翔子と紀柳のパラレルワールド日記(「まほらば」編)


『ようこそ、鳴滝壮へ!』

「一体どこにあるんだよ!鳴滝壮ってのは!」
翔子は思わず叫んだ。
「翔子殿、もう疲れた…。」
キリュウももうすでに疲れ果てている。
普段ならここまで疲れることもないだろうが、
不幸にも季節は夏。
暑さに弱いキリュウが耐えられるはずもない。
(もっとも翔子もかなりの限界なのだが)
彼らはいま、ビルの街中を鳴滝壮というものを求めて歩いている。


扉の張り紙には注意書きがしてあり、
『ここの世界に入ったら、まず鳴滝壮というアパートを探してください。
そこの手続きは済ましてありますのでそこでしばらく生活を楽しんでください』
とかいてあったからだ。


始め翔子たちは30分もすれば見つかるかと思ったのだが…、
こうして二時間探しても、まだ見つからない。
翔子がイライラするのももっともであろう。
「まったく、地図ぐらい用意しろってんだよ」
そういって、翔子は一人愚痴を言う。
「おい、キリュウ大丈夫か?]
さっきから辛そうにしていたことを思い出し、キリュウに聞く。
「あまり、大丈夫じゃない…、翔子殿、あそこの日陰で少し休もう。」
そういってキリュウの指差したところはビルの壁で日陰になっているところだ。
実際、ああいうところもあまり涼しくはないのだが
少なくとも今歩いているところはましだし、それにああいうところで
少しはやすまなければキリュウも限界だろう。
「しょうがないな…、まああたしも疲れたし、少し休むか…。」
そういって、翔子が日陰に入ろうとしたときである。
「ん…?」
翔子は後ろから誰かに見られている気配を感じがしたので振り返った。
そこには一人の女性が立っていた。
その女性は青色の髪をしていて、肩まで伸びている。
年のころは10代後半であろうか。それにもかかわらず、
何となく幼さをかんじさせる女性だった。
「あんた、何かようか…?」
翔子はその女性にそう尋ねたがその女性はそんな翔子にかまわず
キリュウに近づいてキリュウの顔をじっと見つめた。
「わ、私に何かようか…?」
キリュウは顔を真っ赤にさせながらそう聞いた。
しばらくしてから、その女性は短天扇を指差し、
「これ、何…?お姉ちゃん?」
と言葉を発した。
あまりにも見かけと言葉がつりあってなくて、翔子達は驚いた。
確かに10代後半の女性が(見た目は)女子中学生くらいの
キリュウに言う台詞ではない。翔子達が驚くのも無理はないだろう。
「こ、これは短天扇というものだが、それが?」
あまりの言葉遣いにキリュウが戸惑いながら聞く。
「かして、お姉ちゃん。」
屈託のない笑顔でその女の子はそういった。
「だ、ダメだ。これは私の大切なものだからな。むやみに貸すわけにはいかない。」
そういって、キリュウが短天扇をしまう。
「かして」
その女性は懇願するようにキリュウにいった。
「ダメだ。」
それにたいし、キリュウはきつく返す。
「かして。」
「だめだ。」
「かして。」
「だめだ。」
あきらめずにその女性は何度もキリュウに懇願する。
しかし、キリュウも自分の大切なものをおいそれと貸すわけには行かない。
「かし…て。」
とうとう泣きながらその女性はお願いしてきた。
「だめだ。」
それにも屈せず、キリュウはなおも拒みつづける。
「…か…、し…て…。」
さらにその女性は泣き出してきた。
「ダメ、だ。」
流石の反応にキリュウも少し戸惑う。
「貸してよぉ…、おねえちゃん、ちょっとでいいからぁ…。」
そういって、さらにキリュウの腕をつかむ。
「少しでいいから貸して…、おねえちゃん。」
そしてさらに追い討ちをかけるようにこの台詞、
これには流石のキリュウも屈せざるをえない。
「う…。」
そういって、しぶしぶ短天扇をわたす。
「わーい、ありがとう、お姉ちゃん。」
その言葉でキリュウの顔は真っ赤になる。
翔子はその一部始終をニヤニヤしながら見ていた。

(まったく、キリュウもあれにはたまらないよな、
それにしてもあの女の子供っぽい口調は何とかならないもんかね。)

そんなことを考えていると、
「魚子ちゃん!」
どこからか声が聞こえてきた。声のした方を振り向くと、
どこか女の子顔っぽい男がこっちをみて叫んでいた。
「あ、お兄ちゃん!」
そういってその女性は声をかけた男に近づいていく。
(お兄ちゃん…?てことはこいつの兄貴なのか?)
そんなことを考えながら翔子はもうしばらく二人の様子をみることにした。
「ダメじゃないか、勝手に外に出て行っちゃ。」
「だって、あそこにいるおねーちゃんが変わったもの持ってたの。
だからもっとよくみたくて、ついていっちゃったの。」
「そんなことしちゃダメだよ、魚子ちゃん。じゃ、早く戻ろう。
みんな心配しているよ。魚子ちゃんはいい子だからちゃんと言うこと聞けるよね。」
「うん、分かったよ、お兄ちゃん!」
そこまで話したところで、男性の方が翔子たちのいる方に来た。
…その男の顔が妙に照れた顔をしているのは気のせいだろうか?
「すみませんでした。ご迷惑をおかけして。」
ほんとに申し訳なさそうに男は頭を下げる。
「いや…、いいんだけど、もう少し何とかなんないのか。あんたの妹の言葉遣い。」
翔子は思ったことを正直に言う。
「え…?」
その男は少し呆けたかと思うとその男の顔が一気に赤くなった。
「ち、ち、違いますよ。僕と大家さんは兄妹なんかじゃなくて…」
「大家!?」
おもわず、翔子は声をあげてしまう。
(信じられねーな。この人が大家なんて。
どこの大家か知らないけど、ちゃんと経営とか成り立ってんのか?)
おせっかいにもそんなことを翔子は考えてしまう。
「あの、その、まぁとりあえず、…帰ろう魚子ちゃん。」
「うん!」
「じゃあ。」
そういって顔を真っ赤にさせたまま、その男はこの場から去ろうとする。
「あ、そうだ。あんたさぁ…、鳴滝壮ってどこにあるか知ってるか?」
このまま探しても埒があかないと重い、翔子はその男に聞いてみた。
「え?僕が住んでいるところですけど…、それが?」
「え!?」
…ということは…、
あたしのこれから暮らすところの大家かぁ!?この人が。

「え?鳴滝壮の新しい入居者なんですか?」
翔子はとりあえず男の方に事情を話した。
(もっとも大家の方に話しても意味がないと思ったからだが)
「ああ、鳴滝壮に新しく入ることになってるんだ。」
「ああ、そういえば大家さん朝、そんな事いってたな…。」
男の方は一人でつぶやいている。
「あ…だったら、自己紹介しますね。僕は白鳥隆士っていいます。
専門学校性です。」
そういって隆士は改めて頭を下げる。
「あたしは山野辺翔子って言うんだ。よろしくな。」
「私はキリュウだ。」
「あたし金沢魚子。よろしくね。
…お兄ちゃん、この人たち、あたらしく家に入ってくるの!?」
「ああ、そうだよ、魚子ちゃん。うれしい?」
「うん、魚子うれしい!」

(全く、ほんとに子供みたいだな…)

その姿をみたとき翔子は思わず苦笑する。
(こんなんでしっかりアパートを経営できてるのか?この大家さんは…。あれ?)
そこまで考えたとき、翔子に妙な違和感が込みあがった。
(そういやさっき白鳥って奴が…)
「…白鳥殿?大家さんはまるで今はじめて私たちが
入ってくるのを知ったみたいだが?」

(そうだ、この大家さんは今あたしたちが来るのをはじめて知ったみたいだ…
まさか一つのアパートに大家さんが二人いるとは考えづらいし…)


「ああ…、それは…。」
「白鳥君、みつかったのね?よかったぁ…。」
白鳥が何か言おうとしたとき桃色の髪をしたメガネをかけた女性が翔子達のいる方に来た。
「ほんとにすみませんでした、桃乃さん。」
本当に申し訳なさそうに白鳥は女に頭を下げた。
「白鳥君、これからは魚子ちゃんから一時も目をはなしちゃ、ダメだわよ。
早く戻った方がいいわね。沙夜ちゃんと朝美ちゃんにも探すの
手伝ってもらっているから…。…あれ、ところでその人たちは?」
「大家さんが朝言っていた新入居者の人たちみたいです。」
「ああ。そうなの。これからよろしくね。二人とも。
あたしは桃乃恵。あんたたちの自己紹介は
全員そろったときに聞かせてもらうわ。」
そういって、桃乃は鳴滝壮に向かおうとする。
「ところで、さっきの話だけど…。」
「さっきの話って?」
翔子が白鳥にさっきの事を聞こうとすると、恵が話に割り込む。
「大家さんの話ですよ。」
「ああ…、あの話。二人ともそのことに関しては自己紹介の
ときにでも話をするから、楽しみにしてて。」
そういって、全員で鳴滝壮に向かう。
翔子達は相変わらず首を傾げるだけであった。

「ここが鳴滝壮よ。二人とも。」
そういわれ恵に案内されたところは木造のアパートであった。
ビル街の中でぽつんとここだけが木造である。
「こりゃ又古風な…。」
「なんとも、古風なアパートだな…。」
二人とも正直に感想を言う。
はっきり行ってこんなアパートとは翔子たちにとって予想外であった。
確かにこんなビル街の中でこんな場所があるのは想像しがたい。
「桃乃さん、みつかったんですね。」
「あら、朝美ちゃん、ちょうどよかった。今呼びに行こうと思ってたのよ」
ちょうどそのとき又一人、鳴滝壮に人が帰ってきた。
緑色の髪の毛をしていて背のころから考えるに、中学生くらいの女の子である。
「朝美ちゃん、手伝ってくれてありがとう。」
白鳥はその子に礼をいう。
「ううん、このまえ、内職手伝ってもらったからこれでおあいこ。…ところでその人たちは?」
そういってその女の子が翔子達の方を向く。
「大家さんが朝言っていた、新入居者だよ。」
「ふーん、…じゃあ自己紹介するわね。」
そういって緑色の髪の毛をした少女は自己紹介しようとする。
「朝美ちゃん、後で全員まとめてしましょう、沙夜ちゃんは?」
「お母さん?お母さんならその辺にいると思うけど…。」
「まあおなかがすけば帰ってくるでしょ。朝美ちゃんはここにいて、沙夜ちゃんが
来るのを待ってて。あたしはこの二人の歓迎パーティーの準備するから。
…白鳥君、部屋、貸してくれるわよね。」
そいういって、恵は白鳥の方を向く。
「ええ!?僕の部屋ですか?」
「そうよ。今日みんなに迷惑をかけたんだからこのくらい当然だわよ。」
「はい…。」
「あとそれと、魚子ちゃんに本でも読んで寝かせてあげなさい。
梢ちゃんがいないことには何も出来ないし…。」
「…そうですね。…じゃあいこうか魚子ちゃんに翔子ちゃんにキリュウちゃん。」
「うん!お兄ちゃん。」
魚子がそういったあと、翔子達も白鳥の後に続いた。



白鳥達に連れられて、翔子達は白鳥の部屋に入る。
(恵は飲み物を取りにいくとかいって自分の部屋に言った。)
「悪いけど、二人とも少し待ってて。
魚子ちゃんに本を読んであげないといけないから」
そういって、白鳥は絵本を本棚から取り出す。
「どのほんがいい?」
「魚子、このほんがいい。」
「『銀の糸』この本でいいんだね。」
「うん!」
「じゃあ読むよ。これはどんな願い事でもかなえてくれるという『銀の糸』
の話である――――。」
そういって白鳥は本を読み出した。
魚子は興味深そうに白鳥の読んでいる本を見ている。
しかし、翔子にとっては暇である。
(まったく、四人もいるんだからあたしたちをこうして待たせるよりも
トランプでもしたほうがいいんじゃないか?)
魚子たちの様子をみて、翔子がそう思うのももっともである。
(まぁ今は4人でできる状態ではないんだけど)
翔子はそう思いながら、二人の様子を見ていた。
なぜ4人でできる状態じゃないかは後で説明しよう。
しばらく翔子が二人の様子をみていると、魚子の体が白鳥の方に傾いていった。
しばらくすると、寝息が聞こえてきた。どうやら魚子は寝てしまったらしい。
「ふう・・・、ようやく寝てくれた…。二人とも退屈させてわるいね。」
そういって白鳥が翔子達の方を向く。
「そう思うんだったらトランプでもした方がよかったんじゃないか?」
ちょっと皮肉をこめて翔子が言う。
「え…と、魚子ちゃんをどうしても早く寝かせたかったから…。
僕たちだけいてもどうにもならないし…」
(はぁ…?)
白鳥のその言葉に翔子は首をかしげる。
「それにしてもどうしたの、キリュウちゃん。さっきからずいぶん顔が真っ赤だけど…。」
白鳥がそういうとキリュウの顔がますます真っ赤になった。
「あ、そういやあんたさぁ…、キリュウにちゃん付けするのやめてくれないか。
キリュウは照れ屋だから…。」
「ああ…、はい。」
そういって白鳥は頷いた。
「それと…、私もな。そう呼ばれるの、なれてなくてな。」
「あ・・・はい。」
「ところでさぁ…、何で眠らせなくちゃいけなかったんだ?」
話を終えたところで翔子が聞く。
「後で自己紹介のときにでも説明するよ。」


「白鳥君、みんなをそろえてきただわよ。」
十分後、そういって白鳥の部屋にぞろぞろと人が入ってきた。
ぜんぶで、五人だ。
手にはそれぞれお菓子とかを持っている。
(一人だけ、人形を持っていたが)
そしてそれぞれに座り始めた。
全員が席についたところで恵がマイクを取り出した。
「ではこれから二人の歓迎会をはじめます!まずは自己紹介!じゃ、珠美ちゃんから。」
そういわれたったのは濃茶色の髪をした、高校生くらいの女の子だ。
「1号室に住んでいる茶ノ畑珠実高校二年生です〜。
今後ともよろしくです〜。」
(へぇ…なんか間延びした声を出すひとだな。しかし、なんかこのひと、
裏がありそうだな。ま、確証はないけどな。)
翔子はぼんやりとそう考えた、
「じゃ、次、沙夜ちゃん。」
そういってたったのは長い黒髪をした女性だった。
「黒崎沙代子…、年齢内緒、フリーター…、無趣味…。」
(く、暗い…。キリュウも無愛想だけどここまで暗くはないぞ…。
というか…。)
「なあ、そのロープは一体何なんだ?」
そういって翔子は沙夜子の手に持っていたロープを指差す。
そう、入ってきたときは気づかなかったが、その女性は
なぜか手にロープを持っていたのである。
「……内緒。」
そういって沙代子は座る。
(ほんとになんか無愛想な人だな…)
翔子はそう思った。
「ごめんね、お母さんこういうの苦手な人だから…。」
そういうのはここに来てから初めてあった女の子だ。
(へえ、この子の母親か…。それにしても似ても似つかぬ親子だな…。)
「じゃあ、次は朝美ちゃん。」
「黒崎朝美、中学生です。5号室にお母さんと一緒に住んでいます。
趣味はお料理で梢ちゃんにいつもお料理を教えてもらっています。」
朝美は沙夜子とは対照的に元気な声を出して、自己紹介をした。
(ほんとにお母さんと対照的な子だな…。)
そんな朝美の自己紹介を見て翔子は改めてそう思う。
「じゃあ、次は灰原さん」
そういわれてたったのは、人形を持っていた男性だ。
「俺は6号室のジョニー!流星ジョニー!
そんでこいつが灰原由起夫!俺の下僕さ!」
(最後は腹話術野郎か…、ほんとにここには個性的な奴ばっかりだな)
「じゃあ、こちら側の自己紹介はここの大家さんにしめてもらいましょう。」
そういって、恵が魚子のほうに行く。
「梢ちゃん、起きて」
(”梢”ちゃん…?”魚子”ちゃんじゃないのか?)
そんなことを翔子が考えていると…、
「う・・・ん。あれ、ここは?」
「ここは白鳥君の部屋だわよ。」
「…どうしてここに?」
「そんなことより、梢ちゃん、朝言ってた新しい人たちきてるわよ。」
「あ、はじめまして、蒼葉梢といいます。…
すみませんでした。きていただいたのに、寝てしまっていて…。」
そういって、もうしわけなさそうに梢は頭を下げた。
一方翔子達はというと…、あまりの変貌塗りに戸惑ってしばらく声が出ない。
「あ…」
ようやく翔子が何か言おうとしたとき、恵が問答無用で口をふさぐ。
「そんなことはいいからとりあえず、コップとか持ってきて。
まだ、もってきてなかったし…」
「桃乃さん…、迷惑をかけてしまったんですから先に謝って置かないと…。」
「ま、そんな事気にしないわよ、ね、二人とも」
そういって、恵は翔子達の方を見る。
「あ…ああ…。」
翔子は一言そう返事をした。
「すみませんでした。それじゃ、何か持ってきますね。」
そういって梢はパタパタと部屋を出て行った。


「一体どういうことなんだ?」
翔子はたまらず恵に聞く。
「二重人格、というやつか…?」
そのときキリュウがよこから口を出した。
「そうだわよ。」
「二重人格だって!?そんなことが実際にあるのか!?」
翔子がそう声を上げるのも無理はない。
ドラマとかでよく見るとはいえ、
いきなりそういわても信じる方がまれであろう。
「それ以外に説明できる方法があるのだとしたら教えてほしいだわよ。
ま、もう納得したんじゃない?
…ところでキリュウちゃんは今まで二重人格の子に会ったことがあるの?」
「ああ・・・、まぁな。」
キリュウは頷いた。
まあ確かに数千年も生きていればそういうこともあるかもしれない。
一方翔子はまだ何かふに落ちていない感じだ。
(最も、すぐに信じろ、というのが無理なのかもしれないが)
「じゃあ、梢ちゃんが戻ってきたらあなたたちの自己紹介の番ね。
あ、それとキリュウちゃん、梢ちゃんは二重人格じゃなくて…」
そこまで恵が言いかけたとき、


ガシャン!


と大きな音が廊下から聞こえてきた。どうやらコップが割れた音みたいだ。
「梢ちゃんがミスをするなんて珍しいですね〜。
沙夜子さんなら日常茶飯事ですけどね〜」
珠実がからかうようにそういった。
(ちなみにいつのまにか沙夜子によって頬をつねられている。)
「梢ちゃん、結構動揺していたみたいだからね〜。
ちょっと様子みてくるわ。」
そういって恵が外に出て行く。
「僕も様子みてきます。」
そういって白鳥も部屋を出て行く。
「…あたしたちも行こうか。」
「…そうだな、翔子殿」
それに続いて、翔子達も部屋を出て行った。


部屋からでると、梢が横に倒れていた。
音に驚いて気絶してしまったらしい。
幸いにもコップの残骸は中庭に落ちていて梢に
怪我はないがどうやら気絶しているようだ。
「おい、あんた大丈夫か。」
そういって、最初に梢に駆け寄ったのは翔子だ。
「大丈夫か…?梢殿。」
そういってキリュウも近づく。
ちなみに白鳥と恵はというと、なぜか梢から距離を置いていた。
「おい、あんたたちそんなところで何してるんだ?」
翔子が声をあげる。
「あたしたちにも事情ってもんがあるんだわよ…。
怪我があるんなら話は別だけど――――。」
「はは…。」
(一体どういうことだ?)
と翔子は思いつつも、体をゆする。
そして…。
「…。」
ようやく、目を覚ました。
「大丈夫か?」
キリュウは声をかけた。
「…おまえら誰だ?」
(え?)
と翔子達はおもわず声をあげそうになった。
今まで会った”魚子””梢”のどちらでもない反応だからだ。
「ああ。早紀ちゃん?」
そういったのは恵だ。
「おう、早紀ちゃんだ。」
そういって”早紀”(と呼ばれた女性)は恵に近づいていく
「久しぶりだなー。ところであいつら誰だ?」
「新しく鳴滝壮入ってきた人たちだわよ。」
「おう、新入りか。じゃあ歓迎会しないとな。」
「今やってるだわよ。」
「おう、そうか。じゃあ、おめ―らもこい。」
そういって、”早紀”と呼ばれた女性が翔子達に声をかける。
「早紀ちゃん、先にいってて。あたしはもう少ししたら行くから。
あ、宴会は白鳥君の部屋でやってるから。」
「おう、そうか。じゃ、いくぜ、白鳥。」
そういって、早紀は白鳥と一緒に白鳥の部屋にもどった。
「…ひょっとして多重人格なのか?」
そう声を出したのはキリュウである。
「ひょっとしなくてもそうだわよ。」
にゃはは、とわらいながら恵は返事をする。
「そうか…。」
キリュウはそういって一人頷く。
翔子もその言葉は聞いたことだけはある。
(多重人格、か…。)
とりあえず、翔子ももう納得することにした。
「それにしても一日目から三つの人格に会えるなんて、
あんたたち、ほんとにラッキーだわよ。」
恵が笑いながら言った。

(ラッキー…、まぁ確かにラッキーかもしれないな)

翔子はそう思うことにした。

「おう、おめーら。自己紹介しろい。」
部屋から戻ったとたん、早紀にそういわれ、翔子達も自己紹介をする。
「じゃあ、全員自己紹介したところでかんぱいするぞ。」
そういって、早紀は翔子達にコップを渡す。
「かんぱーい」
そういって全員がコップを手にとって、乾杯をする。
「うぐっ。」
一口飲んだところで翔子は思わず声をあげる。
「なぁこれって…。酒?」
「おう、酒だ。」
そう頷いたのはもちろんコップを渡した早紀だ。
「なんだぁ、下戸かぁ?ったくつまんねーな。」
翔子の様子をみてコップを奪う。
(まぁ酒なんて飲もうと思えば飲めるだろうけど…
(昔、不良時代に飲もうとしたことあるし)、
あ、そうだ、キリュウは大丈夫か?)
と心配して翔子がキリュウを見ると…、

すーすー

すでに寝ていた。
(…酒にも弱いのか、キリュウは。数千年も生きてりゃ
酒飲む機会ぐらいあったんじゃないか?)
翔子はそう考え思わず苦笑する。


そして、鳴滝壮の夜はふけていく―――――。



続く

以前から書こうかこうと思っていた
パラレルワールド日記まほらば編です。
なんとかこうして完成することが出来ました
とりあえず続けます。
(銀先生とか出したいし)

PS
やっぱりキリュウとかシャオとかルーアンとかは
数千年も生きているんだから主と酒飲む機会ぐらいあったように思うんですが…、
皆さんどう思いますか?
(あ、シャオの場合、南極寿星がとめるのかも)


ちなみにこの話、隠し話があります。
興味があれば見つけてくださいませ♪
(ほんとにくだらないけど)(笑)
では
PS

全て選択を押しても見つかりませんよ(笑)