翔子と紀柳のパラレルワールド日記(「観光王国」編)


「裏のうらのウラ」

3階建てながらの建物が、一本の道に沿って並んでいる。これはホテル街ってやつだ。
ただ、ホテルと言ってもネオンがちかちかの、看板がキラキラの豪華なものでもない。
まあ中にはそういうのもあるけどな・・・。
っていうかこりゃ宿と呼んだ方がしっくりくる。うん、これは宿街だ。
「ってなんだそりゃ・・・。」
自分で考え付いたことに突っ込んだ。変な考えが浮かんでくるのはパラレルワールドの特性かもしれないな。
ご大層なタイトルにひかれて来てはみたものの、見えてくるのは宿ばっか・・・。
「翔子殿、これは宿ではないぞ。普通の建物だ。」
「ちっ、気付いたか。」
そう、宿宿とあたしが言ってはいるが、別に宿がずらりと一直線上に並んでるわけではない。
単純にアパート、なんだろうな、これらは。外国の建物はどれもこれも大きく作られてる、
なんて話をどこぞで聞いたような気がしないでもないけど、今見ている風景はまさにそうだ。
レンガ造りの・・・いや、石造りの?とにかく、4階5階は平気であろう建物が道に沿ってずーっと並んでる。
「違うな、3階だてばっかだ。」
「しかし主殿の家よりは大きいぞ。」
「どうでもいいだろそんなこと・・・。こんなかたまりと七梨の家とを比べるなよ。」
「そうか、残念だ・・・。」
何を残念がってんだキリュウのやつ。ひょっとして勝負か何かするつもりだったのか。
・・・それにしても殺風景だなあ。
格子状に規則正しくも見える風に並んだ窓からは灯りや人の声がもれているわけでもなくさびしいものだ。
そうだな・・・寂しい路地ってのはまさにこのことを言うんだろう。
まったくもってつまんない風景だ。一種の壁だもんな、こりゃ。
おまけに日が暮れてきている。観光・・・にでも来ているのならばとってる宿に帰ろうかという時間だ。
「ところで翔子殿、何に気付いたというんだ。」
「は?」
「一番最初に翔子殿が言っただろう、舌打ちしながら。」
キリュウの言葉に自分のセリフを思い返してみる。
一番最初、舌打ち・・・ああ、あれか。しっかしえらく間があったな。間に別のセリフ挟んでおきながら。
「別に、何でもないよ。それにしても最悪な場所だな・・・。」
観光王国。既に観光が終わりましたの場所、ってか。
こんな所に来たあたしの結論は唯一つだった。
「さっさと帰ろう。」
「・・・早すぎるぞ。」
今度は即答。なかなかだな。
「だってさ、見てのとおりなーんにも無いぜ?」
「まだ来てから一時間と経っていない。」
「一時間もこんな所に居られるか。だいたいここは暗いし見通しも悪いし、あたし達は格好の獲物だぞ?」
「獲物?」
「そうだ。無防備な女性はあっさりと襲われてすべてを奪われちまうんだ。おおこわい。」
「心配いらない。いざという時は私が翔子殿を護ろう。」
「おーおー、頼もしいこと言っちゃって。・・・そんなにここが気に入ったの?」
「そういうわけでもないが・・・。ただ、来てすぐに帰るのも勿体無いと思ってな。」
「あーはいはいそうですか。じゃあお言葉に甘えてもう少しぶらぶらしますかね。」
「うむ。」
ったくぅ、妙なとこで意地張るんだから。付き合ってるあたしもあたしだけどさ。
ふう、とため息をつく。そして、言葉どおりあたし達はぶらぶらとその辺を歩き出した。
石畳の道が少し新鮮な、そんな暗がり。なるほど、雰囲気としてはいいかもしんない。
ただ、人っ子一人居ないのがどうにも気になる。単に寝静まるのが早いだけかもしれないけど。
「誰もいないな・・・。」
「既に寝てしまったのかもな。」
おやまぁ、あたしと同じようなことを。・・・などと交わしていたその矢先だった。

つんつん

「ん?」
背中を何か棒のようなものでつつかれる。
振り返ると、さおを担いだ一人の少女がこちらをじっと見ていた。
髪はロングのストレートヘアー。まっすぐにこちらを見つめる黒い瞳は、吸い込まれそうなほどに深い。
背丈はあたしよりもキリュウよりも低く・・・歳のほどは10歳ちょっとくらいだろうかな。
シンプルなノースリーブワンピース(っていうかただ丈の長いTシャツだろ、これは)を身につけ、
それ以外には何もない。更に言えば裸足ってこと。
彼女がかついでいるさおの両端には篭がぶら下がり、中にはたくさんの魚が入っている。
また、それとは別に数枚の紙きれも竿に下げていた。
これは俗に言う物売りってやつ?やばい、これは妙なのに引っかかったみたいだ・・・。
にっ
少女は笑った。ほんの少し。それでも何かを含ませるには十分過ぎるほどの笑顔だった。
「翔子殿、これは買ってくれと言ってるのでは?」
キリュウは素早く察知したようだった。
「いらないよ。別にあたし達はおなかがすいてるわけじゃない。第一今魚買ったところで・・・」
あからさまに断りの会話を交わしていると、少女はそれを聞いたか聞いてないのか、紙を一枚べりっと取った。
そして、二匹の魚を乗せ、あたしとキリュウに差し出してくる。
「「・・・・・・。」」
突然の行動に、あたしは何も言えなかった。
っていうかこいつ人の話を聞く気ゼロだな・・・こりゃ断るのも無理そうだ。
「わかったよ、いくら?」
「翔子殿、買うのか?」
あたしとしては断るのが面倒だったからな(単に即諦めただけなんだけど)
「こうなったらしょうがないだろ。」
値段を聞くと、少女は指を三本立ててきた。
まあ単位は違うだろうけどそれなりのものを出しておけばいいだろう。
と、手持ちにあった硬貨三枚を取り出し、少女に渡す。
翔子と紀柳は魚を二匹手に入れた!
「・・・空しいなあ。こんなの手に入れてどうしろってんだよ。」
「何をぶつぶつ言ってるんだ。」
「折角だからキリュウ、天に掲げてくれよ。どこぞの勇者みたいにさ。」
「何故そんなことを私がする必要がある。」
「あたしがつまんないから。」
「・・・そんな理由でやりたくはないぞ。」
「いいだろ、少しぐらい。ノリ悪いなあ。」
「そう言われても・・・。だいたい、そのどこぞの勇者とは誰なのだ?」
「ん?ゲームの主人公らしいんだけど・・・。」
「らしい、とはなんだ。」
「そのゲームのタイトルに、勇者の名前が一切出て無いんだよ。だから主人公じゃないかも。」
「なんだそれは、どういうことだ?」
「つまりだ、実はこの話ではあたしが主人公なのに、『紀柳のパラレルワールド日記』
とかいうふざけたネーミングをされてるってことだよ。」
「・・・・・・。」
「どした?」
「別にふざけてないと思うが。というより・・・この話の主人公とはどういうことだ?」
「あー、別に気にしなくていいよ。ほんの茶目っ気。」
「???」
「しっかしほんとこの魚どうしようかな・・・あれ?」

べりっ

「わっ、わっ、何するんだよ!」
くだらない会話を交わしている間に、いつの間にか魚売りの少女が戻ってきていた。
それに気付かなかったわけだけど・・・その少女は、ついさっきあたし達に売った魚の尻尾をつかんだんだ。
そして“べりっ”と尻尾をちぎった、ってわけ。
「人に売った物を壊すなど・・・どういう了見だ?」
口調は穏やかだけどキリュウは怒っているみたいだった。
そりゃそうだろう、既にあたしの手に乗っかってた紙の上は、魚から漏れた液体でいっぱい・・・。
「ってぇー!血がボタボタ!」
「第一可哀想ではないか!どうしてこんなことをするのだ!」
あたしもキリュウも騒いでいる。お互い違う理由だけど、それぞれ騒ぐには十分な理由だった。
・・・と、騒ぎ出したその直後、あたしの手の上からこぼれた血が・・・丸く光を放ち始めた。
「「え?」」
辺りが暗かった所為か、二人ともあっという間にそれに意識が向いた。
ぽたりと落ちた血、そして紙の上でたまってる血が・・・

ほわり

あたし達を包み込んだ。血が包み込んだわけじゃない。血・・・?から出た光が包み込んだんだ。
ほわり、とまあるい綿のようなその光は、たとえるならば線香花火が一瞬見せるあの儚さが、
永続的に続いているみたいな・・・ただ見つめていたくなるような優しさを醸し出していた。
二人してそれに見とれていると、少女は満足したのかニヤッと笑いを浮かべて立ち去ろうとする。
動きに気付いたあたしは、彼女を追ってみようと思った。
そういうわけで、キリュウの手をぐいっとつかんで歩き出す。
「翔子殿、衝動にかられてただ歩くのはどうかと思うぞ。」
冷静に反論をしてきた・・・なかなかやるな。なんて感心してる場合でもないけど。
「気になるだろ、こんな不思議なものを売ってんだ。しかも去り際のニヤッってのが大きいな。」
あれはあたし的に見れば、“ほうらおいでおいで不思議探し屋さん。あなたの望むものはこちらよ〜”
と言っているに違いないんだ。
「・・・なんだか馬鹿にされてる気がするな。」
「独り言が多くなったな、翔子殿。」
「キリュウが喋らないからだぞ。」
「そういう問題では無いと思うが・・・。私は私で十分喋っていると思うぞ?」
「甘いな。マシンガントークくらいかまさないと。それこそあたしが、ガムテープを貼り付けてやりたくなるほどに。」
「・・・よくわからぬが、そうまでして喋りたくは無い。」
「やっぱりノリが悪いなあ。そんなんだから・・・。」
言いかけて、あたしは別のものに注目した。
少女の後をついて行ったはいいが・・・道端のあちらこちらに、少女が売っていた魚が転がっているじゃないか。
そうか、あたし達の他にも同じものを買った人達がいたのだろう。だけど要らなくなって捨てた。
折角買ったのに勿体無い・・・。
で、捨てられてる場所は非常に分かりやすく、点在している宿の入り口前。
これはこれで、宿はこちらですようこそいらっしゃい、とか言ってるようにも見える。
でも気持ち悪いよなあ。尻尾をちぎられた魚(これも本物の魚かどうか怪しいけど)が捨てられてたら。
余計に客は引きそうな気がする・・・。目立つのは間違いないけど。
「翔子殿。」
「なに、キリュウ。見たかこのたくさんのを。やっぱりっていうか、この魚ってば・・・」
「のりとやらが悪いとどうなるのだ?さっき何を言いかけた?」
あたしの話題とはまったく違うことを喋り出した。何やら目も少々すわっている。
どうやらさっきの会話を引きずりたいらしい。どうでもいいのになあ・・・。
「別になんでもないよ。大した事じゃないから気にするな。」
「いいや、気にする。のりとやらが悪いとどうなるのだ?」
ずずいっと顔を迫らせてきた。変なところで頑固だから困る。
「・・・悪かったら悪かったで別にどうとでもなるよ。」
「そういうものか?」
「そうそう。世の中ってのは上手くできてるからなぁ。」
「なるほど・・・。」
よくわからないままキリュウは納得した。きっちりしてるのかいいかげんなのかわかりゃしない。
「そんなことよりキリュウ、ちゃんと見てる?」
「ああ、見てるぞ。まったくもってけしからんな、食べ物を粗末にするとは・・・。」
あれって食べ物と見ていいんだろうか?
そして少女は少女で道端にしゃがみ込み、、捨てられてあるあちらこちらの魚をすべて拾い上げていた。
それらは、彼女が担ぎ下げている篭に入れていっている。要は回収ってことだろう。
ふむふむ、と一人で頷いていると、キリュウが隣で“ふぅ〜”と大きなため息をついた。
「たくさんあるな・・・。」
「ああ、そうだよな。」
「ここには食べ物を粗末にする人間が多いということか?」
「違うよ。観光客が捨ててんだろ。実際粗末にしてるのは変わらないけど。」
・・・けど、これって本当に食べ物なのかな。
ずうっとさっきからこのことが疑問となって頭の中を廻っている。
そうこうしている間に、当の少女はどんどん魚を拾い集めていっている。
「拾ってきた魚はどうすんのかな・・・。」
ふとそんな考えが浮かんだ。再利用はもはやできない。
大体、尻尾がちぎられてしまっている以上(ちぎったのはもちろんその少女だろう)
再度売るなんてことはできないはずだ。
となると・・・自分で食べるのかもしれないな。
「・・・・・・。」
と、そこで不意に少女がこちらを見た。
既に彼女はあるだけの魚を回収し終えていて、竿を担ぎ上げていた。
彼女のその目は、別に威嚇とかそういったものじゃなく、
“何を見てんだろ”という程度の、特に気にもとめていないような目。
ついさっき、誘われてるように思ったのはあたしの勘違いだったようだ。まったくもって勘が悪いなあ。
ともあれ、少女はすたすたと歩き出した。結構な量の魚を持っているけど案外力持ちなのかもしれない。
その後にてくてくと歩いて行ったと思えば、ついっと一つの建物へと入っていった。
慌てて後を追うと、そこは道との区切りとなる扉もない、開け放しの場所であった。
直接入り口に立つことはせずに、入り口の陰から顔だけを覗かせる。
「少女の家かな・・・。」
考えようによっては一種の仕事場に見えなくも無いけど。
「ここであの魚を仕入れているのかもな。」
あたしの下からキリュウが顔を出した。少女のことが気になっているのはキリュウも同じってことだ。
「仕入れてるってどうやって。」
「誰かが売りに来たりするのではないか?」
「けど別に市場ってわけでもなさそうだけど。」
「きっと私達にはつかめない経路というものがここにはあるのだろう。」
「なんだよそれ・・・。」
「わからない。ただの私の予想だ。」
「えらくいい加減だな・・・。」
「そうか?翔子殿も似たような発想をしているのではないか?」
失礼な奴だな。
と思ったけど、素早く振り返ればあながちそうでもあるなという気がするので反論はしないでおく。
それよりは話題を変える事にしてみよう。
「いい加減ついでにさ、キリュウ。」
「なんだ?」
「食べ物を粗末にどうたらはもういいの?」
「私が今言ったところでどうなるわけでもないだろう。」
「そりゃそうだな。」
わざわざ宿を一軒一軒廻って、泊まってる観光客を呼びつけるのも非常識ってもんだ。
「それよりは・・・あの光る魚が気になったのだ。」
「へえ〜・・・随分のんびりしたことで。」
途中色々別の事に気をとられすぎてたキリュウならではの言葉だなこりゃ。
「のんびりとはどういうことだ?」
「気にしなくていいよ。」
こそこそ話をしているうちに、少女はその家(?)での準備を進めていた。
持ち歩いていた竿を床に下ろし、篭から竿を外す。
その篭にいっぱい入った魚を・・・一つの大きな丸いたらいのようなものにどさどさと放り込む。
すべてを入れ終わると上から同じ大きさの蓋をかぶせ、道具をつかってぎゅうぎゅうぎゅう・・・。
そうそう、そのたらいの横には小さな穴が空いてるみたいで、
そこに刺した管をつたって魚の血がぽたりぽたりと落ちている。
「・・・飲むのかな。」
「何をだ?」
「血。」
「・・・まさか。」
「だよなあ・・・。」
いくらなんでも飲み物なら他に何かしらあるだろう。
とか思っていたら、今度少女が取り出したのは、魚の型が掘られた板。
そこに先ほど絞りに絞った血をじょーっと注いでいる。そうだなあ、あれは祭りの屋台なんかで見かけたことがある。
「・・・って、たい焼き?」
「たい焼きとはなんだ?」
「キリュウ・・・いちいち人に尋ねずに言葉と状況から予想をつけるとかしてくれよ。
さっきの魚入手経路みたいにさ。そうじゃないとあたしに尋ねてばっかりじゃないか。」
「ただでさえ知らない事柄が多いからな。尋ねたくなるのは無理も無い。」
「なんのこっちゃ・・・。まあいいや、たい焼きってのは・・・みたとおりのもの。」
言いながらあたしは少女の方を指差した。
その少女はといえば、先ほど注いだ血(?)から魚をころりんころりんと作り出している。
うん、かんっぜんにありゃたい焼きだ。ということは・・・この魚ってば作り物ってわけね・・・。
「・・・それでは分からない。」
「何が?」
「だからたい焼きだ。」
「たい焼きの何が分からないの?」
「見たまんまと言われても何なのか分からない。翔子殿が説明してくれ。」
ほんとに見たまんまなんだけどなあ・・・。
「えっとだな、通常日本じゃ魚の型が掘られた鉄板に、小麦粉とかを溶かした液体を注ぎ込むわけ。」
「ふむふむ。」
「で、そいつにあんこをのせて焼き上げるんだ。両面から・・・って、こんなのでよかったのかなあ。
あたしはたい焼きを食べた事はあるけど実際に作ったわけでもないしなあ・・・。」
「いや、大体は理解できた。すなわち魚を象ったお菓子というわけだな?」
「まあそんなとこ。・・・って、今はそれが本題じゃなくって、この魚だな。」
未だあたしの手の中で光を放ち続けている魚。
尻尾がちぎられ、血が滴り落ちた時にはびっくりしたけど・・・。
「作り物だったんだなあ、どうりで。」
「作り物にしては随分精巧にできているな。」
「ああ、質感といい、な。・・・本当にこれ、血が元でできてるのかな?」
「あの少女が作り出したのを見る限りはそうとしか思えないが・・・。」
「うーん・・・。まあいっか、とりあえず帰ろ。」
「そうだな。ここに居てえられたものは十分にあったと言えるだろう。」
いいおみやげもできたし・・・いや、おみやげにはちょっと恐いかもしれない。
なんて思いながら、キリュウと共にそこを去ってゆく。
去り際に少女(作られた魚をやすりでこすっていた)がちらりとこちらを見たようだけど・・・
特に気にもとめずあたし達は歩き出す。



「ところで翔子殿、それはどうするのだ?」
「ん?ああこの魚のこと?おみやげにどうかな。」
「尻尾がちぎれて血が滴り落ちている魚をか?」
「嫌な言い方するなあ。まあその通りだけど・・・。」
「光るのはたしかに珍しいかもしれないが・・・私としてはあまり勧められない。」
「それは単純に好みってもんじゃ・・・。」
「第一、誰へのおみやげだ?」
「そうだなー・・・管理人のルザミスさんに。」
「新手の嫌がらせか?」
「・・・いつからそんな毒を吐くようになったんだ。翔子さんは悲しいぞ。」
「私なら遠慮するからそう言ったまでだ。」
その言葉で、あたしはぴたっと立ち止まった。同時にキリュウも止まる。
「・・・言われてみればあたしも遠慮するな。」
「せめて尻尾をちぎられる前ならばな・・・。」
「それもそれで、食べ物と勘違いして食べてしまいそうだけど・・・。」
いずれにせよ、おみやげにするには難がありそうな代物だという結論に至るのは間違いなかった。
となると・・・ずっと抱えておくわけにもいかないだろう。
困ったな・・・と何気なく顔を上げてみると、ある看板が目にとまった。
「お?そういえばここって丁度宿屋の前じゃん。」
「ふむ。ならば他の観光客と同様に捨てていくか?」
なんかさっきまでとはうってかわった発言だな。
いくら食べ物じゃないからってそうころころ変わっていいのか?
第一、捨てるって行為自体あまり勧められたもんじゃないと思うけど・・・。
もしかしたらキリュウのやつ、どこか吹っ切れてるのかもしれない。
そこは既に少女が回収した場所であったのか、魚は落ちていなかった。
たしかにここに捨ててゆくのも一興かもしれない。
「・・・いや、やめておこう。やっぱりルザミスさんへのみやげにしよう。」
「受け取るとは思えないが・・・。」
「大丈夫だよ。あの人なら平気で受け取ってくれるって。」
「だといいのだがな・・・。」
結局、他の人間と同じことはしたくないという思いから、あたし達はそのままそれを持って帰ることにした。
人気の無い場所(元々大半そんな場所ばっかだったけど)に行って念じる・・・。
あんまりはしゃぐわけでもなく関わるわけでもなく、こうやってあたし達はそこを後にした。