「どうやらここは千葉県幕張市らしいな」
どこで確認したのか、キリュウがそうつぶやく。
「随分具体的だなぁ・・・」
とりあえずここに何があるか、探し出すため歩いていく。
「よーし、オーライオーライ」
「そっちいったよー」
あてもなくさまよった二人は
どこかのグラウンドの近くに来ていた。
「おっ。誰か遊んでるな。ちょっと見てみるか」
翔子の視線の先にはグラウンドで数人の男女が
ボールを使って遊んでいた。
「よぅし任せて!オーライオーライ」
めきょ
「あ・・・・」
ボールを受けとめようとした長身の青年は
そのままボールを顔に受けてしまった。
「津田沼。おまえ球技あかんねんから無理すんな」
そう言って小柄の男がボールを手に取った。
「見とけやぁ!誉田流スペシャルサーブをみせたるわい!!」
バシーン!
男の打ったボールはそのまま向かいの女性の方へ・・・
「甘いっ!!」
バシーーーーーーーン!!
男のサーブよりも数段強力なアタックをその女性は放った!
バキーーーーーン!
「ぐはっ!?」
そのアタックを見事にくらって小柄の男は倒れた。
ボールはその勢いで高く飛び上がり・・・
ぽとっ
「あれ?」
離れて見ていた翔子の元へ落ちてきた。
「誰か来るぞ。翔子殿」
キリュウの言葉通り、また別の青年が翔子達の元に走ってきた。
「やぁ、ゴメンゴメン。姉ちゃん手加減しないからさ。ボールありがとね」
ガサッ!
その時翔子達の後ろから突然誰かが現れた!
「みちるさぁーん・・・誰その女ぁーーーー・・・・」
「や、八積さん!誤解だよぉ。ただボールをとってもらっただけで・・・・」
八積と呼ばれた女性は明らかに嫉妬のオーラを放ちながら
みちるという男に近付いていく。
「チル、なにやってんのよ早く戻ってきなさいよ」
そう言ってさっき強烈アタックを放った女性と
もう一人、やけに眠そうな目をした女性がやってきた。
「ボールあったの?じゃさっさとやろうよ」
と、その時!
「明日香ぁーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「こんな時にめんどくさいの来たね」
「なんだぁ?」
翔子が叫び声が聞こえた方を向くと
長髪の見た感じなかなかの美青年が猛ダッシュでやってくる。
「こんな所で明日香に会えるなんて
俺って超絶ラッキー!まさしく神のお導きだぜぇぇぇぇぇぇ!!」
・・・だが思考レベルは低そうだ。
「ああ、キミタク丁度よかった。さっき飲んだジュースの空き缶。
出来るだけ『遠くに』捨ててきて」
「よっしゃあ!任せろ!!」
そう言ってゴミを持った青年は来たときと同じ猛ダッシュで去っていった。
「・・・なんなんだ・・・あんたら一体なんなんだ・・・」
「悪いね驚かせちゃって。俺は三咲未散(みさき みちる)
みんなからはミサチルって呼ばれてるけどね。
こっちは八積ちとせ(やづみ ちとせ)ちゃん」
「ふふっ、よろしく」
「はぁ・・・・」
「こっちは俺の姉ちゃんの三咲桜子(みさきさくらこ)
んで隣にいる眠そうな目の人がその友達の柏明日香(かしわ あすか)さん。
ちなみにさっき走っていったのはキミタクこと君津拓三郎(きみつ たくさぶろう)。
一応俺の同級生なんだよ」
「ふむふむ」
「おーい、なにしとんねん」
「どうしたの?」
「ああ、あの二人はね。小さい方が誉田武(ほんだ たけし)さん。
大きい方は津田沼聡(つだぬま さとし)さん。姉ちゃんの同級生だよ」
「なるほど・・・・あ。あたしは山野辺翔子。こっちはキリュウだ」
「よ、よろしく・・・」
相変わらず顔を赤くしながら答えるキリュウ。そこへ
「ハイ!みなさん何してるデスカー?」
「あっ、ユカちん」
知り合いらしい外人の女性がやってきた。
「丁度よかった紹介するよ。ユーカリ、パキンさん。
オーストラリアから来てる大学院生だよ」
「オーウ!いつのまにかユカチンの知らないニューフェイスがそこにいるネー!」
「ユカちん・・・日本語勉強してるわりには相変わらず進歩ないね・・・・」
次から次へと現れる個性的なメンツに
圧倒されつつある翔子であった・・・
「おっしゃあ!ここでおうたんもなんかの縁や!
ここは親睦を兼ねて明日香んちへゴー!」
「こら勝手にきめんな!」
いつのまにやらメンバーに気に入られた二人は
誉田の提案で明日香の家に行くことになった。
というわけであるアパートの前に来たメンバー達。
その時明日香が口を開いた。
「いっとくけど・・・とてつもなくちらかってるからね」
聞いた話では三咲姉弟以外は一人暮らしらしい。
それなら多少ちらかっていてもしょうがないのでは・・・
と、思っていたのは甘かった。
ガチャ
ドアを開けた向こうは・・・・
想像をはるかに越える「物の山」・・・・・
一般でいう「ちらかってる」の限度を
超越していた。それほどまでにちらかっていた。
「・・・・・・・・・・・・・」
明日香の部屋のあまりの状態に言葉を失う二人。
「明日香ちゃん・・・いつも言ってるけど部屋はちゃんと片づけなよ・・・」
津田沼が呆れながら言う。
「しょうがないわね。二人も手伝って」
いきなり片づけの手伝いを言い渡す桜子。
「ちょ、ちょっと。なんであたしが・・・」
「いやなの?」
顔は笑っているがそのまわりに
何か黒い気を放ちながら桜子は言った。
「・・・・手伝います」
「うむ・・・・」
逆らわない方がいい。
翔子とキリュウは直感でそう思った。
「さて、どこから手をつけたもんか・・・・」
物が多すぎて呆然とする一同。
「そうだ。キリュウ。浪漫倶楽部に行った時に使ったあの手で行こう」
「そうだな・・・このままではやりづらいからな」
そう言ってキリュウは短天扇を広げた。
「万象大乱!」
すると部屋にあったすべてのものが小さくなる。
「おおっ!」
当然驚くメンバー達。
「すげぇぇぇぇぇ!キリュウちゃん手品師かなんか?」
「まぁ、そんなもんか・・・・」
意外にあっさりと受け入れる面々。
どういう神経してるんだ・・・
そういうわけで?
片づけは順調に進んでいた、その時
「ちょっと休憩にしようか」
「おっ!来たでぇ。津田沼の料理が!」
いつの間に作っていたのか、津田沼が料理を作って持ってきた。
「いっただっきまーす」
ぱくっ
「うまい・・・・」
「でしょ?津田沼君料理すごく上手なのよ」
本当にものすごくおいしい。
シャオの料理にも負けていないほどだ。
男がこんなうまい料理をこしらえて・・・
ちょっと女のプライドが・・・・
「いやー、もう、ほんろ、つだぬまってりょうりうまいよねー」
「ん・・・げっ!」
いつの間にか明日香の顔が赤くなっている!
酒を飲んだらしい。
「かーっ!やっぱ酒飲むとごっつ気持ちええなぁ!」
誉田も酒が入っている。
「いてっ!いててててててて!!!」
向こうでは酒を飲んだ八積にミサチルがエビ責めをくらわされている。
「いいねー。お酒っていいねー」
津田沼は特にひどく、完全に酔っている。
どうやら酒にはめちゃめちゃ弱いらしい。
「そーれいくよー」
やはり酔っている桜子がいきなり誉田を持ち上げた。
「ていっ!!」
そしてそのまま玄関に向かってぶんなげた!
ガチャ
「明日香ぁー!!どうだいこれから一緒にデート・・・」
バキッ
その時玄関を開けたキミタクは誉田と激突して気を失った。
「うーん、もうのめらいー」
時間にして数分。しかしとてつもなく長く感じられた数分が過ぎた。
酒を飲んですっかり暴走した面々はようやく落ち着いた。
「なんて疲れる連中だ・・・・」
「この者達と付き合うこと自体試練かも・・・・」
こうして千葉県幕張市の大学生達との交流は終わった。
っていうかただ振り回されていただけのような。