彼女たちは緑の深い森に佇んでいた。
前髪がピンとはねた青髪の少女は胸一杯にそのうまい空気を吸い込んで気持ちよさそうだ。
一方、もう一人の赤髪の少女は活力あふれる木々に話しかけていた。
青髪の少女が赤髪の少女を促し、森の深みとは反対の方向へと歩き出す。
ガサガサ・・・
二人の少女は草むらから音を聞き、その方向へと視線を移す。
「気のせい・・・だよな。」
そのことを気にもせずに再び歩き続ける。
ガサガサガサ・・・
「ちょ、ちょっとぉ・・・」
前にいた青髪の少女がもう一人の少女の後ろに立った。
彼女も後ずさってきて、青髪の少女の肩と自分の肩がぶつかった。
というのは彼女たちの目の前にひとまわりもふたまわりも大きいゴリラのようなのが出てきた。
“危ない!”
青年の声だ。こっちに来る。彼は剣に手をかけ、近づいて走ってくる。
彼は化け物とぶつかる寸前で剣を抜き、同時に斬りつけた。
青髪の少女、翔子は初めて居合い抜きというものをみて呆然としている。
赤髪の少女、キリュウは・・・というと、「ほほぅ・・・」と感心した顔だった。
「大丈夫だった?」
青年は翔子達に話しかけた。
「だ、大丈夫・・・だけど・・・」
翔子は答えるが、キリュウは赤面している。彼女らしいといえば彼女らしいのだが。
「あ、助けてくれてありがと。あたしは山野辺翔子って言うんだ。」
「わ、私はき、きき、キリュウだ。」
「礼を言われるほどでも・・・僕はクロード、クロード・C・ケニー、よろしく。」
金髪を風になびかせながら青年が言う。
そんな会話を交わしているとまた一人やってきた。
今度は向かって右側の髪がちょっと長い少女だ。
走ってきたらしく肩で息をしている。
「クロード、何してるの?」
「え?いや、ちょっとこっちに来たら草むらが揺れて、こいつが出てきたんだ。」
青年は人差し指で地に伏す化け物を指さして言った。
更に問う少女に彼は青と赤の少女の名を告げた。
「まあ、そうだったんですか。私はレナ、レナ=ランフォード。
よろしくね、翔子さん、キリュウさん。」
「は、はあ。」
「・・・・・・」
それから歩くこと1日。あたし達は『クロス王国』とやらに到着した。
「おーいクロードぉ、レナぁ何しに来たんだ?」
というのはもう夜だったからだ。
「そうだな。とりあえず、今日は泊まるか。」
クロードは宿の方へ歩き出す。レナもその後に付いていく。
あたしもキリュウも溜息混じりに付いていった。
Episode 1:「何処へ行った?レナ失踪事件」
朝、小鳥のさえずりを聞きながら目を覚ます。
あたしはそのことが嬉しかった。
二人部屋だったので、あたしとキリュウ、クロードとレナに分かれてそれぞれ床についた。
「おーい、翔子さん、キリュウさん、大変だ。」
クロードの声だ。
「なんだなんだ?朝っぱらから。」
あたしは髪をくくらずに扉を開けた。
「れ、レナが、い、いないんだ。」
「何ぃーーーー!?」
あたしは思わず叫んでしまった。気を取り直して訊く。
「何か、手がかりはないのか?」
クロードはたったひとつの手がかりと思われる置き手紙を見せた。
なになに・・・
クロード、ちょっと出かけてくるね。
すぐ戻ってくるから心配しないでね。
「僕が見たときはまだインクが渇いていなかったから・・・」
「うーむ、出かけたのはクロードが起きる数分前か。」
あたしは事件の推理よりも先にキリュウを起こしにかかった。
耳元で叫んでも、頬をふにぃと引っ張っても何しても起きない。
どういう根性してるんだ?とあたしは思った。
いい加減キリュウに起きてもらいたいあたしは思いっきり腹を殴ろうとした。
でも、殴ったのはベッドだった。キリュウは細目を開けて「何をされる、翔子殿!」と言った。
「しょ、翔子さん、あの、今の・・・」
クロードは語尾を詰まらせた。というのは翔子がベッドを殴った瞬間、布団の両側がボワッと浮き上がったからだ。
「んで、何か心当たりは?」
「もしかしたら教会にいるかもしれない。」
「しょ、翔子殿、何の騒ぎだ?」
「レナがいなくなった。」
キリュウはクールにほほぅと言って先を促した。
(先ほども言ったので省略します。)
「・・・というわけなんだ。」
「なるほど、それでは私の出番ではないか。」
あたし達はキリュウについて外に出た。
そして短天扇を地に伏せ、
「大地に木々よ、地の精霊たる我に力を」
あたしは聞いてないぞ。キリュウにこんな能力があるなんて。
キリュウの秘密を密かに毒づいていると町の西側の木がにょきぃーとのびた。
「うむ、あの木の近くにレナ殿はいるはずだ。」
「行ってみよう。」
クロードは短く言うと走っていってしまった。
心配なのはわかるけど早まるなよ。とはいえどもあたし達も付いて行くことにした。
ここは町のはずれの森に建つコテージ・・・と言うよりちっぽけな山小屋。
クロードはいち早く駆けつける。なんちゅう体力だ、こいつは。
数刻遅れてあたし達も到着する。あたしは肩で息をしているが、キリュウはなにくわぬ顔をしている。
こ、こいつもか・・・ま、精霊だししゃーないか。
「窓があるぞ。」
「行くのか?」
翔子が訊ねると頷きもせずに窓の方へ走った。
Episode 2:『行け行け押せ押せ!レナ救出大作戦』
クロード殿はきつい目をして戻ってこられた。
「どうなされた、クロード殿。」
「レナが・・・野党に捕まってしまった。」
翔子殿は思わず叫びそうになったが、私が翔子殿の口を手で押さえた。
そして、翔子殿が訊ねる。
「で、レナの様子は?」
「えーと、気絶してた。というか眠らされているのだろう。」
うーむ、何故レナ殿がさらわれるんだ?何故だ?わからん。まあ、早く助けなければな。
私が考えているうちに翔子殿はさくさくと解決へと進めていく。
「で、だ。どうやってレナを助け出すかだな。」
「僕が囮になろう。」
「いや、キリュウの力を使ってみよう。」
クロード殿ぉ、あまりじろじろ見ないでくれぇ。
また癖が出てしまうではないか。・・・・・・
「あのさ、キリュウには物を大きくしたり小さくしたりする力があるんだ。」
「へぇ・・・じゃあ試しにこの石を・・・」
「うむ、万象・・・大乱」
石は大きくなり、クロード殿に直撃した。うーむ、まだまだ修行がたりんな。
クロード殿、これしきのことで気を失っているようではまだまだだな。
「ここはひとまず引き返そう。」
クロード殿は宿に帰っても夜空を見上げては溜息をつくだけだった。
「なあ、キリュウ、クロードって七梨に似てないか?」
うーむ、確かに似ているかもしれないな。でも何処かが違うような気がする・・・否、同じかもしれないな。
「なあ、翔子さん、レナが売り飛ばされるらしい。」
「なっ!なんでそのことを早く言わないんだ?そんな欲望の固まりをこのままほっとけって言うのか?
そんなのあたしはごめんだね。あたしは行くからな。おい、キリュウ、行くぞ!」
翔子殿はすごい形相で私に言った。行くって何処へ・・・?
「翔子殿、何処へ行くのだ?」
「何処へ行くだと?レナを助けに行くに決まってるだろ?」
はぁ、翔子殿は衝動で動いて何か良い事があったのだろうか?
さて、山小屋再びである。
「乗り込むぞ。」
翔子殿はそう言うなり走っていってしまった。やれやれ、どうなっても私は知らないからな。
山小屋のドアを蹴り飛ばす。
「な、なんだなんだ?」
「レナを取り返しに来た。」
「ふふ、俺がそうやすやすと返すと思ったか?」
野党その1殿が言い放つ。そして野党その2殿もその後に続いて言う。
「俺達はなぁ、可愛い女の子をさらっては大富豪に売るヤツらだ。あまり近づかない方がいいぜ。」
翔子殿はついにキレてくいかかった。
“右こーくすくりゅー”とやらを繰り出したが、殴ったあとには残像が残り、そこにその1殿はいなかった。
「その1って呼ぶな!痛い目に遭うぞ。」
私は動けなかった。翔子殿が捕らえられたからだ。首筋にナイフを突きつけている。
うむ、これしかない。
「万象大乱!」
ナイフが小さくなる。その2殿の手から滑り落ちる。
すかさず翔子殿は腹に“えるぼー”を打ち、こちらに戻ってきた。
「兄貴、そろそろ退散しましょうぜ。」
その2殿が腹を痛そうに抱えながら耳元でそう言ったその時、
「そうはいかないな、レナは返してもらう。」
?この声は・・・?クロード殿の声だ。
「若造が、小娘はわたさんぞ!そうさ、わたさんぞ・・・うううぅがぁいぐいげれ」
何か変だ。!レナ殿が危ない。
「万象大乱」
私は咄嗟に近くにあった物を巨大化させる。ふう、これでしばらくは大丈夫だろう。
さあ、クロード殿、これで思う存分戦えるぞ。私たちはレナ殿を起こしておくからな。
「レナ、おいレナ!」
「う・・・んんん・・・」
レナ殿は呻き、ゆっくりと目を開けた。
「翔子さん、それにキリュウさん。どうしてここへ?」
「説明は後、クロードが戦ってるからちょっと離れよう。」
「待って、私、ここで見ています。」
レナ殿、気持ちは分かるが・・・ここは危険・・・
「クロードに何かあったらどうするの?」
私も、翔子殿も反論できなかった。
その1殿は叫び、狂った。
次第に皮膚に鱗らしき物が生えてきて、何故か顔が蛇に変形していった。
そして、クロード殿に飛びかかった。
反撃にでようと剣を振るうが、ことごとくよけられてしまう。
「くっ。」
クロード殿が呻く。なおも蛇男殿が襲いかかる。
「もう、クロードったら見ていられないわ。・・・スターフレア!」
ピューピューピューピュゥ、ズゴゴゴゴゴゴゴ
私たちのまわりには黄金の膜が張られていて当たらなかった。うむ、なかなか“はいてく”ではないか。
やがて爆発は終わった。少し焦げ臭いような気もするが気にしないでいよう。
「やった・・・のか?」
翔子殿は横たわる蛇男殿(元その1殿)を見て呟いていた。
クロード殿はというとレナ殿の無事を確認すると安堵の表情をしていた。
レナ殿はクロード殿の側に駆け寄り、ペコッと頭を下げた。謝ったのだろう。
しかしクロード殿はその方を突き飛ばした。
「いたたた・・・もう、何するのよ。」
クロード殿の腕に何かがかかる。うずくまり、苦悶の表情を浮かべている。
筋肉が溶けているというのだろうか、皮膚が次第にただれてゆく。
レナ殿は先ほどの怒りを忘れて駆け寄り、光を放った。
先ほどの光とは違い、優しい光だ。それはクロード殿に吸収され、爛れた腕は元通りに戻った。
すごい力があるものだ。
「ごめん、ありがとう、レナ。」
クロード殿はそう言うと立ち上がり、また蛇男殿と対峙した。
次の瞬間、私には何も見えなかった。何かが白く光って・・・・
見えるようなると蛇男殿はもう絶命していた。
Epilogue
あの事件の後、レナとクロードはすっごーくいい感じだった。
あたしは感激だね。七梨もシャオもこんな感じだったらいいのにな。
いかんせん、こっちには邪魔者がいる分、あたしは苦労をしているんだけどね。
え、あたし?あたしは二人が夜更けの町のベンチに寄り添いながら腰掛けている二人をこっそりと見てるってわけさ。
ん?なになに・・・
「クロード、今日は本当にありがとね。私、もう少しでクロードと会えなくなるところだった。」
「君が礼を言うのは僕ではない。翔子さんに言って。」
「翔子・・・さんに・・・?なんで?」
クロードは昼間の出来事をまるまるレナに話した。
レナはそれでもクロードに礼を言っていた。
ほんっとうに健気な娘じゃのう。あたしゃ驚きだ。
あたしは何もしてないよ、レナ。レナを救ったのは、おまえの王子様だろ?
さてと、このままこうやって見てるのも良いけど、野暮だからな。
じゃああたし達はおさらばするよ。
「キリュウ、帰ろっか。」
「うむ、そうしよう。」
あたし達は念じた。
理論の兄貴から無理矢理聞き出した言葉を紡ぎ出した・・・
あたりが真っ白になる。
クロード達、どうしてるかな・・・
あたしは小さく微笑んだ。
そ、そう言えば、今回キリュウの活躍が少なかったな。
まあ活躍の場を広げられるようにがんばれ!これも試練だ。
FIN