ぐーーーーーー
「あ・・・いけねお腹空いたな」
「買っておいた饅頭でも食べようか」
そう言って饅頭の箱を開けたその時!
「おいしそうね」
「うわっ!?」
「いつの間に・・・・」
いきなり現れた謎の女性。
目の部分は影になっていて見えない。
「あ・・・どうぞ・・・・」
とりあえず饅頭を差し出す翔子。
「ありがとう」
そう言って女性は饅頭にかぶりつく。
「あたしらの飯が・・・」
「しかたない。少し大きくしよう。万象大乱」
キリュウの力で饅頭が1.5倍くらい大きくなる。
「うん、これなら3人で分けても十分だな」
と翔子が言ったその時
「もっと大きく出来る?」
女性が話しかけてきた。
「えっ?そりゃ・・・出来なくもないが・・・・」
「じゃお願い出来るかしら?」
「う、うむ・・・万象大乱」
キリュウは一つの饅頭をかなり大きくした。
普段ルーアンを手なづけているのと同じサイズだ。
「ありがとう。食べ応えありそうだわ」
そう言って女性は巨大饅頭を食べ始めた。
「すげぇ・・・ルーアン先生にも負けない食欲・・・・」
「ふぅ、ごちそうさま」
見事に巨大饅頭を完食した女性。
「ところであなた達ここでなにしてるの?」
「いや、別に・・・・あ、そうだ!テレビ局の中でも見ていこうか?」
「テレビ局見学か、なかなか興味深いな」
「ふーん。それなら私が案内するわ」
「え!?」
「あ、どうも峰さん。・・・・そちらの二人は?」
「見学よ。今日だけ特別に入れてあげて」
「はぁ・・・」
玄関のガードマンもあっさりと通してくれた。
この女性の名は峰亜紀子(みね あきこ)と言い、
マルテレビのアナウンサーであった。
「いいのか?一般人を入れて・・・」
「いいの。さっきのお饅頭のお礼」
「ガードマンもあっさり通してくれたし・・・」
「私の紹介だからね」
「峰さん・・・いちアナなのにそんな権限が・・・」
峰さんの底知れぬ力に驚きながら、
マルテレビ内部を歩く3人。
「そういえば二人の名前を聞いてなかったわね」
「キリュウだ」
「山野辺翔子」
「翔子さん?あらうちにもしょうこさんがいるわ。字は違うけど」
そこへ
「峰さーん!」
随分体の大きい、一見強面の男性がやってきた。
「どこ行ってたんですか。ねじまきテレビの打ち合わせ始まりますよ」
だが外見に似合わずけっこう落ち着いた性格のようだ。
「あの・・・この人は・・・・」
「あぁ。紹介するわ。広末淳(ひろすえ じゅん)君。
うちの番組のアナウンサーよ」
「随分ごついアナウンサーだな・・・・」
「広末君。私打ち合わせに行って来るからこの二人をテレビ局案内してあげて」
「えっ!?ちょっと峰さん!?」
広末が止めるとも聞かず行ってしまった。
「しょうがないなぁ・・・じゃ、じゃじゃじゃじゃあよろしく・・・・」
初対面の翔子とキリュウにあがる広末。
「こ、こここここちらこそ・・・・」
いつものようにあがるキリュウ。
「二人で何やってんだ・・・・・特にあんた。アナウンサーがあがり性でどうする・・・・」
「えーと、ここがアナウンス室。ここにみんないるんですよ」
「控え室みたいなもんかな?」
広末に案内されて机の並んだ部屋にやってきた。そこへ
「やっほー!ジュンジュンどうしたの?」
「ピッピロリンさん!」
誰か別の女性が現れた。ここにいるということは恐らく彼女もアナウンサーだろう。
「この人は橘ひろりさん。スポーツ担当のアナウンサーです」
「橘さんなんてよそよそしいよー。ピロリンでいいよーん!」
「やけに明るいアナウンサーだな・・・・」
と、そこへさらに
「あっ、お客さんですか?」
「わーい。女の子二人ですぅ!」
男女がペアで一人ずつ現れた。
「この人達もアナウンサー・・・」
「うん。僕の一つ先輩なんだ」
そこへ男性のほうが挨拶してくる。
「あ・・・・大高四郎(おおたか しろう)です・・・よろしく・・・」
「は?」
大高の声はかなり小さく聞き取るのがやっとである。
アナウンサーとしてこれでいいのか?
「奈木すずり(なぎ すずり)でーーーーーす!!よろしくねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「ぐわーーーーーーー!!」
対する女性の方はとんでもない大きな声量。
たかしの叫びなんて目じゃない。鼓膜が破れるかと思った。
「えっと・・・この二人とピロリンさんとで「スポーツトゥギャザー」っていう
スポーツ情報番組をやってるんです・・・」
「な、なるほど・・・・」
奈木の声で頭がフラフラする一同。
そこに奈木が再び話しかけてきた。
「翔子ちゃん何歳なの?」
「14歳だけど・・・・」
「さっすがー、若ーい。ピロリンさんの半分以下なんですねー」
ゴゴゴゴゴ・・・・・
突然明るかったピロリンの表情が怒りに変わり、
あたりに凶悪なオーラを放ち始めた。
「まずい逃げますよ!ピロリンさん歳のこと言われるとすぐきれるんです!!」
ドカッ!!
「あーーーーー・・・・・」
哀れ大高がピロリンの犠牲となった。合掌。
広末と奈木に案内されて、別の部屋を覗いてみると
「うっひょー!ミッチー!!」
中年男性のテレビを見て喜ぶ声が聞こえてきた。
「山際さん・・・そういうのは家で見て下さいよ」
「いいじゃねーか。別に」
「あの人はね。山際さんっていって、私達の上司なの。
いい人なんだけと゜ミッチー好きがちょっと度が過ぎてて・・・」
奈木が説明をしてくれた。ちなみにミッチーとは
このマルテレビで放送しているアニメ「バンパイアファイター エクセルみちる」の
ヒロインのことらしい。
「おや、お客様ですか」
そこにもうひとりの中年男性が現れた。
彼の名は乾健吉(いぬい けんきち)ベテランアナにして広末達の上司だ。
「ほほぉ。見学ですか。それなら私の書いたこの本を差し上げましょう。
テレビ局のことを知るには絶好だと思いますよ」
「あー・・・えーと、それじゃ別の所行きましょうか。ははは・・・」
広末と奈木は焦ったように部屋をあとにした。
「全く・・・乾さんは自叙伝を書くのが好きなんだけど全然売れないんだ。
だからああやって隙あらば本をだして来るんだよ・・・」
「・・・・ここのテレビ局まともなアナはいないのか?」
「なんだ客が来てるのか」
「あ。ノッチさん」
次に現れたのはノッチこと野々内茂(ののうち しげる)。
いつも黒スーツを着ていて、優しそうなスマイルを浮かべているが・・・
「あれ?ノッチさんその箱は?」
「ああ、これか。番組を見ている人からのファンレターだ」
ノッチは昼のワイドショー番組「ときめきファーストレディー」という番組の司会で、
かなりの人気を誇っているらしいのだが・・・
バサバサバサバサ・・・・
「あー!ひどいー!!」
なんとノッチはせっかくのファンレターを捨ててしまった!
「いいよ。持っててても邪魔なだけだ」
その瞬間、ノッチのスマイルが逆に嫌味に見えた。
「視聴者はノッチさんの性格の悪さ知りませんからね・・・・」
広末がぼそっと小声で言った。
要するに裏表の激しい奴らしい。ある意味出雲よりたち悪い。
(客か)
「ちっ・・・イサムか・・・・」
ノッチが舌打ちする。
そこに今度は赤いロングヘアーをなびかせる青年が現れた。
「彼はイサム君といって僕の同期なんだ。彼は
世界初のビジュアル系アナウンサーなんだ」
「び、ビジュアル系?アナウンサーが!?」
イサムはときめきファーストレディーのアシスタントなのだが
非常に無口で無愛想。さっきの大高以上の小声だ。
恐らくマンガで表現したら離珠のように
空間文字になるだろう。
「あれ?イサム君その箱は・・・・」
(これか)
イサムは多くを語らず箱を差し出すと中に猫が入っていた。
(捨て猫だ。今日家に連れて帰る)
「さすがー。イサムっちはね動物大好きなのよ。
今までたくさんの動物の世話をしてきたの。
他には募金も好きだし、しかもベジタリアンなのよ」
「・・・つまりいい人なんだね」
「見かけによらんものだな・・・」
(それほどでも)
イサムは終始無口、無表情だった。
しかして彼は慈愛に満ちあふれたナイスガイであった。
「だーーーーーっ!!」
「はっ!この声は!」
唐突に聞こえてきた大声の方を振り向くと
「才谷さん!帰ってきてたんですか!?」
彼は才谷哲人(さいや てつんど)。
スポーツ担当だが一年のうちをほとんど外国で過ごすため滅多に日本にはいないのだ。
「奈木ーーーーー!!おまえまた俺の机を物置にしやがってーーー!!」
「きゃー!ごめんなさーい!」
奈木にも負けない絶叫の才谷。彼は絶叫を得意とするアナウンサーらしい・・・
「まぁ、それはともかく土産だ。見ろ、このバッジ!」
才谷が土産として取り出したのはたくさんのバッジ。しかし・・・
「うわ・・・センスわる・・・」
がばっ!
「はははは!なんでもないッス!」
(才谷さんの土産のセンスが悪いのはいつものことッス!でもそれを口に出しちゃダメですよ!)
「はぁ・・・・」
「あらお客様?」
「あっ、佐倉さん!」
次に現れたのは佐倉あや乃(さくら あやの)という女子アナだ。
かなりの実力を備えたアナウンサーらしい。
「あら、そちらのお嬢ちゃん人間じゃないのね」
「なにっ!?」
いきなり人間ではないことを言い当てられるキリュウ。
「な、何故それを・・・」
「だって明らかにオーラが違うもの」
「佐倉さん、霊感強いんですよ」
「そんなたいしたもんじゃないのよ。
今もあんた達の後ろに知らない人が見えるくらいで」
「後ろ・・・・?」
振り返って見るがそこには誰もいない・・・・
「まさか・・・な。ははは・・・・」
「へー、翔子ちゃんていうのね。
うちにも梢子っているのよ。会わせようか?」
そういえばさっき峰さんがここにもしょうこがいると言っていた。
是非とも会っておかねば。
二人は佐倉に案内されてあるスタジオに入っていった。
「それー!」
「いいよー!千秋ちゃん、かわいいー!!」
スタジオではセットの中で一人の女性が動物の着ぐるみを着てはしゃいでいた。
「あの子は藤丸千秋(ふじまる ちあき)ちゃん。広末やイサムと同期の子なの」
「おや、佐倉さん、なんか用ですか?」
そこへサングラスをかけた男性がやってきた。
「丁度よかったわ。この人は小松崎さん。ここの番組のディレクターよ。
小松崎さん。久保っちしらない?」
「久保ちゃんかい?もうすぐ着ぐるみ着てこっち来ると思うけど」
その時千秋の大声が響いた。
「梢子さーん!こっちこっちー!」
千秋の目線を追うとそこには・・・・
巨大パソコン。
「・・・・・・は?」
よく見るとパソコンに手足が生えている。
「小松崎さん・・・これけっこう動きづらいですよ」
「いいよ久保ちゃーん!いい画だー!!」
パソコンの中から声が聞こえる。
「久保っち。それじゃわかんないでしょ。顔出して挨拶して」
「はーい」
そう言うとパソコンの頭部がとれて中から女性が出てきた。
「暑い・・・・夏の着ぐるみってきついのよ・・・・」
「紹介するわ。久保梢子(くぼ しょうこ)。この番組の司会者なの」
「あ・・・よろしくー」
「う、うむ。よろしく・・・・・」
随分奇妙な登場をした梢子にとまどう二人であった。
「そのパソコンは・・・・」
「これ?パソコン型の着ぐるみ。今回のテーマがインターネットだから」
「テーマ?」
「あ、知らない?この番組は『マルマル大発見伝』っていって、
毎回いろんなテーマを特集してそれに合った着ぐるみを毎回着るのよ」
ようやく事態が飲み込めてきた二人。そこへ
「久保ちゃーん!早速リハーサルいくよ!」
「はっ、はーい」
梢子がセットの中へと入っていく。
「梢子さーん!頑張ってくださーい!」
奈木が応援しようとセットに近付く。
その時。
ガッ!
「あ」
ガシャーーーン!
ドカーン!
バリーン!!
「あーーーーーっ!うちの機材がぁぁぁぁぁ!!」
奈木がどこかの線に足をひっかけて、
機材をみんな倒してしまったのだ。
「奈木はね・・・ああやってすぐ機材を壊すのよ。
本人に悪気がないから余計にたち悪くて。
人は彼女のことをこういうわ。
『マルテレビの美しき破壊神』と・・・・」
「無茶苦茶だな・・・・」
翔子は呆れてものもいえない。
「気を取り直して・・・リハーサル行くよ!久保ちゃん!」
「はい!」
アシスタントの千秋とともにリハーサルが始まった。
「そういやインターネットがテーマなのにどうして相棒は動物の着ぐるみなんだ?」
「ポストペットのつもりなんですって」
「あ、そう・・・・」
千秋はさも楽しそうに着ぐるみの仕事をこなしている。
「それじゃ次!久保ちゃん行ってみよー!」
「はい!」
動きにくいパソコン着ぐるみでなんとか動く久保。
「よぅし、今だ!」
小松崎が何やらスイッチを押す。
バコーーーーーーーーン!!
突然着ぐるみが爆発した!
「ええええええええ!?」
「おい・・・久保さん大丈夫なのか?」
煙が晴れたそこには黒こげになった梢子が・・・・
「うーん、いいねぇ。おいしいよ!久保ちゃん!!」
まるで芸人のような扱いを受ける梢子。
「全く、相変わらずねぇ・・・・」
「いつもこんなことやってんのか・・・・」
どいつもこいつも非常識なメンツの揃うマルテレビ。
我ながらすごい所に見学に来たなと感じる
翔子とキリュウであった・・・・
「なんなんだ、このテレビ局は・・・」
「これも試練か・・・・」