小説「まもって守護月天!」(ルーアンの冒険日記)


「火曜日」

「ん、うーん、たー様〜・・・あれ?」
と、自分の寝言で目が覚めた。なんだ〜、夢か〜。
せっかくいい夢だったのに、自分の寝言で目が覚めるなんて超ショックだわ。
上半身をベッドの上で起こして、大きなあくびをする。
さーて、朝食、じゃなかった。昼食を・・・。
ま、どっちでもいいわ。食べに行きましょ。
ベッドから下りて着替えをする。でも、そこであたしは妙なことに気がついたわ。
そこはあたしの部屋じゃない。家具も壁もぜんぜん違う。
慌てて窓を開けて見ると、なんとそこは3階だった。
たー様の家って、確か2階までしかないはずなのに・・・。
さらによーく景色を見てみると、いつもと全く違う風景が広がっていた。
高層ビルが建ち並び、車がせわしなく行き交う道路。
「ちょっとー!どこなのよここー!!」
もう一度窓の下を見てみると、ここはどうやらアパートの一室のようだった。
なるほど、だから3階なんだ。
「って納得してる場合じゃないわー!なんであたしがこんなところにいるのよー!」
どう考えてもおかしいわ。昨日はみんなと夕食を食べた後ゲームをやって、それから・・・。
うーん、思い出せない。でも、いくらなんでもこんなところに居るはずがないわ。
「そうだ、これはきっと夢なんだわ!」
あわててほっぺをつねってみるが、
「いったーい。夢じゃないの?えーん、たー様はどこに・・・。
はっ、そうか。とりあえず部屋を出てみましょ。」
そう思って部屋のドアに向かった瞬間、
『ドカッ!!』
と、外からドアが強引に破られ、1人の男が入ってきた。
「たー様!!」
ああよかった、たー様だわ。ルーアン超感激ー。
「よかった、無事だったか!」
「・・・たー様?」
その男は間違いなくたー様のはずだったのに、全然雰囲気が違ってた。
スーツを着てコートを着て、右手にはなんと銃を持ってる。
「あの、たー様よね?」
あたしは恐る恐る訊いてみた。するととんでもない答えが返ってきたわ。
「たー様?俺はそんなんじゃない・・・っと、話は後だ。早くここを離れるんだ!」
「えっ、ちょ、ちょっと!」
強く手を引っ張られ、廊下に出る。
明らかにここはたー様の家とは違うと、改めて認識できた。そのとき、
『パンパン!!』
と銃声が鳴り響く。
「きゃあっ!」
とっさにあたしは頭を下げた。
「ちっ、もうかぎつけてきたのか。しょうがない、窓から飛び降りるぞ。さあ、早くこっちへ!」
そう言ってたー様(?)は、またまた強引にあたしの腕を引っ張って、あたしの部屋へと引き返した。
でも飛び降りるって?
「ちょっと、本気なの?ここは3階なのよ!?」
「下におりられないんなら仕方ないだろう!」
そうだ、陽天心をじゅうたんにかければ・・・。
「ない!黒天筒どこにいっちゃったのよー!!」
「何をしてるんだ。早くこっちに!」
またもや腕を引っ張られるが、それをあたしは振り払った。
「黒天筒がないのよー!あれがないとあたしは・・・。」
「黒天筒!?何をわけのわからないことを言ってるんだ!さあ、急げ!」
「ちょっと、そんな言いかたってないでしょ・・・きゃっ!」
たー様(?)はあたしを抱きかかえて窓のそばに走り寄る。
「目をつぶってろ。行くぞ!」
「ちょ、ちょっとたー様。ひょえー!」
次の瞬間、あたしはトラックのぼろの上にいた。
なんだ、こんなのがいたんじゃないの。よかったあ。
「よし、早く逃げるぞ!」
たー様はあたしを抱きかかえたままそこから飛び降りると、オープンカーに乗り込んだ。
「た、たー様、車なんか運転できるの?」
「話は後にしろって。しっかりつかまってろよ!」
急発進をして、その車はアパートを離れてゆく。
それと同時に、アパートの入り口から1人の男が出てきた。
たー様と同じように、スーツ、コートを着て・・・って、
「ちょっと、あれ野村君じゃないの!」
「なんだ、知り合いか?まあいい、これで逃げられるはずだ。」
しばらくの間呆然としたまま乗っていると、目的地に到着したみたい。
車は地下の駐車場へと入っていった。ものすごく厳重な警備をくぐり、ようやく車は止まった。
「さあ、下りろよ。これから俺の依頼主に会いにゆく。」
その言葉に、はっと我に帰る。
「ちょっと、どういう事よこれ。たー様、説明してってば!」
「だから俺はたー様じゃないって。本名は明かせないが、タスケードと呼んでくれ。
よろしくな、ルアーヌさん。」
「る、ルアーヌ!?」
なんて変な名前なの。そんなんで呼ばれるなんて冗談じゃないわ!
「あたしはルーアンよ!そんな名前で呼ばないでよたー様。」
「あんたもしつこいなあ、俺はタスケードだって。それにルーアンねえ・・・。
まあいいさ、あんたがそう呼びたいんならそう呼べばいい。
奴らの目をごまかすのにも少しは使えるかもな。
とりあえず俺に付いて来てくれ。あんたを守るように、俺に依頼した人物に会わせる。」
そう言うと、すたすたと歩き出した。
なんなの?やっぱりたー様じゃないの?
でもタスケードなんて、どう考えてもたー様よねえ。
「何やってんだ。早く来いよ、ルーアン。」
「あ、まってーん。今行くわー。」
きゃー、やっぱりたー様だわ。
付いて行くと、たくさんのボタンが並んでいる場所に出た。
それをたー様がぱぱっと押したかと思うと、目の前の壁がすうーっと開いた。
「ほへー。」
「なんちゅー感心の仕方だ。あんた、いつもそんな声上げてんのか?」
「いいじゃないの別に。でもほんとすごいわねえ。重要人物のみ、進入可能なのね。」
そこはまさに、近代文明の結集といえるほど、たくさんの機械で操作されているようだった。
床も何もかも、全て自動で動く。
「これからあんたに会わせる人物は、こういったセキュリティシステムの創始者であり、この大会社の社長なんだ。
どうしてあんたを守るよう依頼したのかは話してくれると思うけど、いろいろ質問を考えとけよ。
めったに会えない重要人物なんだ。」
「ふ―ん、そうなんだ。それより、あんたなんて呼ばないで。
ちゃんとさっきみたいに名前で呼んでよ、“ルーアン”って。」
「やれやれ、わかったよルーアン。」
何階とも分からないほど上へ向かう。ようやく社長のいる部屋へたどり着いた。
「俺だ。タスケ―ドだ。ちゃんとルーアン・・・じゃなかった、ルアーヌを連れて来たぞ。」
すると急にドアに引き寄せられた。かと思うと、あたし達はいつのまにか部屋の中にいた。
「すっごーい。どうなってんのかしら。」
「おや、気に入ってもらえて光栄です。ご苦労様、タスケ―ドくん。これが約束の報酬です。」
「ありがとさん。」
机の上に置かれた札束を受け取るたー様。
でも、その社長を見た瞬間、あたしの目は丸くなった。
「遠藤君!あんたが社長だったの!?」
「えんどう?僕はコイロー・ド―エンといいますが・・・。
タスケ―ドくん、この方に何か言ったんですか?」
「いや、最初会った時も俺のこと“たー様”って呼んだりさ、ちょっと変なのかもな。」
「コイロー・ドーエン?ぷっ、くくく、あははは。」
訳がわかんない。どこをどうやったらこんな名前が出てくるのかしら。
「笑わなくてもいいじゃないですか、ルアーヌさん。あなたを助けようと考えたのは私なんですから。」
『ぴくっ。』
ルアーヌ?もう、そんな名前で呼ばないでっての。
「あたしはルーアン!わかった!?」
「す、すいません、ルーアンさんですか。・・・あれ、おかしいな。
タスケ―ドくん、このひとはルアーヌさんじゃないんですか?」
「いや、ルアーヌだよ。よくわかんないけど“ルーアン”て呼べってさ。」
「はあ、そうですか・・・。」
不思議そうな目であたしを見る。
「なによ、なんか文句でもあるの!?」
「い、いや別に。ではとりあえずタスケ―ドくん、あと1週間ほど一緒にいてこの人を守っててください。
目的のものは、あと1週間で完成するはずですから。」
「1週間?もちろん報酬はたっぷりもらえるんだろうな。」
「もちろんですとも。さっきの100倍は出しますよ。」
「・・・もう少しもらえないかな。」
報酬ってあの札束・・・の100倍!?リッチねえ。
「わかりました。200倍出します。」
「さっすが話しがわかるな。さーて、そんじゃ俺の隠れ家に行こうか。」
「ちょ、ちょっと待ってよたー様。遠藤君、どうしてあたしを守るとか言うの?」
「僕は遠藤君とやらじゃないんですが、まあいいでしょう。
あなたが、闇組織のダークムーンに狙われているからですよ。」
「だ、ダークムーン!?」
最初聞いたときは全然訳が分からなかった。なんなのよ、ダークムーンって・・・。
待てよ、ムーンって英語で“月”って意味よね。ひょっとして・・・。
「そう、ダークムーン。俺があんたん所に行った時に襲ってきた奴ら。あれはダークムーンの連中だ。」
「そして、そのダークムーンの連中が、何故あなたを狙っているかというと・・・
そうですね、図を交えて説明しましょうか。」
そう言うと遠藤君は、何やらスイッチを押した。すると机に絵が浮かび上がった。
「この3つの道具、“星光の輪”、“大地の扇”、“黒陽の筒”。
三種の神器と呼ばれてるんですが、奴らはこの3つとそれを扱える人間を集め、
その力によって世界を滅ぼそうとしているんです。
やつらのリーダーは、“星光の輪”を扱える・・・」
「シャオリンでしょ。その扇が使えるのはキリュウ。当たりじゃなくって?」
あたしの言葉に2人は驚いていた。そして遠藤君が言葉を続ける。
「近いです。そのひとはシャオリーノというんです。そしてキリュウじゃなくて、キリューネといいます。」
・・・なんて名前なの。あたしのルアーヌといい勝負だわ。
でも2人ともがあたしの敵なの?これは手強いわね。
「最初はシャオリーノだけでしたが、キリュ―ネさんも引き込まれてしまい、
ダークムーンにはもうすでに、三種の神器と2人の使用者がいる状態なんです。
あとは“黒陽の筒”が扱えるあなただけ、というわけです。」
「しかも厄介なことに、大勢の部下がいるんだ。
まず、シャオリーノの片腕とも言われる、ショーコ・マ―ヴェ。
組織一の頭脳を持ち、様々な兵器を作り出したり作戦を考えたりする科学者だ。
次に、シャオリーノ親衛隊隊長のタカーシ・ラムノ。
こいつは主に、組織の作戦を表立って行動するのが役目。でも、そんなに強敵じゃないかもな。
そして、狙撃手のイズーモ。こいつは凄腕の殺し屋で、今まで何人もの要人が暗殺されてきた。
俺的に、ものすごく手強い相手だ。タカーシより注意すべきかもな。
最後にカオリーノ。こいつはシャオリーノの影武者みたいなもんで、シャオリーノの護衛役だ。
キリューネとシャオリーノの詳しい能力についてはまだ分かっていない。」
「これはタスケ―ド君が、すべて1人で調べてきてくれたんです。さすがですよ。」
「なに、身を守るんだから当然の事さ。あんたが用意してくれた軍資金も結構あったしな。」
たー様の説明を聞いて私は思った。結局全員が敵なんじゃない。
それにしても、どいつもこいつもだっさい名前ね。
シャオリーノの影武者がカオリーノ?ふざけるんじゃないわよ、まったく。
多分星神の連中もこれに加わるわね。どんな名前になるか楽しみ―。
・・・とと、そうじゃないそうじゃない。
ますますこっちの身が危うくなるんだわ。どうしよう。
「大丈夫なの?すっごく手強そうじゃない。」
「心配いりませんよ。タスケ―ドくんはプロ中のプロのボディガードですからね。」
「そういう事。とにかく、あんたをやつらから守りゃいいのさ。」
でもね―、たー様1人だけっていうのは・・・。
「あ、そういえば、1週間後に出来上がるものってなんなの?」
「そうか、ルアーヌ・・・失敬。ルーアンさんには教えておくべきですね。
三種の神器を封印できるものです。それと同時に、
ダークムーン内の使用者の力も奪えるというすぐれものです。」
「封印?そんなことできるの?」
あたしの問いに、得意そうな顔をして遠藤君が答える。
「もちろん。それこそ、わが社のチームが何ヶ月も考えて開発した。
その名も、サウザン・セイント・ウッド。略してSSWです。」
日本語に直すと・・・南、聖、樹?えーと、なん、せい、じゅ。あのねえ・・・。
ひょっとして私、馬鹿にされてるのかしら・・・。
「南極寿星か・・・。でもそれじゃ、シャオリンしか封印できないんじゃないの?」
急に遠藤君の顔がこわばる。何かまずいこといったかしら。
「そんな事ないです!三つとも封印できます!
それより南極寿星ってなんですか!ふざけないでください!」
別にふざけてなんかないのに・・・。
あたしがそっぽを向いていると、たー様が仲裁に入った。
「まあまあ。とにかく1週間、このルーアンを守るから。
社長は、1週間といわず、少しでも早く、SSWを完成させてくれ。」
「そのSSWがちゃんと動けばいいけどね。」
「な、なんですと!?」
悪態をつくと、再び遠藤君がにらんできた。またもやたー様がなだめに入る。
「まったく・・・。でも、素敵なひとだ。初対面でまさかここまで言ってくるとは。
すべてが終わったら、私とつきあってくれませんか?」
「へっ?」
やっぱりこの人も遠藤君ね。おんなじだわ。
「考えとくわ。それじゃーね。」
「もういいのか?それじゃ、また1週間後。」
たー様と一緒に社長室を出る。
「しっかしあんた、遠慮ないなあ。大会社の社長に向かってさ。
あんたが“黒陽の筒”を使えるって、奴らより先につきとめたのも、あの社長の力なんだぜ。
もうちょっと感謝の意を表してもいいのに。」
「でもそのおかげで気に入られちゃったわよ。だからいいの。」
その言葉に、たー様はやれやれと肩をすくめると、来た道を戻り出した。
あわててあたしもそれに続く。
「ねえ、とりあえず何か食べたいんだけど・・・。」
「社内食堂でいいか?外じゃ奴らに見つかるしな。」
なるほどね、さっすがたー様。でも社内食堂か・・・ま、いいわ。
やがてあたし達は、かべについたボタン以外何もない部屋に入った。
「・・・ここが食堂?」
「そう。ボタン1つで機械が全部やってくれる。食べたい物を言いなよ。」
機械が全部?はーん、なるほどねえ。
「えーと、チャーハン大盛り。あと、酢豚と、八宝菜も。」
「・・・それ1人で全部食うのか?まあいいや、えーと・・・。」
たー様がボタンを押し始めると、床からテーブルとイスが飛び出してきた。
テーブルの上には、すでに料理が乗っかっている。
「すごーい!いっただきまーす!」
「驚いただろう。この料理は、空気中から元素を取り出して拡張させ、
それをもとに・・・って人の話し聞いちゃいないな。」
「ん、なーに?料理ってのはおいしけりゃいいのよ。がつがつ。」
たー様は、半分呆れ顔で私のほうを見ながら、自分の料理を食べる。
すべての料理を食べ終わると、自動的にテーブルが引っ込んだ。
「ごちそうさまー。なんだ、結構おいしかったじゃない。」
「おいしかったんなら結構だ。ちょくちょくここで食べる羽目になるかもしれないし。」
そしてたー様はその部屋を出て言った。
「さて、これから俺の隠れ家に案内しよう。ちゃんとついてこいよ。」
「失礼ね。たー様にならどこへでも付いて行くわよ。」
するとたー様は少し顔を曇らせた。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。行くぞ。」
来た道をしばらく戻って、駐車場についた。車に乗りこんで、エンジンをかける。
今度は来た道を引き返さない。長いトンネルを通って、ようやく町中に出た。
「実はあの会社に出入りできるのも、限られた人物ってわけなのさ。
だからほら、出口はもう見えないだろ。」
後ろを振り向くと、トンネルはすでに周りの景色と同化していた。
なるほど、外からはわからないってわけね。
「すごーい。まるでSFみた―い。」
「そんないいもんじゃないけど、もうすぐそうなるはずさ。あの会社はそれを目指してるからな。
・・・ちっ、もうかぎつけてくるとはさすがだな。頭を低くして、しっかりつかまってろ!」
「へっ?きゃあ、ちょっとおお!」
言うなり、たー様は猛スピードで車を走らせ出した。
必死につかまりながらもちらっと後ろを見ると、同じく猛スピードで走ってくる車の姿が目に入った。
運転してるのは・・・野村君!そんでもって横に乗ってるのは・・・キリュウ!
「くそ、少数精鋭で来たってわけか。逃げきれるか?」
前を走る車をジグザグに追い越してゆくたー様の車。
こっちの方がはるかに頑張ってるのに、なぜか後ろの車は少しづつ追いついてくる。
「ちょっとたー様、もっととばせないのー!?」
「これで精一杯だよ!ちくしょー、なんでだ!?」
あたしがもう一度後ろを見ると、キリュウが扇を構えていた。
そうか、車を小さくして・・・あれ?
よく見ると、車は小さくなっているものの、中に乗っている人はそのままで、
車につぶされている。道路が次々と、血で赤く染まってゆく・・・。
「ひ、ひどい!何やってんのよあのこ!」
「どうした!?」
「キリュウが車だけを小さくして、中に乗ってる人を全部殺しちゃってるのよ!なんてことを・・・。」
「車を小さくだと!?そうか、それがあの扇の力だな。
犠牲者を増やすわけにはいかない。こうなったら・・・。」
とたんにがくんとなる。たー様が急ブレーキをかけたんだわ。
それに反応しきれず、追いかけてきた車はぶつかった。
「ぐわっ!!」
“ドサッ!!”と野村君がフロントガラスを突き破って前に飛び出してきた。
血まみれだわ、大丈夫かしら・・・。
「う、うう・・・。」
生きてる。よかった・・・。
「おいっ!ぼさっとしてないでそいつを放り出せ!」
「ちょっと、ひどい事言わないで。クラスメートじゃないの。」
「クラスメート!?そいつは敵なんだぞ。分かってるのか!?」
あ、そうか。そういえばそうだったわね・・・。でも・・・。
あたしが迷っている間、座席に何かが転がってきた。
「なにかしら、これ。」
「これは!!さわるな!!はやくここから離れるぞ!!」
たー様は突然あたしの体を引っ張って、車から飛び出した。
そしてあたしを抱きかかえたまま猛ダッシュで走る。その刹那、
『ドカーン!!』
と、車が大爆発を起こした。
「な、なんなの?」
「超高性能小型爆弾だよ。危なかった・・・。」
激しく炎を上げている車の方を見ると、2人の人影が立っていた。野村君とキリュウだわ。
「キリュ―ネさん、ひどいっすよ。俺がまだいたのに・・・。」
「うるさい。そなたがもっと上手に運転していれば、こんなに苦労はしなかったのだ。」
「そんなあ・・・。」
「試練だ、耐えられよ。さてタスケ殿、ルアーヌ殿をこちらに渡してもらおう。」
タスケ殿?タスケ―ドじゃなかったの?
「断る!それに俺はタスケ―ドだ!
この人をダークムーンに渡したら世界の終わり。そんな事はさせない!」
「そうよ!あんた、主様に向かってなんてこと言うのよ!」
あたしの言葉に、キリュウはきょとんとしていたが、やがて大きく笑い出した。
「ちょっと!何がおかしいのよ!」
「主だと?笑わせるな、私の主はシャオ殿だ。それにそいつは私の弟子だ!」
弟子ですって?どういうこと?
「やかましい!確かに俺はあんたに師事していた。しかし今のあんたは昔のあんたと違う。
俺を弟子だって言えるのは、昔のキリュ―ネだけだ!!」
へえーなるほど、そういうわけ。でもねえ、無理に今過去を語る必要なんかないんじゃなくて?
「お前らにルアーヌ、いや、ルーアンは絶対に渡さない!分かったらあきらめてとっとと帰れ!」
「ルーアン?変な名前だな。悪趣味にもほどがあるぞ、タスケ殿。」
「あ、悪趣味ですって―!?あんたにそんなこと言われる筋合いないわよ、キリュウ!!」
「キリュウだと?また訳の分からぬ事を・・・。
まあ言い、素直に渡さぬのなら、こちらにも考えがあるぞ。」
そう言ってキリュウが扇を広げようとした瞬間、たー様は銃を2,3発打ったかと思うと、
あたしを抱きかかえて、止まっていた車に乗りこんだ。
もちろん、乗っていた人は押しのけられちゃったけど。
「ふん、なんのつもりだ?そんな的外れなたまで私をたおせるわけ・・・ぶっ!!」
なんと大量の水が、キリュウと野村君めがけて噴出した!
道の横を見ると、消火栓から水が勢いよく噴出している。
さっすがたー様。戦術ってやつを心得てるわね。
「今のうちに行くぞ!」
「ええ!レッツゴー!」
水びだしになっている2人を尻目に車を走らせる。さすがにもう追っ手は来なかった。
「やった―!さすがたー様!」
明るいあたしの声とはうらはらに、たー様の表情は暗かった。
「ねえ、しっかりしてよたー様。さっきのキリュウ、じゃなかった。キリュ―ネの事気にしてんの?」
あたしの心配そうな声に、たー様はぽつりぽつりと話し始めた・・・。

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