっ、シャオちゃんの声援が!燃えてきたぜー!!
「野村殿、準備は良いか?」
「ああキリュウちゃん、始めてくれ!」」
鉢巻をした俺が身構えると、キリュウちゃんはゆっくりと短天扇を広げた。
「万象大乱!!」
「うおおおおっ!!??」
俺の足元にあった小さな石。
それらが思いっきり巨大化し、俺の周りをあっという間に取り囲んだ。
天然の(詳しく言うと天然ではないが)檻という感じだ。
「さあ野村殿。そこから見事脱出してみせよ。制限時間は一時間だ。」
「なるほど。よーし、やるぜ!!」
気合を入れて巨大な石を上り始める。
ふっ、運動神経抜群の俺にとっちゃあこんなもの。
余裕の表情で登って行くと、あっさり頂上が見えてきた。
なんだ、意外と簡単だったじゃないか。
すると、後少しというところでキリュウちゃんが頂上に姿を見せた。
「キリュウちゃん?どうしたのさ、そんなところに立って。」
何気無しに尋ねると、キリュウちゃんは扇をばさっと広げた。
「・・・万象大乱!」
なんと、上からぱらぱらと砂が落ちてきたかと思ったらそれが巨大化した!
いきなりの事に気が動転し、それにおもいっきり真正面から当たる。
「お、俺の熱き魂が〜。」
俺はもと居た場所に落ちてしまった。目を廻している俺に、キリュウちゃんが上から叫ぶ。
「言い忘れていたが私の妨害付きだ。後五十分だ。頑張られよ、野村殿!」
あ、あのなあキリュウちゃん。そういう事は最初に言っといてくれよ・・・。
なんとか体制を立て直し、またもや石を上り始める。
今度は最初と違って、次々と砂が落ちてくる。
当然よけながら進んだけど、何かのゲームみたいだな・・・。
やがて半分近くまで来るとぴたっと砂がやんだ。
「別のものを降らせる気かな・・・な、なんだあ!?」
今度落ちてきたのは大きな葉っぱ。よく見ると、太助達が大量の葉っぱをばさっと放りこんでいる。
しかも葉っぱと一緒に何か引っ付いて・・・虫!?
ご丁寧にそれらすべてがしっかり巨大化されている。
最初に目の前に巨大な毛虫が落ちてきたので、びっくりして俺は手を離してしまった。
「う、うわー!」
二度目地面に落ちる俺。今度は葉っぱが下敷きとなったので軽いショックで済んだが。
それにしても虫付きとは・・・。こんな事で負けてたまるか!
俺の熱き魂は、虫ごときで燃え尽きたりしないぜ!!
俺は三度目、張り切って石を上り始めた。
次々と落ちてくる葉っぱや虫をもろともせずに登りつづける。
ふふ、ちょろいもんじゃないか。俺の熱き魂にかかればこんなもの・・・。
三度目ではあんまり大声では威張れないが、とにかく俺は登って行った。
頂上まで後少し!というところまで来た。ふう、ちょっと休憩しよっと。
岩肌(正確には石肌)に掴まって休んでいると、ぴたっと振りが止んだ。
なんだ、試練を与える側も休憩か?
と思っていたら、ごごごという音がして、ずんと天井がふさがれた。
途端にあたりは真っ暗闇になる。突然何が起こったのか理解できず、俺は上に向かって叫んだ。
「おーい、ちょっとー!!なんのつもりだよー!!」
しばらく待ってみるが返事がない。そのうちに冷や汗がどっと出てきた。
冗談じゃない、こんな所に閉じ込められたんじゃ人生終わりじゃないか!!
「おーい、こらー!!キリュウちゃ―ん!!太助―!!シャオちゃ―ん!!!」
必死に声を大きくして叫ぶ。するとようやく返事が返ってきた。
「野村殿、自らの力でこの石をどけて出てこられよ。さすればこの試練は終了だ。」
「な、なんだってー!!?」
無茶もいいとこじゃないのか?この暗闇でどうやって作業しろってんだ。
だいたいこの空間にふたをした石って事は、相当大きいんじゃないのか?
そんな事より一時間で試練終了とかいう話はどうなったんだよ―!!
戸惑っているうちに、新たな声が上から聞こえてきた。
この声は・・・シャオちゃん!?
「たかしさーん、私達はとりあえず帰ります。また明日学校で!!」
へっ?帰るって?そ、そんなー!!
「シャオちゃ―ん!」
俺が急いで叫ぶと、今度は太助が・・・。
「たかし―、頑張って試練超えろよ。じゃあなー!」
「野村くーん、めげずにファイトよ―!」
ルーアン先生まで。ちょっと待ってくれって。
「たかしくーん、僕ももう帰るからー!じゃあねー!」
「野村せんぱーい、無駄な努力と思いますけど、頑張ってくださいね―!」
乎一郎と花織ちゃんまで!?しかも花織ちゃん、無駄な努力ってなんだよ。
俺のやっていることが無駄だって言うのか!?
「野村〜、あんまり熱くなって我を忘れんなよ〜!」
山野辺も帰るのか!?何偉そうにアドバイスみたいなこと言ってんだ!
俺はこの熱き魂で試練をやり遂げてやる!
「野村殿!!」
おおっ、キリュウちゃん。そうだよな、
みんなは帰ったけど試練を与える役のキリュウちゃんは・・・。
「私ももう帰る!野村殿も早く試練を終えて帰られよ!」
「な、なんだってー!?」
慌てて俺は頂上手前まで駆け上がり、ふたの石を力いっぱい押す。
「ふんぬ〜!!キリュウちゃん、待ってくれってー!!」
しかしキリュウちゃんの返事はない。それどころか、そのほかの人の気配も無いようだ。
おいおい冗談だろ、俺一人でどうしろってんだよー!!
躍起になって石を持ち上げる手に力をこめる。しかし石はびくともしない。
何分かそうやって居る間に力が入らなくなってきた。
「く、こんなところで、俺の熱き魂は・・・!!」
しかし結局俺は力尽き、石を滑り降りて地面へとうつ伏せになった。
そして俺は気絶した・・・。

翌日、俺は学校へ一足早く来た太助達に救出された。
俺は恨めしそうに太助達を見ていたが・・・。
後でキリュウちゃんから聞くと、
「帰るときに横穴を密かに開けておいたのに気付かなかったのか?
まったく、もう少し慎重になって欲しいものだ。」
だとさ。あのな、あんな暗がりで気づけってのは無理だぜ、キリュウちゃん。
少し反論したような目で返すと、更にこう言った。
「翔子殿が言っていただろう、あんまり熱くなるなと。
人の話を良く聞いていない証拠だ。野村殿が悪い。」
「・・・・・・。」
それを聞いて何も言い返せなくなった。
そういやあ確かにそんな事言ってたよなあ。
しかし、俺から熱き魂を取ってしまう訳にはいかない。
今回は敗北したが、次こそは見事に試練を超えてみせるぜ!
すると、気合を入れている俺に向かって、キリュウちゃんが扇を振りかざした。
「万象大乱。」
巨大化した椅子に、俺は窓の外へ吹っ飛ばされて落ちて行く。
(言い忘れていたがここは三階だ)
昨日の試練の成果が実ったのか、俺はほとんど怪我を負わずに落ちることが出来た。
上の方から“試練だ、耐えられよ”という声がかすかに聞こえる。
その時、地面にうつぶせになりながら俺はちょっとだけ弱気になった。
「やっぱり試練を超えるのは無理かも・・・。」

<おわり>