帰り道、車の中でも私達2人は相変わらずだった。
「どうしたのよ2人とも。そんなに疲れたの?
とりあえず今晩も泊めてあげるからゆっくり休みなさい。」
「ありがとう・・・。」
翔子殿がぽつりとお礼の言葉を言う。
しかし、それもほとんど生気の抜けたようで、いつもの元気は無かった。
事務所につくと、エミリー殿と交殿が、家の前で出迎えてくれた。
『『お帰りなさい。』』
「ただいま。デートはどうだったの?」
すると、笑顔でエミリー殿はこう言った。
『とっても楽しかったわ。本当に、翔子さんと紀柳さんのおかげよ。ありがとう。』
『私からもお礼を言わせてくれ。ありがとう。』
「良かったわね、助手のお2人さん。エミリーと交さんが“ありがとう”だって。」
真結美殿がにこやかに言う。
「いや、なんの・・・。」
「そう。それにあたし達が助手やって、ホントによかったよ・・・。」
私達は疲れたような返事しかできなかった。エミリー殿が、急に心配そうな顔をする。
『どうしたんですか?2人ともなんかとっても元気なさそう。』
「かなり疲れたみたいよ。とにかく家に入りましょう。」
そして家に入り、夕食を御馳走になる。
食後、3人には悪いと思ったが、私と翔子殿は先に眠らせてもらう事にした。
横になったところで、ようやく翔子殿があの出来事について話し出した。
「紀柳、どう思う?あの説明。」
「あれだけごたいそうに言ってきたのだ。真実に違いないだろう。しかし・・・。」
自分でそうは言ってみるものの、いまだに信じられない。あまりにも突然すぎたためだ。
「とりあえずきいてみることにしようか。」
「きいてみる?いったい誰に。」
「決まってるだろ、あの案内の人だよ。絶対になんか知ってるはずだぜ。」
「うむ、そうだな。」
そして私達は寝ることにした。数多くの疑問を残したまま・・・。
そして朝。
「じゃあありがとう。2晩も泊めてもらって。」
「いえいえ。こっちこそ2人が助手してくれて助かったわ。」
「まったくだ。あれはエミリー殿には多分無理だろうからな。」
『そんなにすごかったんですか?大変でしたね。』
『ほんと、お疲れ様。おかげで私達は楽しめたけど、なんだか申し訳ないな。』
「いいよ、気にしなくて。それじゃあまたな。」
「今度会う時までには、必ず声が聞こえる原因を見つけておく。」
「じゃあね。」
『お元気で。』
『またお話しましょうね。』
しばらくの会話の後、私達は人気の無い場所へと歩いていった。
そして念じる。次に立っていたのは扉の前。
入るときには札を見ずに入ったので、かけられていた札を見て驚いた。
「“ショーウインドウのエミリー”だって。
なんだ、これを見てりゃ、もうちょっと早く会えたかもなあ・・・。」
「翔子殿が“札を見ずに入ってみよう”などと言うから。」
「それより、早速あの人に訊いてみよう、この世界について。」
「うむ、そうだな。」
2人でその女性を探そうとしたとたん、目の前にその人が現れた。
「まったく・・・。ひどいなあ、私にばっかりこんな役やらせて・・・。
お2人の質問にはまた今度答えて差し上げます。今は我慢してください。」
こんな事を言ってきた。当然翔子殿は、それに反発した。
「なに言ってんだよ!ちゃんと説明してくれないと怒っちゃうぞ!」
すでに怒っているような気もするが・・・。
「分かりました。もう、あとで絶対抗議してやるんだから・・・。」
ぶつぶつと文句を言いながら、その女性は大きな首飾りを取り出した。
金色に輝くそれに、少しびくっとさせられる。
「これは“輝光の羅針盤”といって・・・とにかくこれを身につければ、すべてがわかります。2人ともどうぞ。」
言われるがままそれを受け取り、首にかけてみる。
外見とはうらはらに非常に軽く、つけたとたん、不思議な感覚におそわれた。
そして、頭の中のもやもやが、すう―っと無くなっていった。
「すごい、なんでかわかんないけど、全部理解できたよ。へえ、そういうことか・・・。」
「しかしこれは目立ちすぎるのではないか?私はこんな物をぶら下げていたくはないのだが・・・。」
「服の内側にでも隠せば良いですよ。
とにかく、これで世界の構造がすべて理解できたはずです・・・よね。」
不安そうにその女性は聞き返してきた。安心させるように、翔子殿が言う。
「大丈夫、全部わかったよ。
でもあんまり具体的にわかんないんだよなあ。神様の名前とか・・・。」
「そんな細かい事は、また今度追求してください。ふう・・・。」
神様の名前だと?しかし私にわかったのは、世界の構成だけだぞ。
「翔子殿にだけ何故そんな事が分かるのだ?」
「あれ、紀柳はわかんないの?精霊神とか。」
ぶんぶんと首を横に振る。せ、精霊神?そんなのには会ったこともないぞ。
「ストップ!実は翔子さんには・・・いや、これはあと。
と、とにかく!今は世界構成だけで勘弁してください!それより他はまた後です!
ほんとにもう・・・。なんで私がこんな事やってるの?えーん、帰りたいよう・・・。」
ついにはその女性は泣き出してしまった。あわてて翔子殿が声をかける。
「な、泣くなって。とりあえず、あたしは分かった事をあんまり喋らなけりゃいいんだろ。」
「ぐすん。できれば全部喋って欲しくないんです。」
「分かった。全部喋らないようにするから。」
私にはさっぱり分からん。いったい何故翔子殿に分かるというのだ?
まあ、あまり追い詰めてもしかたあるまい。ここでやめておくことにしよう。
そしてその女性は、ようやく落ち着きを取り戻した。
「それじゃ、後もごゆっくり。別にいろいろ分かったからって、
大変な事になるって訳じゃありませんから、今まで通り楽しんでくださいね。」
「あの、ちょっと。せめてあんたの名前ぐらい教えて欲しいんだけど。」
名前・・・。そう言えば気にも留めなかったな。
「名前ですか?うーん・・・。ルザミスとでも名乗っておきます。ついでに、
翔子さんに招待状をなんとなく渡して、その後を全部私に任せた、無責任な人はザンデス。」
「る、ルザミス?そんでもってザンデス?」
さりげなくその男性をけなしながら、名前を教えてくれた。
それにしてもものすごい名だ。男性の方はなにやら不吉な名前のような気もするが・・・。
「変な名前なんて思わないで下さいね。実は・・・。
これ以上言っても意味無いですね。それじゃあ。」
そしてルザミス殿は姿を消した。その後にぽつりと翔子殿が言う。
「ふ―ん、ルザミスねえ。まあいいや、それじゃあ、次はどこへ行こうか。」
「今度はちゃんと札を見るようにせねば。」
しかし・・・、翔子殿は分かっているから良いようなものの、私は・・・。
「紀柳、あたしに訊いても無駄だぜ。全部喋らないって、ルザミスさんと約束したんだから。」
「わ、わかった。」
そうか、翔子殿は読心術が使える(らしい)のだったな。
まあ良いだろう。今回は試練ノートが5ページも埋まった。これは喜ばしい事だ。
「翔子殿、今度は試練が少なそうな場所でよいぞ。」
「珍しいな。でもあんだけ疲れりゃ無理ないかな。さーてと・・・。」
2人でゆっくりと扉定めをする。ところで、この服のままで次へ行かねばならんのか?
まあいい、これも試練だ。